天狗様、協力を要請す(3)
「お前……何で黙ってた」
「なんでって……知りたがってると思わなかったから」
太郎に向けて刺々しい声を向けたのは、三郎だ。だが太郎の話を聞き、厳しい視線を向けるのはその場の全員だった。
太郎から語られた話が、全員の態度をそのように厳しいものへと変えた。
「お前の話が本当なら、お嬢はいったいどうなるんだ」
「それは……僕にもわからない」
「わからないじゃないだろ。お前以外の誰が考えるんだ」
三郎の言葉に、太郎は返す言葉を失った。その僅かな沈黙を破ったのは別の人物だった。
「どうなるか、など分かり切っている。いずれ、自らの力を御しきれず、呑み込まれてしまうだろうな。その後は、あやかしと化すか、はたまた天狗道に落ちるか……」
「僧正坊、言葉が過ぎるぞ!」
「そうかい、治朗? これは君の責任でもあると思うがね」
「なっ……!」
「君がもっと根気強く、あの暴力娘に術の修行を施していれば、今このような心配をせずとも良かったんじゃないか?」
治朗は押し黙った。僧正坊に言われなくとも、常々考えて、後悔していたことだった。
「……なあ。”たられば”の話はもういいんじゃね? ようは現状、タイムリミットが近づいてるってことだろ? それをどんすんのって話した方がいいんじゃねーの?」
「セイ……珍しく建設的な……」
「相模、そこで感動すんなよ……」
清光坊の言葉で、全員が太郎への視線を改めた。今は太郎を責めている場合ではない。
「太郎、その来たる時というのはいつか、分かっているのか?」
厳かに尋ねた法起坊に、太郎はしっかりと頷いて見せた。
「藍の16の誕生日――9月末日です」
「あと2ヶ月と少しか……時はないな」
法起坊は苦い表情を隠さなかった。
「藍さんと瑠璃さんの状況はどうなのです? 術者として、その腕前のほどは?」
「狐娘は、まぁ一通りの印は結べるし、咄嗟に対処できるだけの護法程度なら任せられるといったところか」
「ほぅ……この一月ばかりの間によくそこまで成長したものだ」
その言葉に、僧正坊が自慢げな顔を見せた。どちらかと言うと、瑠璃に指南したのは僧正坊であることの方が多かったのだ。
太郎は……藍にかかりきりのことが多かったからだ。なぜならば……
「しかし暴力娘の方は、さっぱりだったな」
僧正坊の厳しい評価も、太郎は反論できなかった。本当に、さっぱり進展がなかったからだ。
「未だに、九字と言いながら手榴弾のようなモノを放ってくるからな。あそこまで上達しないと、嫌味抜きでかえって感心する」
「……受けるのが僧正坊だからじゃねーの?」
「……どういう意味かな?」
「いやまぁ……兄者や俺相手でも同じなんだ。本人も頭を抱えている」
治朗のとりなしで、ちょっかいをかけた清光坊も黙って考え込んだ。僧正坊ひとり、納得いかないという風だが……治朗はそちらはひとまず捨て置くことにした。
「しかし周りをどれだけ固めても、結局は藍本人が力を制御できねば何もならんだろう」
「それどころか、周囲にも危害が及ぶことも考えられるな」
「そう……なんだよね」
「どうせ太郎は力足りねーんだし、何かこう……効率良く常に藍ちゃんの力吸い取ってれば? それなら需要供給バッチリ、周囲の被害もナシ、良いことずくめじゃん?」
笑っているが、結構本気な顔で清光坊は言った。真面目に言っているだろうだけに、全員、ため息がこぼれた。
「セイ……それが出来たら、今すぐやってるよ」




