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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
10/210

天狗様、集う(4)

「ねーねーお菓子ってなぁに?」

「クッキーがたくさんあるよ。あ、和菓子の方がいい?」

「いえ、そんなおきづかいなく」

「クッキーすき……」

「そっか、良かった」

 珊瑚ちゃん、琥珀ちゃん、翡翠ちゃんの3人は代わる代わる私の腕にしがみついてくる。もはや頭の中はお菓子でいっぱいのようだった。

 台所で3人分のミルクを温めて、戸棚にしまってあったクッキーをお皿に並べて、3人の前に置く。

「いっただっきま~す!」

三者三様の声が響き、3人同時に皿に手を伸ばした。

「おいしい……」

「うん、ご主人様がくれるのと同じくらいおいしい!」

「ええ。とってもおいしいです」

「三郎さんも、いつもクッキーくれるんだ?」

その問いに、琥珀ちゃんがクッキー片手に目を輝かせながら応えた。

「うん。クッキーくれる! 他にもくれるよ!」

「たとえば?」

「きのうはドーナツ! その前はチョコ! その前は、えっと……」

「その前はシュークリームなるものでした。これは食べたことがなかったものです」

「すっごくおいしかった……」

「へ、へぇそうなんだ。そういえば、どうして三郎さんのところで修行?してるの?」

今度は珊瑚ちゃんが、はむはむクッキーを頬張りながら応えてくれた。

「あのかたのもとで生まれたからですよ」

「……それだけ?」

「それだけとは?」

二人して首を傾げあってしまった……。私の方もそれ以上を聞きあぐねていると、再び琥珀ちゃんが勢いよく乗り出してきた。

「あとね! あとね! ご主人様だいすきだから!!」

「大好きなんだ? どういうとこが?」

「えっとねー、すっごくほめてくれるところ!」 

「やさしいよ、ご主人様」

「いっぱい、色んな所につれてってくれるしー色んなことおしえてくれるよ!」

「だいすき」

「は、はい…! いつかいちにんまえになって、おやくにたちたいです」

「そっか、そうなんだ……」

 私の中で今、三郎さんのイメージが変わった。

 ごめんなさい、変質者と勘違いして……職場併設の保育園で自ら保育してる社長さんみたいなイメージに塗り替わりました。後で謝っておこう。


ガタンッ!


 ほっこりした気分だったところに、大きな物音が響いた。

 勝手口の戸が小さく開いている。さっき入った時に鍵までかけたはずなのに。戸はゆっくり、ゆっくり開いていった。だけど誰かが入ってくる気配はなかった。

「……?」

 私は管狐ちゃんたちを奥に行かせて、そっと勝手口を覗き込んだ。

 戸は僅かな隙間分だけ開いていた。その隙間から、何かが見える。

「あれは……………………手?」

 人間の5本指に見えるような気がする。何だこのゾンビ映画みたいなシチュエーション? とりあえずその辺に置いてあった箒の柄でツンツン触ってみる……反応なし。

 もう少し戸を開けて様子を伺ったけど、どうも動く気配がしない。思い切って戸を全開にしてみると、やっと見えた。

 倒れていたのだ……男の人が、いや、背中に翼がある男の人が!

「また天狗か!?」

……と叫びそうになったけど、思いとどまる。天狗の三郎さんを慕う管狐ちゃんたちの前だったから。

 とりあえず(箒の柄で)揺すって意識が戻らないか試してみたけど、やはり返事はない。そういえば、天狗って脈はあるんだろうか? 失礼して手首の血管をとろうとしたその時――


ぐ~~~~~~~きゅるるるる……


「……え?」

 今のは、聞き覚えのある……お腹の音? 誰の? 私じゃないと思うけど……。

 くるっと管狐ちゃんたちを振り返るけど、3人ともプルプル首を振っている。可愛いなぁ。じゃなくて……。

 ということは、今の音の主は、この……行き倒れの天狗?

「えっと……大丈夫ですか……?」

「……うぅ……」

 やっと喋った!

「……供物を……!」

「供物? ああ、ハイハイ。食べ物ね」

 管狐ちゃんたちに出したクッキーの皿を咄嗟にとった。ごめんね3人とも。後で別のお菓子を出すから。

 と思っていた私の脇を、見知らぬ人がするっと通り抜けていった。

「え、あの……?」

 声をかける間もなく、その人物は行き倒れ天狗の元まで行き、


パシーンッ


といい音を立てて、頭をはたいた。

 え、そんなことしていいの……? なんて驚いていると、行き倒れ天狗はむくっと起き上がった。なんだ、それで良かったんだ……。

「起きなさい、セイ」

「う~ん……あれ、相模?」

 知り合いだったのか? それにしても容赦ないな……。

「『あれ?』じゃありませんよ。人様のお宅の勝手場に勝手に入ろうとするとは、お山を預かる大天狗の名が泣きますよ」

「いや、腹減ってるところに美味そうな匂いがして、つい……」

 よく分からないけど知り合いっぽい二人は、どちらも黒っぽいスーツを着ていた。行き倒れ天狗は、長めの髪を後ろで小さく縛って、ノータイで胸元のボタンを大きく開けた状態の着崩した風。後から来た人は落ち着いた色合いのネクタイをきっちり締め、ジャケットのボタンもとめたビジネスマン風。行き倒れ天狗の方は明らかにスーツを着なれていない感じがするけど……。

 どう声をかけていいかわからないのでとりあえず治朗くんを呼んでこようかな……なんて考えていたら廊下から数人分の足音が聞こえてきた。

「清光坊、相模、ここにいたのか」

 なんとなく予想していた反応……。そして『清光坊』に『相模』……さっき読んだ本で見た気がする。

「あの~治朗くん、もしかしてこのお二人……」

「ああ、八大天狗の二人だ。このだらしないのが『伯耆大山清光坊ほうきだいせんせいこうぼう』。このきっちりした方が『白峰相模坊しらみねさがみぼう』だ」

 やっぱり……。

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