■完全犯罪は告白する
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よろしくお願いします。
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空いた電車で麗葉はずっと教師の本を読んでた。しおりを唇で挟み、あごを動かしてる。先端には歯のあとがしこたまついてるだろう。だんだん紙がふやけてきてる。駅を降りても読書しながら歩く彼女は現代の二宮金次郎だ。横断歩道を赤で渡ろうとする。危なっかしくてしょうがなかった。
読むのが早く、西王義塾高校に着いた頃にはページが薄くなってた。休日だというのに上戸さんと同じく制服の生徒がちらほら行き来してる。周りと不揃いの服装でいると目立った。背丈のある人は余計にだ。
森里さんが清掃員の男を相手にメモをとってる。近づくと気づき、丸めてた背を伸ばした。麗葉が口のしおりをページに挿す。
「なにをしているのだ。警察は自殺と断定したのだろう、一課の仕事ではないよ」
「こっちが訊きたいね。ここの生徒ならまだしも」
ちらっと横目で上戸さんを見下ろした。
「第二発見者を部外者扱いされては困る」
「興味本位で現場を荒らされる方がもっと困るよ。発見者を疑うのは定石だし、まさか証拠隠滅にでも来たのかな」
森里さんだって今回のことを本気で麗葉の仕業だとは思ってないだろう。ただし発見者だの証拠隠滅だの言い回し自体が自殺のそれとは異なってる。
「警察は他殺の方向でも捜査してるんスか」
あ、と口を押さえてる。そんなリアクションをすれば肯定してるようなもんだ。
「疑ってるんですね、あれが殺人だって」
「いや、少し違うんだ。現場状況は疑う余地なし、どっから見ても自殺だよ。遺書も本人の筆跡と断定してる」
じゃあどうして。
森里さんが唸って考えこむ。
「勘かな。奥さんや彼の同僚の話を聞いてると釈然としないんだ。他殺なら、きっと成仏できないと思う。人を殺しておいて悠々と生活を続けてる人間がいるのは許せないよ」
暗にほのめかしてるんだろう、麗葉へ向けられた眼光は鋭かった。彼女は鼻で笑って払い除ける。
「いつも言っているだろう、君の行動は自惚れだ。たかが一人の人間が正義を貫いたところで世界全ての弱者は救えない。一部のみを助ける差別は正義の許容範囲だと言うつもりはないのだろう。できもしないことを公言する君は偽善者でしかないのだよ」
「分かってる、僕はちっぽけな人間だ。だけど僕は、僕にできることがあるなら全力でやっていきたい。死にそうな人や自失してる人、悲しい被害者を生む犯罪者も放ってはおけない。一人でも多く捕まえて、一人でも多く助けていきたいと考えてる」
私は捕まらないよ、と忠告をして麗葉は校舎へ歩いていく。僕も会釈してついていこうとするのを呼び止められた。不安げな顔をする上戸さんには先に行かせる。
「比佐麗葉とは関係が続いてるようだね」
「命がかかってますからね。奴が消えてくれない限りは傍にいないと」
「立神荘士か。彼もどうにかしないとね」
口を引き締めて難しい顔をしてる。ところで、と森里さんは紡いだ。
「上戸さんとはどういう関係なんだい」
どきっとした。ここは恋人ですと言っておきたいけど、そうもいかない。中学時代の友達だと素直に応える。
「それがどうかしたんですか」
「被害者について訊くと、みんな彼女の名前を出すんだ。良くも悪くも縁が強かったんだろうね」
悪くも?
「異性関係も活発だって聞いてる。最近は死んだ教師との仲も噂されてたほどだ」
話の方向性に不穏な空気が漂い始める。なにを言おうとしてるのかはだいたい見当がついた。
「上戸さんが殺したって言うんですか」
「怒らないでくれ、悪気はないんだ。警察はこうやって一つ一つしらみ潰しにやっていくのが仕事だからね」
それはそれは嫌な商売ですね。僕は踵を返す。
「ごめん、気にしないでほしい。それと、いま話したことは──」
「言いませんよ。というより、言えないッスよ、そんなこと」
いくら捜査の方法でもあの上戸さんを疑うのは筋違いだ。噂に振り回されるのが警察の仕事なのか。麗葉の気持ちが微かに分かった。
現場だった教室は立ち入り禁止されてなかった。通常の教材置き場として機能を再開してる。つい先日に首吊りがあったとは思えない。麗葉と知り合って、死体を見たのは二度目だ。彼女には疫病神が二桁はついてるに違いない。
そこには上戸さんしかいなかった。イスに座って読んでるのは麗葉の原稿だ。読書時に眼鏡を掛けるのが彼女の特徴だった。いつもと雰囲気が変わって新鮮だ。
あいつは、と訊くと文芸部の部室へ行ったきり戻ってこないらしい。向かい側に僕も座った。
「刑事さんとなにを話してたの」
「別にこれといった用件じゃなかったよ」
そう、と静かに肯いてページをめくる上戸さん。垂れ落ちてくる髪を耳へ掛ける仕草が色っぽかった。おかしい、女のコと二人っきりになるのは空気の存在みたいに慣れたのに、緊張の糸がはち切れんばかりになってる。顔の表面がどんどん熱くなってく。手が震える。目のやり場に困る。喉が渇く。これじゃ挙動不審者じゃんか。
「懐かしいね」
たった一言の呟きに身が跳ねてイスを鳴らしてしまった。
上戸さんが目を丸くし、優しく微笑した。凝り固まった胸の奥が暖かみにほぐされる。
「文芸部作りたての頃も二人でこうしてたでしょ。なにするでもなくずっと座って、小説読んだり書いたり」
「ああ、そうだったなぁ。それで、二年になって部員が入ってきて。嬉しかった」
窓際の席を陣取って、よくこうしてた。日が射してて、僕なんかはたまに居眠りをした。そして彼女に起こされるんだ。相原君帰る時間よ、て。か細く揺り動かされるのが気持ち良くて寝たふりを続行したこともあった。
「私は少し残念だった」
え? 上戸さんを見ると原稿を閉じて顔を上げてた。眼鏡を外してる。澄んだ瞳に吸いこまれそうになる。心臓の収縮が耳朶を打った。
「憧れてたんだよ、相原君のこと」
「俺なんかどうして、もったいない。小説も才能ないし、もうやめちゃったし」
急展開に錯乱して腕と首をばたばたさせる。みっともないことこの上ない反応だった。どうしていいか判断つかなくて神経を辿る電気信号がでたらめに発信されてるんだ。
上戸さんが僕のおぼつかない手に手を重ねる。柔らかくて吸いついた。異性関係がどうのっていう噂があったとしても、これは例外に決まってる。僕達は古くの絆で繋がってるんだ、昨日今日知り合ったどこの馬の骨とも分からない男と自分は違う。
「心に芯が一本、垂直に立ってたもん。損得関係なく進んでなんでもやって、カツアゲにだって不利覚悟で向かっていって、すごかった。そんな相原君見てると、私もしっかりしよう、て。頑張っていこう、て思えた。いまの私があるのは相原君のおかげよ」
それはかつての自身像だった。申し訳ない気持ちで一杯になる。急速に心が冷えていった。人は変わってく、取り返しがつかないほどに。この澄み渡った双眸はいまの僕に向けられてるんじゃない。
過去の僕。
うん、あいつはいい奴だった、同感だ。くだらない裏社会に染まって汚れてしまうなんて予想だにしなかっただろう。いまや心の芯は捻れ腐り、吹けばぱらぱらと朽ち果てる。
「ねぇ。もう一度、あの頃みたいに一緒にいない?」
一瞬考えた。
「無理だよ、俺は変わった」
彼女はこうして有名私立校に進学してるのに、自分は年金保険料も払ってないゴミフリーターだ。一番なりたくなかった人間になってる。バーベル並の文鎮がないと吊り合わない。
それもこれも事故が悪い。西王義塾レベルは無理とはいえ、少なくとも彼女と遜色なく話せるランクの学校には行けた。僕には圧倒的にお金が足らない。
「上戸さんが羨ましいよ」
「相原君は贅沢だよ」
なにか変な言動をしてしまったのか、彼女が俯く。いったいなにが贅沢なんだ。上戸さんはお金も経歴も平均よりずっと高い水準なのに、僕の方が贅沢なんてことがあるんだろうか。
引き戸が開く。麗葉だ。
上戸さんが勢い良く立ち、イスが背後へ倒れた。机の原稿を持って、めちゃくちゃに破り始める。紙吹雪の舞う中で二人の少女が睨み合うのを僕は呆気にとられながら眺めてた。
「こんな半端な作品、いちいち読ませないでよね。時間の無駄にもほどがあるわ、下手クソ!」
思考が追いつかない。上戸さんが鋭利な目つきで麗葉を罵倒してる、それは分かる。問題は怒る理由だ。僕が教室に来る前に一悶着あったのか、はたまた小説のつまらなさが逆鱗に触れたのか。どっちも理由としては弱い、そんなしょうもない原因でキレたりはしない。
「他殺の証拠は見つかった?」
「いいや、なに一つ」
麗葉は戸口に寄りかかり、腕を組んだ。
「それはそうよ、私の計画は完璧だもの。あなた如きに見つけられるわけがない。あの方がなぜあんなにも推すのか理解に苦しむわ」
「立神かね」
「軽々しく口にするな!」
袖口から警棒が滑り出た。金属質な音をさせて伸びる。
僕は夢を見てるのかもしれない。脳がひん曲がってぐるぐる巻きになってしまいそうだ。だってそうだろ、上戸さんが立神を知ってるのは変だ。鬼みたいな形相や声で武器を携えた彼女は彼女じゃない。
たぶん窓際の席に座って寝てしまったんだ。上戸さんが麗葉の小説を読む前で机に突っ伏して眠ってる僕。そして言うんだ、相原君帰る時間よ、て。そうだろ? そうだと言ってくれ。
「力だって、私の方が上」
上戸さんが絶叫して突進する。距離は瞬きの間に縮まり、麗葉へ警棒が振りかざされた。腕をクロスしてガードするも、構わずに叩かれる。鈍い響き。両腕を痛みで下ろした彼女。背中が追い打ちで叩かれた。小さな体が折り曲がって転がる。上戸さんはまた容赦なく警棒を上げた。
それを掴んだのは僕だ。足元の麗葉は呻いて起き上がろうともしない。背骨をやられてたらまずい、すぐに病院へ行く必要がある。その前に──
睥睨してくる上戸さんは真っ赤にした顔で歯を剥き出しにしてる。ほとんど別人だった。
「なんでこんな酷いことするんだよ。こいつがなにかしたのか、気に障ることでも言ったか。もしそうなら俺が代わりに謝る。殴られたっていい。上戸さんのこんな姿、見せないでくれよ」
頭を下げると警棒に伝わってた力が抜けた、彼女が離したんだ。分かってくれた、そう思った。
「相原君もこいつがいいのね」
「なに言ってんだよ、いいとか悪いとかじゃないって。俺は、別に──」
「比佐麗葉比佐麗葉って、なんなのよ」
麗葉を思いっきり踏みつける。もう一度同じようにしようとするのを間に滑りこんで庇った。ひざまずく僕のみぞおちに足の裏が命中する。
「なんなのよ。そんな女より私の方が優れてるのに、なんで!」
悲鳴めいた叫びを上げて教室を出ていく。気になりはするが、いまは麗葉を病院へつれていくのが先決だ。肩を掴んで抱き起こす。
「私としたことが、油断した」
「無理すんな、どこが痛い?」
腕に触れると彼女は喘いだ。折れてはなさそうだ。ひびぐらいは入っててもおかしくない。肩を貸して立たせようとする。
いきなり指へ噛みついてきた。反射的に手放し、麗葉を落下させてしまう。
「こんなときにふざけてる場合かよ」
「奴が教師殺人の犯人さ。君は追うのだ、私もあとから行く。上戸は許しておけない人間なのだよ」
「はいはい、あとでな」
「私の言うことが信じられないのかね」
「信じるよ、こんな状況なら。自白だってしてるし」
信じたくないけど。
「物事には優先順位があるだろ」
「行くのだ。これも仕事なのだよ、雇い主には従いたまえ」
真剣な眼差しだった。行かないと殺すとでも言うかのような迫力があった。
「なんで、そんな」
「つべこべ言わずに行くのだ!」
どこに余力があったのやら、激しく突き飛ばされる。反動で腕に痛みが走ったんだろう、苦渋の表情をしてる。双眸の力強さは変わらずだった。
「分かったよ、行けばいいんだろ行けば」
ちくしょう。教室を出て廊下を走る。今日が休日で良かった、廊下を走るな、と平日だったら教師に怒られかねない。体を倒し気味にし、靴を滑らせながらドリフトをきかせて角を曲がりきる。
上戸さんはどこに行ったんだ。窓を開けて顔を出す。正面には西校舎がある。その屋上に人影があった。フェンスの金網を握り、遠くを見てる。制服だ。黒髪とスカートが風でなびいてる。
渡り廊下を駆け抜け、階段を上がった。嘘だろ、死んだりしないよな。どうか早まらないでくれ、上戸さん。二段飛ばしで行き、屋上へ出る重いドアを押す。
上戸さん!
呼ぶと彼女が振り返り、微笑んだ。良かった、生きてる。安堵して息が切れてるのを思い出す。膝に手を置き、荒い呼吸をし、唾を飲んだ。
「私のこと心配してくれるのね、殺人者なのに」
「なにが、あったんだよ。上戸さんが人を殺したなんて、信じられないよ」
横殴りの突風が吹いた。
彼女は顔にかかった髪を指ですくって肩へかける。
「知ってる? 犯罪って認知されないと犯罪じゃないのよ。指名手配されたり逮捕されたりしてるのは氷山の一角。いまこうしてる一秒間にも表に出てこない犯罪が無数に発生してるの」
覚えがあった。自分も片棒を担いでたんだ、忘れられない。合法をうたった薬の売買だった。単に法律で定められてないだけで、いたって効果は有害だ。中毒性は下手な麻薬よりあって、廃人化した人間を何人も見てきた。
「世界って腐ってるよね。世界っていうより、人間かな。この世界の人間は腐敗臭に満ちてる。何人かと恋人ごっこしてみたけど、どいつもこいつも空っぽでつまんなかった」
「だから殺したって言うのか。あの教師が罪を犯してたから?」
「当たらずとも遠からず。今回は、価値のない人間で比佐麗葉との勝負の材料になれば誰でも良かったの」
ファンタジーだ。きっと絶対パラレルワールド。麗葉に会ったあの時、僕は時空の彼方へ飛ばされたんだ。成績優秀で小説も上手い彼女の発言とは思えなかった。オリジナルの世界じゃ上戸さんはエリートコースを歩み、作家として活躍していくつもの賞を総なめにしてる。
僕もそっちに戻りたい戻れない、戻そう。
「自首しなよ。両親だってこんなの望んでないだろ。せっかくいい学校に入ったのにもったいないじゃんか。上戸さんならやり直せる、俺が保証する」
「私のこと気遣ってくれるんだね、嬉しいな。でも──」
満面の笑みをする。街行く男がいちころになる笑顔だった。
「──パパとママなら殺したから安心して」
金縛りにあってしまった。表情が強張るのを自覚する。
彼女が口元に手をやり、こっちを指差して笑い声を上げる。
「おかしいんだ、相原君。そんなに驚くことじゃないでしょ、比佐麗葉だって母親を殺してるんだもの」
「嘘だろ」
「なにが?」
「もしそうなら、どうして上戸さんはここにいられるんだよ」
「嫌だなぁ、いま言ったでしょ、犯罪は認知されなきゃ犯罪じゃないって。あいつらには樹海の中で眠ってもらったの、楽しい楽しい家族旅行だったなぁ」
感情が沸々と昇り立ち、爆発する。
「なんで! 俺の家よりはずっと幸せだっただろ。学費もあって、いい学校に進学して、楽しい高校生活を送る。なんの問題があって、そんなことすんだよ! それも教師と同じで誰でも良かったのか! 親だぞ、肉親だぞ、血が繋がってんだぞ!」
対する彼女は冷静だった。息をつき、遠くを見てる。
「私は少しも幸せじゃなかったのよ。パパはずっと仕事、ママはブログで知り合った男と浮気。いい子を演じるのは疲れちゃった。実際は醜いのに、形ばっかり綺麗に見せてて、この世界と同じ。丸ごと大掃除しなきゃ、あの方と一緒に」
あの方……立神荘士。
はっとする。
「そうか、上戸さんがこんなことする理由が分かった。俺と同じで立神に狙われてるんだろ。著名人で頭も良くて目を付けられた。試験としてクソゲームをやり、命からがら助かった。それでもなお狙われ、敢えて配下になって服従するふりして両親や教師を殺した。全ては恐怖を回避するために。立神に追い詰められちゃ誰だってそうなる、しょうがない。悪いのは立神だ。そうなんだろ?」
「名推理」
じゃあ俺が助ける。
口を出かかった直前に「て言いたいところだけれど」と続いた。
「残念ながら不正解。私は自ら望んでこの道を選んだのよ」
「その言葉も脅されてのものじゃないのか」
「相原君っていつからそんなに疑り深くなったの。全部私の意思よ。今回の自殺騒動も独断で仕組んだの。比佐が来たって知って以前から仕掛けてたトリックを使ってね」
閃いた希望は脆くも崩れ落ちていった。教師殺害が立神の命令ですらなかったなんて、彼女を救う突破口が見当たらなくなる。
「来るって予測してたってことか」
「比佐は立神様のお気に入りだもの、いつも監視されてると思った方がいいわ。食事や服装、囓り癖、いま熱中してる小説創作。部下がなんでも報告してくれる」
麗葉は小説書きにハマッてる。僕が傍にいる。たまに読んでアドバイスをする。僕は上戸さんの知り合い。上戸さんは小説が上手い。情報が手元に揃ってたんなら、学校を訪問するのは時間の問題だと先読みするのはそう難しくない。仮に直接自宅へ行ってたとしても、後日に学校へ誘えばいい。
「相原君、私と一緒にいよう?」
下の教室で言われたのとは意味合いが違ってくる。この場合、立神の仲間になれっていうろくでもない提案だ。いや、初めから彼女はそのつもりだったんだろう。
「私ね、相原君に運命感じてるの」
「運命?」
「そう。立神様に命じられて拉致したのが相原君だったの。覚えてる?」
忘れるはずがない見事なスリーパーホールド。あれが上戸さんだったとは。
「昔、膝枕してもらった夢を見たよ」
「車停めるまでは実際にしてたのよ。気持良さそうに寝てた」
「上戸さんにあんな腕力があるなんてな。もう一人の女がしたのかと思った」
「もう一人? 誰のことを言ってるの。あの日は立神様と私しかいないわ」
「おいおい、恐いこと言わないでくれよ。俺は口ゲンカまでしたんだぜ」
くすっと上戸さんが笑う。
「あれも私」
「声が全然違うじゃんか。もっと大人っぽかっただろ」
咳払いをした彼女は改めて僕を見つめる。名前を呼ばれた。あのときに聞いた艶めかしさを含む声だった。背筋に鳥肌が立つ。目の前にいるのは本人なのに、違う人間が立ってるみたいだ。
「愚かで不毛な人間を一掃しよう。あの方の言う通りにすれば必ずできる。相原君なら分かってくれるよね、あなたはこの世界を変えたがってた。カツアゲが一件も起こらない世界は素敵でしょう? ゲームをクリアーしたあなたにはその資格があるわ。中学時代、相原君だって手伝ってくれるって言ったでしょ、病んでる人を、世界を治すのを」
もし不条理な出来事に遭遇しない世の中になるなら、それに越したことはない。誰もが不安のない日々を過ごせるだろう。暴力や脅迫、殺人、そして事故の発生ゼロ。正に理想的だ。
だけど──
「やり方が違う。こんなの望んでない」
そうだそうだ、と乗ってきたのは麗葉だ。いつの間にいたのか、出入り口の壁に寄りかかり、本のページを開いてる。しおりを口角に挟んでた。殺された教師の小説を、そろそろ読み終わりそうだ。
「たかが人間が思い上がるな。所詮、地球にしてみたら害虫でしかないのだよ。いっそのこと全滅した方がいい」
「麗葉は黙っててくれ、話がややこしくなる」
目まぐるしく変化した現況に頭は過熱気味だ。水を顔面にぶっかけてさっぱりしたい。
僕は罪悪感に苛まれてた。余計なお節介かもしれない、彼女が助けてほしいと思ってんじゃないのも分かる。でも、中学生だった上戸さんは真っ当だった。学校は離れてても、僕と交流があったらどうだ。立神にそそのかされるのはたぶん避けられた。違うか? これは自惚れか?
無駄な考えだ、時間は戻らない。いまを受け入れて最良の選択をする、それが全てだ。
「世界を変えるって、ちょっとやそこらの人間が集まってできると思ってんのか」
「せっかちさん。そんなに小さな組織だと思ってるの。立神様には世界中の者が配下についてるのよ」
世界。日本に留まらず、上戸さんみたいな不幸な人間がいる。言い振りからして企業より大きなネットワークがありそうだ。
「夢幻倶楽部。それが私達の組織よ」
立神もちらっと言ってた名称だった。
「全員が優秀な能力者なの。裏で国を操るボスから表で政治にかかわってる人間もいるわ。立神様がその気になって一声かければ、地球がビックリするでしょうね」
「麗葉にこだわってたんじゃないんだな」
「当然。そこの女にばっか構ってられるほど立神様は暇じゃないの。各国を巡って拡大していったのよ。夢幻倶楽部はイラストリアスを幹部にした天才集団なの。配下の構成員をエミネントって呼んでる。幹部は約二千人。構成員は無数で、日本にも一万近くいるかな。といっても、日常に溶けこんでるからわざわざ教える人はいないわ」
「そんなこと話して平気なのか。俺が森里刑事に話さない保証はないよ」
「心配性だなぁ、相原君は。たかが警察に捕まるわけないでしょ。別に逃げも隠れもしてないのよ。みんな家族や友達がいて平穏に暮らしてる、表向きはね」
捕まらない絶大な自信を持ってるんだ。僕は実際に白昼堂々さらわれた。誰かが通報してても良さそうなのに、騒ぎにもならなかった。歩道を行き来してた人間全員がメンバーだったとしたら波風立たないのも分かる。まさか、いくら数が多くたってそれはないだろう。
「それにね、あの方が目をつけた人間は常に監視されてると思っていいわ。万が一、夢幻倶楽部にとって重大な不利益をもたらすことがあったら他のイラストリアスが黙ってないかも」
不敵に不似合いな笑みをする。既に上戸さんであって上戸さんじゃない誰かになってた。
「覗きかね、嫌な趣味だ」
小説のページをめくる麗葉。残りはほとんどなく、読み終え間近だ。
上戸さんが眉間に皺を寄せて怒気を露わにする。
「あの方に気に入られてるからって調子に乗らないでよ。命令されてなきゃ、あなたなんかすぐにでも殺してやるんだから」
「やれるものならばやってみたまえ、負け犬め」
「負けたのはあなたでしょ、一度は自殺と断定したくせして」
また一ページをめくったあと、ワンピースのポケットをまさぐって僕に紙切れを渡した。文章が書いてある、どうやら小説の断片らしかった。
「文芸部の部室で見かけたのだ、作品置き場に自然体で挿入されていた。自殺者の描写が書いてある」
「自殺者の? それって、もしかして教師の遺書と関係あんのか」
「おそらくは自殺者の心理を表す手本を頼んだのだろう。その一部があの遺書さ」
真実へ近づく物証が見つかったんだ。
上戸さんは焦りも強張りもせず無表情でいた。
「だからなに。そんな物、なんの証拠にもならない」
「上戸さん、諦めるんだ。もうやめよう、こんなこと。これを辿れば犯人が誰か辿り着く、警察だって馬鹿じゃないんだぞ」
「無理さ」
割って入ったのは麗葉だ。
「これ以上を探してもなにも出てこないだろう。あらかじめ想定していつでも決行できるような計画を練っていたとしても、私がここへ来てからの急な殺害を完璧にこなしてみせた。緻密さと運はお見事としか言いようがない」
「お褒めの言葉ありがとう。立派な推理通りよ、前もって書かせたの。それをストックしておいた。だけど推理止まりね、私が殺したと決定づけられない。なのに、なぜ負け犬なのか説明してくれないかしら」
麗葉は最後の一ページへ目を落としてる。
「君が早々に真相を明かしたのはなぜか。そのままにしていれば疑いはすれども特定は無理だっただろう? そう考えれば必然さ」
「もったいぶらないで、なにが言いたいの」
ここでようやく本を閉じ、しおれたしおりを適当に挟んだ。
「私に解かれるのが恐かったのだ。不完全犯罪だと証明されるのではないかと内心は焦燥感に満ちていた。私に破られるぐらいならば自分で明かしてしまおうと思った。つまり心が負けていたのだよ、君は逃げたのだ」
僕が本を受け取ると彼女は歩みを進めた。
「君は重罪を犯した、ただではおかない」
きょとんとした上戸さんは破顔し、
「笑わせないで、あなたも殺人者のくせに。母親殺しの比佐麗葉さん? 他に何人も殺してるんでしょ。知ってるのよ、警察に嗅ぎ回られてるのを」
「警察も法も関係ない、私の意思だ。君は殺してはいけない人を殺したのだよ」
「あのヘボ教師のこと? そうね、下手クソな小説書くあなたにはお似合いね」
「私は未熟だ。しかしな、君よりも教師の書いた本の方が面白かった。正直なところ、君の作品はつまらなかった」
だから教師の家に行こうとしてた言い出しっぺが落ちこんでたのか。上戸さんの小説が期待通りじゃなかったんだとすると、その教師にあたる人物の作品にも興味がなくなる。読んでみて全ては覆されたんだ。
僕はまじまじと読了された小説を見つめた。
上戸さんが鼻で笑う。
「その全然売れなかった小説が面白い? 気の利かない冗談はやめてよ」
「確かに君の本は計算し尽くされていて飽きさせないような内容になっているが、魂を一切感じなかった。あんな物が小説だというのなら、私は小説に惹かれはしない」
ゆっくり迫る麗葉を歯軋りしながら睨みつけた。
「根暗女がほざくな!」
風を切って警棒を一振り、突撃してくる。棒立ちの麗葉が構えたのは小さな銃。事務所でゴミに紛れてたデリンジャーだ。オモチャを持ち出したってハッタリにはならない。
彼女が照準する。
本物?
止めに入ろうと地を蹴っても間に合わなかった。発砲。破裂音が木霊し、上戸さんが身を低くする。
無傷。ほっとしたのも束の間だった。
「そんな短い銃身で当たるわけないでしょ」
肉薄した麗葉へ警棒を叩きつけてくる。片腕で庇い、苦痛に顔をしかめる彼女は空いた手ですかさず相手の手首を掴んだ。
ぎゃ、と叫んで武器が落ちた。上戸さんは飛び退き、袖に隠した二本目の警棒を出す。よほど痛かったんだろう、腕をさすってる。小さい手でいて麗葉は握力があるらしい。
再び二人がそれぞれの得物を構える。
状況が動きだそうとした。
僕の横を青い影が疾風となって駆け抜ける。上戸さんのもとへ距離を詰め、勢いのまま蹴り飛ばした。唾液を撒き散らし、彼女の体がくの字に曲がった。腹を押さえて転がる。
立ってたのは清掃員だった。森里さんが聞きこみをしてた男だ。黒髪を中分けにし、目が細い。薄く開かれた瞼の奧には黒々とした眼球が光ってた。映るのは咳きこんでる上戸さん。
「勝手なことをするなと何度言ったら分かる。これだからメスは使えないんだ、いちいち余計な感情を持ち出しやがる。俺の片腕になりたくばウルルンを見習え」
彼女は無理矢理に起き上がって深々と頭を下げた。
言い回し、声に覚えがある。こいつは──
「立神。私を珍妙なあだ名で呼ばないでくれたまえ、虫酸が走る」
こいつが、立神。森里さんどころか上戸さんまでも気づかなかったのはやっぱり顔そのものを自在に操る変装のためだろう。身をもって手強さを感じる。
「久しぶりの再会だっていうのにつれないな。トスミが無礼を働いたせいか。あとでしっかり教育しておくから機嫌を損ねないでくれ」
一変して優しい表情と声だった。視線は麗葉へ固定し、膝を上げたかと思うと上戸さんを蹴った。腹の空気を強制で放出し、うずくまる。
「やめろ!」
僕は叫んでた。
「ん〜? 相原伊吹か。伊吹、か」
空中へ視線を彷徨わせた立神が、よし決めた、とこっちを向く。
「今日からイヴと呼ばせてもらおう」
「くらだねぇこと言ってんじゃねぇよ! 彼女に謝れ!」
「今回は悪かったな、つまらないことに巻きこんで。また近いうちに楽しいゲームをしようではないか」
改めて分厚い靴底の爪先が上戸さんを捉えた。重く呻き、四つん這いになる。
「クソッ! やめろって言ってんのが聞こえねぇのかよ!」
駆ける。
制止をかけたのは意外にも彼女本人だった。
「いいの、自業自得だから」
当然だ、と言う立神がドアへ向かってあごをしゃくった。黙って一礼し、上戸さんは腹部を押さえつつ力なく歩いてくる。横を素通りした。
「待てよ。あんなことされて、まだあいつに従うのかよ」
「私にはあの方しかいないもの」
僕がいるじゃないか。
出かかった言葉を呑みこむ。自分にいったいなにができる。この落ちぶれた自分に、彼女を救えるのか。不可能だ、なんもできやしない。金も権力も地位も、なに一つない。おまけに汚いヤクザ仕事に手を出したプライドのない人間だ。もはや胸を張って言えるセリフじゃなかった。
「ありがとう、相原君。さようなら」
だけど!
上戸さんの背中を追いかけた。彼女が振り向き、急ブレーキさせる。頭上には細長き凶器。額へ向かって振り下ろされる。堪えきれぬ鈍痛が襲った。膝の力が抜けて倒れてしまう。
腕を伸ばす。ドアを開けた彼女の足が校舎へ消えた。すぐ様に暴風が繋がりを遮断する。閉じたそれを前に手を落とした。届かない。
麗葉が舌打ちして追いかけようとする。
「おっと、無闇に動かない方がいい。あのメス犬が不審な行動をしているというから潜入ついでに暇潰しで爆弾を仕掛けておいた」
最高だろう、と言わんばかりに両腕を広げる立神を憎々しげに彼女が睨む。
「大層な組織を作ったわりに、ほとんど無差別なテロ屋だね」
「子供の頃、差別はいけません、て教わらなかったか」
反対の校舎で爆発が起きた。遠くで悲鳴がする。一つじゃ終わらない、二つ三つと爆音が連続して響き渡る。階下でも起き、小刻みに足元が揺れ始める。
「深く考えるな、ちょっとした戯れさ。また会おう」
この程度を生き残れないなら僕達は不用なんだろう。
縄梯子が傍らに垂れ落ちてきた。上空にはヘリコプターが待機してる。騒動に隠れて密かに近づいてきてたんだ。奴が足をかけると大空へ急上昇していった。薄ぼんやりした煙に埋まり、やがて消えていく。麗葉が銃を構えるも、屋上にも亀裂が伸びた。立神どころじゃない、命優先だ。
ドアノブを掴む。動かない。ノブは回っても、ドアそのものをおさめる枠がひしゃげて固定されてるんだ。壁に足を突っぱねてみてもびくともしなかった。
麗葉は周囲を見回す。一方へ注目した。
「こっちだ、伊吹! 雨どいだ!」
なるほど、伝っていけないこともない。屋上は実質で五階の高さだ、危険だが他に逃げ場はなかった。賭けだ。上戸さんがここに来るとは知らなかったはずの立神に思惑はない、爆弾はランダムで仕掛けられてるだろう。雨どい付近で爆発が発生すれば終わり。建物自体がもたなくても生存率は下がる。
運か。クソゲームで語られた忌々しい言葉を思い出す。
爆発はやまなかった。学校を全壊させるつもりかよ。だとしたら雨どいのリスクは大きい。それならどうする、待ってたってジリ貧だ。ここもいつ崩れるか分からない。足元には無数のひび割れが雷柱みたいな模様を描いてる。
古傷が痛んだ。じくじくした疼きで視界がぼやける。脳の局部が圧迫されたようだった。吐き気がこみあげてくる。
麗葉が呼んでる。霞む目を向けた。なんでこんなときに体調不良なんだ。声を発せない。ふらつく足取りで金網を越えた彼女へ近づいていく。急げ伊吹、そう言ってる。早く、早く行かなきゃ。
爆発。麗葉が宙を舞った。金網越しに落ちてく姿が見えた。
「麗葉っ!」
喉が擦り切れんばかりに叫んだ。
「どうしたのだ、突如大声を上げて。とにかく急ぎたまえ」
彼女は金網にいまから指を掛けるところだった。
なんだったんだ、いまのは。考えてる猶予はなかった。向こう側へ行かせちゃいけない、不吉な予感が僕を動かす。
腕を引っ張って降ろし、その場を離れる。
「なにをする、他に雨どいはないのだよ、ぼやぼやしている暇はどこにも──」
ほぼ同時だった、見た映像通りに屋上の一部が崩壊する。一際に大きな爆発だ。金網が傾き、連結した部分を巻き添えに地上へ落下していく。
二人して唖然としてた。僕は予感の的中に。麗葉はたぶん僕に対して。
金属の擦れる音がしてドアが開いた。いまので枠が緩んだんだろう。麗葉と肯き合った。
パトカーや救急車、消防車が校内へ集まってる。特殊車両のオンパレードだ。半壊した校舎は地層の断面を見てるようだった。無傷で脱出できたのは奇跡だ。
森里さんが通報したおかげで被害は最小限に済んでる。休日で負傷者が少数出るに留まった。
「上戸澄恵は逃げ遅れた可能性あり。立神は爆弾を設置してヘリコプターで逃走、と」
警察手帳を閉じて落胆する。
幸いにも麗葉の拳銃については言及されなかった。爆発騒ぎに紛れて一発の破裂音は印象が薄れたんだ。僕にもあれが本物か判断が難しい、火薬を使ったモデルガンだってある。なにより彼女が捕まるのは避けなくちゃならない。
「立神荘士が傍にいながら捕まえられないとはねぇ」
「すみませんでした、色々あってなんもできなくて」
「相原君が謝ることじゃないよ、僕も爆発に気を取られてまんまと逃げられたし。悪いのは、大元の原因さ」
ベンチに座ってアスファルトのアリを足でおちょくる麗葉へ目をやる。
「そもそもいまの話を聞く限り、比佐への妬みが動機らしいじゃないか。おまけに立神まで出てきてケガ人続出だ。余計な被害を増やさないでもらいたいね、そろそろそれ相応の施設に入った方がいいんじゃないか」
彼女が立ち上がる。無言の圧力に森里さんが一歩下がった。
麗葉は丸めた背で校門へ行ってしまう。
「なんだ、いつもなら死んだ方がマシって言い返してくるのに」
そんな気分じゃないのは察せた。森里さんはあれこれ言うけど、あいつにはあいつなりの良心がある。悪いのは麗葉じゃない、立神率いる夢幻倶楽部だ。
「どうにかしてくださいよ。こんな好き放題やられて、警察はなんの手がかりも掴んでないんスか」
森里さんは崩れた校舎を見たあと、ベンチへ座った。途端に目線が低くなる。彼は手帳をぱらぱらめくり、口を開いた。
「立神荘士、二四歳、証券会社勤めのサラリーマンと上司の娘のもと東京都にて誕生。いわゆる中流階級の生まれで、誕生日には戦隊物の合体ロボがもらえ、クリスマスには大人の腰丈はあるツリーを買って飾れる家だった」
僕は息を呑んだ。やけに具体的な表現だ。
言葉が続く。
「小・中・高・大といたって目立たず、同級生による印象は“極普通”で成績も中の下、大学卒業後に姿をくらまして現在に至る。父親に教わった為替取引のノウハウを身につけて資金を密かに作り、日常は平凡に、裏では現組織の土台を組み立てながら活動。各国の警察が感づいた頃には夢幻倶楽部の蜘蛛の糸が至るところに張り巡らされていた」
以上、と締めくくった。
予想に反する詳細さだ。素性や生い立ち、過去の行動が丸分かり。
「そんな細かい経歴まで分かってるのに捕まえられないなんて」
「見損なわないでほしい、追い詰めた例は何度もあるよ。僕も一度立ち会わせた」
じゃあ、なんで。
「邪魔が入るんだ。どこからともなくね。あいつにとっては警察なんていないも同然。幸か不幸か、僕が狙われない理由さ、相手にされてないんだ。いつかチャンスが巡ってくるって信じてる。犯罪者を野放しにして、平和に生きたい国民が被害に遭うなんて見過ごせないからね」
遠くを見つめてる。
当て逃げ犯すら捕まえられないくせに。
「へ?」
「いや、なんでもないッス」
そう、もはやなんでもない。森里さんに当たってもしょうがないんだ。起こってしまった取り返しつかない出来事、全てにおいて後手。
僕はもう一度地層化した学校を見て踵を返した。
次話更新予定は明日(11/15)です。
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