■「刃中の羽虫」再会シーン
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俺を含めた三人は秀才トリオとして知られていた。表面は友達面をしていても胸の内ではライバル心を燃やしている、そんな仲だった。試験の点数で勝てばそんなこともあるさと慰めつつ優越感を得て、負ければお前には負けるよと感服しつつ嫉妬する。
俺にとって一番充実していた時代だった。
「貫井、お前どこで働いてんだよ」
「ああ、俺か? 俺はちょっとIT関係の部長をさせてもらってるよ」
「二十代なのに部長かよ。さすが秀才トリオの一人だなぁ、俺なんか手取り二十万のサラリーマンだぜー」
名前も顔も覚えていない男に肩を組まれる。二次会の席でだいぶ酔っているようだった。いったい何人に同じ質問を受けたか分からない。
全部嘘だった。IT関係の部長? 現実はフリーターだ。おまけにかつての自意識が邪魔をして転々としている。必死に時給で働いて得たお金は今日着るための高級ブランド服へ注いだ。おかげで明日からはメシ代を一日五〇円にしなくてはいけなかった。
離れたテーブルへ目をやる。意識してかせずか、かつての秀才トリオは一言も言葉を交わしていなかった。俺と同様に人気者で、彼らを中心に人が集まっている。
「岩辺は国立大教授、田中は内科医だとよ。やっぱエリートは違うよなぁ、俺ももっと頑張りゃ良かったぜー」
訊いてもいないことを男が話してくれた。正直、助かった。話しかけるタイミングがなくて二次会に来てしまったのだ。本当は一次会で早々に帰りたかった。朝早くにはバイト先に向かわないとならない。
しかし聞かない方が良かったかもしれなかった。身なりや立ち振る舞いからして他と逸している。順調な人生を歩んでいるのは一目瞭然だ。脱落したのは俺一人。
明日仕事だからと席を立つ。二人と目が合った。お疲れ。短い言葉を交わし、もう二度と会うことはないだろうと思った。襖を閉めると俺をネタに話すのが聞こえてきた。あいつ部長だってよーすげーよなーあははは。
再会は早かった。食費も顧みずにやけ酒をし、目を覚ましたのは公園のベンチだ。慣れない街だった、どこをどう来たのか分からずに道行く新聞配達員に駅を訊いた。知っている顔だった。内科医の田中だ。
なんでお前が新聞配達を? 発した声は工事現場のドリルに掻き消される。合間に、おーい岩辺ーこっちも頼むー、という男の呼びかけが聞こえた。まさかと思って二人して見る。
国立大教授をしているはずの岩辺だ。
近づいた俺と田中に気づいて混乱と焦燥をミックスした複雑そうな表情をする。おそらく俺もそんな顔をしているのだろう。
「俺、フリーターなんだ。今日もこれからスーパーの店頭販売する予定」
「僕は見ての通り新聞を配達してる、住みこみでね」
「俺は日雇いの現場作業員だ。毎日あちこち引っ張り回されてる」
それぞれがそれぞれを指差し、ほとんど同時に吹き出した。笑いはやがて溜め息へ変貌する。あの時代、あんなに頑張ってきた秀才トリオ全員がくだらない立場にいる事実を認めたくなかった。ぶつけようのない怒りがやがて互いを奮い立たせようと叱咤する。
「なにかどでかいことをやってやろう。馬鹿で低能にはできないことだ。俺らが三人集まればで、なんでもできる! そうだろ!」
俺の四畳半アパートに集まった。ワンカップ酒を飲み交わしながら岩辺が、やっぱり金だ、と言った。同感だった、お金はなによりも分かりやすい。田中も安い眼鏡の位置を直して肯いている。
それが銀行強盗を企てる発端だった。
次話更新予定は明日(11/12)です。
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