■犯罪者は世に戻る
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ソファーに寄りかかって日記を広げる。何度読んでも麗葉が殺したんじゃないのは明白だった。
草加部さんが本棚の隙間に落ちてるのを昔見つけたんだという。これを警察に届け出ないのは彼女が希望してないからだ。直接口にしたわけじゃないらしいが、麗葉ならこの日記の存在を覚えてるだろう。人生がこうなった原因。罪が軽くなるかもしれない物品があると知りながら訴えないのはそうしてほしくないからだ。
麗葉は賢いようで馬鹿だ。さんざんエゴで振り回してきた母親を庇ってなんになる。いっそのこと森里さんに届けてやろうかとも思った。この数ヶ月、何度も思った。
できなかった。
警察に逮捕されるかもしれないリスクを負ってまで銃を持ち続けたのはなぜだ。病院から日記を持ち帰ったのはなぜだ。母親の名字を捨てなかったのはなぜだ。
そして──
「警察にだけは捕まらないでほしい」
自殺を手伝わせておいて、こんな身勝手な願いを大事に守ってきたのはなぜだ。
考えるまでもなかった。テーブルへ日記を放る。頭の後ろで腕を組み、天井を見上げた。
なにもする気がしなかった。貯まったお金は家賃や光熱費、食費にあっさり消えた。このマンションは一人暮らしをするには大きすぎる。そろそろ引っ越して働かないと野垂れ死にだ。せっかく立神から逃れたってのに、それじゃ意味がない。
日記にあった上戸という女は、まさかあの上戸さんの母親なんだろうか。偶然の一致とは思えない。だとしたら、彼女が執拗に麗葉へ絡んだのは立神関係だけじゃないことになる。
血の因縁。本人に問えば、そんな陳腐なものは否定するだろう。しかし、もしこのことを知ってたとすれば、心の奥底にはなんらかのわだかまりがあるはずだ。立神はそれを計算に入れ、麗葉へけしかけた。闘争心を煽るためか精神的な成長のためか、意図は分からないけど、あり得なくはない。
見事に僕は二人に巻きこまれたってわけだ。それも、終わった。なにをするのも自由。いつからだって真っ当な生活を送れるんだ。
よーし、やるか。
体を起こす。冷蔵庫の作動音がぐぉんぐぉん聞こえてきた。部屋に永遠と鳴り響いている。他にはなにも聞こえなかった。
寝転がる。
まぁ明日でいいか。
なんでも始められるのに、その言葉の無限性とは裏腹に不自由だった。前まではお金さえあればどうとでもなると思ってた。僕が求めてる物ってなんなんだろう。
インターホンが鳴った。
気のせいだと思って待つと、もう一回鳴る。経験上、家を訪ねてくるのは新聞屋か知り合いだ。新聞屋は昨日来た。
まさか帰ってきたのか、あいつが。めぼしい小説がなくて脱獄してきたのだよ、とか言う姿を想像するのは容易かった。
ソファーを転がり落ちて四つん這いになりつつリビングを駆け出る。
玄関を開けた。
途端、抱きついてくる。麗葉──じゃなかった。あいつはこんなことしない。こんなことをするのは一人だ。
「なんだ、綾木か」
ん? 綾木?
体を離してまじまじと見つめる。膨れっ面をしてるのはどっからどう見ても綾木麻由だった。
「なんだとはなんですかぁ〜、久しぶりの麻由なのにぃ〜」
「帰ってきたのか」
ブーツを脱いでどしどしと上がりこんでくる。
「そうですよぉ、脱獄してきちゃいました」
「脱獄って、おい」
「家を、です。ずっと監視されてる感じで、先輩に電話も手紙もさせてくれないし、まるで牢屋でしたよ〜。麻由は犯罪者かってぇの。一発ぐらい殴ってくれば良かったです〜」
しゅっしゅっと小さなパンチをしてみせる彼女。
僕は笑った。
「綾木は相変わらずだな」
「そうですかぁ? 麻由、大人っぽくなってません?」
「全然」
「ぶぅ〜。せっかく先輩は格好良くなったって言おうとしてたのに〜」
不思議と心の隙間が埋まってくる。
手紙、か。そろそろ書いてみるのもいい。気分が乗らなくてずっと新作の感想を伝えてなかったんだ。どう書き出せばいいのかも思いつかなかった。
いまなら書けそうな気がする。自分に必要な物の片鱗が見えてきた。
一行目は、こうしよう。
こっちはなにも変わってないけどそっちはどうだ、と。
「俺は俺のままだよ、たぶん」
それでいいだろ、の問いに綾木が元気に返事をした。
どうか明日も変わらぬ日々でありますように──。