■待ち侘びない招待状
※お願い
少しでも上達したいので、なにか思うところがありましたらコメントをお願いします。
批評といった大層なものでなくとも構いません。
「ここのシーンが面白かった」や「ここがつまらなかった」など言ってもらえればありがたいです。
1つでも多くのヒントが欲しい状況なので、
素直で率直なコメントをお待ちしています。よろしくお願いします。
●コメント送信手段
1:小説評価/感想欄
●コメントを公開したくない場合は下記の手段
2:「作者紹介ページ」>「◆メッセージを送る」
3:メールフォーム
http://www.formzu.net/fgen.ex?ID=P47878715
朝とも昼ともとれない時間帯、コンビニからの帰路で携帯に着信があった。液晶に、綾木、と表示されてる。一週間ぶりだった。
「元気か?」
「元気元気です〜。昨日もうちのババア殴ってやりましたよぉ」
おいおい。
「嘘です、元気ないです」
すぐにエネルギーは尽きたようだった。トーンダウンした声でぼそぼそと話す彼女。最近は家に引きこもってるらしい。変に気遣われて以前より両親との隔絶が増えたようだった。
そういえば彼女の家もお金には不自由しない暮らしをしてる。おまけになにからなにまで身の回りのことをやってくれる。再会当初、それが嫌なんだと言ってた。過保護から逃れるなんて贅沢なことしてると思ったもんだけど、そういうことじゃないんだ。彼女の行動や言動は幼く見えて、実は僕を優に超える大人だった。
僕に会いたいと言ってくれる。むしろ僕が綾木に会いたかった。会えるさ、と余裕をかましたのは先輩としてのちっぽけな威厳を守るためだった。
「何年経とうが、死なない限り会える。いまが無理でもなんの束縛なく会えるよう頑張ろうぜ。俺も頑張るから」
はい、と明るい返事。ようやく彼女らしい声を聞かせてくれた。それから家の郵便受けに着くまで談笑した。どうでもいい話をしてるのがとても安心できた。
「いやー妬けるねぇ、女と電話かよ」
通話を切ったあとだ。忘れ去りたい悪仲間二人が背後に立ってた。綾木としゃべって、せっかく爽快な気分で心機一転しようっていう気になれたのに鬱陶しいったらありゃしない。
「なんか用か、ブタ君」
「んだと、てめぇっこらっ!」
突っ張り一発、襟首を掴まれて郵便受けの並びに押しつけられる。こいつは成長しないな、キレれば恐がると思ってる。こっちは違う世界にいるんだ、こんなことされたって鼓動も早まらない。ケンカしたいなら望むところだった。
残念ながら殴り合いにはならない。珍しくガリノッポが仲裁に入ったからだ。そんなことしに来たんじゃないだろ、とチビデブをなだめてる。
ノッポがいつになく深刻な表情だった。
「高橋がお前のこと狙ってる、本気で殺すつもりらしい。でもおとなしく戻ってくるなら、ちょっとケガするぐらいで済ますってよ。殺されるよりいいだろ、指の一本は覚悟した方がいいけどな」
人生は不条理だ。なにもやってないのに、なんで命や指を狙われないとならないんだ。どいつもこいつも自己中で困る。
無言で応えて、郵便受けを開けた。一通の便箋が入ってる。裏にも表にも宛名や差出人名がなかった。またストーカーの仕業ってわけじゃないだろう。心当たりは一つしかなかった。
「前みたいにみんなでナンパしようぜ。お前いる方がヒット率高いんだよ」
しっかり謝れば許してくれる、と同情を込めて言ってる。高橋がそんな聞く耳を持った奴かよ。戻ったら殺しはしないってのも胡散臭い。集団リンチの刑で翌朝には海の藻屑になってそうだ。
便箋を開ける。
とうとう“アクション”が来た。これのせいで、予防注射を控えた小学生気分になってたんだ。
「なぁ、いいだろ。元に戻れば──」
振り返る。
「悪いけど、気持ちだけありがたく受け取っとくよ。他にやらなくちゃいけないことがあるんだ」
真っ直ぐに視線を返した。ノッポはきょとんとし、すぐに苦々しい顔になる。どう言ったって無駄なのを察したんだ。デブを押し、行こうぜ、と背中を向けた。
二人の姿が小さくなってく。
「命より大事なことなんかあんのかよ! バーカ!」
デブが身を捻り、中指を立てて叫ぶように言った。ノッポも少しだけこっちを見てから角に消えた。
命は大事に決まってる。優先順位の問題だ。便箋は立神からの招待状だった。どっかの屋敷であのときみたいにクソゲームをするんだ。簡略化された地図も添付されてた。条件に、余計なゴミをつれてこないこと、とある。一人で来いってか。
「なんだい、恐い顔して」
森里さんだった。便箋を背中に隠し、いやなんでも、と応じる。
「森里さんこそどうしたんスか、こんなとこまで」
「ああ、うん、一応報告しておこうと思ってさ、その──」
気まずそうにして後ろ頭を掻いてる。ストーカー逮捕のお礼じゃなさそうだ。
「──比佐麗葉を任意同行で署に連れていったんだ」
電流めいた衝撃が背筋を走り抜ける。ついに彼女の尻尾が掴まれた。当然だ、あんなおおやけの場で銃を使っちゃ知らぬ存ぜぬではいられない。
「逮捕、ですか」
「それはまだどうとも言えないよ。でもそうなったら、僕を恨むかい」
「あんな奴がどうなろうと知ったこっちゃないッスよ。犯罪者なんてどいつもこいつも性根が腐ってるし、じゃんじゃん逮捕しちゃってくださいよ。応援しますよ」
「もし彼女が捕まった場合、君を警護することになると思う。上手くいけば立神逮捕のきっかけになるかもしれない」
ありがとうございます。礼を言いながら、無駄だろうな、と思う僕自身もおそらく性根が腐ってる。
自分で決着つける。いや、自分“に”だ。過去を振り切って家を出たつもりでずっと引きずってた。わりのいい仕事を探して悪い仲間とつるんで荒稼ぎ。嫌気がさしたものの結局は楽して儲けようという怠慢が残ってた。
麗葉も向こう側の人間だった。断ち切らなくちゃ終わりだ。一度入ったこの世界、抜け出すには生死のやりとりを覚悟してる。
森里さん側の人間になるんだ。事故以前の自分は彼のような男を理想としてた。僕はまだ十代だ、やり直せる。今度こそまともな職に就く。稼ぎが安くてもいい、殺すだの死ぬだののない日常に戻るんだ。
僕の手を例の地図が落ちた。おっと、と追いかけるのに手間取る。わざとだった。どこに潜んでるとも知らない夢幻倶楽部員を警戒したんだ。砂粒ほどでも助かる確率は増やしておくに限る。誰かを連れてきちゃいけないんだから堂々と教えても良かったが、これぐらいが無難だ。疑われても手紙の内容は教えてないし、勝手に推理して尾行してきたんだ、と言い通せる。嘘はついてない。
森里さんの視線をばっちり感じた。だいたいの事情を読み取ってくれただろう。立神の監視に引っかかる真似はしないでくれる。奴らは超能力者じゃない、所詮は人間なんだ。隠密な逮捕の策を練ってくれれば幸いだった。
「相原君」
複雑そうに口元を歪めた彼は周囲を見渡し、三〇分待つ、と小声で言った。上手く伝わったようだ。本当は行かせるのも引き留めたい胸中だろう。それじゃ奴は捕まらないと痛いほど分かってるんだ。
三〇分。これは重要なキーワードになる。その間のゲームを我慢すれば助かるってことになり得る。最悪な展開としては、森里さんの到着がバレて僕が殺されて立神に逃げられることだった。警察も安全を考慮した手段を考えるだろう。
携帯が鳴った。森里さんの物だ。
「なんだって? 逃げた? 分かった、すぐに合流するよ」
たったそれだけでなんとなく会話の内容が読めてしまった。
麗葉が事情聴取中に逃亡した。無実なら逃げる理由はない。なにやってんだ、あいつは。ますます疑われてどうすんだ。
知るか。他人を、しかも犯罪者を気にかけてる余裕はなかった。
次話更新予定は明後日(11/24)です。
Next:「■優柔不断は嫌われる」