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■「刃中の羽虫」作戦決行シーン

※お願い


少しでも上達したいので、なにか気づいた点などがありましたらコメントをお願いします。

批評といった大層なものでなくとも、些細なことで構いません。

「ここのシーンが面白かった」や「ここがつまらなかった」など言ってもらえればありがたいです。

素直で率直な意見、お待ちしています。

よろしくお願いします。

(※感想などを公開したくない場合はメールフォームでも受け付けています

→ http://www.formzu.net/fgen.ex?ID=P47878715 )

 布の袋に詰めこんだ札束を背負って走る。間抜けな銀行員どもは呆気にとられたろう。正面玄関を出るではなくて職員通路へ入りこんだのだ。ここへの抜け道は他にない、ドア一枚を適当な棚で塞いでしまえばかなりの時間稼ぎができる。銀行内の見取り図は事前の調べで既に頭に入っていた。

 台車を押す清掃員が歩いてくる。俺は慌てなかった。すれ違い様に台車のかごに入っている物と札束袋を交換する。外見は同じ袋。

 清掃員として雇われ、潜入したのは田中だった。眼鏡を押し上げている。

 彼の肩を叩いて奧へ行った。突き当たりを曲がる。そこにはトイレがある。窓を開けた。田中の云う通りだった。路地に面していて、建物と建物の間は二人並ぶのがやっとの幅だ。通路として使う者が滅多にいないのは事前に観察していた。

 袋の中身を引っ繰り返す。出てきたのはスーツとアタッシュケースと伊達眼鏡、ムース、それと借金して買ったロレックスの腕時計に革靴などエリート風サラリーマン変装セット一式。人間は人間を見るときに印象で判断する。分かりやすいぐらいが良かった。

 ジャージを脱ぎ捨て、付け髭と眉間の付けボクロを外し、ぼさぼさのカツラをアタッシュケースに入れる。改造して実弾が撃てるモデルガンも奧へしまった。

 痕跡は一切残さない。仕上げにムースで髪型をオールバックにしてできあがり。荷物を表へ出し、窓枠を飛び降りる。完璧だ。あとは裏通りへ抜けて、騒ぎを知らない男を演じればいい。

 汚れを念入りにはたき落とす。後ろに気配があった。

 腰を折り曲げ、巾着を垂らした婆さんだ。額の深い皺を更に深くさせている。

「あんたぁ、そんなところでなにしとんね」

 見られた。

 取り乱すな。外に出たときにはいなかった。婆さんは狭い場所で立ち塞がっている俺に声をかけたのだ。それは極自然、心配ない。無難にやり過ごして終わり。

 パトカーが数台駆けつけている。なるべく近づきたくない。「犯人は現場に戻ってくる法則」に従う人間は無能だ。姿を見せない限りは手掛かりの要素にはならないのだ。

「おんや、なんの騒ぎだぁ」

 頼りなげな足取りで横を行く婆さん。よし、そのまま立ち去れ。俺はその間に退散──と、アタッシュケースを忘れてどうする。胸中で苦笑して腕を伸ばす。

 指には寸前で触れなかった。婆さんがつっかかってこけたのだ。倒れた拍子にケースが口を開けた。中身が散乱する。

「なにしやがんだクソババア!」

 頭に血が昇ってしまった。理性がコントロールを失う。ジャージを踏んづける婆さんを蹴りつけてどかし、荷物を掻き集めた。アタッシュケースのロックをチェックする。

 婆さんが酷く呻いた。苦しみようが尋常ではない。きっと蹴ったのが原因ではないだろう。転んでどこかを打ったに違いない、おそらくそうだ。

 声をかけようとしてやめた。

 知ったことではなかった。自分でこけて自分でケガをする阿呆。どうせ老い先の短い出涸らしだ、いっそのこと死んでしまえ。

 踵を返す。

「誰かあそこで倒れてるぞ。おい、そこの」

 男の声。

 俺はアスファルトを蹴って裏通りを目指した。少し離れたところで岩辺を運転手にした車が待機しているのだ。アタッシュケースを抱えて落とさぬようにする。捨ててもいい中身だが、これの発見は足が付くのを早める。大丈夫、顔は見られていない。俺を犯人と仮定されたとしても札束を持って逃げたと思われる。最悪は、大金のありかさえ隠し通せればいい。

 問題はあの婆さんだ。顔をもろに見られている。下手をしたら荷物の内容も。しかし年老いた人間の目撃情報は信憑性に欠ける。計画には誤差がつきもの、これは許容範囲だ。

 夜、黒いゴミ袋を持った田中がアパートに現れた。そこに表情はない。待機していた俺と岩辺が唾を飲みこむ。

 ゴミ袋が開放された。

 一万円札がピラミッド状に築かれていった。俺達は喜びの絶叫を上げた。たかがフリーターが一日にして億万長者になったのだ。しかも警察は手口に一切気づいていなかった。目撃証言も報道されていない。

 俺の真の人生はここから始まるのだ。

次話更新予定は本日(11/17)の18時頃です。


Next:「■犯罪者のいる世界」

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