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俺がここで  作者: ゆな
2/2

その2

説明的なまどろっこしい文章になりがち…どうしたものか

8年前の秋、母親に連れてこられたのは、事前に言われていた場所とは何もかも違うところだった。

少し無機質な白い壁の大きな建物だ。

「買い物行くって騙してごめんね。」

「えーっと?」

「頑張ってね、雪!あんたならいけるわ!」

母親が言った、ごめんねの後ろにはハートが見えたような気がする。あれはわかる、全然悪びれてない時の声だ。

都内にある大きな建物の中、バスケットコートが恐らく二面は確保できるような大きなスタジオ。前の壁には全面鏡張りである。

周りを見れば中学一年生の雪と同じ年代の男の子ばかりである。また、少し年上らしい男の子もいるようである。

「もう時間だよね、オーディションの第一部始めようか。」

前に立つ男の人の声が響く。

自分から望んだ状況ではないが、しかしこういう時に負けず嫌いの血が騒ぐ。やるからには全力でやるべきだと自分を奮い立たせる。

「それではfactory of F事務所、258th研修生オーディション始めます。先ずは今回の課題曲はこれ。」

前に課題曲の歌詞が張り出される。大きく印刷されたフォントがどこか角ばって見える。

「ダンス審査から始めます。前で踊るから、振り見て覚えてください。」

課題曲として出されたのは、F事務所所属の男性アイドルグループが二週間後に発売される予定の8枚目のシングルCDである。雪はほとんどその曲も聴いたこともなく、まだ音楽番組等で披露されているわけではないために、ダンスなども全くわからないな、と内心少し慌てていた。前に立つ男の人は自分は振付師だと名乗り、ダンスの振り付けを手本で見せ始める。ダンス審査が始まった。

「はい、ここでそのまま動かないで!カウント取っていくよ。」


そんな時、スタジオの扉がガチャリと開いた。

「おー。」

スタジオの中へ三人の研修生が入ってくる。そしてテレビカメラも同じように入ってきて、オーディション生の中にざわめきが生まれた。緊張が走る。

「懐かしいな、この感じ。旭って何期生だったのかな?」

「ねー、懐かしいよね!僕は、256thかな。咲ちゃんは、253thだったっけ?」

「優雅、初めの「おー。」しか話してないよ?」

パン!乾いた音が響いた。前にいる振付師が手を叩いたのだ。

「はい、オーディション生は集中してねー!」

ダンスの振り覚えがそれからしばらく続いた。


「林、木場、大宮!ちょうどいいから、踊ってみて。振りは今から教えるから。オーディション生は座っていいよ。」

「はじめまして、F事務所研修生の林咲人です。」

「木場旭でーす!」

「大宮優雅です。」

1.2.3…ここで止める。前で振付師が三人に振りを教えていく。20分経てば、振付師が満足げにうなづいた。

「じゃ、音かけるぞ。」

曲が流れはじめ、三人は完璧に踊りきる。


「すごいな…。」

雪はぽつりと呟いた。前で踊る研修生の三人には求められることへ応えられるスキルがある。そこでふと思う。振付師はなぜ、この三人を前で踊らせたんだろうか?

見本としてもあるだろうし、研修生へなることへのモチベーションは恐らく紹介された後の方がみな高まっている。

それよりも他に何かあるとしたら…。

「歌唱力・表情審査の後に、もう一回ダンスの振り確認するから。今日聞いた曲だけど、振り覚えで20回以上は聞いてるよね、自分で音程取って歌ってみて。はい、十人ずつ前に出て。」

200人いるオーディション生が次々に組に分けられていく。また、次々に歌っては場所を入れ替わっていく。その横ではスタッフが手に持ったクリップボードに何か書き付けていく。


ダンス審査も、歌唱力表情審査も、見て覚えて対応していく速さが求められていることに雪は気づく。

覚えて自身で再現をする。訂正があれば横のスタッフに直されるも、それよりも顔と胸についた名札を一度も確認されないのは振りが中々覚えられず、「動けていない」子たちのようである。

歌唱力表情審査で雪の順番がくる。


「そういつだって、手を伸ばせばまだ君が足りないなって、一人その恋しさに時を止めてほしくなるよ

pray for you…my Dear

sing for you…my Dear」


歌い終わると、また後ろの組が前に出されて、雪たちは後ろに下がった。そのまま目まぐるしくオーディションは進んでいく。

「はい、じゃ、今から20分休憩して、その後にダンス審査するから。時間見て、今と同じような感じで集まってね。」

「はい!」

オーディション生たちの返事が重なる。


「ねえ、瀬川雪って綺麗な名前だね。」

突然振り返ると雪は驚く。研修生で先ほど前で踊った木場旭に話しかけられたのだ。

「ありがとうございます…。」

「そんなに固くならないでいーよ!同い年ぐらいじゃない?僕今中学一年生なんだけど。」

「あ、俺も中学一年生、です。」

「ほら、タメじゃん。よろしくね。敬語じゃなくていいよー。」

「図々しいかもしれないんですけど。」

「うん、なーに?いきなりだね。」

首をかしげた仕草が驚くほど似合う、可愛らしい男の子だな、と雪は一人考えた。

「ダンスの振り付け、確認したいなって思って。」

「いいよ、しよっか。」

木場旭がにやりと笑ったように見えた。

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