出席番号六番 及川実織
荒い息を整えながら、私は辺りを見渡した。
一年二組。六年生より、一回り小さい机と椅子が、並んでいる。その中に、妹の椅子もあった。
真夜中の十二時。既に私の脳は眠りかけていた。
だが、ここで眠ってしまったら、次何が起きるか分からない。あぁ、でも、眠っているときに撃たれてエンドの方が、私的にも良いんだけどな。
何でこんなことになっちゃったんだろう。昨日の今頃は、ベッドに入って、お気に入りのぬいぐるみと一緒に布団にくるまって寝ていたはずなのに。こんな時間に起きているなんて、私にとって、まず有り得ないことなのに。
「何でなのよ……」
そんな言葉を漏らしても、私は何も出来ない。
六年三組を殺すと脅されても、私はただ怯えていることしか出来ない、弱虫。
ただ、そこにいることしか出来なかった。春日君が殺されてしまっても、成仏の一言もかけられないまま。上原君も、内村君も、藍花ちゃんだって、憐みの目を春日君に向けていたと言うのに、私ったら、何も出来なかったんだもん。
「とりあえず、食べ物、ないかな……?」
私は、一年二組の近くの、給食室に足を踏み入れた。
この心が丘小学校は、心が丘市内唯一の公立小学校だ。他は私立だったり、国立だったりする。
もちろん、受験して私立に行く人達ばっかりが、心が丘に集まるわけじゃないので、公立に来る小学生は、年々多い。
こちらは一般的家庭の子供が、普通に入学する小学校なのだ。だから、生徒数は膨大。一学年で百人はいる。
一学年四クラス。我が六年三組は二十六名。それが、ちょっと誤差ありで他に三クラスあるわけだから、大体百五人ぐらいはいる。
それが学校全体だ。それもあって、学校の敷地は、近隣の小学校でトップを誇る広さ。それがちょっとした自慢だった。
なので、給食は結構な量が用意されるのだ。しかも、今年の一年二組は残飯量が記録的に多いんだとか。
噂では、担任の渡辺先生が虚弱体質で、大食いすると気分が悪くなって吐いてしまうことから、次第にそれが一年二組の皆さんに伝染していったんだとか。
それをチャンスと、学年問わず、配られなかった食品を食べに人が来るため、ここ数カ月で「一年二組おかわり天国」と言う伝説を作ったものだ。
そんな一年二組は、どんなに他学年が頑張っても、残飯は出てしまうわけで、給食室には残飯が沢山。
なので、私はそれを貰いに行くのだ。
今日の給食は、揚げパンに、ワンタンの味噌汁、金平ごぼうの煮物。人が手を付けたご飯なんて、ためらいがあるが、しょうがない、今は殺人ゲーム中なのだ。誰かと間接キスしようが、誰かが吐いた床に座り込もうが、たとえどんなに気持ち悪くても、死には変えられない。食べるしかない。
私は、給食室の扉を開けて、中から揚げパンを取り出した。歯形が残っている。流石にそれは少しだけ気持ち悪かったので、歯型の跡がある部分だけちぎった。
「あれ? 実織ちゃん?」
「……ひっ。……な、何だ、麗羅ちゃんか」
揚げパンをむさぼっていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには麗羅ちゃん。大の親友が死んだことがショックだったのか、つい数時間前とは見違えるほど疲れ切っていた。
「大丈夫?」
「大丈夫なわけないじゃん……。親友が死んで平気な女子がどこにいんのよ」
麗羅ちゃんは、私から視線を逸らす。私は慌てて謝った。
「え……ごめん」
私の無神経さに怒る様子もなく、麗羅ちゃんは無理矢理口角をあげた……ように見えた。
無理しなくていいのに。私は、そんな言葉をかけようと思ったが、今度こそ怒ってしまうかもしれない、と思うと、声を掛けようにもかけられなかった。
「……藍花ちゃん、大切な人だったのに」
思い出したのか、麗羅ちゃんの瞳には、じんわり涙が浮かんでいる。
「ぎゃああ、ご、ごめんね?」
私は尚も謝り続ける。先ほどの無神経な発言で、麗羅ちゃんが悲しそうな顔になったのが、一目見て分かる。
「別に、いいよいいよ、しょうがないことだもんね」
嘘だ。全然しょうがないことじゃないのに。
「無理しなくていいよ、麗羅ちゃん」
「無理なんてしてないよ。……それより、眠くない?」
話題を急に切り換えて、麗羅ちゃんは大欠伸をした。それもそう、今は深夜なのだ。普通に考えればもう寝ている時間。
「……こんな時間に起きているだなんて、信じられないよ」
「ね~。一歩間違えれば、殺されちゃうんだもんね……」
また話題を逆戻りさせてしまったのか、麗羅ちゃんの語尾はどんどん小さくなっていく。藍花ちゃんのことを思い出しているのが、考えなくても分かる。
「……そんなことより、残ってる揚げパン、あるから食べる?」
「いらない、こんな時間に食べるなんて、美容に良くないもん」
私が揚げパンの入っているワゴンに歩み寄ると、麗羅ちゃんがそれを制するように言った。
「あ、うん、ごめん」
謝ると、麗羅ちゃんは「ちょっと静かにしてくれる? 人の足音が聞こえる」と驚くべき言葉を口にした。
「ホント?」
ってことは、今のは音を出さないようにするため?
そう勝手に思うと、麗羅ちゃんが途端に良い人に思えてくる。人間なんてそんなもんなんだな、と思いながら、私はワゴンとワゴンの間に隠れる。
麗羅ちゃんは、「じゃあ私、向こうに隠れる」と一年三組と一年四組のワゴンの間に入っていった。
カチャ、と扉が開く音がする。
コツ、コツ、コツ、と無機質で、でも何故か少しだけ寂しい音が辺りに響く。私は息を潜め、その人物を見やる。
それは、本田君だった。健康的な小麦色の肌が、薄暗い蛍光灯のせいか、青白く見えて、何故かすごく気分が悪そうだった。
「……何だぁ、一誠か」
私が声をかけるよりも先に、麗羅ちゃんがワゴンの隙間から出てきて、本田君に話しかけた。
「……あれ? ちょっ、一誠、どうした? 顔色悪いけど」
先ほど麗羅ちゃんも、親友を失ったショックで顔色が悪かったが、もう大丈夫のようだ。
「……お前、カリスマ三人組と有村死んだって、知ってるか?」
「……うん、知ってるよ」
その四人の言葉に、私は喉を鳴らす。
カリスマ三人組と夏実ちゃん。よく家に来て遊ぶ子達だった。
おさげで眼鏡の夏実ちゃん、美人の秋枝ちゃん、髪がサラサラな奈名子ちゃん、そして、清潔な印象の琴音ちゃん。
このうち、夏実ちゃんを除いた三人は、学校内で超有名な六年生として後輩の話題になった、通称「カリスマ三人組」だった。
藍花ちゃんと麗羅ちゃんも凹凸親友として目立つことが多いが、それでもこの三人に比べれば、話題性も乏しいと言うほどの、まるで完璧な少女達だ。
もちろん全てが完璧なわけではない。彼女達のうち、奈名子ちゃんはいわゆる「お馬鹿」って感じだし、秋枝ちゃんはこの三人の中でもちょっとだけS寄りの子で、琴音ちゃんは、几帳面なところがたまにキズって感じ。
この三人はお人好しで、だから六年三組の中で目立つ存在なのだ。人当たりが良いのは奈名子ちゃんで、特段カリスマ性があるのが秋枝ちゃんで、お嬢様で可愛らしいのが琴音ちゃん。
彼女達でランキングを作ると、「モテランキング」一位が秋枝ちゃんで、二位が琴音ちゃん、三位が奈名子ちゃん、みたいな。「女子力があるランキング」一位が琴音ちゃん、二位が秋枝ちゃん、三位が奈名子ちゃん。「個性的ランキング」一位が奈名子ちゃん、二位が秋枝ちゃん、三位が琴音ちゃんだったり。
そんな人達が六年三組にいると、六年三組の株は鰻登りなわけで。六年三組は三人に感謝していた。
そんな子達が、死んでしまったというニュースは、当然広まっていたわけで。藍花ちゃんが殺されたことと同じくらい、皆は震撼していた。
「……俺、それがぜんっぜん理解できなくってさ。ホントマジ、ふざけんなよって感じ」
へへっ、とうっすら笑う本田君。何を言っていいか分からずに、私はただ突っ立っていることしか出来なかった。
「……ふざけんなよって感じだよな。俺、もし生き残っちゃったらさ、何を希望に生きていいのか、全然分かんねぇんだよ。ふざけんなよ……」
「一誠……」
麗羅ちゃんは、そんな一誠に掛ける言葉が私と同じでないらしく、ただじっとしているだけだ。
「皐もいねぇし、有村もいねぇし。……一体俺、どうしたらいいんだろ? 生き残っても、何にも意味ねぇんだぜ? そんな辛いことがあるかってんだ。俺、せっかく、有村だけを支えに生きてきたのに」
「…………」
恐らく本田君は、夏実ちゃんが好きなんだ。もし好きじゃなくても、大切に思っているに違いない。
人の死を目の当たりにして、それも好きな人の死を目の当たりにして、こうなるのも無理がない。
おまけに、双子の妹の皐ちゃんと、一年生の頃から離れて暮らしているらしい。それで夏実ちゃんを好きになったのだと思う。なのに夏実ちゃんまでもが死んでしまって、どうしようもなかったのだろう。
「さっきまでずっと一緒に行動してきた女子がさ、あっけなく死んじゃったんだぜ? こんなのないだろ?」
「……そうだよね」
やっと出た声は、あっけなく消えていってしまうものだった。
「……俺だけが生き残ったって、全然意味がないぜ?」
「そんなわけないじゃん。貴方はきっと、将来サッカー選手になれる。そして、有名になったある日、雑誌でこの狂った殺人ゲームのことを言うのよ。そしたら社会問題になって、色んな人がきちんと考えてくれる」
麗羅ちゃんは、さっきから的確なことばかりを言っている気がする。それに比べて、私は何て思いやりのない人なんだろう。
「……本田君。大丈夫だよ、きっと」
私は、微かに震える本田君を見て、言う。本田君は顔を上げて、「何がだよ」とこぼした。
「貴方は生きる価値がある人間だよ。これからどんなことがあっても、このことを忘れないで。そしたら、何があっても乗り越えられる。そうに決まってるじゃない。
だから、希望を捨てないで。絶対に、捨てちゃ駄目だよ。
夏実ちゃんをずっと想っていたいなら、ずっと想っていてよ。……でも、前のことをずっと引きずってても、始まらないんだよ。だから、たまに、夏実ちゃんを思い出して。そして、また、必ず生きて」
私の思いが伝わったのか、本田君は何度も何度も頷いていた。
「……うん」
本田君は、目に涙を浮かべながら、そう呟いた。いつもの本田君らしくなく、子供のように泣き出していた。
「泣いて良いんだよ? 強がっちゃ駄目だよ」
本田君に言った言葉。
それを、啓介君にも言いたかった。今、どこかで苦しんでいる大好きな人に。
今朝の夢に、啓介君が出てきたのだ。
殺人ゲームに巻き込まれるとは想像もしていなかった、四年生の、あの日。
◆◇
その夢は、定期的によく見るのだ。
ぱちっと瞬きをすると、懐かしい教室が見えた。視線を下に移すと、ピンク色の上履きに、チェックのスカートが見えた。
心が丘小学校四年三組。出席番号四番、及川実織。
影が薄くて、目立たない。そんな子だった。話題を振られても、何も言えず、つまらないと思った人も何人かいただろう。
そんな私を見付けてくれたのは、他でもない、笹川啓介君だった。
「あれ? こんな所に地図なんてあったっけ」
放課後。私は、居残りをしていた。授業の時間に終わらなかった課題を、終わらせたかったのだ。
やっとのこと課題が終わり、ランドセルを棚から出すと、ひらひらと何かが落ちてきた。
それは、心が丘市内の地図だった。私はそれを拾って、地図を見る。
見ると、至る所に矢印で何かが書き記されているのが見える。綺麗な文字だ。『この距離三キロ』『ゆうきの家六時までオッケー』。女子だろうか、この文字は。
にしても、綺麗な字。四年三組で一番綺麗なんじゃないかな。
良いな、この人には長所があって。
私にも、長所があればいいのに。そうだったら、こんなに影の薄い存在にはならなかったのに。
実は私だって、色んな事をする。
四年三組の花壇の世話だって、係でもないのにやっているし、配り物だって結構やっている方だ。通知表にもそれを書かれた。
けれども、それは私にとって、長所のない人の長所を必死で探そうとしているように映ってしまった。
花壇の世話や配り物は、好きでやっている。色鮮やかな花が花壇を埋め尽くすのが私は大好きだったし、配り物が私の手によって減っていくのは心地よかった。別に誰かに評価されたかったわけじゃない。だけど、通知表にそれが載ると、何だか物足りなく感じてしまう。そんな私が、少しだけ嫌だった。
なのに、彼は、違った。
私のことに、ちゃんと気付いてくれた。それが嬉しかったのだ。
だから、彼が好きになった。
「あ、それ、俺の!」
突然、四年三組の扉から、そんな声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには啓介君がいる。
「えっ、そうなの?」
私は、啓介君とこの地図を、交互に何度も、見比べた。
綺麗な字、爽やか少年啓介君、綺麗な字、爽やか少年啓介君、綺麗な字、爽やか少年啓介君……。
「えっ、字、すごく綺麗!」
「そうか? ありがとうな、及川」
字を褒められたことが嬉しかったのか、啓介君は照れくさそうに笑った。
「あと、本当に、四年三組の色んな事に貢献してくれて、ありがとう」
「えっ?」
いきなりそんなことを言われて、私はかなりパニックになってしまった。
「だって及川、花壇の世話、生活担当の佐藤がいるのに、世話を頑張ってるだろ? 俺、ベランダに出てチューリップとかスイートピーとか見るの、マジで好きなんだよね」
啓介君にそんなことを言われて、私は更にパニックになる。頬が真っ赤になっているのが、見なくても分かる。
確かに、生活担当係の佐藤君を押しのけて、花壇の世話をしていることがある。
「俺、結構人のこと見てるんだよ? 佐藤また係活動サボってるとか、な~んてね」
ニッコリ笑うと、啓介君はこんなことを言ってきた。
「及川に世話してもらってる花を見てると、こっちまで嬉しくなってくるんだよな。花がめっちゃ嬉しそうなんだよ」
その言葉で、私の心に、何かがストン、と降ってきた。
それが恋の始まりだと知ったのは、もう少し後の話。
◆◇
いつも、そこで目が覚める。青春の一ページを噛みしめながら、私は日々生きていた。
なのに、それを全てぶっ潰されてしまうのだ。恐れていたことが、起きてしまったような。
「あぁ、ありがとうな」
本田君が、鼻を啜りながら、「じゃあな」と立ち去って行った。
本田君は、サッカー選手になりたかったはずなのに。何でこんなことに巻き込まれてしまったのだろう。こんなに熱心で強くたくましい少年を、こんな狂ったゲームに巻き込むだなんて、先生は異常だ。
不公平で、不平等で、最低で、最悪な先生。そんな先生が、毎日サッカーを必死で頑張っている本田君を巻き込んでしまうだなんて、胸が痛い、最悪な話だ。
小さくなった本田君の背中は、やがて見えなくなってしまっていた。
「先生……」
小さく、そんな声が聞こえる。その声の発信源に振り向くと、麗羅ちゃんが小さな声で呟いていた。
「なっ、何が、何が先生なの?」
「……ん? 何でもないよ」
寂しそうな目で笑う麗羅ちゃん。悲しそうな、寂しそうな。それを包んだような漆黒の瞳が、麗羅ちゃんの大きな目を照らしていた。
こんな顔をしても綺麗だなんて、麗羅ちゃんは名前通り、と言うのも失礼だけど、美人だった。
麗羅ちゃんは、六年三組ツートップ美少女の内の一人だった。もう一人は秋枝ちゃん。
ヤンキー家族の一人娘で、冬でもミニスカニーハイの少女。細い手足、卵型の顔、アーモンド形の丸くて大きな瞳、小さく尖った鼻、形の良い小さくて可愛い唇。
「……やっぱり、言っちゃおっかな」
麗羅ちゃんは、そう言って小さく笑うと、思わせぶりな視線を投げかけた。
「えっ? 何を?」
「いや、さっき何で私が先生って言ったのかっていう、理由」
にんまりと笑った後、「藍花ちゃん以外には言わなかったけど、実織ちゃんには教える」と言った。
「あ、生き残ったら、皆には絶対言わないでね」
「言わないよ」
私は、クスッと笑う。まさか、友達のことだもの、笑うわけにはいかない。
「実は私、先生が好きだったの」
「え、えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
あらん限りの大声を出した次の瞬間。
タタタタタタ、と音がした。
「うわっ、先生!?」
麗羅ちゃんがそう言って間もない頃、バンッ! と扉が開け放たれた。
「ひぃっ?」
「ふふふふふ……」
私達が動揺する中、先生は、赤い眼鏡の奥の目を、キラキラと輝かせている。これだけ見れば、ただの好奇心旺盛な先生のように思える。
その先生が包丁を持っていなければ、の話だ。
「……おやおやぁ、貴方達ったら、どうしたんですか? そんな顔をして」
私の顔は……引きつっていることだろう。
麗羅ちゃんの好きな人が、まさかの渡辺先生だった。一体どこが好きだと言うのだ。狂う前の先生を好きだったなら、どこが好きだった。有り得ない、先生を好きになるだなんて。
そんな思いが駆け巡って、複雑な表情しか出来ない。
「先生……」
「何ですか? 栗沢麗羅」
先生が、包丁を持った手を麗羅ちゃんに向ける。何でフルネームで言うの。私は問いかけたかった。
「私、先生が狂ってしまったのが、いまだに理解できません」
「ふぅん」
何でそんな気にしていないと言うような顔をするの。この子は今、必死で自分の中で葛藤しているかもしれないのに。
「それで?」
「私はずっと先生が……いえ、ずっと先生というものを求めてきたのに、何でこんなことになってしまったのか、私には理解ができません」
「ほぉ」
だから、その興味ないとか言う目をやめて! 麗羅ちゃん、ずっと先生が好きだったんだよ? どういう経緯で好きになったのかは知らないけど、好きだと言ってくれる人に対して、そんな目をしていいの? 駄目でしょ?
先生なのに、そんなことも分からないの? 貴方、馬鹿じゃないの?
そう思った矢先、ふいに麗羅ちゃんが俯いた。そして、内ポケットから、何かを取り出した。
キッと先生を睨みつけて、叫んだ。
「……ずっと、先生のことが、好きだったのに」
グォン!
ザクッ!
風を切る音と、何かに何かを突き立てる音。
ガゥン!
嘘でしょうよ。
絶対、今、聞いてはいけない音が聞こえた気がするんですけど。気のせいですかね。
「い、いやっ」
そこに、麗羅ちゃんの死体があった。
サラサラのポニーテールが、先生の肩にかかっている。いつの間にか、先生にもたれかかっていたようだ。
「……麗羅ちゃん」
「おやおやぁ、栗沢麗羅は、勘違いをしてたみたいだ」
「あ?」
心臓がどくどくと鳴り過ぎて、変な声を出してしまう。
「いやだから……。
先生が生徒を好きになるだなんて、乙女チックな夢が叶うわけないじゃないですか。そんなことが起きるのは、せいぜい漫画かドラマぐらいのものですよ」
くっくっく、と先生は笑う。
その途端、ぶちんっ、と音がした。
次の瞬間、私は、先生の手に持つ包丁に手を伸ばした。
こんな悪夢、終わらせてやる。人の想いをこんな風に踏みにじるなんて、あってはならないことだ。
だから。
こんな酷いこと、やめさせるべきだった。
なのに。
先生は、どこに隠し持っていたのか、銃を取り出して、私に乱射した。




