殺人ゲームのその後の話。 前編
ねぇねぇ、最終回だと思った? ねぇねぇ、最終回だと思った?
残念、まだありました。
はい。ふざけすぎました。
まさかの続編。
投稿した日時がエイプリルフールだということ、そしてまだ未完結であることで察した方々って、実はいるんじゃないでしょうか?
そんなわけで、殺人ゲームのその後の話です。
「……こ、こんにちは?」
「こんにちは、というより、こんばんは。本田一誠君、ですよね?」
東京の某有名料理店。
高級そうな雰囲気が漂う入口に、俺と少女は佇んでいた。
長い黒髪に、両方に三つ編み、つまりはおさげが施されていて、瞳は大きくてうるうる潤んでいる。たまごっぽい形の顔に、小さく、でも、ほのかに妖しげな雰囲気を持つ紅い唇。おさげという可愛らしい髪型と、お洒落な服装が地味に合っている。これがお洒落上級者かと俺はふと思う。
背丈は俺より何センチか上で、都会の風景にマッチしている服装で、俺と並んで立っている。
その綺麗な唇が、動く。
「……まだ、誰も来ていませんね」
「……そうです、ね」
いきなり会話を切り出す、結崎紫織さん。
俺の妹、山崎皐の親友が、そこに立っていた。
「集合は六時で、今は五時半。……ちょっと、早く来すぎてしまったみたいね」
「……ですねぇ」
彼女も、俺と同じく、戦場を歩いた一人なのだろう。
聖ハスカ小学校で起こった殺人ゲーム、狂った現象で生き延びた、この美少女が、結崎紫織。
皐の、親友。
そして、皐は死んだ。
相手が俺の名前を知っているということは、結崎さんも殺人ゲームの報道を見た、もしくは皐から話とか何とか、聞いていたのだろう。
そして偶然なことに、受験番号を確認していた隣の人が、結崎さんだった。すげぇ美人だなぁと俺がマジマジと見つめていると、結崎さんは俺の視線に気付かずに、サッと身を翻してしまったけれど。
「……しばらく、話でもしていますか」
「そうですね」
結崎さんがそう言って、俺が頷いて。
そこから何も、始まっていない。
何も言わない結崎さん。俺は自分から話しかけることにした。
「殺人ゲーム……で、生き残ったんですよね、結崎さん」
しまった、失敗した。
忘れたいはずの思い出を、俺は抉り出してしまった。
慌てて謝ろうとすると、結崎さんは「そうよ」と頷いてみせた。
「小川幸秀っていう教師が、私達を追いかけて、殺したんです」
そうして、結崎さんはしばらく視線をキョロキョロあっちこっちに移動させて、言った。
「皐も……」
そうだ。
あの日、皐も死んでしまったのだ。
理解できない殺人ゲームに巻き込まれて、死んでしまったのだ。
結崎さんは、俺のこと、皐から頭が痛くなるほど聞いたんだろうな。
だから、俺の名前も覚えているし、皐の名を出すときに、こんなにも躊躇った。
「聖ハスカで殺人ゲームが起こるなんて、皆、すごく驚いたんですよね」
「そうね……。私のクラスの場合、先生が朝会で言い放って、その翌日に何故か聖ハスカの校庭にいたっていう話なんですけど……。あの時の傷は、中々癒えるものではありませんね」
赤紫のコートに、黒のタイツ。寒いのでマフラーなんか巻いちゃっている。でもそれが可愛い。
俺のいる角度が黄金比なのかな、とにかく、今までに類を見ないほど滅茶苦茶可愛い。
「……そっちはどんな感じだったんですか?」
「どんな感じって言われても……。ニュースで報道されていた通りだよ。俺、十二月からは受験勉強してたからニュースなんてあんまり見なかったけれど、昨日見たニュースでは、「春日が一番最初に殺された」ってことだけは発表されてたし。どんだけ遅いんだよって感じで」
警察は一カ月ほど前には死亡推定時刻やらを調べていたらしいが、それをマスコミに公表するには気後れなことがあったらしい。
気後れ、というのもしょうがないが、遺族の表情だ。
俺は六年三組の葬式に参加したし、そこでやつれた人達も見た。
中には白髪が混じっていた男女も沢山いたし、「何でお前だけが生き残ったんだ」という奇異の目を向けられたことだってある。生き残ってしまったものはしょうがないのに、何故か無性に申し訳なかった。
校長や教頭なども先生が殺してしまい、更に先生も水川が殺してしまったため、結局この事件はどうやって裁判にかけるのか、大人も悩んでいるらしい。
「春日……って、誰ですか?」
「……とりあえず言っておくと、性格悪いって言う人いるんだけどさ、かなり情熱に溢れている奴なんだよな」
俺自身、春日のことはそれほど悪い奴だとは思っていないし、結崎さんに何故か知ってもらいたくて、そんなことを言うばかりで。
「そうなんですか。まぁ、秦矢朱音さんみたいな人だったのでしょうか……」
「は? 秦矢? って、誰ですか?」
恐らく、死んでしまったクラスメイトなんだろう。悪い質問をしてしまったような気がして、俺は「すみません」と謝る。
「……え? あぁ、大丈夫ですよ。秦矢さん、色々と私に突っかかってきて、結構面倒くさかったんで」
……あ、そんな奴だったんだ。俺らで言う、藤川みたいな奴か。
あれ? ってか、この人も藤咲中学合格者……だよな。
ってことは。
「あの……俺達、生き残った者同士、中学校生活、頑張りましょうね」
「えぇ」
いくら名門校だからと言って、誰もがニュースに疎い訳ではない。殺人ゲームで生き残った二人が同じ中学校だなんて、一年の頃は噂されてまともに授業なんて受けられないだろう。
「殺人ゲーム……って、何でこう、人を貶めちゃうんでしょうね……」
「し、知らないです……」
殺人ゲームって、何でこうなんだろう、って、体験した人は俺達以外いないだろうから、俺達にも分からないんだから、分かるはずがない。
「……そう言えば、私達が巻き込まれた殺人ゲーム中に、面白い掲示板を見付けたんですよ」
「面白い掲示板?」
「パソコン室で見かけたんですがね」
聖ハスカの殺人ゲームは、パソコン室でネット掲示板を見ても良いくらい、ゆったりしていたのか。
俺がそう思った瞬間、結崎さんはスマホをポケットから取り出し、ものすごい勢いでスマホをタップし始めた。す、すげぇ……。
「これです」
数秒の後、結崎さんは一つの掲示板を見せてくれた。ちょくちょく出てくる広告がゲスい漫画の宣伝ばっかりなのはちょっとあれだけど、中身はいたって普通の掲示板だ。
『Y校掲示板』と書かれた見出しの下には、『殺人ゲームが起きているらしい。聖ハスカ小と心が丘小だって。殺人ゲームとかw草生えるわww大草原不可避ww』と不謹慎極まりない書きだしの奴がいた。草に草を生やしてはいけない、と教わらなかったのだろうか。ちなみにこの草にまつわる情報は皐から聞いた。
「……これ、俺達が殺人ゲームやった直後の時間帯じゃねぇか」
書きこまれた時間は、十月九日。時刻は十一時。
「……マスコミは全く同じ時間でやったって言っているけれど、実際は一日ずれていたのよ」
「……新発見……すね。そもそも誰がこんなの書いたんだろう……」
俺が結崎さんの顔を見ると、結崎さんは「さぁね」と呟くように言った。
「大抵はこういう不謹慎な物言いで書く奴ってクソだから、会ったらぶっ殺していくような形で良いのよ」
結崎さん怖い。割と結崎さん怖いこと言う。聖ハスカの人達って、皐以外、誰でもそうなのかな。
ふいに結崎さんはスマホの画面をトップ画面に戻し、時刻表示を見て呟いた。
「話している間に、もう四十五分ね。……誰か来るといいけど」
「そうですね~」
俺はそう言いながら、今から入る予定の料理店を見つめる。
どっしりとした日本料理店、というより、高級な外国の料理を扱う料理店って感じの、何だろう、インテリ感溢れる料理店だ。
こんな所に、家に帰ったら真っ先にお風呂場にダッシュするような男が、入っていいのだろうか。
隣にいる結崎さんは、この高級料理店に似合う格好だというのに、俺はと言えば、紺のジーンズに黒のパーカー。学校に着ていくような服装で行ったのが間違いだった。
「あー! 人いるー! 何あの男の子、超格好良いと思わない絵糸君!」
「……周りの人に迷惑だろうが」
向こうから、異様に騒がしい男女二人が歩いてきていた。俺と結崎さんは「やっと来たか」と言わんばかりの目を二人に向けて、そして、落胆した。
男の手を引いてきた女子の髪型がえげつない。一度ツインテールにしたんだろう、そこだけは分かる。だが、それから更に、そのツインテールを丸めて、一度結んだ所に収束させている。
で、その引っ張られている男が、上原遼平の兄弟かってぐらい雰囲気やら言葉遣いやらが似ている男。
一瞬泣きそうになってしまったが、慌てて抑えた。
しかし、何故結崎さんのことを叫ばないんだ、髪型がえげつない女子。……もしかして嫉妬か、おぉそうか。でも俺は格好よくはないんだけどな。
「って、あー! よく見たら、殺人ゲームで生き残った二人じゃない!?」
「……は? ……あ」
そんなことを大声で言う、髪型がえげつない女。そして納得したような男。
幸い周りには誰もいなかったため、誰にも気付かれることはなかったが。……ってか誰も来ていないって、まさかこの合格者打ち上げパーティに来る人あまりいないとか?
「……面倒くさいことになりましたね」
ぼそっと、結崎さんが呟く。
「すごい、すっごぉぉい! 有名人が、ウチらの学校に来ちゃったよ! 二人も!」
「……然闇、お前、うるさい。失礼だし」
えげつない髪型の女……然闇さんがはしゃいでいるのを、遼平の兄弟のような男子、絵糸さんが押さえている。
「えー何でぇ!? この二人、超有名人だよぉ? テレビでも中々見れないのに。だから絵糸君もぉ、写真撮っておこうよー!」
「然闇!」
絵糸さんが叫んで、然闇さんが黙る。
「……お騒がせしてすみません。……結崎紫織さんに、本田一誠さんですよね。片桐絵糸と言います。隣が、冬坂然闇です。今日から、宜しくお願いします」
然闇さんが頬をぷうっと膨らませると同時に、絵糸さんが一歩前に出て、自己紹介を始めた。
随分とコミュ力のある人だ。何だか仲良くなれそうな予感がする。
……ってかやっぱり、遼平の兄弟ではないのか。まぁそうだけどさ。葬式にも来ていなかったし。
……しかし、何だかすごく、似ていると言うか。
俺の視線に気付いたのか、絵糸さんはこちらをチラッと見やり、そこから料理店の中に入った。
「……え、あ、入っていいんですか?」
無言でまだ誰もいない料理店に入ろうとする絵糸さんに、俺は尋ねる。
「……何言ってるんですか? 皆さん、もうとっくのとうに集まってますよ?」
「……は?」
俺と結崎さんは一緒に中を見やる。
そこには、静かに問題集を広げている男女が何十人もいた。
え?
「あれ? 打ち上げって普通、喋るもんじゃないの? ワーワー騒ぐもんじゃないの?」
俺が一人で呟いていると、絵糸さんが「またまた何を言っているんですか?」と不思議そうな顔をした。
「藤咲中に通おうと勉強をしている人は、こんな打ち上げ、本当は行きたかないんですよ。家に帰って勉強している方が、時間の無駄でもないし、成績も上げられる。そう思っているんですから、打ち上げと一緒に行われる新入生説明会も、欠席したいんですよ。だって、もうリサーチしてあることばっかり言われるんですから」
「新入生説明会、追加程度であるんですね。驚きました……」
結崎さんが隣で小さな声を上げる。驚くの、そっちなんだ。
俺は、打ち上げに参加したくない人達がいるってことに驚いた。
父母会が企画していた、卒業式後の打ち上げ、行きたいって叫んでいた人が続出だった心が丘小学校の六年生とは、違うんだ。
「……皆、あと四名が来ないって、ウンザリしていたんだと思いますよ。勉強した方がいいと思っている人の中にも、本当ははっちゃけたいって思う人も何人かはいます。ただ、周りが真面目な優等生ばっかりだから、言えないんでしょうけどね」
……何か、絵糸さん、人を見下しているような、気が、するな……。遼平は、人を見下すことがなかったから、何か新鮮。
「……入っちゃいましょう」
◆◇
「よーし、皆! 乾杯!」
全然行きたくない雰囲気はなかった。
俺達が「遅れてすみません」と謝ると、一人の男子がいきなり参考書をバンッと閉じて、「んじゃあ早速、打ち上げ始めましょう!」と叫んだのだ。
そうすると他の男女も次々に参考書を閉じ出して、「やりましょう!」と言い出したのだ。あまりの団結力に、何度も大会で優勝していたサッカーチームに所属していた俺も驚いた。
そして今、メッチャ仕切っている坊主頭の男子。出された料理は平らげていた。こんなガキ大将みたいな奴も、藤咲中学校に受験して受かったのか。何だか、世の中って有り得ないこととか普通に起こるんだな……。
「……ところで、二人って、聖ハスカと心が丘の殺人ゲームで、生き残った人達でしょ?」
坊主頭のガキ大将が、出されたカクテルのお酒抜きみたいな物を、まるでコーラでも飲むかのようにゴクゴク飲みながら、二人並んで座っている俺達に向かって言った。坊主頭のガキ大将、雰囲気が全然ないな。この坊主頭のガキ大将は是非、野球かサッカーの帰りに駄菓子屋に寄って、ラムネをゴクゴクと飲んでいただきたい。
ふいに全員の視線がこちらに向く。マスコミから向けられたマイクやカメラとダブって見えて、俺は一瞬、つい反射神経で「知らないです」と言いそうになった。
「……そう、です」
「……そうですけど?」
俺が緊張しまくりながら言った一言とは対照的に、結崎さんはきっぱりと言い放つ。
「やっぱり! さっき二人の顔を見たときとか、自己紹介とかで、やっぱりって思ったんですよ。……ヤバいよ、この二人、超有名人! すっげぇ偶然じゃん!」
途端に周りから発せられる、「マジ?」「やべー」という奇異の声。
サッカーチームの一員として表彰されたときと、今では、注目の度数がまるで違う。
「何かさ、聖ハスカの中で一番頭が良くて天才の人と、心が丘小学校のサッカーチームで一番強かったっていう人が生き残ったって話があったんだけど、それって本当ですか?」
……そんな噂があったんだ。
もしかして俺が必死に受験勉強していたときに、そんな報道が流れたのかな。
ってことは、坊主頭のガキ大将も、その時勉強していなくてテレビ見ていたのか。何だか、何だか悔しい。俺より勉強していないのに、俺より点数が高くて。
ってか俺、「心が丘小学校のサッカーチームで一番強い」って報道されていたのか。本当は佐々木の方がゴール決めてた数多いんだけど……。何だか照れるな。
「……俺はサッカーチームで一番強いかは分からないですけれど、結崎さんは、そうなんじゃないですか?」
「私はよく天才って言われるけれど、正直天才だとはさほど思わないわ。むしろ、皐のお兄ちゃん、本田君の方が、皐と同じで、運動神経も良いんじゃないでしょうか?」
結崎さんはカクテルお酒抜きを少しずつ飲みながら言った。動作がもう、俺達に尋ねてくる坊主ガキ大将を超越している。
「でも、二人ともすごい人だってことは確かなんですよね。生き残っている辺り」
そこで、その坊主頭が、「良いこと思いついた!」と叫んだ。
「俺達の誇る冬坂と片桐、更に本田さんと結崎さんを合わせて、『天才カルテット』を組むのはどうでしょうか!? きっと、この二人といると楽しいですよ!」
瞬間。
結崎さんはグラスを机に置き、「何で……?」と呟いた。
「え?」
見ると結崎さんは、何故か眉をひそめて。
怒っているようだった。
何故、「天才カルテット」と呼ばれるのを嫌うのだろうか? そりゃあ天才って呼ばれすぎたから、嫌気が差したのかもしれないけれど、「カルテット」って四人組って意味だし、トリオとかコンビとかより、結構格好良い言い方だと思うんだけど。
それともこの二人が嫌なのかな。でもこの二人、そこそこ良い人達だと思うんだけどな。
少なくとも、俺の通っていた心が丘小での、「カリスマ三人組」みたいな呼び名じゃないわけだし。かなりセンスある呼び方だと思っていたが、今その言葉を聞くと、思い出したくない過去でいっぱいになる。
「何で、ここでも……?」
ここでも……? ……あっ。
もしかして聖ハスカで、そんな風に呼ばれていたとか?
聖ハスカでの『天才カルテット』、一人は結崎さんで確定として、あともう三人が誰だろう。もしかしてその三人のうちの一人というのが、オリンピックもすぐそこだと噂される皐ではないだろうか。
だが坊主頭は、結崎さんが小さく呟いたことなんて露知らず、また言い始める。
「聖ハスカで生き残った人……結崎さんが勉強の天才で、心が丘で生き残った人……本田さんが運動の天才、更に、女子に超モッテモテの、我らが片桐が女子を落とす天才、器用で男子にモテモテの、冬坂が女子力の天才、よってその四人で『天才カルテット』だ!」
は?
思わず結崎さんの方を向くと、結崎さんは目を見開いて、酒抜きカクテルの入ったグラスを揺らした。
「『天才カルテット』……」
険しい顔つきで呟く結崎さん。
そして何故か、グラスを持っていない手で、俺の手をギュッと掴んだ。
「…………」
「…………」
二人して、黙る。
やがて、その手がパッと離れ、結崎さんは「ごめんね?」と申し訳なさそうな表情をした。
俺はフルフルと首を横に振り、「大丈夫」と小声で言う。
「そっか……」
そうやってクスッと笑った姿が。
有村に、似ていて。
俺の胸が、少しだけどきっという音をたてた。
坊主頭に呼ばれた然闇さんが「えへへ~」と照れくさそうに笑っているのとは対照的に、絵糸さんは恥ずかしいのか、黙っているだけだった。
それよりこっちの方がよっぽど恥ずかしくて。
結局、パーティが終わるまで、結崎さんは俺の興味を引きっぱなしだった。




