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出席番号十一番 木戸康広

「松原……?」


 僕が発したその言葉。

 松原は、僕の目の前で、ゆっくり倒れていく。その前には、先生が笑みを浮かべて立っていた。

 ただ目の前の光景が、僕は信じられなかった。


 ◆◇


 二年生の頃。

 心が丘小学校に転校してきた僕は、以前の学校から転校してきた理由が原因で、いじめられる羽目になった。

 元々僕が通っていた学校は、藤咲(ふじさき)小学校という。小学校といっても、中学や高校などが一貫になっている、都内で五本指に入るほどの超名門校。僕は、そこのぎりぎりライン(本当にぎりぎりライン)で合格して、藤咲小学校に入ることになった。両親は泣いて喜んでくれたし、もちろん当の本人の僕が一番泣いて喜んだ。

 その学校に通ったら、本当に頭の良い人が沢山いて、正直僕はその人達の足元にも及ばなかった。まぁ……つまりは、その学校に入ったら、急に力が抜けちゃったって感じで。

 結局僕は、二年生の時点で、学校から見放される羽目になった。公立小学校に通っても馬鹿扱いされるような子だったのだ、僕は。そんな僕が名門校の藤咲小学校にいたら、当然のごとく馬鹿にされる。プロレスラーと赤ちゃんぐらいの差だ。「木戸君は駄目ですね。公立の小学校に入った方が良いかと思われます」と校長から突き付けられたお父さんは、泣きながら僕の顔をぶった。

 そこから、僕とお父さんの仲は一気に悪くなった。

 僕の弟の広樹(ひろき)は、一年生の頃、藤咲小学校に合格して、それ以来、落ちぶれることはなかった。それが、お父さんの兄弟格差の原因の一環にもなっている。

 僕だって一生懸命授業を聞いているのに、一生懸命勉強しているのに、学校から見放された。それはおかしいんじゃないか。僕がそう言うと、お父さんも負けじと言い返してきた。本当は学校でへらへらしてんじゃないのか、と。確かにそうだ。僕はへらへらしていた。でもちゃんと勉強もしていた。なのに学校から見放された。


 ……結局は、「康広にはまだ私立の名門校は合わなかった」という考えで収まったけど。


 そして僕は、藤咲小学校から転校した。

 上級生達が、「馬鹿だから、親父からも、学校からも見放されたんだろ?」「しかも弟は今も尚健在っていうね」と笑いながら僕に聞こえるように悪口を言っていた。

 とてつもない悔しさに襲われた。その上級生のベストの胸元に描かれた藤咲小学校の紋章がキラキラと輝いていて、余計空しくなった。



 そして来た場所が、心が丘小学校。

 二年一組。辺りは騒がしくて、僕を温かく、「宜しくな」と祝ってくれた。

 教室の扉をガラガラと開けても、聞こえてくるのは鉛筆の音だけだった藤咲小学校とは、大違いだ。

 僕は、精一杯の力を込めて、「宜しくお願いします!」と返した。


 それから僕は、元私立に通ってた小学生ということで、特段に威張っていた。そのことを話したら、「お姉ちゃんが通ってる中学校だ~」とか、「お母さんがすごいねって言ってた」と褒めてくれたのだ。それで一気に調子に乗っちゃって……。今考えると、何で威張っちゃったんだろうって思う。

 本当は弟の方が僕より何倍もすごいのに、それに気付きたくもなくて、威張っていた。本当に、嫌な子供だった。

 それが、三年生に目を付けられて、いじめられるきっかけになってしまったのだ。


 上履きの中に画鋲が入っていることに気付かずに履いてしまって、それで軽傷が出来た。それだけでは収まらず、髪の毛を引っ張られ、机の中にダンゴ虫を入れられた。段々皆が離れていく。悲しくて、泣いた時も何度だってあった。だけど、先生が注意してくれることなんてなかった。先生が見ていなかったからだ。授業しか進めず、保護者会では自分の良いように取り繕う、まさにクソみたいな教師だった。それでも、二年生や三年生の頃は、先生の言っていることが正しいと、思いこんでいたから、おかしいものだ。


 五年の頃まで、ずっといじめられていた。死のうかな、なんて思う時もあった。

 特にそれが決定的だったのが、四年生の頃のこと。


 心が丘小学校でも成績が下位の方になっており、更にいじめられかねることになるので、僕は塾に通うことにした。親にはいじめのことは言ってない。またお父さんにはっ倒されかねないからだ。

 塾に通ってからおよそ一週間、それは起きた。

 

 僕が通っている塾の中には、「神に恵まれた才女」と噂される女の子がいた。

 その子の名前は、結崎紫織(ゆうざきしおり)という。聖ハスカという、藤咲よりも頭の良い小学校に通っていた。確か、同級生の上原君と本田君が、受験していた小学校だったはず。

 その子がもう半端なくすごかった。まず顔が可愛い。そして頭が良い。塾のプリントは一分で終了、しかもそれが全部正解。塾内でトラブルがあっても、動じずそっと仲裁に入る。当然塾でもモテモテで、いつもモテ期来てますって感じだった。女子も、嫉妬を通り越して雲上人のように接しているのだ。「神に恵まれた才女」と噂したのも女子だった。彼女はすごすぎて、逆に嫉妬することが馬鹿らしいように思えてくる。

 僕は、隙がないって感じが、怖いと思ったこともあったんだけどね。

 

 その子のことを好きな子は、ウチの学校にもいた。

 水川想樹君だ。今は天海実月さんと付き合っている、あの水川想樹君。当時は「マジで才女じゃん」と周りに言っていたのだ。水川想樹君本人は、明らかに「好きですオーラ」を出して接しているのに、結崎さんは気付かないのか、気付いてても無視しているのか、何も反応は示さなかったけど、それなりに仲の良い雰囲気を醸し出していた。

 その水川想樹君が、車に轢かれて、骨折した。本当に、骨折程度で済んだからよかった。当たりが悪かったら、即死だった、と言われ、震えが止まらなかったのを思い出す。今は、本人の明るさが際立って、車に轢かれた経験があるだなんて、皆忘れていることだろう。だけど、僕は水川君を見る度に、「バカップルだけど、すごいな」と感じるのだ。

 何せ、僕はその瞬間をバッチリととらえてしまったのだ。思い出すと鳥肌が立つ、なんてことはしょっちゅう。

 


 その事故を起こしたトラックの運転手は、僕の伯父だった。

 飲酒運転。アクセルとブレーキの踏み間違え。

 ひしゃげるガードレール。曲がる電柱。歩道に突っ込む車。

 甲高いブレーキの音。ごしゅっという音がした。

 飛び散る鮮血。目を見開いて、何やら口を動かす結崎さん。

 周りの人達は、「男の子が轢かれた!」と叫んでいる。

 それを、塾の自習室から見下ろしていた僕。


 

 それから、僕は必死に何度も水川君に謝った。謝ってもどうしようもなく謝罪の念があふれ出てきて、「謝れ」「謝れ」と誰かが念を押しているかのようだった。

 病室にいた水川君は、骨折した左腕をギプスで止めていて、頭も包帯でぐるぐる巻きにされていた。病院服も見慣れなくて、右手も赤かった。「いいよいいよ」なんて水川君が謝ってくれていたけど。

 

 本当に、水川君は良い人だ。今もこうして変わらず、「木戸君、遊びに行こう」なんて言ってくれるのだから。自分の人生を壊したような人の甥が目の前にいようと、遊ぼうと言ってくれるのだ。

 水川君は、本当に良い人だ。


 ◆◇


 なのに。

 その水川君は、彼女の天海さんを置いてけぼりにして……つまりは、天海さんを見殺しにして、今も尚生き残っている。

 そして今、目の前で倒れる松原。

 信じられなかった。彼女は……何を隠そう、俺の親友、梶山蓮の好きな人なのだ。

 何でも自分を後回し、他人を優先にし、それで皆から褒められることもあった。天海さん、佐藤さん、松原で「ふわふわ三人組」を結成している。

 

 そんな松原も、今思えば、随分変わったものだと思う。


 ◆◇


 水川君を轢いて骨折させた人が、僕の伯父だと分かると、皆からのいじめは更にヒートアップした。上級生だけではなく、同級生、下級生までもが、僕のいじめに加わった。そこが恐らく、いじめの絶頂期だったに違いない。いじめの絶頂期って言うのも何だか変だけど。

 本当に、この頃のいじめが一番過激だった。


 僕の給食に、誰かがこっそり持ってきた下剤が入っていた。授業中、気持ち悪くなって吐いた。唯一の救いが、下の方ではなく、上の方だったということだった。それで、皆の笑い物にされた。悔しくて、もう皆、僕が名門校からの転校生だと言うことを、忘れてしまったみたいだ。

 同級生の中のいじめの主犯格が、春日巧。その側近が、渡辺彩未。春日は、渡辺のことを三年生の頃からずっと好きだという。だが、片想いも空しく渡辺の好きな人はコロコロ変わる。渡辺の好きな人が一度も春日になったことがない。

 

 そしてそこに、松原も加わっていたのだ。

 何を隠そう、給食下剤入れの犯人は、松原だったのだ。上級生に命令されて、下剤を入れたのだと言う。

 その時の松原は、冷酷だった。偶然割れた花瓶。割ったのは渡辺だったのに、松原は僕に罪をなすりつけた。そして、「ふざけんな、犯罪者! 先生に言う!」と花瓶の破片を投げつけてきた。右腕に出来た傷。痛かった。いじめってこんなに悔しくて情けないものなのか。

 更に、女子トイレに無理矢理入れたり、廊下の窓から外へ投げ出そうとしたり。「嫌だ嫌だ!」と俺が叫ぶと、大人しく諦めてくれたけど。


 だけど、松原は、他の人より早くいじめのことを謝ってくれた。


 そのきっかけとなったのが、栗沢麗羅さんとの出会いだった。


 栗沢さんは、僕を唯一助けようとしてくれた女子だ。

 優等生の神楽さんも、僕の存在など気付きもしなかった。「木戸君」と今は普通に呼び掛けてくれるけど、当時はいじめを見かけても「止めておいた方がいいですよ」と注意し、それ以上何も突っ込まない人だった。自分が標的にされるのが怖かったからとか、そんな感じだろう。


 だけど、栗沢さんは違った。

 五年生の初めの頃は、まだ神楽さんとも親しくはなかった。だけど、ヤンキー家庭らしいオーラは一年生から変わらないとの噂もある。そんな栗沢さんが、僕は正直、渡辺とか春日とかの雰囲気に似ていて苦手だった。

 栗沢さんは、ポニーテールの髪がよく揺れる。それに、六年三組の一、二を争う美少女。そんな栗沢さんが、僕を助けてくれたのは、ある種の偶然だった。



「木戸? どうしたの?」

 その日は、雨だった。

 渡辺が帰り道、僕のことを蹴飛ばした。痛い。そんな感情は、もうとっくに消え去っている。痛いなんて、日常茶飯事だ。蹴飛ばすのも、渡辺達にとっては当たり前。松原も、笑っていた。

「あっ、栗沢さん……」

 雨の中、傘をさしながら歩いている栗沢さん。その姿が、妙に綺麗に映った。


「って、どうしたの? 血出てるし」

「あっ、これは……」

 栗沢さんは、僕の姿を見て目を見開き、それから眉をひそめる。どうやら、僕は自分で思った以上に怪我をしているらしい。やけに膝の方が痛いと思ったら。

「大丈夫です……こんなの、日常茶飯事なんで」

「そんなのが日常茶飯事? 転んだの? もしかしてあんたって、結構ドジ?」

 ドジとは失礼な。自分で話しかけたくせに、自分で馬鹿にするだなんて、そんなことがあるか。……いや、あるか、そんなこと。もう日常茶飯事だしな。


「大丈夫なのね? 本当に?」

 栗沢さんが、しゃがみこんで僕の膝に手を当てる。そして何やらズボンのポケットから絆創膏を取り出した。

 

 その時、心底嬉しかったのを、僕は覚えている。

 ぺりっという音が鳴ったかと思うと、栗沢さんは僕の膝に絆創膏を貼った。

「これでもう……痛くないと思うよ」

 ニッコリと栗沢さんは笑う。えくぼがへこんで、可愛らしい印象を受ける。栗沢さんが美人だと言われる理由が、今少し分かった気がする。

「はい……ありがとうございます」

 返事をすると、「そっか」と栗沢さんは微笑んで立ち上がる。

「ならよかった。家に帰ったら安静にしておいた方が良いかもね」

「はい。そうします」

 指摘に頷くと、栗沢さんは「よし、ならよし」と歩き出した。


「じゃあね」

「……はい」

 ひらひらと振られる手。

 僕は微笑みながら、手を振り返したのを覚えている。



 僕はその瞬間、確かに恋に落ちていた。


 ◆◇


「ごめんね。木戸君。あんな酷いことして。謝って許してくれることじゃないけど、これからも普通に接してください。お願いします」

 

 目に涙をいっぱい溜めて深々と頭を下げた松原が、俺の脳内にフラッシュバックする。

 確か、蓮が、僕のいじめを止めてくれたのだ。そして、職員室に呼び出されて。

 そして、松原が謝ってくれた。春日や渡辺は「はいはい。すいませーん」みたいな感じだったけど、松原は半泣きで謝ってくれたのだ。


 でも僕は、それでも松原を許しはしなかった。下剤を給食に入れて、それで吐いて。皆の笑い物にされたのに。

 その張本人が深々と泣きながら頭を下げたって、許せるはずがない。逆に許せる方がおかしいだろう。僕なんかまともに自分の意見も言えなくなってしまったのに、松原は堂々と自分の意見を言って、おまけに可愛らしくきゃっきゃと騒ぎたてているのだ。こんなことは絶対おかしい。

 だから俺は、思いっきり言ってしまったんだ。



「誰がお前なんか許すか! 死ね!」



 その途端、松原は溢れる涙を拭うことなく泣きだした。同席していた渡辺は「最低、謝ってるのに許してもあげないの?」と逆ギレしていた。お前が逆ギレする権利はないだろうに。


「ごめんなさい……本当にごめんなさい、ごめんなさい……」


 後の言葉は、全然聞こえてこない。松原は号泣して、先生も戸惑い、同席していた春日も渡辺も、珍しく戸惑っていた。



 あれから、松原は嘘のように優しくなった。

 今のように、給食の順番をいつも最後に回しているのも、それからだ。

 優しい松原は、まるで今までとは全然違った。優しい松原を、蓮は好きになったのだと言う。

「ごめんなさい」

 その一言に、どれだけ松原の熱がこもっていたか、今はよく分かる。


 それでも、松原を好きになることはなかった。むしろ、栗沢に「もっとちゃんと自分の意見を言った方が良いよ」と言われて、それこそ恋に落ちた。雨の日、優しくしてくれて、そして、今度はアドバイスをしてくれた。

 この人にどうやって恩を返そう。そう思っていたのが、恋に変換されたのだ。


 ◆◇


「ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」


 あれ以来、「いいよ」と松原に言ったことがなかった。許したことはなかった。許すわけにもいかなかった。負けを認めたような気がする。それだけだ。


 でも次は、僕が謝る番だ。

 僕を庇って殺された松原。これは、一種の償いなのかもしれない。

 目の前に先生(サイコパス)がいると言うのに、僕は倒れこんだ松原の死体にもたれかかって、泣いていた。

「そんな……。あんなに、あんなに僕のことをいじめたくせに……」

 まさか僕が大勢の前で恥をかいたきっかけを作った女子が、僕を命に代えて守ってくれただなんて、誰が想像しただろうか。


 もしかして、償いなのかもしれない。


 そう思ったら、絶え間もなく涙があふれ出た。そこまで、そこまでしなくてもよかったのに。恥と命なんて、比べることが出来ないぐらい差があるというのに、なのに、何で……。何で償いなんかのために、彼女は僕を守ったんだ。

 いじめの後の松原は、本当に「別人か?」と思うほど優しくなった。僕にも優しかった。体調が悪くなると、「大丈夫?」と保健室まで運ぼうとしてくれたこともある。大概は蓮と一緒に二人で行くことになるけど、松原が心配してくれたことが、正直言って嬉しかった。


「なのに、なのに先に死んじゃうなんて……償いでも、いくら償いでも……何もここまでしなくても……」



「五月蠅いですねぇごちゃごちゃと。木戸康広、確か貴方は、この松原七恵に、いじめられたことがあるらしいですね。それなら、「ざまぁ見ろ」とか、言うはずだと思うのですが、言わないのですか?」


 ハッと我に帰る。そうだ。ここは学校、しかも殺人鬼がウロウロしている学校だった。

 先生に殺された松原。青白い顔をしている。


 涙がまたこぼれ落ちた。


 ごめんな、松原。

 今度は俺が、謝る番になっちゃったよ。


 本当に、ごめん……。



「木戸康広、良いのですか? 死んでしまったのだから、いくらでもなじることは出来ますよ? 殴ることだって、蹴ることだって出来るのに、しないのですか?」

「その隙に撃ちますよね? 先生は」

「あはは、良くご存じで。そのつもりですよ」

 ご存じとか、そういう問題じゃないだろう。先生はニッコリ笑いながら、引き金を引こうとしている。

「殺される間際に、せめて恥をかかせたきっかけを(なぶ)る権利を与えてやってもいいと? 何ですかそれ。馬鹿にしてるんですか?」

 不思議と、僕のものじゃないような声が出る。「ほぉ」と先生が目を輝かせた。

「いじめられっ子の覚醒ってやつですか? 良い子ぶったって、最後には死が待っているんですよ」

「何とでも言ってください。僕は、松原を嬲ったりいじる気はありません。そんなの、死人を罵倒しているのと同じじゃないですか。いくら理由があれど、そんなことをしていい物とは思えませんけど」

 僕が自信満々にそう言うと、先生はたまらないと言った様子で噴き出した。


「木戸康広、貴方はそんなにも、しっかりとした考えをお持ちでいらっしゃる。なるほど、藤咲小学校に入れた理由が良く分かります。面接の時点で、面接官は君の性格を感じとったんでしょうね。……でも、面接官を含め学校に、成績が悪い、と見放されてしまったと。何と皮肉なことなのでしょうか」

 先生はおかしいと言った様子で笑い続けている。僕は、先生を必死で睨みつける。

 先生はひとしきり笑った後、笑顔から真顔に戻して、言った。



「いいでしょう。最期を延長してあげましょう。いじめられっ子なのに、こうやって人の道を踏み外さず、復讐という惨たらしい心を持たない、純粋な君に、拍手を送りたいぐらいですよ」



 何故だか死ぬまでを延長された。性格を褒められたのだろうか。それなら嬉しいことこの上ないけど、サイコパスに褒められても嬉しくはない。それに僕は純粋でも何でもない。泣きながら必死に謝ってきた松原に、「死ね」と叫んで更に泣かせたような男だ。


 それなのに、純粋と褒められ、死ぬ期間を延長され……。

 遠まわしに松原をなじっているのかとさえ思う。


 僕は、少しだけ口角を吊り上げた。


「あぁ、そうだな……」


 僕の言葉に、先生は少し目を見開き、「ほぅ」と囁くように呟いた。

「先生に向かって、タメ口ですか」

「はい」

 僕は、先生に向かって微笑む。



「死ぬ期間を延長されたのだから、精一杯、生き延びようと思います」

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