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第94話 「貴族令嬢を救出せよ③」

 この世界の転移魔法は、独特だ。

 何もない空間から、いきなり術者が現れるという表現がピッタリである。


 まずジャンが、そして続いて俺が現れた時に、ステファニーは目を丸くして驚いていた。

 ステファニーが転移魔法を見るのは、以前にジャン単独で訪れて以来二度目だが、何度見ても吃驚するものらしい。

 

『ステファニー、俺だ、ケンだ』


 念話で改めて正体を告げた俺は微笑み、軽く手を挙げると即座に変身の魔法を解除した。

 ステファニーにとって、『見知った顔』が現れる。


 笑顔の俺を見て、安心したステファニーは、すぐに泣き笑いの表情になった。

 そして思いっきり、俺の胸の中へ飛び込んで来た。


「ううう……あああ」


 俺の胸の中で、ステファニーは声を殺して泣いた。

 

 嗚咽するステファニーを、俺も優しく抱いてやった。

 不安と寂しさで、小さな胸が塗り潰されていたのだろう。

 5分ほど泣くと、ステファニーは真っ赤に泣き腫らした目を俺へ向けた。


『声が外に漏れるとまずいから、念話で話そう』


 俺がそう伝えると、ステファニーは小さく頷く。

 早速、俺は尋ねて来た用件を切り出す。 


『今回のお前の結婚話を……噂で聞いたんだ』


『うん……その噂は本当……残念だけど……もうこの城に私の居場所はないわ』


 ステファニーのこの言葉だけで、彼女が望んで嫁に行くのではない事がはっきりした。

 だが、もう少し話を聞く必要がありそうだ。


『改めて聞きたい。王都に行って伯爵の息子と結婚するって本当なのか?』


『王都へは行く……でも私は結婚するんじゃない、正式な妻にはならないの』


 え?

 ステファニーは、正式な妻にならない?

 な、なんなんだ?


『おいおい、正式な妻に……ならないって?』


『ええ、ならないわ』


『ど、どういう事なんだ?』


『話はこう……相手は王都に住む上級貴族である伯爵家の子息……私は同じ貴族とはいえ、辺境ともいえる地を治める騎士爵家の娘。身分の差を盾に相手はその条件を出して来たの……それに、もう正妻は居る人なのよ』


『じゃ、じゃあ……第二夫人とか、か……』


『第二夫人でもない……お妾さん、……愛人なの』


 愛人!?

 一夫多妻制を認めている、この異世界で愛人!

 妻にさえ、して貰えない……

 確かに世の中にはあらゆる価値観があるから、愛人がNOとは言わないし、言えない。


 ステファニーは自分でも、『嫁ぎ先』の事を調べたようだ。

 詳しい事は分からなかったが、伯爵家の三男というのは碌でもない男だそうだ。


『私みたいな女の子を、どんどん妾に迎えて……飽きたら、僅かな金を渡して実家に送り返すのですって』


 おいおい!

 それじゃあステファニーはそんな下司男のおもちゃになった挙句、捨てられるって事じゃないか。

 

 伯爵の息子か、何か知らんが、そいつ……

 絶対に許せんな!


 俺だって、来年嫁は一杯貰うけど、全員を心の底から愛している。

 当然、愛人ではなく、正式な妻にする。

 

 結婚し、一緒に生活してみれば、いろいろな事が起こるかもしれない。

 将来不幸にも仲違いして、結果別れるというのなら、仕方がないけれど。

 最初から、女をおもちゃにして弄ぶような不埒者(ふらちもの)とは絶対に違うのだ。


 最初から愛が無いのは勿論、そんなろくでもない男だと分かっているから、当然ステファニーは辛いのだろう。

 表情を見ても間違いない。


 はっきりした。

 俺は……ステファニーを助けたい。

 どうしても助けたいんだ!


『ステファニー……』


『…………』


『こんな事聞かれて、嫌かもしれないが……悪いけど確認させてくれ』


『なあに……』


 ステファニーの顔は、あどけない。

 改めて見ると、まだ幼い面影がある。


『お前は王都へ行きたくない。だがお父さんの為に我慢して行く……そうなんだな?』


 俺の問い掛けに対して、暫しの沈黙……の後に、

 ステファニーは、僅かに頷いたのである。

 

 やっぱりそうか!

 貴族というしがらみで、ステファニーは王都へ行く道しかない……

 ならば、他の道は俺が切り開いてやるぞ。


『ステファニー、良いか? お前に別の選択肢を出そう』


『べ、別の選択肢?』


『ああ、ボヌール村へ来い』


『え? ボヌール村?』


『そうだ! オベール様に累が及ばないよう作戦は今考えた。お前は行方不明になるんだ』


『行方不明?』


『表向きはな。お前は貴族としての名前と身分を捨て、平民の別人となり、ほとぼりが冷めるまで村で暮らす』


『平民? 別人?』


『ああ、ステファニー。お前を俺の魔法で変身させる』


『私が、変身!?』


『但し、今迄の貴族令嬢の暮らしとは全く違うぞ。自分の事は自分でやり、農作業や雑務など辛い仕事をこなす生活だ』


『…………』


 ステファニーは驚き、黙り込んでしまった。

 当然、どうするか考えているのだろう。


『だが自由な生活さ。もしも好きな相手が出来たら結婚だって出来る。お前の望む相手と、な』


『え? け、結婚!? ね、ねぇ……ケンは? ケンはどうなの? 私の事どう思っているの? 嫌い?』


 結婚の話を振った途端、ステファニーは怖ろしく真剣な表情で身を乗り出して来た。

 俺に、掴みかからんばかりである。

 申しわけなそうな顔で俺は、彼女の言葉を繰り返す。


『俺が? お前の事を?』


『うん! 私の事!』


『……残念ながら、俺はもう何人も妻の居る身だ。居酒屋(ビストロ)で、ふたりの女の子を見ただろう? だから、お前を正妻には出来ないのさ』


『私を正妻には…………出来ない』


 自分が正妻にはなれないと聞き、ステファニーは大きなショックを受けたようだ。

 しかし、俺の話はまだ終わらない。


『……だが』


『だ、だが? ……だが、って何!?』


 まるで、藁をも掴もうとする、ステファニー……

 その、手の先には……


『お前が承知なら、彼女達と同じ妻として迎え入れる事は出来る。このヴァレンタイン王国は一夫多妻制だろう?』


『…………』


『今、はっきり分かった。ステファニー、俺はお前が好きだ、伯爵の馬鹿息子なんかに、渡したくないと思った気持ちが証拠さ』


『あ、ううううううっ!』


 ステファニーは、俺の『告白』がよほど嬉しかったようだ。

 俺に飛びついて来て、胸に頬ずりしている。

 

 だけど顔を離して、俺を見つめる目がすぐ切なそうになった。

 理由は、すぐ分かる。

 

 俺はステファニーを「ぎゅっ」と抱き締めながら、背中をそっと優しく(さす)ってやったのである。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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