第17話「テランスさんのモード変換」
「テランスさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
俺の部屋でお茶を飲みながら、「どのように王宮へ行くのか?」と尋ねられ、
「ええ、この部屋から転移魔法で、王宮へ行きます」
俺がしれっと言えば、
「えええええっっっ!!?? こ、こ、この部屋からあ!!??」
テランスさんは驚き、のけぞってしまった。
あわあわ言って収まらないので、俺は鎮静の魔法をかけた。
そして、補足説明もする。
「ええ、王都の王宮へぱっと行って、ぱっと帰って来ます。レイモン様は多忙ですから30分だけ時間を頂きました」
「で、でもこのボヌール村から王都まで、馬車で1か月以上かかりますけど」
「転移魔法なら、一瞬です。途中、オベール様ご夫妻を拾って行きますから、エモシオン経由で行きますよ」
「え? エモシオンって……」
「はい。レイモン様からの『念話連絡』は、エモシオンでも受けられますから。……テランスさん、転移魔法の際には、少し身体へ負荷がかかります。予行演習で早めに慣れる為、もう行っときますか」
「は、はあ……早めに慣れろとおっしゃるのなら……」
「では……」
俺は念話で、オベール様へ連絡。
……すぐに来てOKと言われたので、エモシオンへ移動し、
オベール様夫妻と一緒にレイモン様の連絡を待つ事にした。
勿論、テランスさんも一緒だ。
「さあ、では行きましょう。3回、深呼吸をして落ち着いて、力を抜いて……あと先方で大声を出さないでください。ヤバいと思ったら手で口を押えてくださいね」
「い、いよいよ……ですね!」
「ははは、最初だけです。ウチの子だと、タバサもレオもイーサンも転移魔法を経験済みです」
「そ、そうなんですか?」
「はい。では、カウントダウンしますよ」
「お、お願いします!」
「はは、そんなに緊張しないで……5,4,3,2,1,転移!」
俺の魔法は基本無詠唱に近く、神速で発動される。
という事で、転移魔法が発動され……
ぱっと目の前の光景が切り替わり、気が付けば俺とテランスさんは、
エモシオンの城館、オベール様執務室の隣室に居た。
「ひ、ひえっ!? ……あぐぐぐぐ……」
やはりテランスさんは驚愕し、大声を出しかけ、慌てて自ら手で口を押えた。
「大丈夫ですか? 再度、鎮静の魔法をかけますね」
「……………」
手で口を押えたまま、こくこく頷くテランスさんへ、俺はまた鎮静の魔法をかけた。
鎮静魔法の効果はすぐ、テランスさんには認識出来たようである。
手を外し、大きく息を吐き出した。
「………ぷっはあ……あ~、びっくりした。こ、ここは!? エ、エモシオンなんですか?」
「そうですよ。隣室にオベール様ご夫妻がいらっしゃいますから、行きましょう」
「え? ご領主様が? 男爵閣下ご夫妻が?」
「はい、行きますよ」
「ケ、ケン様! ち、ちょっと、ま、待ってください!」
とんとんとん!
テランスさんの声をスルーし、俺は隣室へつながる扉をノックした。
「ケンです。テランスさんと一緒に伺いました」
「おう、ケンか、入ってくれ」
かちゃり!
扉を開いた俺は、
臆していたトランスさんの手を引っ張り、隣室のオベール様の執務室へ入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とテランスさんが中へ入ると……
執務室は完全に人払いされており、
オベール様とイザベルさん以外、誰も居なかった。
「おう、ケン。今日は宜しく。テランスも宜しくな」
「ええ、ケンとテランスさんには期待しているわ」
「はい、宜しくお願い致します」
と俺はいつもの通り挨拶したが、テランスさんは緊張の極致。
昨夜、夢で会って話もして慣れたと思ったのに、リアルで会うとダメみたい。
「あああ、は、はいっ! よ、よ、宜しくお願い致しますっ! か、か、閣下、お、お、奥様っ!」
ははは、まだ鎮静の魔法が必要かな?
と、思ったら、オベール様達がフォローしてくれた。
「おいおい、テランスよ。私達夫婦とお前は昨夜、ケンの夢で会って、風呂について、いろいろ熱く語り合っただろう?」
「そうですよ。私達レベルでそんなに緊張していたら、王族のレイモン様にお会いした時、のけぞっちゃいますよ」
「いえ……俺、いや、私は既にのけぞって、ケン様に魔法をかけて頂きました」
「はははは、もうのけぞったか? 転移魔法はどうだった?」
「くらっと来たでしょう? 最初は? 私達もなのよ」
オベール様は、イザベルさんと結婚して、フィリップが生まれて、
いろいろあって……とても明るくなった。
そして、臣下の俺が言うのは手前味噌で何だけど、
優しくて思いやりにあふれる、堂々とした主君になった。
普通の貴族にはありえないくらい『座持ち』も素晴らしい。
イザベルさんと居る時は尚更である。
オベール様ご夫妻の優しい笑顔に引き込まれ、
テランスさんも微笑み、
「え? そうなんですか? おふたりも、くらっと、ですか?」
「ああ! でもすぐ慣れるぞ!」
「ええ! 数回やればね」
「ああ、ホッと致しましたあ!」
という事で、テランスさんもようやくリラックスの平常モードに。
レイモン様に会ったら、またぶり返すかもしれないけど……笑顔で話が出来るようになった。
話が盛り上がったところで、ボヌール村の現況も伝えておく。
村営会議で決定した事も、問題なく了承して貰った。
ゴーレムを召喚し、整地すると言ったら、大層驚かれたが、
「謎の魔法使いスフェールの仕業にする」と伝えたら、
3人とも仲良く大笑いしていた。
そうこうしているうちに……
レイモン様から『呼び出し』があり、俺達は4人で、王宮へ向かったのであった。
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