第48話「お店を手伝おう②」
農作業着の品出しから出た話だが……
タバサの丁寧な説明でも、結局ミミズと毛虫は一体どういうものか、ジョアンナにはしっかりと伝わらなかった。
まあ、「畑で作業する際は充分に注意する」という念押し話へ落ち着いた。
話を戻せば、俺とタバサは、ジョアンナとマチルドさんを連れて、ボヌール村唯一の商店、大空屋で手伝い中……
嫁ズのひとりソフィから、品出しを頼まれた。
先に述べた農作業着を各3着。
ほうきを3つ。
そして、野菜数種を若干。
倉庫の次には、氷室へ行き……
仕組みと注意をする。
そして野菜をピックアップ。
こうして倉庫と氷室から全て回収した俺達は、ミシェルとソフィの下へ戻った。
俺とタバサは、この先どのように作業するかは知っている。
在庫が少なくなった商品を売り場へ補充する。
それが『品出し』……だからだ。
しかしジョアンナとマチルドさんは、品出し自体を知らず、倉庫と氷室から回収して来た『商品』がどこに置かれているのか、どうするのかも知らない。
ミシェルは宿屋の方へ行って、今は居ない。
ソフィが次の指示を出そうとした時、お客さんが来た。
先ほど、学校で給食を一緒に食べた父兄のひとりで、健康的に日焼けした40代のたくましいおじさんである。
俺はすかさず挨拶。
「こんちわっす」
「「「こんにちは!」」」
タバサが続き、ジョアンナとマチルドさんも挨拶した。
おじさんは笑顔でにっこり。
「おお、ケン様、皆さん、先ほどはどうも。ソフィさん、農作業着を買わせて貰う、これね」
「いらっしゃいませ! 毎度、ありがとうございます! その作業は、1,500アウルムです。サイズは大丈夫ですか?」
ここで補足。
ヴァレンタイン王国の通貨単位はアウルム。
1アウルムは前世日本の1円くらい。
10進法を採用していて、銅貨1枚が10円。大銅貨1枚は100円、銀貨1枚は1,000円、金貨1枚が1万円くらいだ。
という事で、作業着は1,500円。
材料と仕様を考えると、結構安いと思う。
「ああ、サイズはちゃんと確かめたよ。1,500アウルムかあ。じゃあ、銀貨2枚で!」
「はい、銀貨2枚お受け取り致しました。では、お釣り500アウルム、大銅貨5枚お渡しします」
ジョアンナとマチルドさんは、ソフィがお客のおじさんとやりとりする様子をじっと見つめていた。
おじさんは、
「どうも、お世話様!」
と笑顔で言い、購入した作業着を抱え、店を出て行った。
ソフィは、去って行くおじさんの背へ、「ありがとうございました」とひと声。
そして、ジョアンナとマチルドさんへ向き直って、にっこり。
「ふたりとも見ていたかしら? これが接客。商品を買いに来たお客さんの対応をするの。こうやって会計を行ったり、商品を探す手伝い、商品の説明もするの。置いていない商品は取り寄せ可能なものは対応したり、不可なものはお断りするのよ」
マチルドさんはブルゲ伯爵家の使用人として、買い物に行っていたから、当然分かる。
買い手と売り手が単に逆転するだけだから。
ソフィの説明を聞き、大きく何度も頷いていた。
だが自分では、ほとんど買い物をした事がないらしいジョアンナには、チンプンカンプン。
すがるような視線を俺に向けて来る。
「ケン様……」
不安そうなジョアンナへ、俺は笑顔を向ける。
「ジョアンナ、心配するな。最初は誰だってどうすれば良いのか分からないよ」
「そ、そうですか?」
「ああ、何でも最初から完璧に出来る人なんか居ない。大丈夫、少しずつ覚えて行くから。まずはソフィから頼まれた商品を、さっさと品出し、してしまおう」
「え? 品出し? もう終わったんじゃないのですか?」
「いやいやまだ終わっていない。俺達が、さっき倉庫から持って来ただろう、作業着をさ。ああやって買われて行くと、お店の商品だなに置いておいた分がなくなる。なければ来たお客さんが買えない。だからそれを補充、つまりなくなった分を補うんだ」
「た、確かに! さっき私達が持って来た作業着、買われてなくなったものを足せば良いのですね。あ、野菜もそうですよね!」
合点がいき、手をポンと叩いたジョアンナ。
その手をタバサがパッとつかむ。
「ぐいっ」と引っ張る。
「うふふ、その通りよ、ジョアンナ。持って来た作業着と野菜を棚へ置きに行こう!」
ああ、タバサ、お前、我が娘ながら本当に面倒見が良い子だ。
「はい! タバサお姉様!」
「あ、私も持ちますよ、お嬢様」
笑顔のマチルドさんも加わって、3人は各自1着ずつ持ち、作業着を置いてある棚へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
作業着、ほうき、野菜を各売り場の棚に置き、品出し完了。
そんな品出しを数回行う。
ジョアンナとマチルドさんは、品出しの作業の流れを完璧に覚えたようだ。
後は商品自体を価格とともに憶え、どこに陳列されているか把握すればOK。
さてさて!
以前より人口は増えたが、ボヌール村は相変わらず、のんびりモード。
大空屋にもひんぱんにお客は来ない。
俺が生きていた前世日本、またこの国の王都の店のように品出しの回数は全然少ない。
だから初心者のジョアンナとマチルドさんも、落ち着いて仕事をこなせた。
やがて、ミシェルが宿屋から戻って来た。
今日はグレースはお休み。
アマンダに、ロヴィーサが加わり、ふたりで仕事をしているようだ。
「ソフィ。ジョアンナとマチルドさん、ふたりの仕事ぶりは、どうかな?」
「ええ、ばっちりよ ミシェル姉! 商品を憶えて貰えば、もう品出しは完璧だと思う!」
「OK! じゃあ、いきなり接客は難しいけど、ごあいさつの練習だけして貰おうか。お客様が来たら、いらっしゃいませ! お帰りになる時はありがとうございましたって」
「良いわね、了解! じゃあ、ふたりともちょっと、発声練習! ちょうどお客様が居ないから……さあ、はい! いらっしゃいませ! ありがとうございました!」
ソフィが促し、
「いらっしゃいませ! ありがとうございました!」
「いらっしゃいませ! ありがとうございました!」
ジョアンナとマチルドさんは、大きな声で数回繰り返した。
うん!
ふたりとも笑顔。
楽しんでいるようで、何よりだ。
ミシェルも合格点を出す。
「よっし! OK! ふたりとも今日は品出ししながら、お客様がいらしたら、いらっしゃいませ! お帰りになる時は、ありがとうございましたって、お声がけしてみて!」
対して、ジョアンナとマチルドさんも、大きく頷く。
「はい!」
「分かりました!」
この後、決められた時間まで……
ジョアンナとマチルドさんは、品出しと声掛けを無事やり遂げたのである。
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