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第35話「夢と希望を」

 空には、雲が全く無い。

 今にも、吸い込まれそうな紺碧の大空。

 吹く大気は清々しく、身も心も軽くなる……


 ところどころに、大小の森が点在していた。

 目の前の森を見れば……木々には、色鮮やかな果実が実っていて、この土地がとても豊かである事を示している。


 ここは俺が創り出した夢の世界だ。

 そして、俺とジョアンナが今居るのは、見渡す限りの緑濃い大草原である。


「ケン様! これ、夢なのですか? 本物としか思えない……」


「ははは、ジョアンナ。とてもリアルだけれど、残念ながら現実ではない。夢なんだ」


「夢……ですか」


「ああ、ここは本当のエデンではない。エデンがこのような場所ならば素敵だという俺の持つイメージの場所なんだ」


「ええっと、難しいですけど、分かります。ケン様の考えるエデン……なのですね」


 やはりジョアンナは聡明だ。

 とても8歳の女の子とは思えない。

 

 俺は彼女が愛おしくなり、話を続ける。 


「ああ、そうだ。でも、これからジョアンナが行くボヌール村はこの場所に近いんだ」


「これが、ボヌール村……なのですか? す、素敵ですっ!」


「ああ、けして負けていないと思う。だがこの場所とボヌール村には大きな違いがある」


「え? 大きな違い?」


「言っただろう? ボヌール村を一歩出ると、魔物や獣が出ると……人間を捕まえて食べる恐ろしい敵なんだ」


「人間を食べる……こ、怖い!」


「念の為、王都もそうだ。王都には高い壁があるだろう?」


「は、はい! あります! 王都を囲む高い壁が」


「うん、そこから一歩でも出れば、やはり魔物や獣が居る。油断したら食べられてしまう。だから気を付けて自分の身や大切な人を守らないといけないんだ。……分かるな?」


「は、はい!」


「だが、ここは俺の創った夢の世界、恐ろしい怪物や獣は出ない。怖い思いをするかもしれないが、いずれゴブリンとかオークなどの魔物や、狼、熊も見せる。まあ俺が一緒だから大丈夫だ」


「は、はい! お、お願い致します」


「よし、今後の事もあるから、少し練習するか。今夜は特別サービスだ」


「練習? 今夜は特別サービス?」


「ああ、空を飛ぼう」

 

 俺のいきなりの提案に、ジョアンナは仰天している。


「え? 空? え、ええええっ!?」


「ははは、俺、空を飛べる魔法、現実の世界でも飛翔魔法も使えるから」


「ひ、ひしょう? まほう?」


「おいで、ジョアンナ」


「は、はい、ケン様!」


 俺は戸惑うジョアンナをそっと、そしてしっかり抱いた。


「ジョアンナ、しっかり俺につかまっているんだ」


「わ、分かりました!」


「よし、行くぞ。3、2、1、飛翔!」


 ジョアンナが怯え、怖がらないようカウントダウンした上で、魔法発動。


 俺とジョアンナの身体は勢いよく上空に持ち上げられていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺とジョアンナはゆっくりと飛翔する。

 吹き抜ける風が心地良い。


 周囲は、真っ蒼な大空。

 眼下には、緑の大草原が広がる。

 所々、濃い緑の大小の森が点在。

 湖、池、上空から見れば太い線のように、流れている川も見える。


「わお! わお! わ~お!」


「ははは、ジョアンナは高い所は大丈夫か?」


「はい! 全然大丈夫ですっ! すっごく楽しいですっ!」


 これならば、リアルで本当に空を飛んでも問題ない。

 ちょうど良い練習になった。


 俺とジョアンナは、しばらく飛翔すると……ゆっくり地上へ降りた。


 地上に降りると、ジョアンナはますます甘えん坊に。

 ぴったりと俺に寄り添い、つないだ手を例のお約束で「ぎゅぎゅぎゅ!」と握って来る。


「うふふふ、ケン様、ケン様あ!」


「よし! じゃあレイモン様がいらっしゃるまで、少しこの辺りを散歩しよう」


「わあ! 嬉しいっ! ケン様とデートですっ!」


 俺とジョアンナは、ふたりでゆっくりと歩く。

 握った手から、彼女の魔力が伝わって来る。

 初めて手をつないでから気付いていたが、相当高い。

 

 結構な魔法使いの素養があるようだ。


「ジョアンナ」


「はい!」


「マチルドさんとも話したけど、ボヌール村でジョアンナは学校に行くんだ」


「学校?」


「ああ、学校だ。ボヌール村の学校には俺の子や村の子供達がたくさん通っている。授業は勿論、お昼を皆で食べるし、友達がたくさん出来るぞ。俺や嫁も先生として子供達に教えているから」


「ええっと、学校って良く分かりませんけど、ケン様もいらっしゃるなら」


「ああ、俺も先生をしているから、行くよ。学校で、ジョアンナは大人になるまでの勉強をするんだ。大人になったら何になりたい?」


 俺はさりげなく、しれっと尋ねてみた。

 ジョアンナには、「わくわく」する明るい未来を持たせてやりたい。

 心の底からそう思う。


 すると、ジョアンナは即答。


「当然ケン様の妻ですっ! アマンダ様やベアーテ様みたいに! 素敵な奥様になりたい! そして元気で可愛い子を産みますっ!」


 俺の嫁?

 元気で可愛い子を産む?

 言うと思ったよ、それ。

 

 苦笑した俺は、話を続ける。

 嫁にする事を否定をすれば、ジョアンナのモチベーションが下がる。

 だから、とりあえず肯定するのだ。


「いやいや、それはそうだろうけど、いろいろな仕事をする為の勉強も出来る」


「そ、そうなんですか?」


 ジョアンナは不義の愛を交わす母とふたりきり、ひっそりと暮らして来たのだろう。

 今まで、学校には、通った事などない。

 

 やっぱり、実際に通学してみないと分からないか。


「それにジョアンナは魔力もある。特別な修行は必要だけど、魔法使いになれるかもしれないぞ」


「え? 魔法使い?」


「ああ、魔法使いだ」


 俺が言い切ると、ジョアンナはじっと俺を見つめて来る。


「……ジョアンナは、魔法を使えるようになりますか?」


「ああ、でも頑張る必要があるぞ」


「はい、頑張ります! 素敵! もしも魔法が使えるなら私、ケン様みたいな魔法使いになりたい!」


「俺みたいに?」


「はい! ジョアンナみたいに困っている人を助けて、夢と希望をくれる。優しくて、頼もしい魔法使いになりたいの!」


 ああ!

 ……母に死なれ、父親に見捨てられたジョアンナが……将来への夢と希望を持ってくれた。

 

 俺はひどく嬉しくなり、自分からジョアンナの手を「きゅ」と握ったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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