第23話「朗報」
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「機を見るに敏」ということわざがある。
好都合な状況や時期をすばやくつかんで的確に行動するという事だ。
まあ、俺はそこまで「打てば響く」人間ではない。
真逆とまではいかないが、不器用な人間である。
だが……
ティターニア様の美しさに「ぽ~っ」となり、イザベルさんに突っ込まれ、
微妙な立場となったオベール様。
フォローするタイミングが「今だ!」という事。
奥方イザベルさんとティターニア様が意気投合した「この今こそがジャストだ!」という事くらいは分かる。
「オベール様、イザベル様、お話があります」
「お、おお、何だケン」
「ケン、何?」
俺は軽く息を吐いて、にっこり。
一気に告げる。
「いきなりですが、おめでとうございます! 先日、レイモン様からご連絡を頂きました。オベール様が陞爵され、男爵となられます!」
「……………」
「……………」
さすがにオベール様、イザベルさんはすぐに言葉が出ないくらいの衝撃。
本当か? と突っ込まれる前に、フォローした方が良さそうだ。
「おふたりへ、レイモン様のお言葉をそのまま申し上げます。……ケンが世界、そして我がヴァレンタイン王国に尽くして功績により、というのも多少はある。だが……長年エモシオンを無事に治め、納める税金も著しく増しているオベールの功績を私レイモンが大きく評価したんだ。よって彼を陞爵させ、男爵にする……と仰られました」
恥ずかしかったので、冒頭の俺云々はどうしようか迷った。
本当は言いたくなかったが、ボヌール村が覚えめでたくなるのならと、レイモン様が告げた言葉を全て述べた。
「おおおおおおおおおお!!」
「あ、あ、あ、貴方!! よ、よ、良かったわねっ! お、おめでとう!!」
「改めておめでとうございます! オベール様! イザベル様! 辞令は明日お会いした時、俺へ渡すとレイモン様は仰っていましたから、とりあえずお預かりし、明後日木曜日の朝にでも俺がお届けにあがります。午前8時とか、早い時間となりますが、ご了承ください」
「お、おう! わ、分かった! ありがとう、ケン!」
「本当に、本当にありがとう、ケン!!」
「それと近いうちに寄り親がレイモン様へ変わるそうです。こちらも、もう少ししたらご連絡があると思います」
「おお、殿下が私の寄り親! それも素晴らしい!」
「あ、貴方!」
俺の口上は終わった。
と、なれば、まずは村長のリゼット、そしてオベール様に近しい身内からお祝いの言葉を伝えるべきだろう。
「オベール様、イザベル様! 陞爵おめでとうございます! 引き続き、ボヌール村を宜しくお願い致します!」
「おお、リゼット! ありがとう!」
「リゼット、ありがとう!」
「お父さん、お母さん、おめでとう! 頑張って来た甲斐がありましたね!」
「おお、ミシェル! あ、ありがとう!」
「ミシェル、ありがとう!」
「お父様、お母様! おめでとうございます! 私も本当に嬉しいです!」
「おお、ステファニー! うんうん! 私は嬉しいぞ!」
「ステファニー、ありがとう!」
サキとロヴィーサ、そしてティターニア様以下妖精もお祝いを伝えた。
ここはしばしの間、『肉親だけ』にした方が良いだろう。
俺が考えた段取りとの兼ね合いもある。
手を挙げた俺はオベール様達が了解するのを待ち、言葉を発する。
「オベール様、イザベル様。打合せは改めて午後に致しましょう……ミシェルとソフィを残し、俺を含めそれ以外の者は隣の控室へ移動します。それと、この部屋へフィリップも呼んでください。身内全員で祝いたいでしょう?」
俺の気遣いを、オベール様もイザベルさんも気付いたらしい。
「おお、分かった、ケン! 恩に着る! 今回の陞爵はお前の力がとても大きい! 感謝するぞ!」
「ええ、ケンがいままでオベール家を支えてくれたおかげだわ。うふふ、それに相変わらず気配り上手ね」
「隣室で、リゼットの両親ブランシュ夫妻を呼んで、打合せをします。その後、ティファナ様達と店舗の下見を兼ねた街の見物へ行きます。戻ってから、午後遅めの打合せという事で……宜しいですか?」
「ああ、了解だ。これはエモシオンの地図だ。お前達の店、エモシオン&ボヌールの候補を探した時と同じような前提で、店舗候補を確保してある。印が付いた場所がそうだ」
「ええ、それとこれが鍵。とりあえず3つ店舗候補を用意したわ。家賃等の条件面はこれ」
ティターニア様が店を出したいという希望は事前に伝えてある。
最近エモシオンには商人の開店問い合わせが多いから、すぐに段取りを組んでくれた。
俺は印を付けたエモシオンの地図、そして店舗候補の概要を記した紙と、3つの鍵を受け取った。
俺が「ちらっ」とティターニア様を見やれば、嬉しそうに「にっこり」笑い、頷いていた。
「では、失礼致します。ミシェル、ソフィ、後で。フィリップに宜しくな」
とりあえずという感じで、お辞儀をした俺は辞去を告げ……
同じく礼をしたリゼット達と共に、隣の部屋へ、引き下がったのである。
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