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第7話「清き泉のほとりで……②」

⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

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『ちょ~っと待った、兄貴』


 アウグスト達へ滅私奉公を望むイルマリ様を、俺がそう言って止めた。

 不満そうなイルマリ様、仰天しているアウグストとノーラ。


 微妙な沈黙が支配する中、俺は口を開いた。


『兄貴、人生をどう生き、どう全うするのかは、個々の自由ですよ』


『な、何! 個々の自由だと!』


『まあ、兄貴の立場からして、これまでの経緯を考えれば、そう考え思うのは充分に理解出来ます』


『むうう……』


『国の為、働く使命感と、もたらす結果が、兄貴にとっては最も優先される……そうでしょう?』


『うむむ、そうだ! その通りだ!』


『でも……その先には大きな夢があるのでしょう?』


『大きな夢?』


『イエーラが繁栄し、世界でナンバーワンの国となる。平和で豊かな国へ……暮らす国民に笑顔は絶えない……そうしたいのでしょう?』


『うむ! ズバリその通りだ!』


『ならば! アウグストとノーラのふたりも思いは同じですよ』


『思いは……同じ?』


『はい、先ほどそう言ったでしょう?』


『むう!』


『3人の思い描く未来はほぼ同じ。結果が同じなら、方法や経過は違っても、構わないじゃないのですか?』


『ううう……』


『個々の得手不得手は全然違う。そして最大限、能力を発揮する為にはモチベーションアップが第一。不法不当でなければ、イルマリ様が否定してはいけません』


 ……普通なら、ここで話は終わる。

 しかし、よほど不満だったのか、イルマリ様が反論して来た。

 それも俺を引き合いに出して。


『では、弟に聞く!』


『はい、何なりと!』


『ケン、お前はおのれの人生を投げうち、私を含め、数多あまたの者の為に尽くしているではないか?』


 そう、来たか……

 でも、その質問は『想定内』だ。


『ええ、はたから見ればそうかもしれません』


『何? 傍から見ればだと?』


『はい! でも俺自身が望んでやっている事ですから』


『ケン自身が望んでいるだと?』


『はい、皆の笑顔が俺の心の支えとなり、前を向き生きる力になりますから』


『皆の笑顔が……前を向き生きる力……』


『本音を言えば、俺だってもっと家族と一緒に居たい。すぐそばで子供を助け、成長を見守りたいのですよ』


『…………』


『でも俺は、ここまでいろいろな人に助けられて来ました。その支えがあって、今の俺があります』


『…………』


『イルマリ様、この世界に生きる者は、ひとりでは生きていけません。支え支え合い、愛し愛されながら……課せられた義務を果たし、権利を享受しながら、懸命に生きて行くのです』


『…………』


『創世神様が定めたそのことわりの中で、生きて行く……その上で、楽しく充実している時間が過ごせるのなら、それが一番だと、俺は思うんです』


『…………』


『……というわけで、我が兄と姉を広い心で、見守ってください。ふたりは命を懸けて、自分の夢を貫き、故国の為にも働くのですから』


 俺が切々と訴えたら……

 言葉の端々を、頷きながら無言で聞いていたイルマリ様が、

 遂に肯定の言葉を発した。


『…………分かった』


『良かった! ご理解頂けましたか?』


『うむ……ケン、お前はこう言いたいのだろう。個々の才能、そして生き甲斐は違う。ただ先に望む景色が同じなら、些細な事にこだわらず、共に人生を楽しもうと』


『はい、その通りです。まあ、デリケートな感情が介在しますから、言うは易く行うは難しですが』


『うむ……私はまた狭量となっていたようだ。いや、アウグストとノーラが羨ましかったのだろう』


『……分かりますよ』


『ははは、実は私もアウグスト達と同じだ! 南の国という響きに憧れる!』


『イルマリ様……』


『私は生まれて以来、イエーラからは一歩も出た事がない、そしてこれからも、出る事がないであろう。それゆえ尚更、広い世界へ憧れる』


『…………』


『憧れるのだが……私はイエーラが大好きで、故国で日々を過ごすのが最高に楽しい! なので話を聞くだけで構わないレベルだ』


『あ、それ、実は俺もそうです』


『ははははは! そうか!!』


『はい! 故郷が一番好きですから、本音は、村にひきこもりたいのです』


『同意だ! だからケン! 弟のお前とは気が合うのだな!』


『そう思います』


 機嫌が悪くなりかけたイルマリ様が、俺と話すうちに変貌して行くのを……

 アウグストとノーラは唖然あぜんとして見つめていた。


 そして……

 完全に上機嫌となったイルマリ様が……


『アウグスト、ノーラ』


『『はい! イルマリ様!』』


『お前達が南の国へ行ったら、またケンの力を借り、こうして会おう!』


『『はい!』』


『その時はぜひ、南の国の話を、じっくりと私に聞かせてくれ!』


『『はいっ!』』


『但し!』


『『はい?』』


『けして無理はするな! 命あっての物種だ!』


『『はいっ!!』』


 3人のやりとりは、まるでコントのかけあいのような会話になってしまった。


 だが……

 懐かしい故国の清き泉のほとりにて、 晴れやかな笑顔で話す3人は、

 大きな大きな幸せに、満ちあふれていたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


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