第4話「研修開始!」
という事でその夜。
早速、新人女神様達への研修が開始されると相成った。
今回の件はどうしようか、カミングアウトすべきか、いろいろと迷ったが……
元女神のクッカも含め、とりあえず嫁ズには黙っていると決めた。
今迄とは立場が「ガラリ」と変わったからである。
嘱託扱いでボヌール村在住のままとはいえ、
何と! 俺は中級レベルの神様に確定してしまったのだから。
女神だった頃のクッカではないが、「ぺらぺら」内情を喋るのは良くないと思う。
今回の研修だって、天界の秘密事項に含まれるのではないかと。
「つらつら」考えていると、昼間行った農作業の疲れもあって、
すぐ眠り込んでしまった。
瞬間!
前世で見ていたテレビの画面が「ぱっ」と切り替わるように、周囲の景色が変わった。
そう、眠ったと同時に、俺はもう異次元に居たのだ。
慌てて見やれば、新人女神のふたりは既に来ていた。
早速、指導教官の俺へ挨拶して来る。
『ケン様ぁ、今日はよっろしくう!』とヒルデガルド。
『お手柔らかにお願い致します』とスオメタル。
対照的な挨拶だが、ふたりともモチベーションは維持していそうで、ホッとした。
「元人間で、神様になりたての奴なんかに従えるか~い」と言われたら辛いから。
まあ本音はそうかもしれないけど、この際構わない。
と、ここで管理神様の声が異界へ響き渡る。
研修の開始を告げるお言葉だろう。
ありがたく頂戴しよう。
『さあ、いよいよ研修開始だ。まず君達3人が行くのは人間世界、フォローするのは、ケン君が以前居た世界、日本から来たばっかりの転生者だ。男か女かは会ってからのお楽しみ』
おお、サキと全く同じパターンなのか。
管理神様は、俺がやりやすいように気を遣ってくれたに違いない。
続いて、
『転生者にはケン君とほぼ同じ異世界レクチャーをして、能力もアップしてある。だからすぐ死ぬ事はない、安心してくれ。ちなみに君達の姿はその転生者にしか見えないよ』
と念の為レベルのフォロー。
まあこれもサキの時と同じである。
『まあ大丈夫でっしょ』とヒルデガルド。
『はい、経験豊富なケン様がいらっしゃいますから』とスオメタル。
コメントを聞く度に新人ちゃんふたりの性格も見えて来る。
多分、ファーストインプレッションとそう違ってはいないはずだ。
『じゃあ、ケン君、頼む。もしも今居るこの異界へ帰還したい時は、ままの言霊で帰還と詠唱してくれればOKだから』
それって……
召喚魔法で呼んだ従士や使い魔を彼等が元居た異界へ帰す魔法と一緒だ。
……成る程、そういう論理ね。
と思った、その時。
異界が暗転、俺と新人女神ちゃん達計3人は、違う異世界へ送られていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付いたら、雲ひとつない、澄み切った真っ青な大空を俺達3人は飛んでいた。
眼下には大草原が広がっていた。
所々に森が点在している。
近くに王都のような大きな街はない。
街道らしき一本の道が草原を貫くように通っている。
その街道を少しだけ南へ行くと、小さな村らしき集落があった。
更にその先にはこれまた小さな町があり、領主の住まいらしき、ちんまりした城館も見える。
そして研修の対象者となる『転生者』はと、改めて探すと……居た。
当該の転生者は15歳くらいの少年。
街道をひとり、南へとぼとぼと歩いている。
思わず懐かしくなり、つい苦笑した。
何故なら、転生したてでいきなり原野へ放り出された俺みたいだから。
俺は目を凝らして少年を見た。
神様になったせいなのか、ただでさえチートな視力が更に向上した気がする。
少年は簡素な革鎧を着ていた。
腰からは剣を提げており、冒険者の恰好までしているのも過去の俺と同じだ。
え?
どうして少年が転生者だと分かるのかって?
正直どうしてなのか、神様になりたての俺にも不明である。
少年が「僕は、異世界からの転生者で~す」というおバカなプラカードを首から提げているわけではない。
だけど、神様である俺達にはひと目見ただけでも、少年の正体が転生者だと分かるのだ。
付け加えれば、少年の存在を伝えて来る波動は、常人以上のレベルを示していた。
あの少年はやっぱり過去の俺だ!
転生した時の俺と同じ状況、ほぼ一緒の設定なんだ。
そう気付いた。
当初、管理神様から設定を聞いた時、俺は『サキのケース』と全く同じだと思い込んでいた。
つまり……
完全に勘違いをしていたのである。
新人女神様達の研修用のテストケース第一弾として用意されたのは、
『俺のケース』だった。
と、なればこの後の展開も容易に想像がつく。
「きゃああああ~、た、助けて~っ」
突如、少女らしき悲鳴が耳に入って来た。
見やれば西の方角にある森から、ひとりの少女が飛び出して来た。
彼女は必死に走っている。
少女の後からは、ゴブリンらしき魔物の群れが迫っていた。
このままでは少女は助からないだろう。
『どうしまっす、ケン様』
『当然! 助けましょう!』
ヒルデガルドは尋ねて来て、スオメタルは救助を主張する。
しかし俺達の任務は少女を助ける事ではない。
あの転生者の少年をサポートする事なのだ。
とても非情な決断だが、今や神様となった俺には分かった。
『いや、まずはあの少年に、少女を助けるかどうかを聞いてみよう』
『あの子にっすか』
『ケン様! そんな悠長な事言ってる場合じゃありません、少女が殺されてしまいます』
『ヒルデガルド、スオメタル、俺達の仕事はあの少年のサポートだ。常人より遥かにレベルアップされた彼の耳にも少女の悲鳴は聞こえているはずさ』
『成る程、でっすね』
『で、でも!』
『議論している暇こそない、すぐ少年のところへ行くぞ!』
それまで大空をゆっくり飛んでいた俺達3人は、一転、
猛スピードで転生者である少年の下へ向かったのである。
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