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第42話 「心の解放」

 結局……

 俺とベリザリオは夜通し飲んだ。


 思い切り号泣したベリザリオは、まるで憑き物が落ちたようだった。

 泣き止むと一転、晴れやかな表情で、良く喋り、良く笑った。

 

 そして……

 はっきりとした言葉で愛娘ティナと向き合う事を誓ってくれたのだ。


 やがて、ベリザリオはワインをしこたま飲んだせいもあり、眠り込んでしまった。

 そんなベリザリオを残し、

 俺は音を立てぬように、扉を閉め、宿屋を後にした。

 

 まだ深夜である。

 見上げれば……

 空には煌々(こうこう)数多あまたの星が輝いていた。


 静かに歩いて自宅へ戻り、

 眠っている家族を起こさぬよう、そ~っとベッドへ潜り込む。


 ……しかし農村の朝は早い。

 あっという間に翌朝である……

 だが俺は、ほんの1時間ほど寝ただけで、午前4時前に起き出していた。


 手早く着替えて家を出れば……まだ夜は完全に明けてはいない。

 珍しく薄曇りの東の空へ、太陽が少しだけ顔をのぞかせている。


 今日は朝一番で、気心の知れた仲間達と東の森へ狩りへ行く。

 家畜以外に、新鮮な肉を手に入れる為だ。

 

 俺は腰から提げた愛剣以外、背に弓を背負っており、

 空間魔法で作った収納スペースに釣り竿も入れている。

 余裕があれば、森の奥にある湖まで足を延ばし、

 新鮮な鱒もゲットする予定である。


 参加メンバーは、俺、アンリ、そしてアベル、アレクシ、アンセルムのデュプレ3兄弟の5名にケルベロスを加えた都合6名。


 ちなみに報告していなかったが……

 デュプレ3兄弟は全員、村祭りで知り合い、仲が深まったボヌール村女子と結婚していた。

 3兄弟は、いまだ忠実に仕える主ソフィことステファニーとは、

 また違う意味で、守るべき大切な人を得た。

 俺やアンリ同様、3人共、完全に村へ骨を埋める決意をしてくれたのである。


 閑話休題。


 俺が集合場所である村の中央広場へ行くと、もう俺以外は全員来ていた。

 遅刻したわけではないが、

 俺が一番最後に来た事を詫びると、意外にも!

 ベリザリオがそこに居た。


 さりげなく念話で聞けば、

 俺や他の皆が起き出す気配を察知し、広場へ来たと言う。

 

 前回ベリザリオが村へ来た時に、アンリ達はまだ村には居なかった。

 だが……

 ベリザリオは既にその場の皆と話を交わしており、

 結構打ち解けているようだ。


 俺は安堵し、改めて狩りの段取りを話した上で、出発の準備へ取りかかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今回の参加メンバーに関していえば、

 全てではないが、ある程度、カミングアウトしている。

 アンリ以下、俺が『ふるさと勇者』である事を知っている。


 道すがら、まずベリザリオには、

 アンリ達が俺の『事情』を知る者だと告げておく。

 加えて従士ケルベロスの正体も……

 

 そしてベリザリオに了解を得た上で、

 彼とティナの正体、今回の旅の経緯、

 俺の能力も告げた事をアンリ達へは伝えておいた。


 こうなると、更にお互いの心と心の距離が縮まる。

 気合を入れ直した一行は、第一の狩場である東の森前の草原に到着し、弓で兎を狩った。

 

 やがて鹿、猪も現れたので、

 各自の弓で動きを鈍らせ、足を止めた上、俺が天界拳で止めを刺した。


 人間離れした俺の動き、破壊力を見て、アンリ達は勿論、ベリザリオも驚いていた。

 勇者級たるこれらの力をやたら、人前にさらすわけにはいかない。

 だが今回の事も含め、俺の事情を知る者は確実に増えて来た。


 静かにのんびり暮らしたいという、俺の方針には反するが致し方ない。

 悪魔共の侵略から、家族と仲間を守る為、背に腹は代えられない。

 俺ひとりの力では、やはり限界があるからだ。


 今回の件で、改めて思い知った。

 確かに俺には凄い能力がある。

 それ故、己ひとりで戦い、大事なモノを守り抜く決意をしていた。

 しかし、それは誤りだったと。


 所詮誰もが、ひとりでは生きられない。

 多くの仲間に支えられ、人生を全うし、命が尽きれば死んでゆく。

 それは何者でも変わらない。

 この世界に生きとし生ける者達へ、創世神様が与えたことわりなのだ。


 何て!

 俺のキャラに似合わぬカッコいい話をしてしまったが……


 早い話が、気心の知れた仲間達が多いと心強い!

 たったひとりでは小さな力でも、協力し合い、思う存分力を発揮すれば、

 己の意思を貫く事が出来る。

 そう、実感したのである。


 さてさて!

 そうこうしているうち、

 全員頑張って、たくさんの肉を確保出来た。

 

 さあ、次は魚をゲットだ。

 いざ湖へ!

 美味い鱒を釣りに行こう!


 俺が提案したら、アンリ達は大喜び、賛成の声が相次いだ。

 しかし、ベリザリオだけはポカンとしている。

 魚を捕る事は理解出来るが、どうやら『釣り』自体を知らないらしい。


 こういう場合は論より証拠。

 百聞は一見に如かずである。


 魔物等に警戒しながら早速、湖へ移動。

 美しい湖の風景に感動しているベリザリオへ、釣りのイロハを教える。


 最初は戸惑っていたベリザリオであったが……

 餌を付けた仕掛けに、鱒がかかって引き味を楽しむと、完全にはまってしまう。


 いろいろなしがらみから一気に解放されたベリザリオは……

 まるで幼い子供のように無邪気な笑顔を俺達へ見せ……

 一心不乱に鱒を釣り上げていたのである。

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