第5話 「人喰いゴブリンの大群を倒せ!」
「はあっ! はあっ! はあっ!」
凶悪なゴブリンの大群に追われて来た少女は、完全に息を切らしており、俺の目の前で膝を突いてしまった。
もう……体力の限界なのだろう。
少女は、これ以上、走れそうもない。
だが、どこの誰だか知らない俺でも、『人間』が来た事で彼女は安堵したに違いない。
膝を突いたままで、まだ息が荒い少女を庇い、俺は前面に立つ。
追って来たゴブリン達の動きは、意外なほど素早かった。
改めて見ても、ゴブリンの群れは大群だ。
100匹は、軽~く超えていよう。
多分奴等は、狩りのやり方を知っている。
獲物の退路を断つという考えなのか、あっと言う間に囲まれたからだ。
俺は、四方を見た。
前にもゴブリン。
後ろにもゴブリン。
右にも左にもゴブリン。
完全に……囲まれた。
これでは、もう簡単には逃げられない。
数は2対100以上……普通に考えれば絶望的だ。
新手の俺が加わったのを、ゴブリン共は『餌』がひとつ増えたぐらいにしか思っていないだろう。
たかが、人間の餓鬼2匹。
さくっと殺して、ぺろっと喰ってやる。
俺のすっごく良くなった視力で見える。
奴等の血走って真っ赤な眼が……そう言っていた。
逃げて来た少女が、ようやく立ち上がる。
俺の背中にしがみついて、恐怖でガタガタ震えている。
単なるザコキャラだと思って舐めていたのが大間違い。
……はっきり言って、怖い。
助けに来た俺だって……この子と同じ様に怖い。
全身がぶるぶると震える。
襲われた少女を夢中で助けに来たけれども、実際に見たリアルなゴブリンは予想以上に凶暴なのだ。
乱ぐい歯をむき出して、凄い声で次々に吠え、俺達を喰おうとだらだらヨダレを垂らしている。
某映画に出て来る作り物の縫ぐるみを、万倍くらい凶悪にした面構えなのである。
俺は果たしてこいつらに勝てるのだろうか?
とても後悔したが、もう後戻りは出来ない。
ここですかさずクッカを呼ぶ。
相手のスペックを、一応知りたいと思ったからだ。
『はいっ! こちら、クッカです』
『クッカ頼む。こいつらの事を教えてくれ~! 特に弱点を!』
『了解です! ゴブリン。小型の人型魔物。体長50cmから最大1m前後。現在、半径100m以内に103匹存在。性格は残忍で陰険。雑食であり、群れて人間や家畜も襲います。普段は地下で暮らしていて身体耐久力は弱し。当然物理攻撃に弱くて、魔法耐性も一切無いです。魔法なら火属性の魔法が特に有効ですよ』
おおっ、すげぇ!
相変わらず、早口且つ試験勉強の参考書みたいな模範解答だ。
俺は、思わず声が出た。
「おっし! ナイスフォローだ」
『ゴブリンなんて……私は大大大嫌い!!!』
何だ、これ?
え? 何? 私はゴブリンが大大大嫌い?
これってクッカの個人的な嗜好って事?
まあ、良い!
とりあえずお礼を言おう。
好き嫌いの感想含めてナビ、ありがとうってね。
『サンキュー』
『いいえ、どういたしましてっ!』
『とりあえず、目の前のゴブリンを倒すのが先だ、どうしたら良い?』
『先程もお伝えしましたが奴らは火が弱点です。火の魔法が有効ですからケン様の炎で一気に燃やしちゃいましょう!』
『分かった! だけど俺どうやって火の魔法を使うの?』
『あの、ケン様はレベル99ですよ。無詠唱で魔法を使えます。イメージだけでOKです!』
きっぱり言い放つクッカ。
『そ、そうか!』
でもなぁ……具体的にはどうすれば良いんだ?
俺が口籠ってしまったその時。
がああああっ!
一斉にゴブリンが吠え立てた。
来る!
もう、猶予はない。
俺には何故か分かる。
奴らが発する、おぞましい気配で分かるのだ。
このヤローー!
負けてたまるか!
喰われてたまるかよ!
「おおおおおおおおおおおおおおお~~~~~!」
俺は、ゴブリン共に気合負けしないように大声で咆哮した。
大声で吠えたら何故か、落ち着いた。
勇気と力も、湧いて来る。
男として、いや一匹の雄として雌を絶対に守る!
そんな、強い気持ちになって来た。
よっし!
ラノベで読んだ、カッコ良い炎の魔法剣士をイメージしてやれ!
俺は怯える少女を片手に抱きながら、クッカの銅剣を抜き放つ。
その瞬間、ゴブリンが四方から突っ込んで来た。
ああ、分かる。
あっという間に、自分の体内で魔力が高まって行く。
「燃え盛る炎よ! 剣に纏えっ! 放射~っ!!!」
ごおおおおおおおっつ!!!
すげぇ!
イメージした通りに、炎が噴き出しやがったぁ!
剣から放射される熱が、俺の頬を打つ。
まさに火炎放射器、いやそれ以上だ。
こんな魔法を使うと、銅の剣は溶けるじゃないかと思ったが、どうやら大丈夫みたい。
「くおらぁっ! 大量の汚物なんか塵も残さず焼却だ~っ!!!」
俺の剣から放たれた紅蓮の炎が30m近くも伸び、巨大な竜の息のようにゴブリン達へ襲いかかる。
炎に包まれたゴブリンが、あっと言う間に炭化し、消失した。
よっしゃ!
どんどん、どんどんやっつけろ~!
ぎゃっぴー!!!
ぎゃあああ!!!
俺はまず前面のゴブリン達を一気に焼き払うと、少女をしっかり抱いたまま身体を回転させた。
思い掛けない反撃に躊躇したせいで、俺と少女と、ゴブリン達との距離はまだ充分あった。
俺は落ち着きを取り戻して、正面に続いて側面、背面の攻撃も存分に行う事が出来たのだ。
俺にしがみついた少女は目を大きく見開き、呆然としている。
周囲を見渡した俺は、ゴブリンがまだ唸り声をあげているのを見て、彼女を抱いた腕に力を込めた。
「おいっ! まだ戦いは終わっていない、しっかり掴まっていろっ」
「は、はいっ!」
ちらっと顔を見ると、肩までのさらさらな髪は綺麗な栗色。
鼻筋が通っていて、瞳が鳶色をした美しい少女である。
年齢は15か16歳くらいだろうか?
でも、やったね!
テンプレ通り、ヒロイン?との出会い決定!
これ、お約束って事だ。
俺は心の中でガッツポーズをして、剣から猛炎をどんどん放射させたのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。