第3話「迷う演目」
これからやる、紙芝居の演目選びだけど……
俺は散々迷った。
演目には、条件がいくつかある。
子供を含めた村民に、分かり易い勧善懲悪ものは外せないだろう。
うん!
悪は滅びて、最後に正義が勝つというのは、いつどこででも人気がある王道ものなのだ。
途中は「どきどきはらはら」して、結末はハッピーエンドという流れが望ましい。
え?
ハッピーエンドじゃなくても良いだろうって?
確かに、結末がバッドな物語でも名作は多い。
心に残る深い感動を与える場合もあるし、俺が好きな物語もある。
だが、今回の紙芝居企画には合わないと思う。
まず最初に思い浮かべたのが、日本のおとぎ話『桃太郎』である。
異論もあろうが、多分桃太郎は、日本で最もポピュラーなおとぎ話だろう。
桃から生まれた桃太郎が、おじいさんとおばあさんに育てられる。
やがて成長した桃太郎は、世を乱す怖ろしい鬼達を倒す為、ただひとり旅に出た。
旅の途中で、犬と猿と雉をお供にした桃太郎。
一行は、鬼達の本拠地である鬼ヶ島へ赴いて、鬼退治をする。
平和になった世の中で、桃太郎はおじいさん達と平和に暮らしました。
めでたし、めでたし……良かったねというような話。
お供といえば、ちょうど俺にも従士達が居る。
俺が召喚魔法で異界から呼び出した者達だ。
具体的にいえば、魔犬ケルベロス、妖精猫ジャン、妖馬ベイヤールである。
敵役だって文句なし。
この異世界は前世と違って、人間を喰らう怖ろしい魔物が実在するから。
特にオーガなんて、ばっちり西洋的な鬼だし。
俺は普段、従士達と一緒に、ふるさと勇者としてオーガを始めとした魔物を退治する。
魔物退治は、親近感もあって分かり易い。
だから、紙芝居にはぴったりかなと。
但し、気がかりがある。
この異世界は、騎士の倫理が幅をきかせている。
騎士の倫理とは、すなわち騎士道。
忠誠、勇気、武芸、慈愛、礼節、奉仕、公正などをモットーに紳士たれという教え。
詳しい説明は省くけど……
つまり戦う時には、正々堂々が必須という事。
桃太郎ファンの方には悪いが……
悪役とはいえ、鬼を退治する際、桃太郎は酒を使った。
鬼を酔わせ、その隙に討ち取ったと伝えられているのだ。
これを、もしそのまま上演したら……
「酒を飲ませ酩酊させてから、無力となった敵に、戦いを仕掛けるなど卑怯だ」 と、怒ったボヌール村の村民から反論されそうである。
余談だが、金太郎も鬼退治する時は酒を飲ませている。
※おとぎ話には、諸説あるようですので、違う場合はご了承を。
作戦だといえば、いえなくもないが……
逆に、騎士道的にいかがなものかと言われれば、反論出来ない。
なので、桃太郎を全くのオリジナルストーリーでやるとなると、村民にうけない部分があるかもしれない。
敢えて言うけど、俺は桃太郎が大好き。
ぜひやりたいので、上演する時には少しアレンジする事に。
なので、一旦保留する事にした。
次に思い浮かべたのは、一寸法師。
だがこちらは、俺の個人的な好みに合わない。
小さな一寸法師が鬼を倒すのは良い。
とても痛快である。
しかし一寸法師の妻となる、お姫様を娶る際の顛末が嫌なのである。
自分の体格的ハンデを乗り越えて、大好きな女性と結婚したい気持ちはとても理解出来るけど……
やっぱり、一寸法師がやった方法は、俺には合わないので却下。
気になった方や、ご興味のある方は、ぜひお読みくださいませ。
その次は……浦島太郎。
鯛や鮃が舞い踊る竜宮城なんて、いかにも異世界ファンタジーみたいで楽しい。
逆に結末は……お宝がおみやげの筈なのに開けてみたら……あ~あ、という悲しいもの。
やったね、楽しい世界へようこそと、持ち上げておいて……
最後は「すとん」と、現実へ落とすというジェットコースター的なおとぎ話だ。
しかし浦島太郎にも難がある。
話自体は、特に問題が無い。
条件にした勧善懲悪とか爽快感には少々かけるけれど。
亀、すなわち動物に優しくするという、慈愛の気持ちが感じられるから。
だが残念な事に……
このボヌール村って、海からは凄く離れている。
遠出をしない村民にとって、海とは全く馴染みがない場所なのだ。
というわけで、やむなく却下。
そんなわけで、西洋ものも考えた。
であれば、イソップ寓話もしくはグリム童話だろうか?
まあ、こちらの方が中世西洋風異世界にはぴったりかもと思ったりもした……
だがこれらの話って、原作は結構シビア。
バッドエンドぽく、残酷な幕切れも多々ある。
なので、こちらも内容ありきで保留とした。
いりいろ迷ったが、とりあえず何をやるか決めなくてはならない。
そして俺は結局、今迄考えた中で、ある民話を大幅アレンジする事に決めたのだ。
どこを、どうアレンジするかはこれから嫁ズへ披露する。
うん!
随分前置きが長くなってしまったが……
俺はいよいよ、紙芝居を実演する事となったのである。
いつもお読み頂きありがとうございます。




