第22話「夫婦仲良く」
翌朝……
今日は……本当に特別な日。
今度こそ、テレーズがボヌール村を去る日なのである。
しかし、お子様軍団の反応は先週とは全く違う。
『反乱』したり、大声で叫んだりなどしない。
これって理由がある。
俺が考え、嫁ズも快諾してくれた。
昨夜は、お子様軍団の記念すべき日となったのだ。
何を、したかというと……
オベロン様とサシで飲む前、宴が終わった直後の夜の時間。
我がお子様軍団が、『おねむ』になるまでを最大限、有効活用した。
俺と嫁ズ、そしてオベロン様と侍女ふたりも同席の下……
子供達は存分にテレーズと話し、むつみあったのだ。
長時間行われた宴の後なのに、はしゃいで疲れている筈なのに……
子供達は、頑張った。
眠い目をこすりながら、凄く頑張っていた……
大好きなお姉ちゃんとの『最後の夜』……だから。
そして、記念すべきと言うのは……
子供達にとっても、生まれて初めての、夜更かしした日だから……
夜更かしって……俺も微かに覚えているが、何かいっぱしの大人になれたというか。
そんな不思議な気分になったものだ……
テレーズと子供達は、堅い約束もした。
お互いの小指が、赤く染まるくらい何度も何度も。
そう!
当然、ゆびきりげんまんを。
「ゆびきりげんま~ん!」
「うそついたらぁ!」
「はりせんぼ~ん」
「の~ます!」
可愛い声が、夜もとっぷり更けたユウキ家に、何度も何度も響いた。
「また遊びに来る! 必ず来る!」
こうして……
大好きな『姉』との、再会の約束が為された。
たったひとりで、全員の子供達と約束をしたテレーズの指は真っ赤。
少し、痛かったかもしれない。
なので子供達を寝かしつけた後、オベロン様は愛する妻を心配して声を掛けた。
治癒魔法を掛けようかとも、申し入れた。
しかしテレーズは微笑み、首を横に振った。
痛がるどころか、却って嬉しそうに赤く染まった小指をずっとずっと見つめていたのだ。
そんな余韻を持って、俺とオベロン様は、男ふたりだけで飲んだ。
いろいろな事を話し合い、尚更、分かり合えたんだと思う……
今朝も……
昨日から起こっている『テレーズ効果』はまだ継続していた。
最近の子供達は、『ドラゴンママ』クーガーの言う事さえ聞かず、ちょっと『だれ気味』だった。
それが、全員いつもより早く起き、自分の事は出来る限り自分でやっている。
超が付く『良い子』にして、大好きな『お姉ちゃん』から、少しでも目を掛けて欲しいという気持ちが表れているのだ。
いつになく真剣な子供達の様子を見て、我が嫁ズは嬉しいながらも苦笑している。
そんな嫁ズの表情を見るのも、俺は楽しい。
テレーズもオベロン様も、俺達が笑顔なのを見て、微笑んでいる。
ああ、本音をいえば、この幸せが永遠に続いて欲しい。
心を許し合った新しい仲間が出来るって、とても嬉しいもの。
やがて朝食の支度が出来たので、皆で摂る。
まあ、これはいつもと一緒。
いつもと違うのは、子供達がテレーズに、やたらくっつきたがる事。
食事の最中も近付いて、べったりとしなだれかかる。
本当は食事中に席を立つなど、許していない。
だが、「今日だけは特別だよ」と伝えてある。
子供達は普段、自分が好きなものは、さっさと食べてしまう。
だけど今日は自分達の大好物を全然食べず、テレーズへ「これ食べてぇ」と、何度も勧める。
俺と嫁ズ、そしてオベロン様は、そのいじらしい様子を見て、またも優しく微笑んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
楽しく朝食を摂った後……
薄暗い闇を押しのけ、東の地平線から太陽が昇って来た。
天気は今日も快晴。
見れば、雲ひとつない大空が広がっている。
別れの朝には……ぴったりな気持ちの良い朝だ。
決して忘れない、一生の思い出に残る日だと言えるだろう。
オベロン様達は素早く身支度をしてから、乗って来た2台の馬車を引き出した。
教えて貰ったが、妖精の馬車を曳くのはケルピー。
普通の馬に良く似た水棲の妖精だ。
擬態しているのだろうが、皆、逞しい駿馬であった。
そんなこんなで……
オベロン様、テレーズ以下妖精軍団が出発すると聞いて、またも村民がいっぱい集まって来た。
全員、寂しそうな表情を浮かべ、別れを惜しんでいる。
最近移住者があり、多少人口は増えたけど……
ボヌール村はまだまだ小さい村、だから集まったのはたった100人と少し……
しかし、ほぼ全員が仕事を休んで出て来たのは、それだけテレーズが好かれているから。
ただ昨日と違うのは、テレーズだけではなく、オベロン様達妖精軍団にも大きな声が掛かっている事。
中には握手をして、熱心に再訪を求める村民も居た。
この1週間で、オベロン様達も完全に村へ溶け込んでいたのだ。
村民の、熱烈な惜別の念に感激したのか、護衛の戦士も、御付きの侍女も涙ぐんでいる。
勿論、テレーズはわんわん大泣き……
一国の女王様が、こんなに涙脆くて大丈夫かというくらい。
湖で俺に抱きついて泣いた時と一緒……はっきり言って号泣だ。
そして「泣いたのを絶対に内緒にしてくれ」と言った夫オベロン様も……
ぼろぼろ大粒の涙を浮かべていた……
似た者のふたりは仲良く夫婦揃って、子供のように泣いていたのであった。
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