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第21話「怪しい依頼」

「では明日午前8時、おふたりともこのギルドマスター室へ来て下さい。詳しい話はその時に……」


 う~む。

 何か、引っかかる。

 話がうますぎるのと、雰囲気もだいぶ怪しい。


 俺達は超が付く実力を認められたとはいえ、ギルドマスター達にとっては見ず知らずの冒険者、つまり未知数だ。

 それをいくらジュリエットが凄い目力で迫ったとはいえ、たったひとつの依頼で即座にランクSにするだろうか?


 もう少し、詳しく話を聞く必要がある。

 ふと見ると、ジュリエットめ、速攻で部屋を出ようとしている。


「おい、ケン、どうした? もう行くぞ」


「おい」じゃないよ、ジュリエット。

 お前も少しは疑えって。

 良~く考えたら、すっごく胡散臭い話じゃないか。

 俺が訴える眼差し攻撃をしてもジュリエット、こいつはノーリアクション。

 

 挙句の果てに……


「昨日の店に行くぞ、私は冷えたエールを飲んで、早くひと息つきたい」


 なんて抜かす始末。

 おいおい、駄目だったら。

 俺は急かすジュリエットを華麗にスルーして、ギルドマスターへ尋ねる。


「ちょっと、良いですか?」


 俺が鋭い視線でギルドマスターを見つめると……


「な、な、何ですか?」


 ああ、やっぱりだ。

 噛んでる、すなわち動揺してる。

 まあ相手次第だけど……もう少し説明して貰おう。


「マスター、明日なんて言わないで、今すぐに説明して下さい」


「何を言っているんだね、君は?」

「所属冒険者の癖にトップ上司であるマスターに失礼だろう、君はぁ」


 さすがにギルドマスター&サブマスターが怒ったが……正義は我にあり。


「いえ、ちゃんと説明して頂かないと、依頼をお受け出来ないと言っているんです」


「むむむ!」


 俺の勘では……今回の依頼は俺達に断られるとまずい依頼だ。

 多分曰く付きの依頼で、俺達以外に受ける者は居ない。

 と、いう事はある程度は説明してくれる筈。


「ねぇ、お願いしますよ」


 俺は極めて軽度の『戦慄のスキル』を発動した。

 希望はあくまでも平和的な解決だ。

 いくら俺が『よそ者』の異世界人とはいえ、ここで暴れたら女神ヴァルヴァラ様に迷惑がかかる。


「わ、分かった。依頼の概要だけ教えよう……」


 概要だけ?

 構わないっす。

 スキルであなた方の本心を、バッチリ読みますから。


「明日の依頼はな……」


 以下、ギルドマスターが語った事を要約する。


 依頼は討伐系で王都から少し離れた魔の森に潜む凶悪な竜退治。

 討伐期限は無期限。

 竜を討ち取った時点で依頼終了。

 報酬は金貨5,000枚。

 ※5,000万円

 倒す方法は武器か魔法、毒は不可。

 明日から依頼へ入って欲しいが、もうひとり参加する。


 依頼内容は分かった。

 問題は……もうひとりの参加者だ。

 ラノベではたまにある展開だが、見ず知らずの相手といきなり組むってどうなのよ。


「俺達が、組む相手って誰ですか?」


「お前達と組まれる……いや、お前達をお供にされるのは王族だ」


「お供? え? 王族ぅ!」


 思わず俺の声が大きくなった。

 さすがのジュリエットも部屋を出ずに、厳しい表情で腕組みをしながら俺とギルドマスターの話を聞いていた。

 それに対等に組むって話が、いつの間にか俺達が家来になるような話に変わっているし。


 まあいいや、とりあえず話だけは聞こう。


「明日朝の9時、お前達はまっすぐ王宮へ行け。そこでお前達がお供をする方がお待ちだ」


「で、どなたなんです?」


「現国王リシャール様のご子息、第二王子のラウル様だ。武勇に優れ、いずれは勇者間違いなしと評判の方だ」


「えっ、王子?」


「うむ、王子様だ。明日は国王陛下の前で謁見後に、すぐドラゴンの居る魔の森へ出発する。お前達はラウル王子をまず守れ! 竜は王子の手で倒す事になっている。成功すれば、約束の報酬だけでなくお前達にも勇者と同等の名誉が与えられる」


「…………」


 俺は思わず黙り込んでしまう。

 それって……すっごく高難度な依頼だ。

 待ち受けているのが単に竜で、それを倒すだけなら……多分俺とジュリエットにとっては楽勝だ。


 しかし!


 実力が全く分からない王子に、竜を倒すと言う手柄を立てさせる。

 というのは、ホント難しい。

 それに……


「念の為に言っておくが、ラウル王子の代わりに、お前達が竜を倒すのは厳禁だ。そんな事をしたら王子に付けた魔法の腕輪ですぐ分かる。契約不履行でお前達は死罪となる、まあ中央広場で斬首刑ってとこだな」


 死罪?

 斬首刑?

 何じゃあ、そりゃ!

 無茶苦茶だ!


「あの、それってどんな状況でも? もし王子様が戦う最中、危ない状況で助けようとして……つい竜を倒しても……ですか?」


「うむ、どんな状況でも駄目だ、死罪、死罪」


 きっぱりと言い放ったギルドマスター。

 それも死罪って、何度も繰り返しやがって。

 むむむ、何じゃあ~、そりゃ。


 俺の表情など気にせずに、マスターはますます絶好調。


「そしてこれは当然だが、万が一、ラウル王子を守れなくてちょっとでもお怪我させたら、やはりお前達は死罪だ」


 おお、凄い。

 ここまでアホな話なら呆れて、怒るのさえ忘れるくらいだ……


 しかし俺のスキルは真実を照らし出した。

 とんでもない『真実』をギルドマスターは知っていた。

 この依頼には、やはり『ウラ』があったのだ。


 どうやら俺同様にジュリエットもギルドマスターの波動を読んで? 

 『真実』を知ったらしい。

 複雑な表情で俺を見ると、仕方なさそうに頷いたから。


 とんでもないウラ事情を知った俺達は、結局……この『依頼』を受けたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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