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第4話「勇者召喚のならわし」

「おい、フレデリカ」


「うう~っ」


 俺が呼び掛けても、ただ唸るだけ……

 まともに言葉を発する事が出来ず、身体を小刻みに震わすフレデリカ。

 

 ひと目で分かる。

 フレデリカは、赤の他人の男の前で裸になった事などない。

 生まれて初めての経験なのだ。

 だから、たとえ肌着姿でも可哀想なくらい緊張している。


「どうして、こうなるんだ? 落ち着けよ」


「だ、だって! だってぇ!」


 俺が再度問い質しても、まだフレデリカは緊張&興奮して顔が真っ赤。

 このままじゃ、まともに話せない。


「……フレデリカ、まずは深呼吸しろ。俺もやるから」


 す~は~

 す~は~


 一緒に深呼吸。

 よっし、波動が安定して来た。


 次の手だ。


「OK! 次にお前の愛称を教えてくれ」


「え? 愛称?」


 愛称で呼べば、ふたりの距離はもっと近くなるもの。 

 実は、最近嫁ズ&子供達を呼ぶ時に愛称で呼ぶ事が多い。

 既に、学習済である。


「普段、おじいさん、パパやママはお前の事を何と呼んでる?」


「フ、フレッカ……」


「よっし、フレッカ。俺に抱いて欲しい理由を思い浮かべてみろ、心に」


「???」


 心に思い浮かべろ?

 いきなり、唐突な事を言われたフレデリカ。

 「きょとん」としている。

 良いぞ、呆気に取られて逆に落ち着いたみたい。

 

 俺は笑顔で、首を傾げるフレデリカを促す。


「良いから」


「は、はい……」


「これから俺が話すのは心と心の会話……念話だ。落ち着いて聞いてくれよ」


「…………」


『お~い、フレッカ』


『ひゃう! え、えええっ!?』


『これが念話さ。じゃあ理由を話してくれ、思い浮かべるだけで良いぞ』


 念話に吃驚したフレデリカが、落ち着くまでには若干時間がかかった。

 暫し経ち……

 クールダウンしたフレデリカは少しずつ『理由』を話し始めた。


『……私が抱いて下さいとお願いしたのは……ケン様が、この世界より去ってしまうと仰ったからです』


『俺がこの世界から去るのが、一体どうして?』


『理由があります! 我々アールヴが勇者様を召喚した時は伴侶となって頂くからです』


『え? じゃあ、俺がフレデリカの伴侶になるって事?』


『そうです……でもケン様はこの世界から去ると仰った。なのでせめて契りを交わして子を成そうと思いました』


 契りを交わす?

 子を成す?

 それって、エッチして子供を作るって事か?

 むう!

 話が見えて来た。


 召喚した勇者は聖なる者。

 前世に読んだ神話でも、人間の男が妖精の女を嫁にするってのが結構あった。

 そうすると大体運が巡って来る。

 次世代を担う子供は類稀なる才能を持って生まれて来るから、家が栄える原因となる。


 成る程ねぇ、このアールヴの世界でも同じような考えがあるんだ。


『じゃあ、今回は男の俺だけど……召喚したのが、もし女勇者だったら?』


『お父様が口説いて側室にするか、承知されないならお母さまを側室にしてでも結婚します』


『…………』


『お願いです! この世界を去られるのなら、せめて子種を!』


『……フレッカ、君の指示には従うようにとケルトゥリ様には言われたけど…………悪いが、それはノーだ』


『ななな、何故!?』


『俺は種馬じゃないし、もし君に子供が出来たら凄く気になってしまう。だから駄目だ』


『う、ううう』


 断られて唸るフレデリカ。

 

 俺が、エッチを躊躇ためらう原因……

 万が一、俺とフレデリカとの間に子供が生まれたとする。

 その子供は人間とのハーフとなり、純粋なアールヴではない。

 

 アールヴは基本、排他的で極端な純血主義だと聞いた事がある。

 と、なると人間の子供を産んだフレデリカは身に覚えのない罪に対して、厳しく非難されるだろう。

 とても辛い思いをするだろう。

 そんな結末が分かっているのに、正体を隠して人間の子を産ませる……

 なんて、非道な事は俺には絶対出来ない。


 この理由はさすがに言えないが、俺は話を続ける。

 更に別の理由を告げ、フレデリカにエッチを諦めて貰う為に。


『それに俺は既に結婚している、既婚者だ』


『え?』


『俺の居る世界も一夫多妻制なんだ』


『一夫多妻制……』


『ああ、俺にはもう嫁が8人居て子供も7人居る。家族全員を愛してる! なので役目が終わったら早く帰りたい。ここで君……いやお前とエッチして俺の子供が出来たら、違う世界でやきもきする。お前と子供に会いに行けなくて、とっても心配でたまらなくなるから』


『…………』


『正直に言う。お前はとっても魅力的な女の子だよ、何もなかったら絶対に抱いているだろう。もしも俺が独身ならケルトゥリ様に頼んでお前と結婚する為に、この世界へ残して貰うさ』


『…………』


『お祖父様とお父様には、正直に理由わけを言おう。俺が土下座しても良い、それで許して貰えるなら』


『…………』


 フレデリカは、ずっと黙っていた。

 改めて見れば、目には涙が一杯溜まっている。


 何か、俺迄「じわっ」と来た。

 「きゅっ」と抱き締めてやりたくなった。

 このシチュエーションじゃあ、余計にまずいかもしれないけど……


 でも声に出して言う。


「おいで、フレッカ」


「あう~っ」


 手を広げた俺の胸へ、フレデリカは勢いよく飛び込んで来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うふふ」


 俺の胸に、鼻をぐいぐい押し付けて甘えるフレデリカ……

 ベッドの中は甘い香りに満ちていた。


 別の部屋の肘掛け付き長椅子(ソファ)で寝ると言った俺を、フレデリカは泣き落としでベッドに引き入れたのだ。


 ……俺は以前、レベッカ&ミシェルと3人で寝た事を思い出した。

 あれは結婚前に行った、エモシオンの町の宿だった。

 改めて思う。

 女子の甘い香りって、男子の憧れだと……


 当然だが、『約束』通り俺はフレデリカにエッチをしていない。

 ふたりで仲良く、添い寝をしているだけだ。


 俺の『誠意』に対してフレデリカも応えてくれた。

 エッチをするのを断念してくれたのである。

 健康男子からすればなんで? という話だろう。


 勿体ない!

 バカヤロー!


 そんな声が飛んで、石まで投げられそう。

 神秘的なアールヴ美少女が、どうか私とエッチして下さいって、頼んでいるのを断るのだから。


 でも、フレデリカに辛い思いはさせられない。

 だから、仕方がない。


 しかし、この件でフレデリカとは一気に仲良くなった。

 親密な間柄と言って良い。

 砕けた雰囲気となって、色々な身の上&思い出話もした。

 俺の正体が人間なのは絶対に内緒だし、村での生活等はアールヴの暮らしに置き換えた脚色だけど。


「俺は違う世界で守護者をしている。大体最前線で戦う。負けたら最後だと思って気合が入るよ」


「す、凄い、頼もしいです」


 フレデリカは目を丸くすると、また嬉しそうに甘えて来る。


 ああ、美少女に褒められ、イチャするって最高。

 そして、フレデリカの告白タ~イム。


「……ケン様、私には亡くなった兄が居るんです」


「お兄さんが? 亡くなったの?」


「ええ、兄の事が大好きでしたけど……私が子供の頃……病気で……」


「そうか……」


 俺は悲しそうに語るフレデリカを見て、思った。


「じゃあさ……とっても短い間だけど……俺を兄貴だと思ってくれよ」


「え? 本当に?」


「ああ、こんな俺だけど」


「やったぁ!」


 フレデリカは俺に抱き付く。

 良く考えれば、肌着姿で抱き合う兄妹って……何て危ない関係なんだ……

 そして……


「お兄ちゃわん……お願いがあるの」


「お願い?」


「エッチは諦める……でも思い出を下さい……フレッカのファーストキスを貰って欲しいの」


「…………」


 さすがに俺は考えた。

 女子のすっごく大切な思い出……ファーストキス……


 でも……フレデリカは切ない表情をして……やがて目を閉じる。

 これは……応えてやらなければ、男じゃない。


 俺は優しくフレデリカを抱き寄せ、そっと唇へキスをしてやったのだった。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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