第15話「圧倒」
こいつ? 一体何をする気だろう?
攻撃魔法が来ると思って、一瞬身構えた俺達だがその気配はない。
見れば、魔法使いの男は言霊か、呪文か何かをぶつぶつと詠唱している。
男を見たクーガーが、悪戯っぽく笑う。
「旦那様、多分あいつは召喚士だよ。異界から何か呼び出す気だね」
「成る程、召喚魔法ね……とりあえず召喚するまで待っててやろうか?」
「そうしよう、何が出て来るか面白そうだから……お~い、なるべく早くねぇ」
俺達の舐めきった会話を聞いて、召喚士らしい男は湯気を出すくらい怒った。
「き、貴様ら~、馬鹿にしやがってぇ! 見てろよ~っ、最高の奴を呼び出してやるう! ……うんたらなんたらかんたら~」
召喚士はどうやら最大級の召喚魔法を発動させるようだ。
何かを呼び出す難しそうな言霊を詠唱している。
俺なんかチートの召喚魔法を使って従士達を呼び出したから、奴の苦労は分からない。
3分経過……
「お~い、まだ~」
「待ちくたびれたわ」
中々発動しない魔法に、俺達はどっと疲れが出た。
睡眠不足の身には、ちょっと堪える。
一方、召喚士は必死らしい。
「はぁはぁ……もう少し待てぃ! せっかちな奴等め!」
またもや5分経過……長いぞ!
一体、何が召喚されるのか。
「ふああああ」
「眠~い」
「くっそ~! 待たせたな、召喚!」
地面が輝き、巨大な何かが現れる。
それは……
「見たかぁ! 驚いたかぁ! 恐れおののけぇ! 喰い殺されたくなければ土下座して詫びろぉ!」
ごがはああああっ!!!
召喚士が偉そうに自慢するのは一理あった。
俺達の眼の前に現れたのは、体長10mにも達する凶悪そうな二足竜だったのだ。
召喚されるのは、どうせ何か雑魚だと思っていたから意外だ。
だけどクーガーの言った通り、注意して良かった。
こんな奴が俺達の居ない間にボヌール村近辺で暴れたら、甚大な被害が出るのは必至だから。
さあ、さっさとこいつを片付けよう。
「へぇ! 結構やるなぁ」
「旦那様、ちょっとは楽しめそうだね、でも油断しては駄目だよ」
分かってますって!
俺は現れた二足竜へ一見無防備風で近付いて行く。
相手の攻撃を想定して、注意しながらなのは言うまでもない。
その二足竜だが、飛翔と攻撃力に優れた結構な強敵だ。
しかし、注意はしなければならないが、必要以上に恐れる事もない。
クーガーが女魔王だった時、もっと恐ろしいハイドラゴンに跨っていたのでそう怖くはなかったからだ。
「馬鹿め! 単なる人間が、俺の竜に敵うわけがな……い……え?」
召喚士が勝ち誇ろうとした瞬間……思わず言葉を飲み込んだ。
俺が一歩近付くと、同じだけ二足竜が下がっている。
クーガーのハイドラゴンが、俺のひと睨みでびびった時と一緒だ。
そう、使ったのはお馴染み戦慄のスキル。
『魔王のひと睨み』と同じ効果がある。
相手は恐れおののく。
下手をすると、身体が硬直し麻痺してしまう。
やはり効果は絶大。
目の前の二足竜は明らかに怯えていた。
「旦那様ぁ! 尻尾の毒針にだけは気をつけてねぇ!」
「あいよっ!」
戦いの最中とも思えない、のんびりした会話。
二足竜は、俺が見せた唯一の隙だと感じたらしい。
チャンスとばかりに、いきなり襲い掛かって来たのである。
「よっ」
だが、そんなのは想定済み。
俺はあっさり攻撃を躱すと、手刀を振るう。
すぱ~ん!
魔力を込めた俺の手刀は、鋭い刃だ。
これも、天界拳を修めた効用。
創世神様と管理神様、そしてクッカにも感謝だ。
俺の手刀により乾いた音がして、二足竜の尻尾の先端があっさりと切り落とされた。
あぎゃおおおおっ!
湧き上がる悲鳴。
俺は、痛みに悶え苦しむ二足竜の腹へ、構わず拳を突き入れる。
血の塊を吐いた二足竜は呆気なく気絶して倒れてしまう。
「ば、馬鹿なっ」
起き上がれず、ぴくぴく痙攣している二足竜に俺は無造作に跨った。
拳を振るう。
顔、めがけて。
どっこん! どっこん! どっこん!
既に二足竜は息絶えた。
後は、不死者にならないよう、葬送魔法で処理するだけだ。
「ああ、私の二足竜がぁ! 容赦なくマウントされてるぅ!」
頭を抱える召喚士が背後から肩をポンと叩かれた。
クーガーである。
「あのさ、あんた達はこの案件の前に、別の場所で悪事を働いただろう?」
「な、何!?」
「発せられるどす黒い魔力波で分かるんだよ、私にはね……あんた、この竜を使って女子供を含めた100人以上罪もない人達を殺しているみたいだね。じゃあ因果応報、むごたらしく殺されても文句は言えないね~」
「ひひひ、ひえ~」
クーガーがにやりと冷たく笑い、召喚士を含む傭兵達は残らずこの世からサヨナラしたのであった。
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