表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/848

第13話 「ふるさとを守る男」

 俺とクッカは、「熊一撃殺害の現場」へ向かう。

 

 ちなみに俺は、音も無く走っていた。

 クッカに教えて貰った浮上の魔法というもので、正確に言えば地上に足を着かず、空中を滑るように移動している。

 地面に足をつけていないから、当然、音も立てていないのだ。


 それはそうと、果たして遭遇する相手は?

 大型肉食獣の熊をあっさり倒すなんて一体、何者だろうか?

 クッカが、『敵』の居る場所が近い事を教えてくれる。


『まもなく、アンノウンへ接触します』


 俺は既に『気配消去』のスキルを発動している。

 余程の相手じゃなければ気取られる事はないが、慎重を期すに越した事はない。

 俺と幻影のクッカは、木陰からそっと相手を眺めた。


 目指す相手は……そこに居た。

 あれ?

 外見は一応人間だ。

 リーダーらしき奴は、「パッ」と見た限りでは、年齢30代半ばくらいの男である。

 

 もしかしたら、もっと若いかもしれないが、髭ぼうぼうのけむくじゃらで少々老けて見えた。

 そして奴に付き従う、同じような逞しいふたりの男……

 こちらは、もう少し若くて20代半ばだろうか?

 都合3人の男達が、倒した熊を前に勝利の凱歌をあげていた。


 俺が見て驚いたのは、奴等の体格だ。

 矢鱈「でっけぇ」のだ!

 

 全員、身長は2mくらいある。

 更に凄いのが、鍛え抜かれた身体である。

 腕と足は、ふしくれだった丸太のようで、全身が筋肉ムッキムキなのだ。


 服装にも驚いた。

 というか、呆れた。

 上半身は、見事に丸裸。

 下半身は、腰ミノのみを着用している。

 

 おいおい!

 お前らは、原始人か! 

 と、突っ込みたくなる男達は、熊を倒した自分達の力に酔っているようだ。


「おっほう! 俺の拳は凄い! やはり熊など一撃だぁ! 俺は強い! 俺は美しい! 見よ、この素晴らしい肉体を!」


「さすが、魔王軍ナンバー4のライカン様! あんな、のろまな熊など我々狼族の敵ではありません」

「その通り! 我々は無敵です」 


 魔王軍?

 ナンバー4?

 何じゃ、そりゃ!

 どうして魔王軍の幹部がこんな僻地へきちに居るんだよ?


 という事は、こいつらって、やっぱ魔物だ。

 何らかの方法で、人間に擬態しているってわけか。


 俺の訝し気な視線の先で、男達は何やら身体を動かしていた。

 そう、月明かりが照らす中、独特なポージングをしていたのである。

 改めて俺が良く見ると、腕を少し内側へ曲げ、ゆったりと構えている。


 リーダーである、ライカンと呼ばれた男の声が聞こえて来る。


「むむむ、やはりこれでは勝利のポーズとしては大人し過ぎるっ!」


 ライカンは少し身体を横に振るが、満足しないようである。


「今度は、こうか?」


 次に、ライカンは両腕を上げた。

 やはり、肘を少し曲げて独特なポーズをとる。

 逆三角形の体型が見事であり、腹筋がぴくぴく波打っていた。

 

「ははははは! 決まった! 綺麗だ! 何という神々しさだ!」


 ライカンは、うっとりしている。

 目が、すっごく遠い。

 

 どうやら、自分の世界に入ってしまっているようだ。

 配下の男達も、同じようにポーズを変える。

 やはり陶酔状態に入っている。

 こっちにまで、熱気が伝わって来そうな入れ込みぶりだ。


 俺は……唖然としてしまう。


 何だ、あれ?

 俺には、全く理解出来ない世界だ。

 思わず、クッカに尋ねる。


『何やってるの、こいつら?』


『多分……自分の肉体に酔っているのでしょう』


 クッカは、男達に視線が行かないように俯いていた。

 どうやら、絶対に見たくないらしい。


『肉体に酔う? ええっと、もしかしてナルシスト? もしくはもっと危ない人?』


 俺が聞くと、クッカは「あくまで私見ですが」と断わった上で言う。


『ある意味では、拘り過ぎる危ない奴らだと言えますが、ある意味では美しさの象徴とも言えます』


 ある意味ねぇ……美しい肉体か……

 見る人の考え次第では、見解が違うって事だね。

 でも、さっきの索敵では「敵」って出たんだものな。

 何と言っても、魔王軍なんだから。


 俺は、クッカに再び尋ねる。


『あいつらは魔王軍だし、アンノウンって識別されたって事は、絶対に敵意があるって事だよな?』


『一応! 今のところ索敵では半魔と表示し直されていますね』


『う~ん半魔ねぇ。……でもこのままじゃ、相手の正体と目的は分からないよ……ここはまず、コミュニケーションを取る為に、会話した方が良いかな?』


『そうですね! じゃあ私が! ちょっとケン様の声帯をお借りします』


『え?』


「は~いっ! グッドイブニ~ング!!! 皆さん、こんばんはぁ!」


 いきなりクッカの声が、俺の声に変換され、すげぇ大きな肉声になった。

 

 何と、不思議!

 俺の口から、声が勝手に!?

 意思など関係なく、声が出ているのだ。

 

「はあ~っ? いきなりお前……誰だよ?」


 ライカン以下男達が、こっちを振向いた。

 折角、気配を消していたのに……

 案の定、見付かってしまった。

 ああ、俺が呼びかけたと思っているみたい。

 全員訝しげな表情で、俺を見ているよ。


 ライカンから言われて思ったけど……そういえば、誰だっけ俺?

 本名のケンを名乗るわけにいかないし、こんな時の名前って決めてなかったな。


『私に任せなさ~い!』


 クッカの、凄く得意げな声。

 こっちは俺への念話だ。

 とっても嫌~な予感!

 その瞬間、またもや!

 俺の口から、勝手に言葉が響き渡る。


「ようく聞けぇ! 俺は、な! ふるさとを守る哀愁の地元戦士、郷愁マンだぞぉ!」


「はぁ? ふるさとを守る? 哀愁の地元戦士? キョーシューマンだとぉ? 何だ? その今にも、たそがれそうなダッサイ名前はぁ!」


「ぎゃははは、ホントにだっせぇ!」

「最低なネーミングセンスだ」 


 おお、さすがにこれだけは……こいつらに同意するぞ!

 俺だって思うもの。

 

 クッカが、俺の声帯を使って名乗った……

 『地元戦士郷愁マン』は微妙だ! 

 すっげぇ、微妙過ぎる!


 思わず脱力した俺は、大きくため息をついたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ