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第10話 「勇者じゃなくて魔王風?」

 俺は、自分の能力をちゃんと知っておきたい。

 そして知るだけではなく、試しておきたい。

 

 これからは未知の敵がたくさん出てくるだろう。

 例えば昼間のゴブリン戦のように手探りで戦いたくない。

 リゼットのように守るべき対象がいれば尚更で、いざという時戸惑う事無く自分の能力を発揮したい。 


 何となく、昼間の火炎魔法で、魔法発動のコツは掴んだと思うけど……

 レベル99&オールスキルというからには火の攻撃魔法以外、スキルの種類は鬼のようにあるのだろう。

 

 とりあえず、色々とやってみなければ。

 という事で、まずは……


『クッカ、索敵頼む! 場所は昼間リゼットを拾った場所だ』


『了解! ……お問い合わせの場所はボヌール村から見て北西へ距離約8km、西の森の前の草原! 今の所、当該地中心半径3km以内に敵の姿無し、但し当該地より5Km先の西の森奥にゴブリンの反応多数あり!』


 おお、凄いぞ、サポート女神クッカの真骨頂!

 相変わらず、良い仕事しますねぇ!


 じゃあ、俺もやってみよう。

 魔力をアップさせて……

 おお、敵の気配を感じるぞ!

 これが……索敵なんだ。


 と、その時。

 ハッとした俺はひとつ思い出したんだ、大事なこと。


『ええっと、ちょっと聞いて良いかな?』


『はいっ!』


『ええと……あの子の事なんだけど、さ。リゼットが採集出来なかった薬草の種類と、生えている場所って……クッカに分かるかな?』

 

『はいはい分かりますよぉ! このクッカに任せてくださ~い!』


『そ、そうか! さすがクッカだ!』


『うふ! やっぱりケン様って優しいから好き! リゼットちゃんの為にこれから森へ薬草を取りに行ってあげるのでしょう?』


 優しいから好き! ……か。

 可愛い女子から好きって言われると、何か、くすぐったいな。

 実際クッカは俺の事、どう思っているのかな?

 まあ……良いや。


『ありがとう! じゃあ行こうか!』


 俺が出発を促すとクッカが「待った」を掛ける。


『ちょっと待って下さい。鎧や武器一式、今装備しているものとは変えておきましょう』


 え?

 装備変えるの?


『何故?』


 俺は、思わず聞いてしまう。


『夜とはいえ、ケン様のお姿をどこの誰に見られるか分かりません。ケン様の正体を看破されそうな要素やリスクは、なるべく排除しましょうね。必要なものは引き寄せの魔法でほぼ手に入れられます』


『引き寄せの魔法?』


『はい! 我が手に! と、詠唱すれば、天界判断で無理なモノと見られた以外は入手出来ます』


 何それ!

 すっごい超便利な万能魔法じゃない?

 一生働かなくても良いとか?

 ニート垂涎の魔法?


 でもさ、こう言うのって……

 絶対裏があるような気がする。


『聞いても良い?』


『はい!』


『これ……使い過ぎるとどうなるの?』


『はい! 使い過ぎたり、目的がよこしまだと罰が当たります』


『え? 罰?』


『例えば……』


『例えば?』


 俺はごくりと唾を飲み込み、クッカの言葉を待った。


『口が勝手に動いて、お下品な事を口走り、女の子に最低だと嫌われたり。やたら全裸になりたがったり……更に更にっ』


『…………』


『ぬめぬめしているとかぁ、節くれだったりとかぁ……そんなゲテモノを大好きだぁと言って食べまくりぃ……超のつく変人扱いされて……誰からも屑のレッテルを貼られまっす』


 成る程!

 納得!

 それ……全部、嫌だ。

 

『ちなみにお金も引き出せません。それに引き出したものをこっそり売却しようとすれば、同様に罰が当たります』


『りょ、了解』


『でも、気を付ければ、超が付くぐらいに便利ですよ』


『そ、そうだね……』


『顔や体格は変身の魔法で自在に変えられます』


『そ、そう?』


 自在に変えられる?

 顔や体格を?

 変身の魔法って、すげぇ面白そう。

 

 俺は調子に乗ってクッカに聞く。

 ほんの冗談のつもりだった。

 これホント。


『折角変身するならさ。髪型は勿論だけど、年齢、性別も変えちゃう?』


『OK! 了解です!』


『…………』


 出来るのかよ!!!


 俺は思わず、無言でクッカに突っ込んでいた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺が発動した引寄せの魔法と、変身の魔法を使い、変装の準備が完了した。

 新たな魔法は、いきなりまぐれで上手く行く場合もあれば、失敗する時もあった。

 だがクッカの言う通り、2回目以降ならほぼ完璧に発動する。

 よっし、魔法やスキル発動のコツだけは、ばっちり把握したぞ。


 ちなみに俺が変身したのは、夜の仕様って事で漆黒の鎧、漆黒の兜。

 更に漆黒の刀身の魔法剣。

 全身、闇に溶け込むような雰囲気の俺。


 この恰好って……

 闇の瘴気を纏った不気味な暗黒戦士か、情け容赦ない無慈悲な闇のニンジャって感じ。

 

 はっきり言おう!

 これ、全然正義な勇者系じゃなくて……

 絶対に! ……邪悪な魔王系だろ? 


 まあ、いっか!

 この方向性はそんなに嫌いじゃないから。


 兜は顔全体が隠れるフルフェイスタイプなので素顔も見えないし、素顔自体が今の俺とは全く違っている。

 身長も170㎝から185cmへ大幅アップだ。


 これなら今の俺、15歳の少年ケン・ユウキとは絶対に分からない。


 ちなみに変装後の年齢は、22歳くらいの大人バージョンに。

 俺がこの異世界へ、転生する前の年齢にしたのである。

 だから顔は、転生前の懐かしい顔にちょっぴり似せた。

 どうせ、兜で隠すから良いよね。


 この仕様も次回の『夜遊び』や昼間に『特別行動』する時は一切変える予定なのだと。

 かなり面倒臭いが、ばれて大騒ぎになるよりマシだと割り切ろう。


『えっと! 次に転移魔法を使って、あの草原へ移動で良いのかな?』


『はい、正解です! 仰る通り転移魔法を使いましょう! 発動に必要な、詠唱する言霊ことだまはどう言えば良いか、分かりますか?』


『多分!』


『ケン様! さすがです』


 にっこり笑うクッカ。

 やはり、可愛い女神の笑顔は最高に良い。


転移トランジション!』


 言霊を唱えた瞬間、ボヌール村の自宅の部屋から俺達の姿はあっと言う間に消え失せた。

 初めての転移魔法は、大成功だった、ラッキー!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう! ここだ! ここだ! 間違い無い!」


 思わず声が出た。

 俺は慌てて左右を見渡すが、当然誰も居ない。


 月明かりが淡く照らす真夜中の草原に俺はひとり……いや正確にはひとりプラス他人には見えない女神の幻影と、ふたりだけで立っていた。

 ここが昼間、リゼットを助けた場所に間違いはなかった。

 草が焦げた独特の臭いと共に、あちこち俺が火炎魔法を使った、ゴブの焼け焦げた痕跡が残っているからだ。


 え?

 何故、真夜中なのに、月明かりだけではっきり見えるか?って。


 良くぞ聞いてくれました!


 クッカに言われて暗視のスキルを発動したら、真夜中でも昼間のように見えるんだ。

 これまた、俺は感動した。

 最初はモノクロだった映像は、彩色を加えて現在はオールカラーで見ているから。


 凄い!

 夜目が利く、なんてものじゃない。

 輝度を自由に変える事も出来て、昼間と同じくらいにもなる。

 最初は練度1らしいが、こうやって完璧に使いこなせるスキルを徐々に増やして行こう。


 次は飛ぶか!

 どこって?

 当然、空さ!


 転移魔法に続いて、俺は飛翔魔法を発動して飛行訓練をする事にした。

 ちなみに、上空からの地形把握も兼ねている。


『ちょっと待って下さい』


『おう! クッカ、何だい?』


『どうせなら、身体強化と気配消去も一緒に! 両スキルとも使って熟練度を神レベルにしてしまいましょう』


 そうか!

 それに、両スキルとも使用頻度多そうだし。


 身体強化のスキルは、自身の肉体を頑丈にし、視力、聴力等各機能を更にアップするスキル。

 クッカに聞けば、魔法でも全く同じ事が出来るらしい。

 まあ高い空って、凄く寒いと言うし、風邪ひいたらこまるものな。

  

 そして気配消去。

 一切の気配を消して飛ぶ黒い影。

 まるでレーダーに機体を感知させない、どこぞの某戦闘機のようである。


 身体強化と気配消去のスキルを発動した上で、俺は遂に空を飛ぶ。


飛翔フライト!』


 言霊を詠唱したその瞬間、俺の身体は恐ろしい速度で垂直に舞い上がり、真上へ真上へと上昇して行ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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