屠竜の技
こちらは作者が当時中学時代に国語の課題で提出した創作小説に手を加えた処女作品になります。
―――屠竜の技―――
昔々、
ある一家が「龍」に殺されたんだなぁ。
しかし。
その中で一人だけ、生き残った少年がおってなぁ。
その子だけ家を出て外で遊んどったのよ。
遊びから帰って来たら、おっとうも、おっかあも、妹も、兄貴も、
みぃんな燃え盛る瓦礫の下敷きになってなぁ。
辺りは地獄じゃった。
運良く惨劇を免れた少年は
名を「劉鸞」と言ったぁ。
瞳が、澄切った空の青より碧く、肩まである髪は藍染より蒼くてなぁ。
美しい顔立ちをしていたがぁ、その双眸は悲しみと後悔の気持ちでいっぱいでなぁ。瞳は血の涙で朱に染まったよ。
可哀想になぁ。昇りゆく龍を射殺すくらい睨んでおった。
それから何年かぁして、劉鸞は苦労して、
この泰山に住む儂の元へ来よった。龍を殺す術を教えてほしいとのぉ。
ただの若造なら教える価値も無かったが、雲を貫き、下界とかけ離れたこの仙界に、自力でやってきた此奴の努力に驚いたわい。
まぁこれも縁じゃ。行く宛も無いしの。
一通り、龍殺しの術を教えたよ。
術の基礎になる刺青にはよぅ絶えたもんじゃ。大の大人が悲鳴をあげる苦痛に耐え、五、六日疼くじゃろうに、半日で修行に戻りよった。
凄まじいのぉ…人間の執念とやらは。
劉鸞はなぁ、他の兄弟子達よりも貪欲に覚えた。
兄弟子より飲み込みが早うて、何年もの差を縮める程修行に励んだよ。
時折、兄弟子達が劉鸞に不満を爆発させ一悶着あったわい。
だが劉鸞はあっさりと兄弟子達の攻撃なんぞ足下にも及ばず
逆に倒してしまったよ。
武においても、智においても、
劉鸞は何時しか儂の一番弟子となっておった。
ある日じゃ、忘れもせん。儂にあ奴は突然言い出してなぁ。
「全て覚えたから龍を殺しにゆく」
なんぞ言いよってなぁ、聞かんのよ。
覚えたての青二才が龍なんぞ殺せるはずもんじゃないと。
聞かせてもあ奴は首を縦には振らんかった。
全く強引な奴じゃ…。龍とは何かも知らずに…。
―――――――――
劉鸞は山を下りた。
自分の家があった付近の山頂で龍を待っとったよ。
いつでも現れてもいい様に、矛を抱えて周囲に警戒しとってなぁ。
殺気も並大抵のもんじゃない。
近くにおった動物共が殺気を恐れて逃げていくんじゃ。
しかしなぁ、
幾刻たっても龍は現れん。
それでも劉鸞は動かんかった。
龍は隙を狙ってると思ったんかのう。
劉鸞は休みもせず、ずうっと短叉ぁ構えとってなぁ。
雨が降ろうとも、
太陽が照り付けようと、
暴風が押し寄せようとも、
幾日たっても、じゃ。
ずうっと、動かんかった。
じゃが…
その間全く龍は姿を見せんかった。
遂に短叉が手から離れた時にはぁな。
龍鸞だった人間は骨と化しておった。
風化した骨がサラサラと零れ落ちていったわ。
実を言えばなぁ…
龍は荒ぶれば荒龍
静まれば賢龍
と呼ばれておっての。
元来人類に被害をもたらすのは低級の竜か、荒ぶる龍での。
中でもあ奴の家族を殺した龍は、その中でも温厚な華龍の一匹じゃった。
そんな心優しい龍が人を殺し暴れたのには訳があった。
原因はあ奴、龍鸞よ。
あ奴は覚えておらんだろうが、
幼い頃に龍の巣に入って華龍の卵を壊してしもうたのだ。
龍の卵は何世紀に生まれるか否かの傑物よ。
当然華龍は悲しみ憎んだ。
生まれ出て初めてのことであろうよ。
我が子を失った悲しみを華龍はどこにぶつける?
この憎しみをどこにぶつける?
当然
卵を壊した張本人だろう?
だがそれだけでは終わらない。
報復が足りない。
故に華龍は卵を壊した奴の全てを奪うことにした。
同じ報いを
家族を殺された思いを味わえとな。
それから華龍は報復を終えた後、
割れた卵を大事に抱きながら死んだよ。
華となり、大地となり、華龍は地に還った。
それを知らぬ龍鸞が無駄死にだったかは解らぬが、
いくら技を身に着けても、肝心の龍がいなきゃぁ意味が無いわい。
大地は理に従って鳴動しとるのだ。
それを壊した者は当然の報いを受けたのよ。
まぁ儂は貧乏くじは引いたが、
退屈なこの世の暇潰しにはもってこいの余興じゃったなぁ。
劉鸞だった人間の骨はやがて粉となり塵となり、
風によって空の彼方へと吹き飛んだのだった。
当時自分が中学生の宿題作品にこれを提出しまして、その後あれやこれやと手を加えたものになりました。
これを私的HPへ編集公開した当時、ガラケーのディスプレイサイズに合わせての小説だったので、書き方も何もルール無視になってます。読みにくくてすみません。
タイトル道理「屠竜の技」の意味は、
≪荘子≫列禦寇より【身につけても実際の役に立たない技術のこと】を言う慣用句です。
当時慣用句をテーマにして、ミニ小説を作れとかいう国語の授業だったはずw
たまたま、国語辞典を開いて目に留まったこの慣用句がものすごく印象に残ったのを覚えてます。
原稿用紙1枚分に納めないといけなかったので、華龍の件は丸っと追記です。
今でいうお題小説みたいなものですね。
古すぎて恥ずかしいものではありますが、自分の原点みたいなものですので敢えて投稿させていただきました。お読みいただきまして感謝いたします。