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私+竜+俺=?  作者: 史華茉莉
1/4

家出です

短編の予定です

 人とドラゴンが共存する小さな国。ドラグニール。

 その辺境の名前もない小さな村に漂着したあるモノを発見した村人Aの、

「おーい、誰か来てくれぇ!」

そんな言葉から物語は始まる。


「ベックシュンッ!? ああ、有難うございます」

 私は大きなくしゃみをして、流れ出た鼻水を啜り、差し出された布で鼻をかみながら思う。

 ボートで家出は失敗だったと……。

 漕いでいる途中で風に煽られて転覆し、何とかひっくり返ったボートに乗り上げる事に成功はしたが、力尽きて気づけばどこか海岸で、偶然通りかかった村の人に助けられたのだった。

 今は村長の家で、焚火の傍に濡れたドレスを乾かしながら、下着一枚で毛布に包まって暖を取っている。

 春先の暖かな日差しとはいえ、海は冷たい。ボートを漕ぎだした時は最悪泳げばいいだろうなんて甘い考えをしていた。甘かった。

慢心ダメ、絶対。


 今年、二十一歳となった春のある日。

 私は良い教訓を得た。

『家出は計画的に行いましょう!』


 ガチャ

 ゆっくりと扉が開き、可愛らしい女の子が玄関口の端から顔を少し覗かせる。

 村長の娘だろうか?

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「さっきまで死ぬかと思ってたけど、もう大丈夫。ありがと。あなたは村長の娘さんかしら?」

「うん、レーナ」

 レーナが扉を閉めて私の傍まで駆け寄って来る。両腕で抱えられたカゴの中には色々な果物が詰まっていた。

「これお父さんがお姉ちゃんにって」

 リンゴ、オレンジ、マスカット、マンゴー、パイナップル……パイナップルは流石に未加工では食べられないんですけど!?

「あ、ありがと……あ、私の自己紹介がまだだったわね。私は――」

 コホンと一つ咳払いをして名乗る準備をしていると、

「エレンティア様でしょう?」

「えっ……わ、私の事……知ってるの?」

「うん、知ってるよ。エレンティア=レーティッシュ様。レーティッシュ王国の王女様!」

 アハハ……と乾いた笑いか口元からこぼれていた。

 辺境の村の年端もいかない、6歳くらいの女の子に顔も名前も知られていた。

「それにドレス着てるから直ぐに分かったよ」

 式典用のモノとは違い、動きやすい簡素なドレスとはいえ、ドレスはドレスだ。

 普通の人は普段着ない!

 では、ここは国内なのだろうか?

「えっと、ここって……」

「ここはドラグニール王国の外れにある村だよ。名前はない!」

 えっへんと何故か胸を張って誇らしげにレーナは語る。

 ドラグニール王国はレーティッシュ王国から海を渡った対岸にある小国だ。

 他国の名前もない小さな村で名前が知られている事に気になった。

「ずっと前にね。始祖ドラグニール様の生誕祭のパレードの時にお姉ちゃんの事見たんだ! すっごい綺麗だったから覚えてるの!」

 レーナは無垢な笑顔できゃっきゃと思い出話をしてくれる。

 始祖ドラグニールの誕生祭は毎年執り行われている……今では隣国との親睦会の様な催事だ。


 ドラグニール。この国の名前であり、この土地を数千年前から納める竜王の一体。日がな一日眠っているぐーたらドラゴンとも呼ばれているが、時には大空を飛び回り、子供たちと戯れている姿も見かけるらしい。

 誕生祭というのは始祖ドラグニールが誕生した日ではなく、人と竜とが手を取り合いドラグニール王国が建国した日の事を指す。実際の始祖ドラグニールの生まれた日は本人すら覚えていないとか……。流石はぐーたらドラゴン。


「他の人達は私の事気づいてる?」

「うん、誕生祭にはみんなで行ってるから」

 即答でした。

 そういう事であれば早めに手を打たなければならない。

「その、ね。村長、レーナのお父さんとちょーとお話し出来ないかしら?」

「?」

「ちょっと大事なお話しがあるの」

「んー、よく分からないけど、分かった。お父さん呼んでくるから待ってて!」

 ダッと跳ね返る様にレーナは扉を開け放って飛び出して行ってしまった。

 私は玄関口から顔を少し出して、誰もいない事を確認すると扉を静かに閉めた。 


 乾いたドレスを着なおして、玄関口を正面にして正座して村長を待つ。

『家出してきたので暫く匿ってください! お願いします!』

 私は伝えるべき必要な言葉を心の中で何度も反芻する。

 失礼の無い様に、礼節を弁え、誠心誠意お願いしよう。


 扉の外に足音が複数近づいてきたのが聞こえてくる。

 村長とレーナだろう。

 扉が引かれ、光が差し込んだと同時に床に手をついて頭を下げる。

「家出をしてきたので暫く匿ってください! お願いしまっしゅ!」

 最後の最後で噛んでしまった……。しかし、可能な限り誠意をもって言葉は伝えられたはずだ。

 人の気配はするが、返事は返ってこない。

 一国の王女が頭を下げているのだ、私が逆の立場であっても返答には困ってしまう。

 いつまで経っても返事は返って来る気配はなく……私はおずおずと頭を上げてみる。


 そこにはメイド服姿の怖い顔をした見知った少女が憐れむ様な目で見降ろしていた。

「姫様、良いご身分ですね。どうしたました? もっと頭を下げてご覧ください」

「あ、あ、あり、あり、アリシア、どうしてここに!?」

 幼馴染にして、我が専属侍女アリシア=テレスだった。その後ろには村長とレーナの姿が見える。レーナがどこか可哀そうな目で見ている様な気がしたが……今はそんな場合ではない。

「この私に答えさせるつもりですか、姫様? 私に答えさせるなら後できつ~いお説教ですよ? ですが、ご自分で正解が答えられればお説教は無しにしてさしあげましょう」

 考えろ、私! アリシアの説教は危険。二、三日は夢に出る!

 この村がドラグニール王国のどの辺りかは分からない。しかし、レーティッシュの王都からドラグニールの王都まで片道二時間はかかる。

 私が村で保護されてから一時間程。村の方が発見した私をレーティッシュ王国まで伝えに行って戻ってきた線はない。

 ならば、元々、アリシアは私がドラグニール王国へ向かうと目星をつけていた?

 これならば一時間以内にこの場にいても矛盾はない。これに違いない。

「答えは、アリシアは私を探すためにドラグニール王国に来ていた!」

「不正解です。もっと頭を床に付けやがれです、姫様」

 アリシアの踵が後頭部にグリグリとねじ込まれ、私は額を床にこすり付けてその場を耐え忍んだ。

「レーナ、見てはいけない」

 ナイス、村長!


「正解はワイバーンに乗って、レーティッシュ城とこの村を一時間で往復した、でした」

 

 『私は家出をした悪い子です』と書かれた木札を首から下げさせられ、レーナが死んだような眼で見守る中、正座のまま私はアリシアの説教を小一時間聞かされていた。

 ワイバーンとか知らないよ。空路一直線で片道三十分とか知るワケないじゃん!


「エレン、貴方の気持ちは分かります。ですけれど、どうしてその気持ちを陛下に言わないのですか? 陛下なら分かってくれると思いますよ」

 私の家出の理由――政略結婚。

「ウチの台所事情は知ってるけど……顔も知らない様な相手と結婚だけは絶対にイヤ!」

 レーティッシュ王国の近年の財政状況は芳しくはない。

 近い将来に傾いて倒れてしまうだろう。

「だからって、どうして私なの? 第二王位の私なの? 第一王位のお姉ちゃんだって独り身じゃん!? お姉ちゃん24だよ。私と3つだよ。3つでも年下の方が良いワケ? ロリコンなの? 変態なの? 絶対に嫌だよ、そんな人と結婚するの。政略ならお姉ちゃんでいいじゃん!?」

「もしこの場にオルフィア様がいらっしゃったら全殺し確定の発言ですよ、エレン」

「アリシアがここにいるならお姉ちゃんは絶対にいないから大丈夫っ!」

 私の姉――オルフィア=レーティッシュ。私も大概で破天荒姫や猪突猛進姫と呼ばれ、人の事は言えないが、それど度外視しても特殊だ。

 初めは趣味から始まった洋服作りが度を越えて、城で働く侍女全員の衣装を作ってしまい、果ては自分の分の衣装まで数パターン用意して普段着として使用し始める。そこから趣味は掃除へと移り……今ではレーティッシュ王宮の侍女長として、新人教育からシフトの作成及び管理、来客対応から来客マニュアルの作成及び改善まで全て楽しそうにやっているのだから。

 そしてアリシアがいるなら絶対にいない理由。アリシアは副侍女長であり、二人が出払えば王宮で指示を出す者がいなくなってしまうからだ。

 催事では入念にシフトの調整を行い、最悪の場合、いつでもアリシアが動けるような段取りを組んでいる。が、逆を言えば『アリシアが動いてる時はオルフィアは王宮に居る』という事になる。

 私の名推理に抜け目はない!

「確かにオルフィア様はいらっしゃいませんが……私か報告するという発覚口がある事をお忘れでは?」

「……堪忍してつかぁさい」

「どこの人ですか! 少しは王女らしい立ち振る舞いを普段からしてください! あの子を見なさい、完全に死んだ魚の目をしていますよ」

 アリシアが指さす先にはレーナの姿があった。死んだ魚の目をしてボォーっと、こちらをその光の無い瞳に映していた。

「もう大分前からだよ! 手遅れだよ!」


「そんなのおかしいよ!」

 私とアリシアのやり取りに突然割り込んできた声。レーナだった。驚きを隠せず、レーナの方に二人揃って顔を向ける。

「国のためだからって好きでもない人と結婚するなんて間違ってるよ!?」

「れ、レーナ、よしなさい。他所の国の事なんだから」

「お父さんは黙ってて! そんなんだからお母さんに愛想尽かされて逃げられちゃうんだよ!?」

 思いがけず聞いてはいけない事を聞いたような気がした。

「エレンティアお姉ちゃんは結婚したくないんでしょ?」

「顔も知らないし、会った事もないし、詳しくも知らないの三拍子揃ってる人となんて絶対に無理」

 私は両手を交差させてバツ印を作って断固拒否の姿勢を示す。


「と、言った感じで帰宅を拒否されました」

 うぬぬ、と頭を抱えるレーティッシュ王を前に報告を述べたアリシアは溜息を漏らす。

 国の財政難。

 一国の王女が政治の道具とされるのはよくある話だ。

 エレンティアもその事は重々承知で覚悟もしてきたはずだ。だが、実際に自分の番となって足が竦んでしまったのだろう。

 アリシアとしてもエレンティアが幸せにならない婚約は認めたくはない。幼馴染で専属侍女であったとしても一介の使用人でしかない。国の政治に、他所様の家の事情に口を挟む権利はない。

「姫様の着替えを届ける事となっておりますので、私はこれで失礼致します。何か、姫様に伝言等はありますでしょうか?」

 国王からの返事は無い。

 沈黙を返答して受け取ったアリシアは一礼をして、謁見の間を退出した。


 謁見の間を出たところでメイド服姿のオルフィアが大きなカバンを手にニコニコとほほ笑んでいた。

「妹が家出したというのに、どうして楽しそうなのですか?」

「だって、あの子が初めてお父様の言葉に反抗したのよ? 姉としては応援してあげたいわ」

 私だって望まない結婚は嫌だし、と付け加えたオルフィアからアリシアはカバンを受け取る。見た目以上の重量にアリシアの両手は地面に向かって引っ張られ態勢を崩しかけだが、踏ん張って何とか態勢を保つ。

「そうですね……破天荒で無鉄砲な性格してますけど、昔から約束とかは破らない子ですからね」

 ですが――と、アリシアはため息交じりに言葉を繋げる。

「身一つ、ボート一隻で飛び出すのは辞めて欲しいものです。下手をしたら死んでいたところですよ」

「その点は帰ってきたらきっつーいお説教しないといけませんね」

 オルフェアの背後に鎌を持った死を司る何者かの姿が見えたような気がしたが……気のせいだろう。

「では、私は姫様にカバンを届けたあと、ドラグニール国王に事のあらましを説明して参ります」

「確かに説明しておかないとマズイわね。それなら説明役に公爵の誰か連れて行った方がいいかしら?」

「いえ、あの方の場合は私一人の方が良いかと……」

「あー、それもそうね。なら、お願いするわ。アリシアに限っては有りえないだろうけれど、くれぐれも失礼の無いように……まあ、失礼された方が喜びそうなものだけどね」

「……ええ。行って参ります。帰りは、恐らく明日になると思われます。そして明後日は休暇を頂ければと……」

 アリシアは肩を落としてとぼとぼと城の外に用意してある馬車へと向かった。

 長い夜になりそうだ、と覚悟を決めて。


 アリシアの気苦労を知る由もないエレンティアは、レーナと連れ添って村の周辺の探検を満喫していた。


 辺境の村はドラグニール王国の南の端にある村で、人口は一〇〇人程度。主な産業は漁業と農業。特に農業は水はけの良い土や安定した気候等の好条件が重なっている事によって非常に品質の良い品が生産されている。レーナが持ってきてくれた果物も全て村で生産されたものらしい。

 私はレーナと並んで整備された海岸沿い街道沿いを歩く。

「あっちの温室では年中パイナップルが作られてるんだよ」

 喜々とした笑顔を振りまくレーナが次々と立ち並ぶ施設やそこで生産されている物について教えてくれる。

「辺境って言ってる割には温室や用水路なんかはしっかりしてるのね」

「この村で農業はライフラインそのものだから力を入れるのは当然!」

 容姿に反して似つかわしくないレーナの態度に、

「ねえ、レーナって幾つなの?」

 冗談交じりで私は言葉を投げたのが運の尽きだった。

「? 今年で七二歳だよ」

 一瞬、不思議そうな顔をしたレーナは、さぞ当たり前の様に耳を疑う言葉を、その可愛らしい小さな口から紡いだ。

「今何て?」

「だーかーらー、ななじゅうにさい、だよ」

 七二歳。72.ななじゅうに。

 どうやら、私の聞き間違いではないようだ。

「もうレーナったら、いくら私がお姫様だからって世間知らずってワケじゃないわよ? 流石に騙されないわよ」

 レーナの容姿は一〇にも満たない少女そのものだ。二つや三つなら騙されるかもしれないが、七十二という数字は笑い飛ばしてしまうレベルだ。

 大人をからかうには稚拙過ぎる。

「??」

 一方でレーナは腕組みをしてしばしば思考してから、ポンと掌を拳で叩いた。

「もしかしてエレンティアお姉ちゃん気づいてない?」

「?」

 今度は私の方が首を傾けて頭の上に『?』マークを浮かび上がらせてしまう。

「私、ドラゴンだよ?」

「またまたぁ、お姉ちゃん、そんなウソには騙されないわよ?」

 アッハハと私とレーナは揃って大きな口で笑う。

 途中で笑うのを辞めたレーナは両頬をぷっくり膨らませて目を閉じると、レーナの身体から淡い光が漏れだす。

「え、え?」

 次第に光は大きくなり、レーナの身体を包み込むと――

「ガーオー」

 次の瞬間、可愛らしい声と共に家屋ほどもあるドラゴンが私を見下ろしていた。

「信じた?」

 暗転。ぱたり。

「あれ? お姉ちゃん、エレンティアおねーちゃーん!」


 可愛いレーナが見上げる程のドラゴンになった悪夢を見た。

 青い空と眩しい太陽、そして褐色のドラゴンの顔が視界に飛び込んできた。

「あ、気が付いた! お姉ちゃん大丈夫?」

 その褐色のドラゴンの口から容姿に似つかわしくない可愛らしい声が紡がれてくる。

 紛う事なくレーナのものだ。

「……夢じゃないのね」

「んーもう、だから言ったじゃん。ドラゴンだって。まあ、ドラゴンっても私はワイバーンなんだけどね」

「へぇ……」

 私は受け入れがたい現実に乾いた返事を返す。

「最近、また大きくなったんだよ。凄いでしょう」

 手と一体化した翼を嬉しそうに動かし、風邪を巻き起こす。

 レーナにとっては少し腕を振ってる程度なのだろうが……私は吹き飛ばされない様に近くに木にしがみ付くので必死だった。

「れ、レーナ。元には戻れないのー?」

 突風に負けない様に私は大声でレーナに呼び掛けると「もういいの?」なんて呑気な返事をして、レーナの身体は淡い光に飲み込まれて、光が収まると可愛い少女の姿に戻っていた。

 私はホッと安堵して、しがみ付いていた木から腕を離して立ち上がる。乱れた髪を手櫛で簡単に直して、さて本題――


 ドラゴンとは鋼の様な堅い鱗で覆われた爬虫類に似た生物。基本的に長寿であり、知能も非常に高い。繁殖能力は非常に低い。それが私が知る限りのドラゴンという生物の生態だ。

 レーナの話によれば、この辺りのドラゴンは進化の過程で人化……人間の姿に変身できる様になっているらしい。

 大きな理由としては二つ。

 一つは人間との共存をより円滑に行う為。体格差や姿の違いというものは色々とデメリットが多かったらしい。

 もう一つは、コストパフォーマンスの問題。元々のドラゴンとしての姿では、それだけ巨大な肉体を動かしている為にエネルギーの消費も大きかった。人型であれば動かす肉体が小さくなるので消費されるエネルギーも抑えられるという事らしい。

 人間は人間で不自由しているが、ドラゴンもまた同じように不自由な生物らしい事だけは理解できた。

「でも、七十二歳なら十分な年齢じゃないの?」

「まだまだ子供だよぉ。ワイバーンの平均寿命は七〇〇~八〇〇歳だから、私は人間で言えば九歳くらいかなぁ」

 それでも私の三倍は長生きしている。

 今更感はあるが、やはり、敬語を使うべきなのだろうか?

「ああ、でも、今まで通り接してね! 変に気を使われたりするの嫌いだし……」

 年の功と言うべきか、心を読んだかのようにレーナに釘を刺されてしまった。

「分かったわ。それじゃ、もう一つ聞きたい事があるんだけど」

「なに?」

「この国には人化してるドラゴンが沢山いるって事?」

 人間とドラゴンが手を取り合って成り立っている国ドラグニール。毎年、年に一度は訪れている国だがドラゴンが人型になっているとは知りもしなかった。

「んー、いると言えばいるけど、全体でどれくらいかって言われると、ちょっと分からないかな。でも、ウチの村では私とお父さんと出て行ったお母さんの三人だけだよ」

 なるほど。

 つまり、レーティッシュ王国まで飛んで、アリシアを乗せて帰って来たのは村長だという事か。

「あとこの近くでドラゴンと言えば……始祖様かな」

「始祖ってドラグニール? こんな辺境に?」

「そうそう、ぐーたらドラグニールいるよー」

 国民にさえ『ぐーたらドラグニール』と呼ばれる人望の厚さ。

「ぐーたらしてたら怒られて、妹に玉座奪われて、こんな辺境に追いやられちゃったんだよねぇ」

「えっと……自業自得ね。ごめんなさい、こんな言葉しか出てこなかったわ」

 自国の財政難から政略結婚をさせられそうになり逃げてきている自分が人の事をどうこう言う筋合いはないのだが……しっかりしなよ始祖様!

「いいのいいの。あのヒトは遊び人を絵に描いた様なヒトだから……王族って人もドラゴンも変わらないんだね」

 レーナが虚ろな瞳で視線を落としてため息を付いていた。

 もしかしたらレーナは王族や貴族といった高貴な身分に憧れを抱いているのだろうか?

「エレンティアお姉ちゃんも侍女に足蹴にされてたし……」

「あの子は違うというか、特別なのよ! そう! あの子は侍女である前に幼馴染で友達なのよ!」

「友達同士でも頭を踏みつけるなんてしないよ……」

「ああ、もう! レーナ帰ってきてぇ! そうだ! ドラグニール様のところへ行きましょ。ご挨拶しておきたいし、さあさあ」

 王族や貴族への憧れを打ち砕かれ、現実逃避をしているレーナの背中を押して無理やり始祖ドラグニールの下へと出発した。

「……王族なんて幻想」


 陸路でドラグニール王国へと向かっていたアリシアは、道中で連絡を受けて飛んできたワイバーンーー村長にエレンティアのカバンを預けて直接、王都へと向かう事となった。

「気が重いです」

 予定では辺境の村で向かい、夜に王都に到着して、可能な限り王城での拘束時間を短くする予定をしていた。

 出立前に陛下の予定を聞いたのが失策だった……アポなしで突撃するのが正解だった。

 馬車に揺られるアリシアは、死刑執行を目前に控えた囚人の様な心境で山間の影から除く王都の一部を眺めていた。


場所は変わって隣国タリアフェルト王国。

「ヴァルトヘルツ様!」

 血相を変えた兵士が執務室の扉を突き破る様に部屋に飛び込んでくる。肩で大きく息を繰り返し、過呼吸気味になりながらも執務机の上に一枚の手紙を置いて、床に崩れ落ちた。

「まずは飲め」

 ポットから水をコップに汲み、床に崩れ落ちている兵士の身体を支えてやりながら口元へコップを運んでやる。兵士は一気に水を飲み干すとゆっくりと深呼吸をして動悸を整えていく。

「あ、有難うございました」

「気にするな。貴重な兵の命をこんなところで失いたくはない。それでこの手紙がどうかしたのか?」

 俺は手紙の封を開きながら、兵士に慌てていた理由を尋ねる。

「それが……エレンティア王女殿下が家出なされたそうです」

「なん……だと」

 手紙の中身は兵士が口にした家出の原因と現在の居場所が記載されていた。差出人はオルフィア=レーティッシュ。直筆のサインもあり、間違いのない情報だろう。

「俺との結婚が嫌で家出……すぐにドラグニール王国へ向かう! 馬の準備を!」

 兵士が敬礼をして部屋から飛び出していく。

「ん?」

 手紙の裏面に何か書かれてある事に気づき、裏返して広げてみる。 

 それは用紙の右下に一文だけ書かれていた。


 追伸 あの子を振り向かせられない様じゃ、お父様が許しても妹は渡さないわよ?

恐らく3話で終わります!

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