どどーんとお城ですよ-①
「ディシャスばいばーい」
「ぎゅぅるぅ」
行っちゃうの?と淋しそうな声を上げる。
か、かわゆいなぁ!
お姉さん最後のスリスリしてから、フィーさんの横についたよ。時間ないらしいからね。
ディシャスは名残惜しそうに僕を見てから、獣舎に向かって歩き出していった。
「さぁて、走らないとね?」
「しゃーねぇよな?」
なんですとぉ⁉︎
ここからお城まで走るの!
そこそこ距離があると思うのですが。
「ちみっこは俺が担いでやるよ」
「へ?」
と言ってる間に、エディオスさんは『ほら乗れよ』と腰を落としておんぶポーズ。
えっと……イケメンさんの背に乗れと?
いいのかなぁ?
「いいじゃない? 甘えたら?」
「はぁ……」
フィーさんも促すので、もうこうなったらとお邪魔することにした。
お兄ちゃんに今くらいちっこい頃以来だよ。
でも、エディオスさんはその倍以上ガタイがすごいよ。僕なんか本当にちんまいもの。肩甲骨辺りで顔埋まっちゃった。
「んじゃ、フィー先行けよ」
「はいはーい。じゃあ、行くね」
とフィーさんが言うや否やビュンと風が唸った気が。
なんだ?と横から覗いてみると、フィーさんの姿はもうなく、遙か彼方に黒い影がぽつりと。
えっ……あれってフィーさん?
もうあんなとこ⁉︎
「フィーに担がせねぇで正解だったな?」
やれやれと呆れた様子。
エディオスさんはああなるのがお分かりだったので、僕を担ぐのを買って出てくれたようだ。
ありがたき幸せです!
巨大樹前でもだけど、あんな猛スピードで走られちゃったら酔うよ。手加減してくれてるようでしないもんね、フィーさんって。
「んじゃ、俺らも行くか?」
「はい。お願いします!」
「っし」
たっ、とエディオスさんが駆け出した。
速いけど、フィーさんの爆走に比べたら全然緩やかですよ。快適快適。
それでも体勢が変わらないように、エディオスさんのマント掴んでおります。焦げ茶の皮マントですよ。初めて見たぁ、こう言うの。
しばらく無言のまま走られると、『ん?』とエディオスさんが声を溢したよ。
何々?と僕も横から覗いてみると、フィーさんが門前に立って腕組みをしていたよ。
あれぇ? そこで終着点ですか?
「どうした、フィー?」
ちょっと手前でエディオスさんが止まると、フィーさんが小さくため息を吐いた。
「いくら『神』でも、無断で上がる訳ないでしょ?」
「って、おい。俺がいる時は問答無用でズカズカ入るクセして?」
「今日はこの子の保護者としてだからね。節度は弁えるよ?」
「どーゆー風の吹き回しだ?」
なんかいつもとは違う様子のようですね。
とりあえず、僕はそこで降ろしてもらい、トコトコとフィーさんの隣に並びました。
って、思ったんですが。
「誰もいないですね?」
お城の門前なのに、誰もいないですよ?
こう言うとこには門兵とかがいるんじゃないんでしたっけ?
「ああ。ここは裏門だからな? 夜になれば、一応守りにつくことになってるぜ」
「昼間はいいんですか?」
「全くないわけじゃあねぇが、ちょうど交代と打ち合わせだろうよ」
「そこにいるのは誰だっ!」
「ぴっ!」
エディオスさんと話してたら、門の向こうから誰かがやってきた。
って、今言ってた兵士さんかな?
そろーっとフィーさんの脇から覗いてみると、やっぱりそんな感じだった。
銀色の甲冑に赤いマント。
ちょっとばっかし、映画に出てくるような兵士さんと被ったよ。あんまり見たことないけどさ。
そんな格好した兵士さんが4人ほどやってきた。
ん? なんか不穏な雰囲気が。
「こんな夕闇に混じって……って、へい、ぶぉ⁉︎」
お? 手前の兵士さんがいきなりぶっ飛んだよ?
しかも運悪いことに後ろで一列になってたから他の兵士さんも巻き添えに。
あららぁ。
「夜半じゃねぇが、それで今呼ぶんじゃねぇよ」
あれ、エディオスさん不機嫌そう。
手にはいつの間にか剣を握っていらっしゃる……って、今の攻撃らしきものってエディオスさんが?
どーしたんだろ?
「も、申し訳ありません……」
「ったく、フィーとこいつが居たから手加減してしてやったが、もうちょい視認でも相手の様子見定めろよ。俺くらいすぐにわかれ」
「「「は、はい‼︎」」」
おお、なんか時代劇っぽい。
欧米のだけど、主人が部下の養育するって感じみたいに。
でも、エディオスさん何者だろう?
ガタイがすごいし、騎士かなぁ?
素行は荒いけど、優しいし。
「悪りぃな。騒がしくって」
「いいえぇ」
怪しい者がいたら警戒するもの。仕方ないよね。
兵士さん達はまーだ跪いたまんまだけど、エディオスさんが許可しないと立たない感じかな?
彼のが上司だって言うのはわかったけど、職務いいのかなぁ?
ともかく、エディオスさんは僕とフィーさんを伴い、中に入ることになった。
兵士の横を通った時にフィーさん笑ってたけどなんでだろ?
「目立つと面倒いから、裏口から行くぜ」
それと、とエディオスさんは剣を柄に戻すとその手で頭の上を軽く振った。
すると、髪色が特徴的な緑色から一変して藍色に変化しましたよ。
わぁぉ、魔法ですか?
エディオスさんも使えるんだ。
「って、ちみっこのも目立つよな? 変えるか、フィー?」
「いいんじゃない? 君の後ろに隠れる形だから正面からじゃ見えにくいし」
「それもそーだな?」
あれ、僕も色変えたほうがいいの?
普通に黒髪黒目だよねぇと思って、髪見たら……純金化しておりました。
なんですとぉ⁉︎
「ぼ、僕の髪っていつからこんなんにぃ⁉︎」
「あれ、ちみっこ元々その色じゃなかったのか?」
「姿見で見てなかったし、そんなに長くないからピッツァ作りで夢中になっていたしね?」
言ってくださいよ、フィーさん!
僕は日本人ですよ!
遺伝操作されたの、これぇ⁉︎
ん? 操作ってそう言えば……。
「フィーさん! これって僕の身体を物質へ」
「ううん。最初っからその色だったよ?」
「なぬ?」
元からこのまま?
いやいや、僕は純日本人ですよ。黒か茶以外でこんな色になりませんよ。
「まあ、なんでもよくね? それよか、早く行こうぜ」
エディオスさん気にして気にして!
僕はただの一般ピーポー。
フィーさんどーにかしてくださいよ!
「いいじゃない? 可愛いし、女の子らしいじゃん」
「そ、そーゆー問題では」
職場の関係で染めた事はないけど、実は密かに憧れてはいた。
こんな形で叶うとは思わなかったが、でもやっぱり違和感あるじぇ……。
「おーい、そろそろ行くぞ?」
「うぇっ」
そーでしたよ。
僕の名前のために、ある人を探さなきゃいけないのでした。
仕方ないので、エディオスさんの後をついて行くことにしました。
「今どこだろーね?」
「執務室にはいねぇなぁ」
「おやどーして?」
「どっかの奴が俺をいきなり呼びやがったから、城内でうろうろしてんだろ」
「あららぁ?」
フィーさん、楽しんでますね。
そしてお二人とも、僕を挟んで会話せんでください。居た堪れない状況ですよ、これは!
「っと、そーなると下手に歩いてても意味ねぇなあ? ひとまず、俺の部屋に行くか」
「さんせーい」
「お部屋?」
宿舎とかかなぁ? なんか小説で読んだような……でも、この廊下の様子見てると違う気がする。
だって、段々と絨毯の度合いが増えてきたよ!
あの、エディオスさん本当にどーゆー方ですか⁉︎
さっきの兵士さんも跪く感じだったし……まさか、将軍様とか?
いやいや、もしくは貴族様だからお城の上位の場に部屋があるかもしれないね。
「あ、へいーーぶふっ⁉︎」
「へ?」
「お?」
いきなり前方から誰か来たと思ったら、その人が吹いたよ?
って、覗いてみるとエディオスさんが、グレーの服着た人の顔面に拳かましてましたよ!
ちょっ、何してるんですか⁉︎
その人は、そのまま後ろに倒れてしまい、床にどうんと横たわってしまった。
「あのー、兵士さんの時と言い、エディオスさんこのお城で攻撃しまくっていいんですか?」
「不用意に役職口にされたくねぇんだよ」
おや、やっぱり高位の御人ですかな?
でも、僕にあんまり知られたくないのかな?
フィーさんとはずっと知り合いだろうから、違うでしょうけど。
「あ、痛た……何故いきなりこんなことを」
あ、起きたみたい。
顔を見てみるとそんなに腫れてないから、一応は加減してたよーです。
でも、痛いものは痛いよね。
「ちっ、もうちぃっとぶちかましとけばよかったぜ」
おいおいエディオスさん。
この人になんか恨みあるの?
あ、もしかして探してた人ーーではないね、うん。
そーだとしたら、こんな態度取るわけないない。
「物騒なことをおっしゃらないでください!」
殴られたお人、顔が青ざめちゃった。
いやぁ、そりゃ嫌だよね。痛いものは誰だって嫌さ。
ただ、エディオスさんをもう一度見ると、ばって体を起こして跪いてしまったよ。
あれぇ? さっきもあったけど、この人もエディオスさんの部下さん?
「何故御髪を……いえ、それよりも宰相閣下がずっとお探ししていらっしゃいましたよ」
「そりゃわーってら。見かけたか?」
「あ、はい。先ほどは調理場辺りで……それよりも、いったいどちらに? 閣下は元より昼過ぎから皆で探しておりましたが」
「場所はあいつに聞いてなかったのか?」
エディオスさん、書き置きもせずにそのまま出てきたのかな?
ところで、さいしょうってなーに?
役職はさっぱりわかりませぬ。
フィーさんに振り返ると、しーって人差し指を口元に立ててた。どーやら教えてもらえないようだ。
「はい。閣下は……何かの書簡を握り締められていてあちこち行かれてましたが?」
「あ? おっかしぃな? フィーのとこに行くって残したはずだが……適当に書いたせいか?」
「はぁ……」
グレーの服着たお兄さん呆れた模様。