LETS ピッツァ‼︎-②
洗い物は少しして終わり、フィーさんと一緒に拭きました。
さてさて、発酵時間はまだあるので今のうちに具材作りだ。
「このお野菜こっちではなんて言うんですか?」
「トウチリンだよ」
どんな由来なのだろうか?
パプリカもといトウチリンなんかの野菜を洗ってからスライスし、ボウルに移す。
プチトマトもとい小さいマトゥラーも半分にカット。
新タマもとい新アリミンもスライスします。
これをジェノベーゼソースに乗せて焼くと美味しいんだよね。おっと、涎が出そうになった。
水菜もどきもカットします。
せっかくだから、マリナーラも作ろうと思ってね。
ニンニクとハーブも良いけど、水菜も乗っけると口当たりが良いんだ。オレガノっぽいハーブも見つけてありますよ、乾燥してあるの。
本当に何でも揃ってるね。
それと、
「このカッツ美味しいですねぇ」
ナチュラルシュレッドみたいな風合いだけど、見た目モッツァレラみたいに白いんだよね。
出来れば使い切って欲しいというフィーさんのお言葉に甘えて、ピッツァに乗りやすいようにカットしていきます。
途中、フィーさんと一緒に摘み食いしちゃったけどね。
「ねえ、生地もうそろそろいいんじゃないかな?」
「あ、そうですね」
布巾を少しズラすと、大分膨らんでいた。
膨らみ具合から、もう頃合いだと見計らい、一気に拳を使ってガス抜きをする。
「へぇ。結構潰すんだ?」
おや、パンでもする工程だけど?
あんまり強く押しつぶさないのかもね。
それよりも、僕は生地に集中しなくてはいけない。
潰した生地を10個に配分し、台に広げると両手でしっかり丸める。
丸めた生地を台の端に寄せて、これからが本番。
「フィーさん、ちょっとだけ離れててください」
「うん?」
僕が今から何をするのかわかんないみたいだ。記憶はそこまで読んでいなかったかもしれない。
小さい身体でいつも通り出来るか少し心配だけど、やるしかない。
「少し広げてっと……」
生地を少し丸く均して、右手に持つ。
それから、
「よっと」
「おお?」
ぽんっと僕が宙にそれを浮かせると、フィーさんが歓声を上げた。
上手くいきそうかも。
生地がもう一度手に戻る瞬間を狙い、両手を上に向かせて中央に滑り込ませる。
そしてくるくると回しながら広げていくのだ。
「すっごいねぇ」
ぱちぱちと拍手してくれるフィーさん。
えへって僕も声をこぼしちゃったけど、今は生地優先だ。
上下左右均等に広がったのを確認してから台に戻す。
「生地はこんな感じです」
「随分薄いんだ。記憶読んだ時はちょっと膨らんでいたけど」
「焼いたら少し膨らみますね」
「ああ、あの石窯ね?」
他の火はもう消してあります。
石窯の火はぼうぼう燃え上がってるけど、手前で焼くから多分数十秒で焼けるかも。
と、ここで一つ問題が。
「ピールがない……」
「ピール?」
焼くにも専用のヘラがないですよ!
あれないと取り出し出来ないのに……しょーがないので、フィーさんに記憶読んでもらいます。
「おっきいヘラだねぇ?」
「取り出しや入れ込みに使うんで……」
「ないものはしょーがないけど、今回は僕が精製してあげるよ」
「え?」
せいせい?
作ってくださるということですか、魔法で。
便利です。
フィーさんは右手を高く上げると、掌の中が白く光り出しました。
「§※∇★⌘」
やっぱり何言ってるかぜーんぜんわかんない。
でも、そうこうしているうちに、あれよあれよとピザピールが出来上がったよ。
新品同様に、先の銀色がまぶしいです。
「こんな感じかな?」
「十分です」
ならばトッピングにいきましょう。
あらかじめよけて冷ましておいたトマトソースをスプーンですくって、生地の上でのばします。次にカッツとヘルネを乗せてこれで終わり。
「これだけ?」
「最初は、ですけど」
マルゲリータだから、これだけで良いのです。
これを作っていただいたピールの上に乗せて、石窯に投入。炎の手前で焼きます。
「すぐ焼けちゃうので、お皿いいですか?」
「いいよ。大き目のね?」
言うなり、ひょいと魔法でお皿登場。
その間にもう焼けてたので、僕はピールでピッツァを軽く回しながら取り出す。端の生地を炙る為です。ポイントですよ。
カッティング用のピザカッターがないので、ここは包丁で。8等分に切ります。
「いい匂いー……」
文字通り、フィーさん鼻をヒクヒクさせていますよ。
僕もチーズの香ばしい匂いでお腹鳴りそうです。
とにかく、冷めないうちにお皿へピッツァを移します。
「これどうやって食べるの?」
「基本は素手ですけど、フォークを使う人もいますね」
僕はもちろん素手だけどね。
と、ここは許可を出してくださったフィーさんからです。
「熱いから気をつけてくださいね」
「うん。いただきまーす」
「お、うまそっ」
ホワッツ?
今別の声しましたけど?
思いっきりひっくい美声でしたが。
なんだなんだとフィーさんに向き直ると、彼の後ろに背のたっかい青年がいました。
んでもって、フィーさんが手にしようとしてたピッツァのピースを奪い取り口に。
っておい⁉︎
「エディ⁉︎」
「お、うっめ。何これすっげー美味いんだけど」
絶賛どうもです。
じゃなくて、この人がエディさん?
呼び名無茶んこ可愛いですが、見た目ゴツい男の人です。イケメンですが。
「エディ……まーた人の家に勝手に上がりこんでっ」
「わーるいって。けど、腹減ってたし美味そうな匂いしてたからつい、な?」
「ついじゃなくてだねぇ……」
怒りをあらわに、フィーさん腰に手を当てております。せっかくのピッツァ食べられちゃったのか、大分怒っていますね。
僕もちょっぴりショックですしね。一番に食べてもらいたかったもの、ちょっと一緒に怒りましょうです。
ぷぅっと頬を膨らませていると、エディさんと言う青年は手についてたソースをペロリと舐めていた。
ーーー……なんか、エロいです。
恥ずかしいから言わないでおこう。
「っかし、うめぇな? フィーが作ったように見えねぇし、そこのちみっこがか?」
「ちみっこって……」
僕ですか?
まあ、物質変換したからって小学校低学年サイズの身体。ちみっちゃいっちゃそうだけど、なーんかムカつきます。
「僕が『ちみっこ』で悪かったですね」
「あれ、その声の感じ……お前、女か?」
「ほぇ?」
一発で分かった模様です。
幼少期じゃ身体つきが男女わかりにくいので、声で解ってもらえたようだ。って、僕って言い続けてたから女って解ってもらえなかったかもね。
フィーさんも目ぱちぱちしちゃってるし。
「女の子って……そー言えば記憶見たのに忘れてたね?」
「フィー、女にこんなうめぇもん作らせたのか?」
「とりあえず、居候になるからね。出来る事はしてもらわないと」
「ふーん」
と、すかさず二枚目を取ろうとしたエディさんにフィーさんがぱちんと手を払い除ける。
見事です。音がね。
「って」
「だーからって、呼んだのはこっちだけど、君がそれ食べまくろうとするのはいただけないね? この子が僕の為に作ってくれたんだから」
「だってうめぇしよ」
どーやらいたく気に入ってもらえた様子。
それはいいことだけど、たしかにこのマルゲリータはフィーさんのだ。もとい、味見用だしね。
とりあえず、2人の喧騒に巻き込まれないようにその皿を避けておこう。言い合い始まっちゃったから。
「この腕だったら、うちに連れてってもなんら遜色ねぇ」
「あのねー、見つけたのは僕なんだし、ここに居ていいかって聞いてきたのあの子なんだからだーめ」
「なんだよ、ケチだなぁ?」
「気に入ったものは手放したくないタイプなのさ」
「お、とうとう嫁決めたのか?」
「それとは違うよ。妹みたいなものだね」
あれ、後半意気投合してないですか?
って、フィーさん奥さんいないんだ?
美少年なのにもったいない。
と言うか妹枠ですか僕は。
「と言うか、せっかくの焼き立て食べ損なっちゃうから」
と言って僕のところにやってきて、マルゲリータを1ピース持ち上げた。
そのまま口元に持ってって、はむっと頰張る。
「ーーっ、美味しいっ‼︎」
「良かったです」
美少年のきらっきら笑顔いただきました。
恐縮ですっ。
その横からエディさんが腕伸ばしてたけど、見えてたのかまたペシって叩かれてた。
食いっぱじ強いねぇ、このお兄さん。
「フィーのケチぃ……」
「この後も食べれるからいいでしょーが。とにかく、これは僕の。美味しいね、ピッツァって」
「へぇ、変わった名前だなぁ。ところで、お前なんっつーの?」
「うっ」
どーしよ。
挨拶はした方がいいのはわかってるんだけど、いかんせん自分の名前が現状わからないのです。
が、
「エディ。自分が先だろう? この子の料理に先に手出したわけだし」
フィーさんが割り込んでくれました。
ちょっと感謝ですっ。
「まー、それもそうか?……俺はエディオス=マルスト=セイグラム。エディでも好きに呼びな?」
「じゃあ、エディオスさんで……」
気軽に愛称は呼べねぇですよ。
フィーさんは別です。呼びにくいのもあったもので。
で、ですが。
「あの、初めまして。名前が、その……フィーさん曰く、封じられててわかんない状態です」
「封印、だと?」
ふざけた表情が一変して、険しい面持ちに。
ちょいとこぇえですよっ!
今気づいたけど、彼の緑色の短い髪が乱雑に逆立ってます!
思わずフィーさんの後ろに回って服の裾掴んじゃったよ。
「おやおや、大丈夫?」
フィーさん呑気ですねぇ。
まーだマルゲリータ頬張ってるよ。
そんなに美味しかったのかな?
じゃなくって、目の前っ! 目の前に気づいて。
「フィー、お前が解けねぇ封印って厄介じゃねぇのか?」
まだ若干髪が逆立ってるエディオスさん。
呑気にピッツァ食べてるフィーさんに近寄り、ずずいっと顔を覗き込んできた。
ヤーさんですか、エディオスさん?
フィーさんはと言うと、最後の一切れを頬張ってから皿を卓に置いた。
「うん。蒼の兄様んとこの世界から来たってのは辿れたけど、そーいったのはてんでわかんなくてね。呼び名も無闇につけれない状態」
「は? こいつ異邦人?」
「そ。まあ、今は物質変換したからこちらの住人になってもいるけど」
「神のお前の領域にどーやって……」
うわーん。ツッコミにくいから閉口しているしかないよぉ。