カッツクリーム(クリームチーズ)解禁!-①
砂糖とクッキーにパルル(ホワイトチョコ)に薄力粉、バターに卵にコアントロー的なリキュールや生クリーム。あとコーンスターチに似た粉もあったから驚いたな。探せばアーモンドプードルも出てきたりして。
ファルミアさんはパルフェ(ヨーグルト)から僕が作ったようにクリームチーズ作りから準備に入られた。
マリウスさんやライガーさんには僕に教えてくれたようにクリームチーズの需要のことはお伝えしたよ?
そしたら、
「ならば、我が国で作るのも問題なくなりましたね」
と言うことで、ファルミアさんのクリームチーズ作りを見学されています。
作り方は超簡単。
パルフェを限界値まで水切りするだけ。
普通じゃ数時間から一晩はかかる方法だけど、ここは魔法や魔術が行き交う世界。
使えるものは使うべきなのです。
だから、キッチンペーパーみたいな紙を笊の上に敷いてパルフェをたっぷり入れるんだけど、水切りは魔術で中の水分を引き出せば良い。
その水切りした時に出てくる液体のホエーは料理やパン作りに使えるので瓶に入れて保存。
「たったこれだけですか?」
「うちやツェフヴァルとかではまた違う作り方だけど、基本はこんなとこよ」
「何故我が国では作られなかったのでしょうか……」
「城下町なんかではひょっとしたら出回ってるのかもよ?」
「時間がある時に練り歩くのも有りですね、料理長」
「私は難しいからお前や中層のイシャール達と行ってきくれ」
「わかりました」
そう言えば、食堂はここだけじゃなくて中層や下層にもあるんだよね。
なんか行く必要がないから限られた場所しか行ってないけど、絶対迷子になるから止めておいている。
だって、戻って来れる自信ないもの。館内図的な案内表示なんておそらくないだろうから。
初日のエディオスさんの案内がなきゃこの区画にも来れなかったしね。
は、頭の片隅に置いといて。
「こっちのパルフェはさっきよりは軽めに水切りすればいいんだったよね」
僕もヨーグルトを軽く水切りさせています。
こっちは完全に水切りせずに適度に水分が残ればいい程度で大丈夫だそうだ。
ただ、普通にしてたら1時間はかかるので魔術で時間短縮。100g程あったのが、半分近くまで減る具合でいいそうな。
「カティ。それが終わったらバターを溶かしてもらえるかしら?」
「はーい」
電子レンジなんてこの世界にはないからお鍋で溶かすしかない。
僕がそうしている間にファルミアさんはパルルを包丁で細かく砕いています
しかも、とっても早い。
「……こんなところね」
「え、もう終わったんですか?」
溶かしバター作るのに5分もかかってないけど、その間にもう終わっちゃったの⁉︎
「クッキーを砕いて土台する方が時間かかるもの」
と言うと、パッと魔術で布袋と麺棒を取り出された。
この世界じゃビニールって素材もないから、それが妥当だろうな。
持ってきたクッキーを袋に入れて、ファルミアさんは袋の上から粉々に砕き出した。
ダンダン!
パキッ、バキッ!
……なんか音だけは普通なんだけど、ファルミアさんのお顔が険しくなっているのは気のせい?
いかにもストレス発散!な感じでクッキーを砕いています。
ちなみにクッキーは普通のプレーンクッキーを使ってるよ。
ある程度砕いてから袋を覗き込んで、荒いところがあれば集めてまた袋の上から砕くを何回か繰り返したとこでこれも準備完了。
魔術で撹拌出来なくもないけど、ファルミアさんはこの方法のが適度な運動にもなるからと言ってました。……深くは突っ込まないでおこうっと。
これをどうするかと言うと、溶かしバターと併せてから型にクッキングシート的な紙を敷いたのの底に敷き詰めて、ギュギュッと押し込む。それが終われば氷室に冷蔵保存しておきます。
この作業は僕が任されて、その間にファルミアさんはパルルの湯煎掛けをしています。
「よし、溶けたわね」
この次は出来たクリームチーズをホイッパーで滑らかにするんだけども、これは既にライガーさんに頼んであったので出来ています。
「このような具合でよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ」
これに卵と卵黄1個ずつをときほぐしたもの、砂糖、生クリームを順に加えるけど、その都度ホイッパーでよく混ぜておく。
すると、綺麗な卵色のクリームが出来上がった。
「これに次はカティが水切りしてくれたパルフェ、オルジェのクァント、パルルを溶かしたのと粉をふるったのを順に入れてその都度混ぜればいいの」
クァントはどうやらリキュールのことらしい。
僕は成人してるけど、今は8歳児サイズの身体だからお酒は飲めましぇん。
と言うのも、一応は子供の振りしてなきゃいけないのと万が一アルコール中毒になっちゃ大変だからと、身体が元に戻るまでは禁酒とセヴィルさんに言い渡されてるからです。とほり。
どうでもいいことは置いといて、出来上がったクリームを濾し器でこすことになった。
こうすると小ちゃなダマがなくなって滑らかな口当たりになるからだって。
「あ、いけない。お湯沸かすの忘れてたわ」
「お湯?」
「これを湯煎焼きするのに使うのよ」
「ほへー」
なんだかクレームブリュレみたいな感じだなぁ?
「カティ、私が準備しておくから型を持ってきてこの液を入れておいてくれる?」
「わかりましたー」
任されましたーってね。
ささっと氷室から型を持ってきて、濾した液をターナーを使って全部入れてます。
んで、使ったボウルやなんかは一旦シンクに浸けておいて後で洗うようにしておく。
竃の方ではファルミアさんが沸いたお湯を天板のようなバットに入れられてた。
「じゃあ、焼くわよ」
その上に僕が型を乗せて、竃のオーブンに入れて焼くことに。
ただここで、
「いつもなら半刻焼かなきゃいけないんだけど、今日はそうしてられないから時間操作するわ」
「半刻って、たしか1時間くらいでしたっけ?」
「本当はあんまりしたくないんだけど、うちの旦那が待ちきれないでしょうから。ただ、蒸し焼きの時はそのままにしておくけど」
どうやるかと言うと、竃オーブンの外側から魔力を送って火とケーキの焼ける時間を早めるそうです。
けど、やり過ぎたらお湯の方が蒸発しちゃうそうなので、僕は術を施してる最中はお声をかけませぬ。
昼間の時フィーさんは簡単にしてたけど、あの人神様だから規格外も当然。
ファルミアさんは5分くらいかけて時間操作に集中されていた。
「はぁ……これでとりあえずいいわ。火は消して予熱で蒸し焼きにすれば、後は冷却魔術で冷やせばいいし」
「じゃあ、僕洗い物してきます」
蒸し焼きには砂時計を使われて、約20分程かかるようだからと僕はシンクに向かった。
洗い物はそんなに多くないからすぐに終わるけど、ファルミアさんは魔術で創った簡易椅子に腰掛けられています。
どうも、時間操作の魔術で少し疲れちゃったようなので。
「悪いわね、カティ」
「大したことないですよ?」
僕も疲れてないわけじゃないけど、急ピッチでヴァスシードから移動されてきたファルミアさんの方がきっと疲れているもの。
それなのに、わざわざデザートを作られるってことになって時間操作の魔術を使ったら、気疲れは半端ないと思うんだよねー……。
洗い物をして布巾で水気を取って、コックさんに場所を聞きながら片付けていけば20分なんてあっという間。
ファルミアさんも砂時計の様子を見ながらお水を飲んだりして休まれてから、ミトン片手に竃オーブンへと向かう。
「久々だけど、どうかしら?」
カチャンと蓋が開けば、もわっと湯気がオーブンの中から湧き出て来た。
熱くないかなぁって心配になったけど、ファルミアさんは全然大丈夫なようで天板ごとケーキを取り出せばうんうんと頷いた。
「上々ね」
「おぉ、ち……カッツケーキですね!」
危うくチーズケーキって言いそうになったのを言い直したよ。
だって型の中には綺麗な焼き目がついたチーズケーキがあったもの。
それを別のバットに入れて、ここからは冷却魔術で粗熱を取って冷え冷えにして、型を取れば出来上がり。
「これで完成よ」
「ぷるぷるだぁ……」
チーズの部分はプリンかクレームブリュレのようにぷるぷる揺れている。
「フォークよりもスプーンが良さそうですね?」
「そうね。どっちかと言えばプリンに近いし」
「あ……ファルミアさんプリンって作られます?」
こそっと聞けば、ファルミアさんはこくりと頷いてくれた。
「ああ、こっちじゃカスタードって珍しいものね」
「なかったんですか?」
「私は前世からよく作ってたから、こっちでも作ってるけどね」
「プリンを?」
「いいえ……シュークリームよ」
なんか間が空いたけど、後に出てきた魅惑的なデザートの単語に僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「シュークリームっ!」
手作りお菓子の中でも難易度がトップ5に入るんじゃないかってくらいの洋菓子。
僕は残念ながら作ったことはないけど、あれは大好き!
「カティもやっぱり好き?」
「本音を言うとエクレアの方が好きなんですが……」
プラスしてチョコカスタードが中身なら言うことなしですよ。
一般的なホイップとカスタードのダブルクリームも好きなんだよね。ああ、思い出したらヨダレ出ちゃいそう。
「じゃあ、ここに滞在させてもらう間に一度は作ろうかしら?」
「いいんですか?」
「ここしばらくは忙しくて作れてないしね。シュークリームもいいけど、エクレアなら私も食べたいし」
なんでもござれなんだ。
前世もだけど、電化製品や既成品が全くないこちらの世界でよく一から作れるのが凄いと思う。
特に火加減を魔術で調整出来たって細かい温度管理なんて難しいですまない。温度計なんて皆無なのにご自分の勘だけを頼りになんとかさせちゃっているもの。
僕なんかが作るピッツアも火加減は大事だけど、あれは焼き加減見たりすればあとは慣れだからそこまでは難しくもない。
専門学校時代の教授やレストランのオーナーシェフに言ったら絶対に怒られるけど、いないからスルーですよスルー。
「まあ、それはまた明日とかに予定は考えるとして。出来上がったことだし戻りましょうか?」
「はい」
まあ、何はともあれ出来立てチーズケーキが食べられるのが先決ですよ!
お皿やサーブは給仕のお兄さんお姉さんにお任せして、僕とファルミアさんは食堂に戻ることにしました。
ホワイトチョコのチーズケーキのレシピは、
Ireneさんよりご提供いただきました。
実際には作ったことないので、想像して書くしかなかったけれどこんなので良かっただろうかとドキドキしています。
打ち合わせはちゃんとしましたが。




