晩餐会ですよ-①
主人公視点に戻りますノシ
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えーっと、僕は今食堂にアナさんと向かってるとこです。
ヒールついたパンプスのような靴は歩きにくいけど、アナさんが合わせてくれながらゆっくり歩いてくれてるしクラウは僕の肩の上でちょこんと座っています。
(この格好大丈夫かなぁ?)
今日は晩餐会だからしょうがないとは言え、僕がこんな格好をしていていいのかまだ自信が湧いてこないよ。
だって、ドレスなんて今の外見の年齢以下の頃にお遊戯会で着たか、写真撮影で着たかってくらいだよ?
「カティアさん、大丈夫ですわよ。とてもよくお似合いですわ!」
僕の心配を他所に、僕以上におめかしされているアナさんは藤色の瞳を輝かせて頬を紅潮させていた。
そんなに興奮する要素ありますかね?
「ふゅ、ふゅぅ!」
こっちもコロネさんの手でおめかしさせられたクラウが薄金の翼をピコピコ動かしながらも、僕に頷いていた。
自信持てってことかな?
けど、君の主人として大丈夫かなぁこれは?
とかなんとか悶々としている間に、早くも食堂の扉前に着いてしまった。
「カティアさんは少しこちらでお待ちくださいな」
と言って、アナさんがちょこっと扉を開けて中に入ってしまい、僕はクラウと外で待たされることになった。
どうしてだろう?
「あれー? カティアにクラウ?」
間延びした少年の声が聞こえてきて振り返れば、個性的な黒いマントに黒装束と言ういつもの格好のフィーさんがいらした。
「フィーさん」
「ふゅ」
「わぁ、2人とも正装? 可愛くていいじゃん!」
「あ、ありがとうございます……」
この神様お世辞はあんまり言わなくてほとんど本心からの言葉だから、こそばゆく感じてしまうよ。
「でも、なんで中に入らないの?」
「アナさんからちょっと待っててほしいと言われたので」
「ふーん?」
と、フィーさんは首を傾いで横目で扉を見た。
すると、ふふって口元を緩めて顎に手を添えられた。
「なるほど、そういう事か?」
「え?」
「カティアは呼ばれるまでここに居て。僕は先に入るけど」
「ええ?」
まったくにもって意味がわからんですよ。
けれど、フィーさんはアナさんと同様に扉をちょこっと開けて中に入ってしまい、僕はまたクラウと2人ぼっちにさせられた。
一体中では何があるんだろうか?
フィーさんはなんとなくわかってるような感じではいたけど。
「皆さん全員いるのかな?」
エディオスさん、セヴィルさんにヴァスシードからはファルミアさんとその旦那さんの国王様。
名前は、えーっとたしかユティさんとかリースさんとか愛称で呼ばれてたけどちゃんとしたお名前なんだったっけ?
あとは、ファルミアさんのしゅごようのしきょうの皆さんも居たりするのかな?
とここで、扉がキィっと開いてアナさんが顔を出してきた。
「お待たせいたしましたわ」
「え……っと、なんで僕達が外で待つ必要があったんですか?」
「その素晴らしいお姿を拝見する御覚悟をしていただくのに、少しばかりご説明させていただいたんですの」
「はい?」
まあ、コロネさんの手でお化粧や髪もいじられていつもとは違う雰囲気になってるのはわかるけど、初めて会う人もいるからそこまで大袈裟なことじゃないと思うんだけどなぁ?
とりあえず、僕は一度深呼吸してからドレスの裾を摘んでアナさんに促されるように食堂の中へ入っていく。
「お待たせいたしましたわ皆様」
体が小さいのってこういう時得だよね。
アナさんの後ろに隠れてじっとしていれば、クラウは出たいようでうずうずしながら翼や手足をピコピコさせていたので、よしよしと頭を撫でてやった。
「お、ようやくか?」
エディオスさんはぴゅぃっと口笛を吹いてご機嫌のようだった。
「早く見せてちょうだいな、リュシア」
どこに座ってるかわかんないけど、ファルミアさんの声が聞こえてきた。
どうしてそんなに待ちわびたような感じでいるのだろう?
「そんなに可愛い子なのかい?」
「ええ、とっても」
「へぇー」
おや、初めて聞く男の人の声だ。
ってことは、その人がヴァスシード国王様でファルミアさんの旦那さんかな?
エディオスさんやセヴィルさんに比べたら高めの声だけど、ちゃんと男の人の声だった。
「先程もお伝えしましたが、驚かれないでくださいましね」
「もったいつけずに早くカティアを座らせてやれ」
セヴィルさんが呆れたようにため息を吐いた。
たしかに、ずっとヒールついた靴で立ってたからそろそろ座りたいや。
すると、アナさんがくすくすと笑われた。
「ゼルお兄様が一番御覚悟なされた方がよろしくてよ?」
「……わかってはいる」
「ゼルが? なんでだい?」
国王様には僕とセヴィルさんが婚約したことは先に話してないみたい。
いやまあ、いきなり話せる内容ではないでしょうよ?
圧倒的な年齢差は置いとくにしても、子供と大人が急に婚約しましたーって言ったところで信じられるわけがないない。
「アナ早く早くー」
うずうずされてるようなフィーさんの声が聞こえてきた。
さっきも見たでしょーがあなたは!
「そうですわね」
と、アナさんが横にずれてしまったので、いきなり僕とクラウの姿が皆さんの前に曝された。
「えぁっ」
と僕は間抜けた声を漏らしてしまった。
普通ならもっと優雅にドレスの裾を摘んでお辞儀しなきゃだけど、急な展開にそれどころじゃなかったよ。
「ふゅぅ!」
クラウは僕の肩の上で呑気に声を上げていた。
「ほーぉ?」
「あら可愛いらしいわね」
「え……子供?」
皆さんそれぞれ全然違う反応でいらっしゃるが、僕はどう対応すればいいのかあせあせの状態だった。
とりあえず目線だけで部屋を見渡せば、上座にはエディオスさんがニヤついた顔で座っていてフィーさんはいつもの席でにまにましていた。
その隣には朱色の髪の男の人が座っていて、僕を見るなりきょとんとライトグリーンの瞳を丸くされてたよ。更にその隣にはさっき以上にお綺麗に身なりを整えられているファルミアさんが少し頬を赤らめていた。
しきょうさん達も国王様と同じように目を丸くされてましたよ? 何故か壁際に立っていて。
で、セヴィルさんはと言うと、僕を見てぽかんと口を開けていた。
「カティア……か?」
って、おそるおそる聞いてきたのです。
僕は反射でこくりと頷けば、セヴィルさんが目元から順に何故かお顔が赤くなってしまったよ。
「おいおい、いつもと違って化けたなぁ?」
「エディお兄様失礼ですわよ?」
「しょーがねぇだろ? 初日の着せ替えん時はここまで気合い入れたのじゃなかったし」
えーっと、僕の格好は子役モデルがドレスアップしたような感じになっています。
ドレスは実はセヴィルさんが着せ替えの時に選んでた若草色のフリル満載のものを。
手には絹の白い子供用の手袋で、宝石はクラウが覗き込んでたオパールのようなもののネックレスや雫型の同色のイヤリング。
髪はいつも適当に流していたのを、三つ編みを何本か作ってツムジ下くらいでお団子のようにまとめたお姫様のような髪型に。
それと、これまたクラウが遊んでたキラッキラッのティアラもつけております。
お化粧はアイラインはなしで、チークとリップのみ。
まあ、こんな感じですが……セヴィルさんがどうしてあそこまで真っ赤になられるのかわかりましぇん。
「とりあえず、アナもだがカティアも座れよ」
「そうですわね」
「あ、はい」
僕の席はどこだろうと思ってたが、いつも通りセヴィルさんの隣でアナさんはファルミアさんのお隣かと思えば僕の隣だったよ。
ところで、国王様はまだ目をまん丸くされてるけどどうして?
「え……えぇっ? この子がエディが言ってた料理人?」
おや、僕が料理人だってことは先に話してあったようだ。
「ああ、見た目に騙されんなよ? 下手したらファル以上のもんを作るぜ?」
「でも、どう見たって80歳くらいにしか見えないんだけど……」
この見た目って、こっちじゃそれくらいの年齢なんだ?
でも、元の世界じゃその歳だとおばあちゃんだよね。まあ、フィーさんを除けば座ってる人達最低300歳以上だけどさ。
「それとその聖獣?もなんで着込んでるんだい?」
「これはコロネの力作ですのよ」
アナさんはコロコロと笑いながらクラウを撫でてやっていた。
クラウの格好は、僕と色は違うけどフリル満載のドレスのようなワンピースを着ていますよ。
水色サテン生地のそれは手触りも良くて、ところどころについている蝶々結びのリボンがアクセントになってて大変可愛らしい。
この子神獣だから性別はないらしいんだけど、僕に合わせてドレスアップさせたいとコロネさんが言うのでこうなりました。
仮縫いの段階でも鼻血噴きそうになったけどね!
「って、俺は自己紹介まだだったね?」
国王様が席を立って、胸に手を添えて軽く会釈してくださった。
「俺はユティリウス=アティーシャ=ラウル=エルヴィ=ヴァスシード。ヴァスシードの現国王でファルミアの夫だよ」
「あ、はい! カティア=クロノ=ゼヴィアークと言います!」
僕も慌てて立ち上がってから自己紹介させてもらった。
国王様のお名前はユティリウスさんって言うのか……よし、覚えたぞ。
しっかし、ユティリウスさんのイメージ色々してはいたけど全然違ってたね。
特徴的な朱色の長い髪に少年のように輝いてるライトグリーンの瞳はニコニコされていた。
肌は健康そうに日に焼けていて、顔は整っていらっしゃるけどエディオスさんやセヴィルさんの間くらいかな?
王様って言うよりかは王子様!って雰囲気に見えるけど、お人形さんのような美しいファルミアさんとはお似合いだね。
服装はそれぞれ中国のお貴族みたいな正装でいらっしゃった。
「あ、呼びにくいようだったらユティでもリースでも好きに呼んでいいよ?」
「滅相もございません!」
王様に愛称なんて無茶言わんでください!
ぶんぶん首を振れば、ユティリウスさんはどうしてか首を傾いだ。
「国王なんて肩書き取ればただの人間なのになぁ?」
「カティに無茶言わない方がいいわよ。小国でないとは言え、ヴァスシードはこちらとの親交国だもの」
「カティか? 可愛いね。俺もそう呼んでいい?」
「え、あ、はい」
反射で了承しちゃったら、ユティリウスさんは無茶苦茶良い笑顔になられた。
なんだか、彼の逆隣にいらっしゃるフィーさんのような少年の笑顔に近い気がした。
だが、それも一瞬のことですぐにむすっと不貞腐れた表情に激変してしまった。
え、どうして?
「カティが例の料理を作ったんだよね?」
「例の料理?」
どれのこと?
って、言わずもがなピッツァのことだよね?
「今日も美味しかったよねーピッツァ」
ここで畳掛けにフィーさんが機嫌良く頷いていた。
これを聞いたユティリウスさんの額に青筋が立ったように見えたよ。
「そう、それ! なんで今日食べられないんだよ‼︎」
「無茶を言うなユティリウス。お前が今日いきなり来たのが悪い」
「うっ……」
セヴィルさんの呆れた言葉にユティリウスさんが言葉を詰まらせた。
まあ、たしかに急な来訪だったから準備も難しかったのは本音だ。それと、あれをこう言った晩餐会に出せるとは思えないけどね?
「それに関しては、うちの守護妖達が騒ぎ出したものだから本当にごめんなさい。あなた達、今日は夕餉抜きよ?」
『何故だ⁉︎』
4人同時に大声出されるから思わず耳塞いじゃったよ。
「当たり前でしょう? 理由はともかく、リースをあれだけ動かしたんだから一食ぐらいでむしろ良かったと思いなさいな」
「いいよ、ミーア。おかげでこっちでゆっくり出来るんだから食べさせてあげなよ」
「甘いわねぇ、リース」
『はぁーー……』
ユティリウスさんが苦笑いされれば、しきょうの皆さんは大袈裟にため息を吐いた。
彼がああ言わなきゃどんなことが起こったんだろう。もしかして、あのおどろおどろしい異形の姿に戻っちゃう?
それは絶対ヤダーーー‼︎
どうしてヴァスシード国王夫妻のミドルネームかなんかが長いのはいずれお伝えします。
いずれですが(笑)




