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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第二章 交差する会合
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来訪の式典(アナリュシア視点)-②

 結局はゼルお兄様も舌戦に加わってしまい、最終的にはサイお兄様がエディお兄様とユティリウス様に鉄拳制裁を下したことで幕を閉じた。

 サイお兄様は王族の血筋があるわたくし達の縁戚であり幼馴染みなので、こうやって諌める立場になるのはしょっちゅうだ。

 彼もユティリウス様のように、公式の場でなければ砕けた物言いになりわたくし達王族にも敬語を解く。

 だから、そのユティリウス様にもああやって対処するようになったのだ。


「まったく、じいさん達がわざわざ退出してくれたのにほぼほぼ本気でやり合うなよお前ら!」

「ほーんと、これ使って止めようとしたけど結界壊すくらいでよかったよ」


 フィルザス神様は手にしてる紙束の柄をさっさと振って、威力を確かめていた。

 扇のように紙が広がっていくが、あれはどう言うものなのだろうか?


「フィー、それはなんなんだ?」

「これー? 紙で出来た鉄扇のようなものだよ」


 サイお兄様の質問に答えてから、パンパンと次いでばかりにまだ頭を抱えていらっしゃるエディお兄様の頭めがけて叩かれた。

 先ほどのような威力はないものの、あれは少しばかり痛そうに見える。


「フィー、何すんだよ……」

「だって、まだ反省してないようだし?」


 たしかにそれは否めないわ。

 ユティリウス様との喧嘩はいつもお兄様はとても楽しんでいらっしゃいますもの。

 結界の外から見てましたが、口元が緩まれていたのは見逃しませんでしたよ?


「しかし、どうしてそんなもので俺達が何重にも張った結界を壊せたんだ?」

「僕神だから出来るもーん!」

「……そうかよ」


 それはそうとしか言いようがないのでサイお兄様も追求を諦めた。

 それよりも、日が傾いてきている。

 わたくし達はともかく、ヴァスシードの御二方には正装にお着替えせなばならないからお早めにゲストルームにお通ししないといけないわ。

 って、そうよ。


「ファルミア様、新しいゲストルームにご案内させていただきますわ」

「あら、そうね。あちらには先約がいらっしゃったものね」


 以前使ってくださっていた方の部屋は、わたくしの判断でカティアさんに宛てがってしまったがこう言うのは今回が初めてではない。

 それはファルミア様も御存知でいらっしゃるし、おそらくカティアさんにもご説明されたのだろう。

 とりあえず、男どもは放っておくことにしてわたくしとファルミア様に守護妖の皆様は正門を後にした。


「またしばらく厄介になるわね。お詫びにだけど、後でデザートを作らせてちょうだいな」

「まあ、よろしいですの?」


 ファルミア様の調理の腕前は料理長のマリウスに勝るとも劣らない。

 しかも、どれもこれもが絶品揃い。

 ああ、久しく口にしてないが今日はどのようなものかしら。

 今は聞かないでおくわ。後の楽しみが半減するもの。


「先にいらしてるあの子にも教えてあげたいからね」

「カティアさんにですの?」


 どこまで会話が成されたかはわからないけれど、最低限自己紹介くらいはされたはずだ。

 わたくしが聞けば、ファルミア様は嬉しそうに頷かれた。


「ええ、失礼とは言え机に置いてあった日記帳が気になって読んでしまったから、そのお詫びも兼ねてるの」

「日記帳?」


 たしか、文字の練習も兼ねてそう言った物が欲しいとおっしゃってたからお渡しはしたが、何か面白いことでも書かれてたのかしら?


「あれは若いけどプロの料理人ね。細かいことまで書いてあったし、私も驚いたわ」

「驚いた、とは?」

「ああ、リュシアにはまだ伝えていなかったわね。なら、それはカティがいる時に一緒に教えてあげるわ」

「まあ」


 暗部の家系以外にまだわたくしに秘密がありましたの?

 ずるいですわと普通なら思いますが、この麗しい王妃様は本当にご実家の事情がたくさんお有りでしたから秘密にされることはまだ多くて当然ですもの。

 ご結婚も初めは周囲に猛反対されたと伺ってましたし、色々重圧がまだ抜けなくて大変なはずですわ。

 だから、わたくしは特に何も言わずに頷いた。


「ところで、カティアさんのことをもうそのようにお呼びになられたのです?」

「ええ、可愛いでしょう?」

「はい」


 わたくしにはとても出来ませんが、ファルミア様はまだカティアさんが異界からの異邦人と言うことも、ゼルお兄様が御名手となられて婚約者の契りを交わされたことは知らないはずですわ。

 それにここはまだ城の者達が往来する廊下。

 下手なことは口に出来ないもの。

 わたくし達が前へ進むたびに侍女や小姓の者達などが脇に下がって、こちらが見えなくなるまでずっと頭を下げたまま。

 わたくしやファルミア様は慣れてはいるけれど、カティアさんがご一緒だとあの方はきっと萎縮されて困ったご様子になられるはずだわ。

 この世界に来られる前は平民の中でご生活されていらしたようだし。

 とは言え、ずっとあの区画だけでいらっしゃるのも囲い過ぎであまり良くないが。


「けれど、あの髪と目は異彩過ぎるわね。とても可愛らしいけれど、こう言った区画にもし迷い込んだら勘違いして引っ捕えられかねないわ」

「そうなのですよね……」


 わたくしも気にしているのはそこだ。

 髪色だけならまだしも、神霊(オルファ)と見紛うくらいのお顔立ちに虹を閉じ込めたような瞳。

 カティアさん自身、お顔立ちに関してはゼルお兄様のように無頓着でいらっしゃるけれど、瞳のことに関してはかなり慌てていた。

 幸い、上層調理場やサシャ達には事前に知らせておいたのとお馬鹿なことをしない人材とわかってるから特に問題はないが、中層や下層が同じかと言えばそうとも言いにくい。

 さっきのようにフィルザス神様を存じてなかった若い衆がいい例だ。

 150歳程度の若者なら小間使いや小姓達のような子達がいるからまだいいが、カティアさんの外見はそれよりも幼い80歳程度。

 迷子か何かと勘違いされて城から追い出されかねないもの。

 上層部とは直接会わせてはいないが、カティアさんは今は我が城の客人だ。

 絶対にそんなことはさせないわ。

 と考えているうちにゲストルームに続く廊下に差し掛かり、頭を下げるような人間もいなくなっていた。

 あと2つくらい角を曲がればファルミア様へ宛てがう予定のゲストルームに着く予定だ。


「……しかし、あの幼子の魔力は稀有なものだった」


 ずっと黙っていらした四凶(しきょう)窮奇(きゅうき)様が角を曲がったところで呟かれた。

 おそらく、城の者達に聞かせないためね。


窮奇(きゅうき)の言う通りだ。わずかばかり相見えたが、内包する魔力の量は少ないがああ言った質の魔力は滅多にいないな」


 窮奇(きゅうき)様のお隣にいらっしゃる渾沌(こんとん)様もしきりに頷かれているようだ。


「カティの魔力はそんなにも珍しいものなの?」


 わたくしやファルミア様では目視で魔力を感知することは出来ても、内包する魔力の量や質などはわからない。

 ゼルお兄様でも、カティアさんに触れなければそう言ったことが難しいくらい魔力は繊細で生命と関わりが深いものだ。

 カティアさんの魔力量は封印か聖樹水の影響かで異様に少ないらしいようですけど。


「ああ、かなり稀有だ。我らがファルの守護妖でなければ惹き寄せられるところだったな」

「相違ない」

「まあ、そんなにも?」


 ファルミア様はとても面白そうなものを見つけたかのように、深い緑柱(ベリル)の瞳を輝かして口元を緩められた。

 たしかに、主人のファルミア様以外に興味なしと思われていた四凶(しきょう)の皆様方が口々に言うものね。饕餮(とうてつ)様は振り返っても窮奇(きゅうき)様のお体に隠れて見えないが、多分檮杌(とうこつ)様のお隣で彼の言葉に対して頷かれているだろう。


「ねぇ、リュシア。カティとは後で会えるのかしら?」

「ええ、夕餉はご一緒出来る予定にはしてありますわ」

「じゃあ、食後に色々解明することが多くなるわね」

「解明?ですか?」

「ええ、さっきはあまり話せてなかったから」


 とここで、用意していたゲストルームに到着してファルミア様と四凶(しきょう)様方と一旦別れました。

 気になることはたくさんあるけれど、後で分かるようだから一旦頭の隅に置いておく。

 それよりも、わたくしはカティアさんのお部屋へ向かった。

 乳母子のコロネにカティアさんの正装は頼んでおいたが、一体どんな出来栄えになっているかしら?

 わたくしも一緒に用意したかったが、お出迎えの式典があったからそれは叶わなかった。

 若干駆け足になりながらスカートをつまみ上げて私は廊下を急ぐ。

 もう終わってるかもしれないが、コロネもわたくしのように可愛らしい対象への着せ替えが好きな方だ。

 きっと、着る物は決めたがまだ仕立て上げてはいないだろうと思い込んで、転けない程度に急いでみた。

 やがて、ゲストルームに到着する頃には軽く息が上がってしまい、落ち着く為にその場で何度か深呼吸することになった。


「…………よし!」


 自分を奮い立たせて、ドアに向き合った。

 そして躊躇いなくノックする。




 コンコン




 すぐには応答がなかった。

 忙しいところだったかしらと首を傾げたが、すぐにカティアさんからの返事があった。


「はーい?」

「わたくしですわ、カティアさん」

「アナさん? え……っと、どうぞ」


 入室の許可をいただけれたので、わたくしは躊躇いなくドアを開けた。

 ほんの少し開けて体を滑り込ませてから閉めて、さっと振り返る。

 そこには、まばゆい程の楽園がありましたわ。


(ああ、なんてこと! やはり式典に出なければよかったわ‼︎)


 そう言った悔しさがすぐ思い浮かぶほど、目の前の楽園は魅力的過ぎた。

 カティアさんももちろん魅力的過ぎましたが、わたくしは彼女の肩の上に座ってる『神獣』に目が釘付けになってしまっていた。


「アナリュシア様いかがでしょうか?」

「素晴らしい出来だわ、コロネ!」


 おそらくは、コロネが提案してクラウに『正装』させたのだろう。

 それは、たしかに間違っていなかった。

 着飾れたカティアさんの守護獣としてご立派過ぎるわ!


「ふゅ?」


 一向にわかってない返事をされたクラウは首を傾げていた。

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