白き魔ほろぎ何の欠片?-③
きゅうきさんの見た目は黒と白のまだら模様の長髪で、服装は真っ白な中国風のお衣装。
そして、おそろしいほど背が高い。2メートル以上はあるんじゃないかな?
きっとエディオスさんが見上げちゃうくらいあると思うの。
僕なんか8歳児のちんまい子供の姿だから、首上げすぎて痛くなっちゃいそうでふ。
顔は見えにくいけれど、渋くってがっしりされた精悍なお顔立ちが特徴。さっきの牛ヤマアラシは一体どこに行ったの?と思うくらい面影がちーっともありませんがな。
「ふゅぅ……?」
あ、どうやらクラウが起きちゃったみたい。
顔を覗き込めば、くぁって小さなあくびをしていた。
「あら、人形かと思ったけれど聖獣だったのかしら?」
「え、あ、その……」
いくら王妃様でも、初対面の人にクラウが神獣だってことは言わない方がいいよね?
なので、頷こうとした時でした。
「それは神獣だな。見た目は幼いが間違いなかろう」
ものっそしっぶいお声が横から割り込んできた。
誰だと思ったら、こちらを見下ろしてきていたきゅうきさんだったよ。
のぉおおお⁉︎ なんで余計なこと言っちゃうんですか!
「神獣? では、この子が?」
「ああ、神力に充たされているようだ、まず間違いはない。我らが報せを受けたあの力の解放もおそらくこれよの」
あれ、僕とクラウを置いて勝手に話されてるや。
王妃様はジーっとクラウを見下ろしているが、クラウはなぁに?と言った感じに首を傾げていた。
「ふゅ?」
「……不思議な鳴き声ね。と言うと、あなたはこの子の主人なのかしら?」
「あ……はい」
クラウが神獣とバレたからには誤魔化しのしようがない。僕は素直に答えた。
すると、王妃様は急に大きなため息を吐かれた。
「主が決まっていたのなら、急いで来る必要はなかったじゃない。饕餮が急かすからよ?」
「う……それはすまぬ」
誰のこと?と思って美形集団の方を向けば、青みがかった黒髪の秀麗っぽいお兄さんが身をすくめていた。こっちのお兄さん達もきゅうきさんと同じ中国風の真っ白なお衣装を着てらしたよ。
「それに便乗して渾沌に檮杌まで私どころかリースを動かしてこちらの宮城に来る日程を3日も詰めたと言うのに……無理矢理リースに公務をこなさせた詫びは後でするのよ?」
『【御意……】』
こんとんやとうこつとは名前ですか?
きゅうきさんもだけど、とうてつさんとやらもなんだか日本と言うかアジアンなお名前ですね。
ただ、一個だけ普通の名前が出てきたけれど。
でも、誰がどれだかチンプンカンプンで僕は覚えにくくて頭がこんがらがってきそうでした。
「まったく……あら、ごめんなさい。この子達の説明すらまだだったわね」
「い、いえ……えと、この方達は一体?」
「私の守護妖よ。4体いるから『四凶』と呼ばれているのだけれど」
「しゅごよう……しきょう?」
ますますわからんですぜ。
聞いたことのない単語達にううーんと首を傾げていたら、王妃様にふふっと笑われた。
おお、やはりお人形さんのように綺麗だから笑顔までお美しい。そして眩しいでふ。
「こちらのお国ではあまりない言葉だものね。守護妖は魔獣と違って、異形ではあるけれど聖獣のように主人の騎獣となり加護を宿すものなの。さっきのこの子達の姿はなんとなく覚えているでしょう?」
「え、えぇまぁ……」
妖怪絵図みたいだったとは、本人達がいるから口が裂けても言いませんとも。
「今横にいるのが四凶のまとめ役を担ってる窮奇よ」
「……窮奇と申す」
ぺこりと簡単にお辞儀と自己紹介なさってくださいました。
僕も慌ててお辞儀をしたよ。
「それで、あちらの真ん中にいる青っぽい黒髪が饕餮。右の薄紫の髪が渾沌。左の銀髪が檮杌と言うの」
「渾沌である」
「饕餮と申す」
「檮杌だ」
う、ううーん……名前がどうにか一致出来た程度かなぁ。
あとは目印になる髪の色くらいだね。髪の長さや顔だけじゃとても覚えられない。それに、元はあのおっかなびっくりな妖怪みたいなお姿だったと思うと背筋がぶるってしちゃうよ。
出来ればあの姿には極力ならないでほしいです。人面とか特に怖かった。今のホスト風イケメンみたいなお顔じゃなかったのは確かです。
「それで、あなたの名前を伺ってもよくて?」
「あ、すいません! 僕はカティア=クロノ=ゼヴィアークと言います」
「え、男の子?」
「す、すみません。癖で自分を僕と言っちゃうだけで女です!」
「あ、あらそう……」
うっかり一人称そのままで自己紹介しちゃったよ。
でもまあ、嫌悪感は持たれてないみたい?
濃いエメラルドグリーンの瞳をパチパチと瞬きさせてたくらいだし。
「まあ、個性は人それぞれですものね。そちらの神獣の名前はもうつけられたの?」
「あ、はい。クラウと言います」
「ふゅ!」
クラウは意思疎通が出来ないから代わりに自己紹介してあげると、本人は呼ばれて嬉しいのか両手をぴこんと上げていた。
「いいお名前ね。天上の綿帽子……うん、愛らしいその姿にはぴったりだわ」
王妃様はうんうんと頷かれていた。
フィーさんにヴァスシードとは言語の差異はないって聞いてたけど本当だったんだ。
こちらでのクラウって単語の意味もエディオスさんと同じものが出て来た。
「ファル、そなたの名がまだだぞ?」
「あら、ごめんなさい」
きゅうきさんの指摘に王妃様はうっかりしてたと肩を落とした。
そして、こほんと小さく咳払いされた。
「初めまして、私はヴァスシードの現国王の妻であるファルミア=ルティス=クルト=ムスタリカ=ヴァスシードよ。長くてごめんなさい。ファルミアが名前だけれど、ファルでもミーアでも好きに呼んで構わないわ」
「いえ、せめてファルミアさんで……」
王妃様に愛称呼びなんて恐れ多くて無理です。
エディオスさんを愛称呼び出来なかったのは単に気軽に呼べない印象を持ったからで、王様だって言うのは後から知ったもの。
フィーさんとアナさんは呼びにくいからだけです。アナさんは許可もらわずにいきなり呼んじゃってたけど訂正を求められたことないし?
せ、セヴィルさんはこ、婚約者だから愛称呼びよりは正式なお名前の方がいいかと勝手な解釈でふ!
「そう。じゃあ私はカティと呼ばせてもらっていいかしら?」
「え、はぁ……」
なんか◯ティちゃんを連想したのは僕だけ?
「ふゅぅ」
クラウよ、君は分かっていないだろうになんで嬉しそうにしてるんだい?
まあ、自己紹介も終わったことだし本題に移らせてもらおう。
「えと……ファルミアさんはどうしてこちらに? それと、旦那さんである王様はどうされたんですか?」
きゅうきさん達守護妖と一緒にいる理由はわからなくもないけど、なんでこちらにお一人で?
僕が質問を投げかければ、ファルミアさんはちょっと苦い顔をされた。
「……こっちに来た理由は、ね。この子達があなたの神獣が誕生したとの報せが来たとかで、公務を無理に終わらせて途中は転移方陣を使ったりとかして急いで来たの。部屋には転移の魔術でお邪魔したわ。リース……私の夫の、ヴァスシード国王ユティリウスも転移の魔術で一旦自分がよく使わせてもらっているゲストルームに多分行ってるはずよ」
「ふ、普通お出迎えされる側じゃ?」
じゃないと今頃エディオスさん達てんやわんやになってるんじゃないかと思うんだけど。
でも、クラウが誕生した事を守護妖さん達がどうやって知ったんだろうか?
ん? なんかそれにはデジャビュが……。
『どーも、クラウは卵の状態から周囲に自分の主人になる奴を引き寄せようと聖獣らにずっと言ってたらしいぜ?』
『そして見つかった今日になって、聖獣達が歓喜の遠吠えをするなどと後が立たないようでな。今頃は落ち着いてるとは思うが』
たしかエディオスさんとセヴィルさんがそんなこと言ってたような……国越えしてまで、交信って届くものなのかな?
っと、話題はそうじゃないから頭切り替えないとね。
「ああ、一応識札をリースが飛ばしたものね。とにかく急いで来たから早く休みたくってここに来ちゃったけれど、リュシアに聞いて他の部屋を当たるしかないわね」
「す、すみません」
「あら、どうしてカティが謝るの?」
「え、だって」
この部屋はファルミアさんがよくお使いになられてた部屋なのに。
まあ、決められたのはアナさんだったから僕はその好意に甘えちゃっただけなんだけどね。
僕が答えないでいると、ファルミアさんはまたふふっと笑い出した。
「ここに采配したのはリュシアでしょう? 別にそういったのは今回が初めてではないし、カティが気にすることないわ」
「そ、そうですか……?」
なら、いいけど。
とここで、僕の視線の片隅に本らしきものが映り込んだ。
「あ」
ベッドに置かれた一冊の本らしきもの。
それは僕がおやつ前に書いてた日記帳だった。
ってことは、ファルミアさんに読まれたの⁉︎
「カティ?」
「え、あ、あの……あれって」
僕が日記帳に指を向けると、ファルミアさんは振り返ってああと頷かれた。
「日記帳だったわね。でも、ほとんどレシピ本に近いものだったから、つい夢中になって読んでしまってたけれど」
「はい?」
日本語が読めた?
なんで? ファルミアさんはこの黑の世界の人でしょ⁉︎
わけがわからないと僕は頭が痛くなりそうだった。
「ああ、それで思い出したわ。カティ、あなた異界からの転生者でしょう?」
「は? 転生者では……」
「あら、違って? 私と同じ日本人が来たんだと思って期待してしまったけど……」
「日本人⁉︎」
え、何⁉︎
もうキャパオーバーになっちゃったよ。
誰かツッコミ入れてーー‼︎
この時ほどツッコミ親友がいて欲しいと思った僕だった。




