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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第二章 交差する会合
33/103

新たな日常、のはずが?-④

 だんらだんら冷や汗が背中を伝うが、フィーさん以外出揃ったこの状況。

 圧倒的に僕が追い詰められている!

 と言うかご心配おかけしたから当然ちゃ当然だけどね。


「って、ゼル! カティアこっちに戻ってたか⁈」

「あ、ああ。ここに居る」


 エディオスさんの問いに、セヴィルさんは獣ちゃんから視線を外して彼の方に振り返った。

 なので、必然的に僕と抱っこされてる獣ちゃんの姿が見えるわけで。


「お、居たのかよ。って、なんだぁそいつ?」

「聖獣……にしては初めて見る種類ですが、愛らし過ぎますわ⁉︎」

「ふゅ?」


  なぁに?って、獣ちゃんはわからないと言う風に鳴き声を上げた。


「ちょっ⁉︎」

「なんて愛らしい鳴き声ですの⁉︎ カティアさんその子を抱かせてくださいまし‼︎」

「えーっと……」


 僕への心配は一体どこに?

 獣ちゃんに注目が集まるのはしょうがないけども、アナさん興奮し過ぎだよ。

 扉からこっちまでダッシュしている間の顔が、美人に似つかわしくない鼻息荒い形相です!


「ふゅぅ⁉︎」


 その勢いにびっくりしたのか、獣ちゃんはアナさんに背を向けて僕の服にしがみついてきた。


「まあ、何故こちらを見てくださいませんの?」

「アナが興奮し過ぎだからだろう。少しは落ち着け」


 セヴィルさんは僕ごと抱きつきかねないアナさんの法衣を掴んで押さえてくれた。

 あ、危なかったぁ。

 抱きつかれるのはいいけど、アナさんの豊満なお胸なんかは僕の顔の位置に来そうだから窒息しかねないとこだったよ。

 獣ちゃんはまだアナさんを警戒してるのか、ぷるぷると震えていた。なので、僕は頭の後ろをよしよしと撫でてあげた。


「怖がる必要はないよ? アナさんはとってもいい人だから」

「……ふゅ?」


 ほんと?って、水色オパールのお目々をうるうるさせながら僕を見上げてきたので、僕はしっかりと頷いた。


「うん、大丈夫だよ? 向こうに顔向いてあげて?」

「…………ふゅ」


 そろーりと獣ちゃんはアナさん達の方に振り返った。

 まだ興奮冷めやらぬアナさんだったけど、警戒させちゃったのに少しばかり反省しているようだ。獣ちゃんの顔を見てもさっきみたいに興奮し過ぎた声は上げなかった。手は反対にわきわき動かしてるけどね。


「ふゅ?」

「……っ、やはり愛らし過ぎますわ‼︎ カティアさん、その子は一体どうされましたの⁉︎」

「俺も聞きてぇな。どっから連れてきたんだよ?」


 エディオスさんもアナさんの隣にやってくると、上体を少し曲げて獣ちゃんを見やすいくらいにまで顔を見合わせてきた。

 獣ちゃんは始めびくっと体を揺らしたけれど、エディオスさんがアナさんよりはずっと落ち着いてる雰囲気だったからかジーっと見つめ合っていた。


「……ふゅ?」

「おーおー、やっぱ変わった鳴き声だな?」

「ふゅ?」

「……しゃべってるつもりでもお(めぇ)と契約してねぇからわかんねぇよ。んで、カティア。こいつどこで……の前に、ディに連れられたんだよな?」

「あ、はい」


 振り出しに戻ったけど、ちゃんと言わないとね。ディシャスのことあんまり怒んないでほしいことも言わなきゃだし。

 とりあえず、獣ちゃん誕生前の経緯までは簡潔に皆さんに説明した。

 終わったら、3人ともおっきなため息吐いちゃったけど。


「あー、まさか初日ん時の匂い付けでここまで来るとはな」

「匂い付け?」

「顔に何度もしつこく舐められただろ?」

「そうですね」


 今日も無茶苦茶舐められたけどね。


「竜の唾液にも魔力が宿っててな? ディはそれでカティアを探し当てたんだ」

「……なるほど」


 それでここまで来れたんだ?

 移動に関しては、僕に沁み付けた魔力を辿って転移の魔術を行使したからだろうとエディオスさんは呆れた様子で言った。


「しかし、ディシャスが余裕で歩けれる程の大洞窟と言えば……」

「あそこしかありませんわね」


 セヴィルさんとアナさんの眉間が急に険しくなったよ。エディオスさんもだけど。


「多分、間違いねぇな。カティアが連れてかれたのは」

「この城地下の『(しょう)洞窟』だよね」

「って、フィー!」


 エディオスさんの言葉に被せて少年特有の甲高い声が扉から聞こえてきた。

 扉を見れば、開けっ放しの扉脇に黒髪の美少年がもたれかかっていた。

 この黑の世界の管理者のフィルザス様ことフィーさん。なんだかお疲れ気味だけどどうしたのかな?


「遅かったな?」

「あのねぇ、僕探してたのその近くだったんだよ? あの遠吠え聞こえても、場所から言って転移の魔術使ったって遅れるよ」

「え?」


 フィーさんがあの近くにいた?

 けど、僕とディシャス以外誰もいなかったよね?


「不思議に思ってるだろうけど。カティア、ディシャスが途中頭に何かぶつけなかったの覚えてる?」


 そう言いながらフィーさんは扉を閉めてこちらにやってきた。僕はその間に洞窟であったことを振り返ってみる。

 えーっと……あ。たしかにあった。


「おっきな鐘乳石に頭をごっちんこさせちゃいましたね?」

「不自然だと思わなかった? あの巨体がぶつけれる長さのがたまたま1本だけでもあるなんて」

「うーん……僕揺さぶられてたんでよく見てなかったんですが。あの鐘乳石って何か?」

「僕が地上から探査してる最中に足止めのためにいくつか態と伸ばしたんだ。まあ、あんまり効果なかったし、君達そのまま奥行っちゃったからね」


 あれは自然の長さじゃなかったんだ。

 んで、僕がディシャスに連れてかれたのはこのお城の地下にある洞窟らしいのはわかった。


「しっかし、まさか大昔からあそこに置いてた神獣の卵の存在をあれが知ってたなんてねー? おまけに今になって孵化するなんてどーゆーことって言いたくなるよ」

「「「神獣⁉︎」」」

「ふゅ?」

「へ?」


 しんじゅう?

 って、もしかしなくとも神の獣と書くあれですか?

 僕がいた蒼の世界でもお伽話や民話なんかで伝承されてるが、空想の存在だと言われてる……この獣ちゃんが?

 僕らが驚いてると、フィーさんは力強く頷いた。


「そ。僕ら神の眷属たる獣達。この世界でもごく僅かにしか存在してないあの獣の一種だよ」

「そりゃわかってるっつの‼︎ じゃねぇよ! フィー、あそこにいつ置いたんだよそんな貴重なもん⁉︎」


 うん。エディオスさんが焦るのわかるよ。

 あーんな暗い場所になんでそんなけったいな代物置いちゃうわけですか?

 エディオスさんに聞かれたフィーさんは思い出すためにか顎に手を添えた。


「ああ。えーっと……ディオ(・・・)が生まれる少し前くらいかな? じい様にもらったのはいいけど神域だとその頃は神脈……カティアにわかりやすく言うと大地に流れる魔力の溜まり場ってとこかな。それがまだまだ足りなくてね。なもんで、このお城が出来る前から神脈が豊富だったあの洞窟奥で卵に神力を注いでたんだよ」

「そ、そんなにも昔に⁉︎」

「俺らの親父とかが生まれる前って、千年じゃねぇよなぁ」

「ふゅ?」


 なんかスケールでかい話になってきたな……。

 獣ちゃん本人はぜーんぜんわかんないから相変わらず安定の可愛さよろしく鳴いていた。


「僕にも扱いがわからないものだったからね。たまーに様子は見に行ってたけどぜーんぜん変化なかったしさ。ついこの頃は見に行くの忘れがちでいたけど」

「最後に見に行ったのは……?」

「あ、えーっと……最低でも100年前かな?」

「「「おい⁉︎」」」

「そんなにも放って置かれましたの⁉︎」

「あはは……」


 フィーさんはごめんごめんと頬を掻いた。


「だって、一向に変化無さ過ぎたし。もちろん孵化したら何かしら僕に知れるように術は施してあったよ?」


 と言ってから僕と獣ちゃんの側にまで寄ってきた。


「けど、神獣って聞いてた割には幼いなぁ。あんなに神力吸い取ってても、生まれてこの大きさってのが変だね」

「これで小さいんですか?」


 ダチョウもしくはペンギンサイズの卵だって言うのも結構な大きさだと思うんだけどな。


「うん。僕の本邸を警護してくれてる子とかは、生まれてからすぐに外気に含まれてる神力を吸い取って急激に成長するのばかりだったからね」

「……どれくらいです?」

「今のディシャスよりはふた回り程小ちゃいよ」


 でもそれなりにおっきいんですね。

 獣ちゃんのサイズは1メートルにも満たないぬいぐるみくらい。

 んでもって、とっても軽過ぎる。中身が綿かと思うくらいにね。


「ふゅ?」

「……気の抜ける鳴き声だなぁ。まあ、見た目がこれだから変じゃないけど」


 フィーさんは獣ちゃんの頭を撫でてやりながらはぁーっと息を吐いた。


「ところでカティア。肩にかけてるその袋はなーに?」

「あ、これですか?」


 忘れてた。ちゃんとした物的証拠。

 獣ちゃんを片手で抱っこしてから僕は袋を肩から外してフィーさんに渡した。

 フィーさんは受け取ると早速中身を見るべく開けてくれた。


「……やっぱりあそこに置いてた卵のようだね。でも、君が行った時になんで孵化したのかなぁ?」

「僕もわかんないです。ディシャスに触ってみてみたいに言われてから少ししてヒビが入ったので」

「カティアが触っただけで?」

「はい」


 それからすぐに生まれた事とここまで連れてきた経緯も全部話した。

 終わるとフィーさんは眉間にシワを寄せた難しい顔になった。


「変だね。今の君の魔力だけじゃこの世界の幼子以下なのに、神力を供給源としてる神獣がほんの少しの触れ合いで孵化する⁉︎」

「僕の魔力ってそんなにも少ないんですか?」

「封じられてるせいか泉の力のせいかはまだまだ検討中だけどね。とりあえず……この神獣はどうやらカティアを主人に選んじゃってるみたいだなぁ」

「「「は?」」」

「僕が、主人?」


 なんですとー⁉︎


「ふゅ、ふゅー!」


 獣ちゃんはそうそうって言う感じに鳴きながら背中の翼をピコピコ動かしていた。

 ああ可愛い……じゃないって!

 なんか凄いことになりそうなんだけども⁉︎


「多分生まれたばかりの刷り込みのせいもあるかもだけど、ここまで君に懐いてるし離れようとしないだろう?」

「あ、はぁ……」


 人間とは違って、動物が生まれた時に一番最初に見た対象がってあれですか?

 えーっと……それで僕がこの子の親もしくは主人に認定されちゃったってわけなの?

 聞けばフィーさんは多分ねと頷いた。


「あとは殻取るの手伝ってあげたから、余計に好印象持たれたんだろうね」

「ふゅ」

「……君はカティアがいいの?」

「ふゅ!」


 獣ちゃんにフィーさんがそう聞けば、獣ちゃんは力強く鳴いた。

 どうやら、生まれたばかりだけども僕らの言ってることはわかってるみたいだ。

 獣ちゃんの反応にフィーさんはふーっと息を吐いた。


「本来は僕の管轄下になるんだけど、カティアは僕の身内になっているからね。いいよ。カティアの守護を君に任せてあげよう」

「ふゅ!」

「ちょ、えぇ⁉︎」


 なんでそうなるんですか⁉︎


「いいじゃない。いずれは君にも聖獣とかはつけてあげるつもりでいたし、この子が望んでるんだから叶えてあげなよ?」

「え、あ、いやその……神獣なんて凄い存在が僕なんかにいいんですか?」

「まあ、お互い助け合う形でちょうどいいんじゃない? 僕が連れてても本邸側の子達に任せっきりになるだろうし」


 だから任せた。

 ってな感じでフィーさんは親指をぐっと立てた。

 押し付けじゃあないよね?

 とここで、



 ぐぎゅるぅう。



「「ん?」」

「あ?」

「まあ」

「……お腹空いてるの?」


 可愛らしいお腹の虫は獣ちゃんからでした。

ずっと卵の中に居たらお腹は当然空きますな。

次回は、またピッツア作りがやってきますのでお楽しみに〜(=゜ω゜)ノ


*17/09/16 レストラーゼをディオ(・・・)に変更しました……最近の話と合わせるのに少々(´>∀<`)ゝ))エヘヘ

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