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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第二章 交差する会合
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新たな日常、のはずが?-③

 けれど、中のモノは殻が重いのか窮屈で動きにくいのかもぞもぞしているだけ。

 これは手伝った方がいいかなと、僕はゆっくりと地面に降ろしてから卵の殻に手を掛けた。


「んんーーーっしょっと!」


 中々に中のとぴったり合わさっていたが、僕の方が力は上だったようで。

 スポーンといい感じに卵の殻が外れた。

 ほっとひと息吐いてから、卵の中身を見るべく視線を戻した。

 ら、


「…………何これ」


 いえ、変なものではありませんぞ?

 むしろ真逆。


「ぎゅっぎゅー! ぎゅぅるぅ‼︎」


 ディシャスも見てわかったのだろう。この目の前にあるとてつもなくカワユイ生き物に‼︎


「……ふゅ?」


 鳴き声?

 にしては可愛すぎじゃないか。

『ふゅ』ってなんだよ、『ふゅ』って⁉︎

 それがとんでもなく見た目にもマッチしてるから、僕は鼻血が出そうなくらい興奮してしまった。

 だって仕方ないんだよ?

 雪のような毛並みに短い耳のようなものがピンと立っていて、つぶらなお目々はオパールのように輝いてるけど色は水色。鼻はないがちょこんとしたお口からは尚も『ふゅ』ってもごもご動いている。

 手に指はなくて逆三角形の丸っこいフォルムが可愛い。体は全体的に丸く首とかの境目はないけど、そんなの気になんないくらい可愛すぎるよ! 足はまだ殻の中だけど、きっと手みたいに丸っこいんだろうなぁ。

 殻が取れず窮屈そうに動いてたから、僕はその子にそっと手を伸ばしてあげた。


「ふゅ?」

「待ってて、取ってあげるよ」


 けど、難しそうだな。ぴったりはまってるよ。

 とりあえず、寝そべらせて引っ張ってみるかと僕はその子を仰向けに寝かせて殻の端に両手をかけた。


「せーーぇの‼︎ うーーーんっ!」

「ふゅ⁉︎」


 引っ張ったらびっくりしたのかその子が声を上げた。

 痛くないかと思って見たが、きゃっきゃと楽しそうに手をバタバタさせてるだけだった。

 ダメだなぁ、その仕草。可愛すぎでこっちの力が抜けちゃうじゃないか!

 だけど、そんな場合じゃないので一生懸命引っ張ってみる。しっかし、上の時と違って中々引っこ抜けないな。

 これはもう割った方が早いかな?


「どうやって割ろうかな……?」


 その辺にあいにく石なんかは転がってないし、ポケットに鈍器なんかぁ持っちゃいないもの。

 それか、この子を持ち上げて何度か地面にコンコンって殻の部分を打ち付けるか?

 試しに先に取れた殻を地面にコンコンって打ち付けるとパキリとヒビが入った。


「よし、この方法にしよう」

「ふゅ?」

「ちょーっと我慢しててね?」


 僕はその子を抱っこして、ディシャスには離れておくよう言っておく。

 そして、地面からだいたい20センチくらいの高さから少し勢いをつけて地面に殻を打ち付けた。



 バキィ!



 一発で上手くいったみたい。

 ヒビが入ったとこからぱかりと半分に割れて、僕は殻を丁寧に一個ずつその子から剥がした。

 予想通り、両足も丸っこい。

 なんかクマのぬいぐるみみたく出っ張ってるけど指先はなくて、手と同様に丸っこいのです。


「ふゅ、ふゅー!」


 邪魔なものがなくなってスッキリしたのか、バタバタと手足を動かしていた。

 うんうん、良かった良かった。

 ところで、この子どう言う生き物なんだろ?

 クマでもないし、どっちかと言えばハムスターを大きくして小っちゃい耳が猫みたいに立ってるって感じだけど。

 ジーっと見つめていると、僕の視線に気づいたのかその子が顔を上げた。


「ふゅ?」

「…………ダメだ。可愛いからなんでもいいや!」


 むぎゅーってたまらずその子を抱きしめてしまう。

 すると、背中の方になんかがついてるような感触を得た。殻の残りにしては非常に柔らかい。

 なんだろうと獣ちゃんを反転させると、目の前に金色が飛び込んできた。


「は、羽? いやこれって翼⁉︎」


 ふわさっと、拡がったのは淡い金色の両翼。

 けど、これも全体的に丸っこい。羽根の先や形とかも天使の翼ーって見えなくもないけど、鳥なんかよりは丸みを帯びている。

 触ってみれば綿みたいな手触り。病みつきになりそうです。


「ふゅ、ふゅー!」

「あ、ごめんごめん。くすぐったいよね」


 また反転させて表に戻すと、つぶらな水色の瞳とかっちり目が合ってしまった。

 あー、ダメだよ。もうこの子離せないじゃないか!


「やっぱり可愛すぎー!」

「……ぎゅぅるぅ」

「あ」


 しまった。僕とこの子だけじゃなかったね。

 振り返れば、予想通り不機嫌丸出しのディシャスが頭を下げていた。


「ご、ごめんよディシャス!」

「ぎゅぅ……」


 駆け寄ってやって、お鼻を撫で撫でしてあげた。

 それでもまだ不機嫌さは治らないようで、ぶーって不貞腐れていた。


「ごめんって! ディシャスも可愛いよ?」

「ぎゅぅ?」


 ほんと?って首を傾げられ、僕はうんうんと頷いた。

 なんだかんだで大っきくて威厳ある体格だけども、仕草が人間味あって可愛いんだよねディシャス。

 最初に怖いって思った気持ちはもうどこにもないよ?

 撫で撫でを繰り返していると、すりっと手に鼻を寄せてきて喉を鳴らした。

 良かった、とりあえずは機嫌治ったみたい。

 だけども、


「君どうしようか?」

「ふゅ?」


 離せないーってのは突発的な欲求だったけど、この獣ちゃんは僕のモノじゃあない。

 こんな洞窟にぽつねんと卵のまま置いておかれてたのは何か意味があるものだったかもしれないし、生まれたのは本当に偶然だ。

 ディシャスはこの子の卵がここにあるのを知っていた風だったし、ひょっとしたらエディオスさんやセヴィルさん達も知ってるかもしれない。

 だとしたら、トップシークレットな案件じゃないかこの子は。

 つ、連れて行っていいかな?

 こーんな洞窟に居たら食べ物も何もないし独りぼっちだ。

 って、思い出したよ。


「ディシャス、帰りはまた君がなんとかしてくれるの?」

「ぎゅぅぎゅぅ」


 聞けば、任せてーって頷いてくれた。

 そこは大丈夫なようだ。良かった良かった。

 てな訳でじゃないけども。


「君もおいでねー?」

「ふゅ」


 声をかけて上げれば、ぴっと片手を上げて意思を示してくれた。

 ああ、ダメだよ。鼻血吹きそう……。

 おまけにピコピコ翼も動くから2倍可愛さが増していた。

 いかんいかん腑抜けになってちゃいけないぞ。


「あ、そうだ。卵の殻は一応持って行こう」


 獣ちゃんを一旦降ろして、僕は割れた卵の殻を拾い集めて大きい破片の中にまとめた。

 袋は持ってないけども、ポケットに入る大きさじゃないからね。獣ちゃんは軽いから片手で抱っこ出来そうだし。

 全部まとめてから、僕は2人の元へ戻って獣ちゃんを片腕で抱っこした。


「じゃあ、ディシャスお願いします」

「ぎゅぅるぅ!」


 ディシャスの足元に近づいて、今度は自分の意志でディシャスの手に抱っこされる。たーだ、腕に抱いてた獣ちゃんには細心の注意を払って、握られたディシャスの人差し指の上に乗っけてしっかりホールドしておく。


「準備オッケー!」

「ふゅ?」

「ぎゅぅぎゅぅ」


 こっちも準備万端と言う風にディシャスは声を上げて、獣ちゃんはこてんと首を傾いだ、ように体が傾いた。

 くぅ、後ろ姿だけでも充分可愛すぎだよ。ふわふわの翼もピコピコ動いてて可愛さが倍増してるし!



 ギィシャァアアアア!



 洞窟に反響してディシャスの咆哮が響き渡る。

 と同時に僕らは薄っすら透け出して、やがてその場から消えてしまった。







 ♦︎






 ディシャスの魔術によって僕らは元のお部屋前に到着出来ました。

 窓は開けられたままだったけど、ここでちょっと不安が込み上げてきた。


「……皆さんに心配かけてないよね?」


 あの遠吠えのような咆哮が城全体に響き渡ってないわけがない。

 僕は慌ててしまってたからそこまで気配りする余裕なかったけど、よくよく考えたら凄いことになっちゃってないだろうか?


「……とりあえず、ディシャス降ろしてもらえる?」

「ぎゅぅ」


 頼めば、ディシャスは僕と獣ちゃんを部屋の中に降ろしてもらえた。

 ディシャスの手が離れてから、僕は獣ちゃんを抱き直した。


「あとは、この子だよね……」

「ふゅ?」


 ピコピコ翼を動かしてる獣ちゃんはわからずに鳴いていた。

 すると、くるんと振り返ってきてつぶらな水色の瞳で僕をジーっと見つめてきた。

 ああ、もう可愛いなぁ。


「ふゅ?」

「……まあ、そんなに経ってないと思うし。ひとまずエディオスさんの執務室にでも行こうかな?」


 だけども、窓の外にいる脱走犯の竜さんはどうしようか?

 主人の名前を出したら、またびくんと体を揺らしてはいたけどさ。


「……ディシャス、自分で帰れる?」

「ぎゅ……ぎゅぅ」


 帰れるっぽいけど、やっぱり無断で脱走してきただろうから罪悪感は少なくともあるみたい。

 獣ちゃんのとこに連れて行ってくれたのは悪い事じゃないと思うけど、いきなりだったからなぁ?


「仕方ない。僕がなんとか怒られないように言っておいてあげるよ。君は獣舎にお帰り?」

「ぎゅぅ……」


 ありがとうと言う風に、ディシャスは僕に頬ずりしてきた。

 そして、建物から少しだけ後ろに下がってから巨大な翼をバサバサ動かし出した。



 ギィシャァアアアア!



「あ」


 そんな大声出したらやばいのでは⁉︎

 でももう遅かったし、準備が整ったディシャスは翼を動かして空中に浮かび上がった。


「ぎゅぅるぅ!」


 またねー、って感じに言い残してディシャスは飛んで行ってしまった。

 僕もなんか言いたかったけど、翼から起こされた風を顔面に受けてたし、獣ちゃんと卵の殻を落とさないよう必死だったから返事は出来なかった。

 やがて、完全に姿を消したディシャスを見送った僕は、落ち着いたらベッドの方に歩き出した。


「君はちょっとここで待っててねー?」

「ふゅ」


 すぐに執務室に行くにも準備は必要だ。

 僕は獣ちゃんをベッドの上に降ろしてからクローゼットに向かう。

 卵の殻をそのまま持っていくと落とす可能性があるので、僕はクローゼットの中から大きめの巾着袋を探し出す。見つかれば、その中に殻を全部入れて紐できゅっと口を閉じた。

 これでよしっと。


「お待たせー。じゃあ行こうか?」

「ふゅ」


 ベッドに戻れば、獣ちゃんは抱っこ抱っこーってして欲しい感じにちみっちゃい手を僕に差し出して足をバタつかせていた。

 安定の可愛さに僕はメロメロになりそうだったけど、袋を肩にぶら下げて両手でしっかりとその子を抱き上げた。

 とその時。



 バァーン!



 入り口の扉が勢いよく開き、なんだと振り返った先には息を物凄く乱していたセヴィルさんがいた。


「セヴィルさん⁉︎」

「カティア、無事か⁉︎」


 僕の姿を確認するや否や、セヴィルさんはその場で大げさなくらいでかいため息を吐いた。

 そして、息を整えてから駆け足で僕の所までやってきた。


「ディシャスに連れられたらしいが、何もなかったか⁉︎」

「え、えーっと……」

「ふゅ?」


 物凄ーくありましたよ。今抱っこしている獣ちゃんについて!

 セヴィルさんが当然気づかないわけがなく一瞬顰めっ面をしたが、僕の腕の中にいる獣ちゃんを見ると瑠璃色の瞳を丸くした。


「……なんだそれは?」

「ふゅ?」

「あ、あのですねー……」


 どう説明すればいいんだろうか?


「おい、ゼル先に行くなっての‼︎」

「ゼルお兄様、カティアさんはご無事で⁉︎」


 おいおい、また場がややこしくなりそうだよ。

 獣ちゃんのこともだけど、僕の失踪をどうやって説明すればいいんだ⁉︎

新キャラ登場です( ゜д゜)

が、どう説明しようかなぁ?

獣舎に行ってた筈の皆さんがいきなりご登場ですし?

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