新たな日常、のはずが?-②
新章2話目お待たせしました。
2週間近く空いててすみませぬ(;´Д`A
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「ここはどこなの?」
ディシャスに連れられて?やってきたのは、広いけどやけに薄暗い場所。
ゴツゴツと岩で出来た壁が特徴的で、とてもじゃないがお城ではないのは間違いないでしょうよ。
「ぎゅぅぎゅ」
かく言うディシャス本人はとってもご機嫌さん。
僕を握ったまま、着いた途端どこかへ向かって歩き始めたのです。
ドシンドシンってバカでかい音が立つかと思いきや、ぜーんぜんトントンって静かな足音しか聞こえてこない。
しかし、この子どこに僕を連れて行く気?
意思疎通しようにも、やっぱり主人のエディオスさんのようには無理です。僕の言ってる事は、ディシャス解ってはくれてるようだけどさ。
「ねぇ、ディシャス。どこに行くの?」
「ぎゅっぎゅー」
前だよー、とばかりに反対の指?を前に突き出した。
ふむ。どうやら目的地はあるようだな。
だけども、なんで僕を連れて行くのかね?
1人ではないけれど、多少の不安を抱えながら僕はディシャスに連れて行かれて奥に進む他なかった。
うーん……それにしても見え辛いです。
ディシャスは獣だからか、夜目も効くようだけどさ。
僕も段々と目は慣れてきたものだけど、それでも前は一向に真っ暗なままです。
あ、こう言う時にはたしか。
「えーっと……光だけを凝縮させた球を出現させるんだっけ? んと、明灯!」
「ぎゅ?」
ライガーさんが使ってた明かりの魔術を試しに実行させてみる。
すると、右の掌にぽわんと白い発光体が出現した。
よーし、成功成功。
それを上に掲げて離すようにしたら、ディシャスの顎下辺りにまで浮かび上がった。
辺り一帯がとはいかないけど、僕とディシャスくらいならよく見えるくらいにまで照らしてくれた。
初めての術にしたら上出来でしょう。あとはフードプロセッサーよろしくほとんど風の魔術か、点火の魔術くらいしか使わないもの。
「…………洞窟?」
ゴツゴツした岩肌からなんとなくは予想していたけども、天井とか地面からにょきにょき生えてるのはどう見ても鐘乳石。
このディシャスが余裕で歩いてられるくらいの高さは信じられないけども、鐘乳石の長さもなかなかのものだった。あれって、石灰石が水で溶けて伸びてくようになるんだっけ。馬鹿長い時間をかけて。
「ぎゅ、ぎゅぎゅ」
「ん? どうしたの?」
何やら嬉しそうに声を上げたディシャス。
僕の返答にまた前を指せば、真っ暗と思われてた先に一筋の明かりが見えたのだ。
「なんだろう?」
「ぎゅぎゅー!」
僕が首を傾げていたら、ディシャスは飛び上がらんばかりに声を上げて、ドタドタと先に進んだ。明かりの魔術はディシャスについて行くように僕の上に浮かんでいたから置いてかれることはなかった。
かく言う僕は、いきなりの駆け足にぐぇっと胃がせり上がりそうになったよ。握られてる感覚はそのままだから良かった。じゃなきゃ潰されてるじぇ……。
しっかし、足元の鐘乳石によくぶつかりもせず走れるね? それか、足の裏にも分厚い鱗で覆われてるから平気とか。
ともかく、ディシャスは明かりに向かって駆けていき、僕も揺れに慣れてきたところで明かりがわずかばかり大きく見えてきた。
ところがだ。
ゴンッ!
「ぎゅ、ぎゅぅうぅ⁉︎」
ドジして天井からぶら下がってた一番でかい鐘乳石に頭ごっちんこしちゃったのだよ。
夢中になって走り過ぎるからだよ君ぃ。
「ディシャス、大丈夫?」
「ぎゅぅ……ぎゅぎゅ!」
しゃっきり顔を上げて、大丈夫だとディシャスは頷いた。魔術の明かりに照らされてる箇所を見上げた感じ、たんこぶにはなってないようだね。
「とりあえず、急がなくていいならゆっくりでいいよ?」
目的はあの明かりのある場所。
何があるかわからないけど、ディシャスの反応を見る限り悪い感じはないだろう。
僕の言うことにディシャスはうんと頷いて、またゆっくりと歩いて行くことになった。
「けど、結構距離あるんだなぁ?」
こんな遠距離にまで明かりは届いているのに、あんまり大きく見えて来ないんだよね。
強いて言うなら、僕が行使させたこの魔術の明かりくらい? そこまでしか大きく見えないんだよ。一体なんだろう。
「ぎゅ、ぎゅー」
相変わらず、こっちは上機嫌なディシャス君。
さっきのごっちんこはもう忘れたみたいな感じだよ。三歩進んだら忘れるじゃないよね?
「って、あれ?」
明かりの中に何か見えてきた。
白い明かりの中に白い影。
人と言うよりはなんか物みたいな感じ。
目を凝らしてみるが、光源が足りないのか距離のせいかわからないけどそれ以上は無理だった。
けれど、これはかなり距離が縮まってる証拠だ。
「ディシャス、なんか見えてきたね?」
「ぎゅ、ぎゅー!」
だよねだよねって、ディシャスは嬉しそうに背中の翼を開閉させた。
なんか意思疎通出来ないと思ったけど、意外にわかりそうかも。言ってることはわかんなくても、雰囲気で読み取れるというか。
「よーし、じゃあ行ってみよう!」
「ぎゅぅーー‼︎」
不安なんかもう吹き飛んでしまい、逆になんだかワクワクしてきちゃったんだよね。
ディシャスも今以上に嬉しく声を上げてくれて、顔を合わせばエメラルドグリーンの瞳がキラキラ輝いていた。
その時だった。
「わっ⁉︎」
「ぎゅぅるぅ⁉︎」
僕らが目指してた先がいきなりパァっと大きく光出した。
なんだなんだと2人で声を上げたが、とにかく慌てず急ごうとディシャスに進んでもらった。
その距離は、遠いと思っていたのに意外にもすぐに到着した。
ぶっとい鐘乳石が地面から僕の今の身長くらいまで盛り上がり、1つの台座になっているような場所。そこに、光の正体が佇んでいたのだ。
「……………これって、『卵』?」
手のひらサイズの物なんかじゃあないよ。
昔テレビかなんかで見たダチョウなんかのでっかい卵が、光りながらも鐘乳石の台座の上に鎮座していたのです。
「ぎゅっぎゅぅるぅ!」
これこれっと、ディシャスは嬉しそうに声を上げた。
と言うことは、目的はこの卵?
これと僕を連れてきた関連性がわかんないなぁ。
それか単に見せたかったのか。
「ディシャス、僕にこの卵を見せたかったの?」
「ぎゅっ」
ん、合ってるみたいだ。
じゃあ、任務完了ってとこかな。
と思ってたら、いきなりディシャスが僕を地面に降ろし出した。
とんって地面に足がつけば、ディシャスはゆっくりと僕を解放してくれたよ。
「ディシャス?」
「ぎゅぅるぅ」
前前って指で卵を指した。
なんだろう。僕に卵をどうかして欲しいのかな?
と言っても、僕はひよっこ料理人だから生物学者でもなんでもないんだけど!
けれど、ディシャスは相変わらず僕にキラキラとしたエメラルドを向けてくるだけです。
期待に満ちた目に、仕方ないかと息を吐いた。
「あれに触ればいいの?」
「ぎゅぅ!」
思いつきで言えばうんうんと力強く頷いてくれた。
あてずっぽうで言っちゃたけど、触って大丈夫かなぁ?
なんかとんでもないものだったらどうしよう。
とは言え、ディシャスの期待には応えないとなぁと僕は卵がある台座に向かった。
鐘乳石は台座の周り以外はそんなに生えておらず、すんなりと歩くことが出来たよ。
んで、近づけば近づくほどその卵が圧倒的な存在感があることがいやでもわかってくる。
よくよく見れば、その卵は白いだけじゃなくて表面が真珠かオパール石のように薄っすら虹色の光沢があった。
もしかして卵型したでっかい宝石かなんか?と思えば触れても大丈夫かなと少し勘違いしたが、ディシャスに卵かって聞いて頷かれたじゃないかと宝石説を払拭させた。
「ほへー」
台座の前に立つと、卵はやっぱり大きくて綺麗だった。
ちょうど僕の顔の目の前辺りにあったそれは、一種の芸術品のように見えた。
理想的なフォルムに艶々の表面に薄っすらと虹色の光沢。
この洞窟の中で一際異質な卵は、わずかな光苔らの光源を反射して光ってるのか仕組みはわかんないけども眩しく僕の顔を照らしていたよ。
艶々の表面には薄っすら僕の顔を鏡のように写していたし。
「さ、触って大丈夫かなぁ?」
こんな神々しいものに僕なんかが触れていいものか。
でも、ディシャスを待たせるわけにもいかないし、早く済ませないとお城に帰してもらえそうにないしさ。
だから、女は度胸!と勝手に意気込んでそのつるっとした卵を両手でぺたりと包み込んだ。
「……あったかい?」
と言うことは、生きてる卵なのこれは?
ひんやりと冷たいものかと思ってた卵は人肌くらいな温度を持っていた。
そろーっと持ち上げてみれば、重みがあるが予想してたほどじゃないね。感覚的に2キロくらいの重さかな。ダチョウやペンギンの卵なんかはもっと重たいって聞いたことある気がするけども。
「何が中にいるんだろ?」
爬虫類鳥類、もしくは稀に哺乳類?
けれど、ここは地球であるようで地球とも違う異世界の黑の世界。
ファンタジック満載の世界なんだから、後ろの方にいるディシャスみたいな竜だったりして……たしか、ちっちゃな竜はネティアって言うんだっけか。
「ぎゅぅるぅ」
「わっ、とと」
いきなりディシャスが僕の後ろからにょきと顔を出してきて鼻で頰ずりしてきた。
不意打ちだったもんだから危うく卵を落とすかと思ったよ。なんとか抱き込んで事なきを得たけどさ。
「こら、ディシャス。卵落としたら大変じゃないか」
「ぎゅぅ……」
めっ、とディシャスの方を向いて注意する。
そしたら、しおしおと眉毛はないけど瞼をへにょりと俯かせた。
わかったなら、よろしい。
パキッ。
「ぎゅ?」
「ん?」
今なんか音しなかったかい?
まさかと腕の中の卵に目を落とすとてっぺんの部分にヒビが入っていた。
そんなに劇的な衝撃与えてないけど、なんで割れそうになってるんだ⁉︎
あわあわと口をパカパカさせてる間にも亀裂はどんどん伸びていき、パキッパキッっと音は大きくなっていく。
「ぎゅっぎゅー!」
なのに、こっちの竜さんは嬉しそうに声を上げてるだけだった。
え、緊急事態じゃないのこれ?
バキィ!
一際大きな音を立てると、卵の上部分の亀裂が大きくなった。
そして、もぞもぞと中から何かが卵の殻を外そうと動く感じが見えた。
「う、生まれる?」
「ぎゅっ」
そうだねー、ってな具合にディシャスはのんびりと相槌してくれた。




