新たな日常、のはずが?-①
二ヶ月ぶりの投稿、大変遅くなりました!((((;゜Д゜)))))))
今回から新章です。
あれから3日経ちました。
いや、着替えごっこならぬ服の調達からいきなりですみません。
だって、特に日記なんかで書けるようなこともなかったし?(セヴィルさんの婚約者になった事は重大事項だけども)
そうです。今少々日記を書いてます。
こちらの字の練習用にいただいたノート数冊のうち一冊を自分用の日記にあてがったのです。
元居た世界には帰れないだろうけども、日々目新しい出来事があれば書き留めないともったいないと思ったからで。
テレビやゲームに携帯と言った娯楽もないし、いい暇つぶしにもなるからね。字はもちろん日本語。もし見つかっても誰も読めるはずもないから、恥ずかしくもなんともないと思えるし?
いや、だったら書くなよって言われるかもだけど、き、気にしなーい。
とにかく暇過ぎたのもあって、僕はノートにここ数日の出来事とこの間作ったピッツァの種類やレシピを書き留めたりしていました。覚えてはいるけど、ふと忘れてしまったらこれで確認出来たらいいかなーって。
こちらの字の方は服の調達の後に、アナさんがいろは表よろしく一覧表をくださって一通りは教えてもらえたよ?
でも、まだ全然覚えれませぬ。焦らずにとは言われても客人としているからにはいずれは何か求められるかもしれないしね?
今のところ必要なのは食材の名前ばかりだけど。
だって僕は料理人だもの。
「よし、こんな感じかな?」
まだ羽根ペンには慣れないが、昔見たファンタジー映画なんかで使ってたようにインクを染み込ませるんじゃなくて、普通のボールペンみたくインク芯が内蔵されてるからまだ書きやすい。先端潰さないようにするのも慣れないけどね。
「今日もいい天気だなぁ」
あてがわれたゲストルームの窓の外は快晴で雲ひとつない。代わりにじゃないけど、初日に降りた浮島達が空高く浮いています。
あれは魔法……じゃなかった、特殊な魔術で普段は浮かせてある飛行場だそうな。
ディシャスのような竜や他の聖獣なんかの騎獣達が下の本広場にどかどか降りたらお互いがぶつかるだろうからと順番待ちするために、エディオスさん達が生まれるずっと昔に設けた施設的な物らしいです。
初日は時間が遅かったからディシャスだけで済んだんだけど、朝や昼間は渋滞することも珍しくないんだって。今も浮島が上や下に動いたりの繰り返しが成されています。ここからじゃ騎獣達の影は見えるけど、なんの騎獣かはよく見えない。大きい影は大体竜らしい。
そう言えば、ディシャスに初日以来会ってないけども、元気にしているかしら?
と僕がぼんやり考えてたのが届いたのだろうか。窓の前に真っ赤な影がいきなり写り込んできた。
「わっ⁉︎……って、ディシャス?」
驚いて腰を引きかけたけど、見覚えのある色合いに僕はもう一度窓の方に顔を向けた。
爬虫類っぽい顔に立派な象牙色の一対の角。はっはと口を開けてピンク色の舌を暑そうにだらんとさせていた。そして何より特徴的な真紅の皮膚にエメラルドグリーンのぱっちりお目々。まごう事なきエディオスさんの騎獣のディシャスだよね?
て、関心してるばやいじゃない!
なんでディシャスが僕が借りてる部屋の前まで来てるんだ⁉︎
「ディシャス!」
「ぎゅぅるぅ!」
窓の鍵を開けてから扉を引くと、ディシャスが嬉しそうに声を上げて顔を乗り出してきた。
「なんで僕の部屋の前まで……って、わぷ‼︎」
「ぎゅぅるぅるぅ」
わけがわからないと慌てかけた僕にディシャスは大きなピンク色の舌で顔をでろんと舐めてきた。
初日以来のことに始めは驚いたけども、段々とくすぐったくなってきてべろべろとされるがままになっていく。
「ま、待ってって。く、くすぐったいからぁ!」
「ぎゅぅ?」
僕が声を上げたのにどうしたの?と舌をようやく引っ込めてくれた。
ううっ、顔べたべた。魔術はまだ組み合わせってのがよくわかんないから顔の洗浄が出来ないよ。
ひとまず、ディシャスに待つよう窘めてから洗面所に行って顔を洗ってくる。ディシャスはいい子にして待っててくれていて、僕が待てって言ったままの姿勢でじっとしていた。
「けど、なんでこんなとこに来たのかな?」
幸い窓のすぐ外は大きな木もなく芝生が広がっている場所だったから、ディシャスにぶつかる障害物もないので安全ではあるけども。
僕が呟いてもディシャスは大きなお目々をキラキラ輝かせているだけです。
主人のエディオスさんと違って意思疎通は出来ないからこれは困ったなぁ。
「……これはエディオスさんに知らせた方がいいかな?」
「ぎゅっ⁉︎」
「ん?」
主人の名前を出すとディシャスがぎくりと言った風に驚いた声を出した。
どうやら、僕が言ってる言葉は理解出来てるみたいだ。
「……ディシャス、エディオスさんに何かしたの?」
「ぎゅうぎゅう」
「えーっと……それはしてない?」
「ぎゅう!」
首の動作だけでなんとなく言いたい事を理解してみる。
横や縦に強く振ったりする感じ、人間のそれとほぼ同じような仕草だったからわからなくもなかった。
とりあえず、エディオスさんに何かけしかけた訳でもないようだ。
「じゃあ、お散歩?」
「ぎゅう……ぎゅう?」
「……もしかして、脱走してきたの?」
「ぎぎゅ⁉︎」
当たりのようだ。
って、ちょいと待ちなさい!
「なんで脱走してきたの⁉︎ 獣舎でお昼寝とか体動かすとか出来るんでしょう?」
初日に見た獣舎の外観だけじゃわからなかったけど、あの獣舎の反対側は巨大な岩壁で囲ってあるグラウンドがあるらしく、騎獣同士が遊んだり戦闘訓練出来る場所としても使われてるそうだ。
エディオスさんは王様だからしょっちゅうはいけないらしいけど、出来るだけ2日にいっぺんくらいは構ってあげてるようにはしていると昨日聞いたばかりで覚えていた。
だと言うのに、なんで主人そっちのけで脱走してるんですかこの竜さんは!
「……ぎゅぅ」
しょぼんと首をすぼめるディシャス。
あんなにもキラキラしていたお顔が一気に風船がしぼんだように沈んでしまったよ。そ、そんなにキツくは言ったつもりはなかったんだけどな?
「……もしかしてだけど、僕に会いたくて来たとか?」
「ぎゅっ、ぎゅぎゅぎゅぅ‼︎」
思いついた言葉をポロっと溢すと、一変してディシャスは顔を上げてお目々をキラキラさせてきた。
これはどうやら正解のようだ。だけども、
「どうやってここがわかったんだろう?」
初日に獣舎で別れてっきりだし、さっきみたいに顔をベロベロされる以外は特に何もされてはいない。
それともう1つ疑問が。この巨体なのに、どうやってほとんど音も出さずにここまでやってきたのかね?
僕だってたまたま窓見てなきゃディシャスの姿にも気付かなかったし。
「ぎゅうぎゅぅ‼︎」
「んー? どし……ってぇ⁉︎」
首を捻って考え事をしていたら、いきなりディシャスの手に抱き上げられました!
逃げようにもがっちりしっかりと痛くない具合に握り締められてましたので無理な具合に。
「ちょっと、なんでこんなことするの⁉︎」
「ぎゅうぅ……」
なんか黙ってとか言われたような?
意味がわからないともがくのをやめてみるが、それを見たディシャスはなんだかニコニコと牙を剥き出しにして笑い出した。
むぅ、不覚だが可愛いではないか。
ギィシャァアアア!
ひと吠えし出したディシャスはなんだか誇らしげでした。
んで、これからどうなるのと思っていたら、急にディシャスの顔が透け出した。
「え?」
なんだなんだとキョロキョロしてたら、僕の腕なんかも透け出していた。
今の吠え声で何かしたんですかディシャス君⁉︎
それがどう言う魔術かもわからずあたふたしていたが、 ディシャスと僕はその場から消え失せてしまっていた。
♦︎
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セヴィル視点)
「えーっと、これで最後か?」
午後の執務も粗方終わりそうなエディオスの間延びした声が聞こえてきた。
順調な方だ。
この3日ばかりカティアがピッツァ以外の差し入れ(※『今日は何の日』を参照)を色々してくれたおかげで、エディオスもいつもよりはやる気を出していた。
今日はカティア自身の勉学優先でこちらに来る事はなかったが、もう彼女が唐突に来るのが普通になっていてなんだか物足りなかった。
砂時計を確認すれば八つ時過ぎだった。
終わるにはちょうどいいし、茶以外の何か軽食でもマリウスらに作らせようかとベルを手にしようとした時だった。
ギィシャァアアア!
「「は?」」
今の雄叫びは竜種の聖獣のものだった。
少しばかり距離はあるが、これだけ聞こえるとなればかなりの巨体だと言うことが伺える。
だとしたら、この城内でそんな高等種を主人とするものはそう多くない。
「…………エディオス」
「うっ」
俺は逃げ腰に構えかけてたエディオスに詰め寄る。
エディオスは表情全体でありありとまずいと言う風になっていた。
王としてはポーカーフェイスを作ることを造作としないが、俺が半ば怒りを向ければ威厳も何もない。
「今のはお前の『ディシャス』だよな?」
「そ、そうです……」
がくがくと顔を青褪めながら答えた。
エディオスとは臣下とその主と言う関係性よりも先に、従兄弟が際立つ。幼い頃から何かと俺を怒らせるのが多いので、俺はその都度諌める意味を込めて容赦ない態度を取るようにしてきた。
つまり、こいつは俺の怒りに昔から怯みやすいのだ。
「昨日か一昨日に獣舎に行って構ってやったのだろう? 何故、城内であれの雄叫びが聞こえるんだ?」
「俺はなんもしてねぇって‼︎」
全面否定とばかりに顔をぶんぶん振った。
まあ、これは予想の範囲だ。
3日前はともかく、今日までは厳戒態勢で執務をするように結界や罠を設けて逃げ出さないようにしてきたのだ。最も、間にカティアの差し入れがあったおかげもあるから、それらはあまり意味を成さないでいたが。
とは言え、何故ディシャスが城内に?
「大変ですわ、エディお兄様‼︎」
「アナ?」
エディオスと振り返れば、息切れ絶え絶えのアナが扉に手をかけて肩で息をしていた。
「ど、どうしたんだよアナ?」
「カティアさんがいらっしゃいませんの!」
「カティアが?」
嫌な予感がする。
先ほどのディシャスの雄叫びと物凄く関係がありそうだったからだ。
「アナ、何故わかった?」
「お茶をご一緒しましょうとお部屋を訪ねましたけど、お返事がありませんでしたの。その後にあの雄叫びがすぐ近くで聞こえまして慌てて扉を開けましたが、窓が開けっ放しのままお姿がなく……」
「はぁ⁉︎」
「転移の魔術か……」
あの雄叫びはその術を行使する為か。
しかし、これではっきりした事は1つ。
「カティアはディシャスに連れて行かれたのか……」
けれど、何故また?
初日に聖域からこちらに来る移動手段として顔を合わせていたのは知っているが、そこまでディシャスの目に留まることがあったのだろうか。
「あんにゃろう……カティアが気になって強行手段取ったのか」
はぁ、と息を吐きながらエディオスは髪を掻いた。
「どういう事だ?」
「あ、お前らには言ってなかったな? ディシャスの野郎、初見でカティアをえらく気に入ってあいつの顔を舐めまくるとか鼻を摺り寄せるとか親愛の証をこれでもかって俺とフィーに見せつけてきた」
「「は?」」
俺や獣舎の輩にでも未だ渋い表情を見せる事で城内でも有名な王の唯一の騎獣。
それがあの異邦人の少女に初見で親愛の証を施す?
あり得ないと思ったのは、俺だけでなくアナもだろう。
「っ、ともかくカティアとディシャスを探すのが先決だ!」
「そ、そうですわね‼︎」
「っつっても、わざわざ転移の魔術使ってまでどこに行ったんだディシャスの奴‼︎」
とにかく獣舎に行くしかない。
俺達3人は身形もそのままに獣舎を目指すことにした。




