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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第一章 名解き
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起きたら?-③

 しばらくしてなでなでは終わった。

 ちょっぴり寂しいけど、もう大丈夫………って、僕成人した大人なのに何寂しがってんだよ!

 身体が幼児化しちゃってるから精神も幼くなったかも、ダメだねぇ。


「ありがとうございます……」


 でも、お礼は言わないとね。


「どういたしまして」


 フィーさんはふんわり笑った。

 が、これわざとだったようで。


「じゃあ、納得してくれたとこで始めようか?」

「ぴっ」


 きらっきらっの笑顔に一変。

 でもなんだか怖いですよ。真っ黒い服着てるせいかわかんないけど、後ろに黒いものが見える気がする。……無視しておこう。身の安全の為だ。

 って、


「さっきも言ってましたけど、なんで?」

「んー? 理由は至極簡単さ。さっきあれだけ泉の水飲んじゃってたから……そうしとかないと副作用が起きかねないからね?」

「ふ、副作用って」


 なんかあったのあのお水!

 無茶苦茶美味しいからたらふく飲んじゃったけど。


「まあ、痛くないと思うから心配しなくていいって。多分」

「多分ってなんですかぁ!」


 さっきから『多分』って多いですけど、本当に大丈夫なんかいっ。


「僕もこう言う経験はないからねぇ。あの水は巨大樹と共に神域の象徴。この世界の住人にもなんらかの影響はなくもないから、他所から来た君なんかもっとなにか起こるはずさ。その前に、こっちの構成物質に交換しとかないと大変だよ?」

「うっ……」


 最もらしいことをおっしゃる。

 僕も、欲望の赴くままに水を求めてしまったのだからいけなかったかもしれない。

 だって、副作用が起きかねないって思うでしょうか? 思わないよね、普通は。

 とは言えども、具体的にどう変換とやらをするんだろうか?

 さっきみたいに不思議呪文でもかけるのかなぁ。


「まあ、そんなに構えてなくても大丈夫だよ。すぐ終わらせるからさ?」

「はぁ……」


 もうどーにでもなれですよ。

 ひとまず紅茶をテーブルに置いて、フィーさんに向き直る。

 フィーさんはと言うと、にっこり笑ったままだった。


「え……っと、お願いします」

「任されましたーってね。痛くないように注意はするから」


 と言って、ぽふぽふと僕の頭を撫でる。

 それから、手はそのままに、さっきの不思議呪文を呟く時みたく真剣な面持ちになられた。

 ドキドキしちまうよー。心情悟られないようにじっとしております。


「∀§※⌘▲£$*€」


 やっぱりわかりませぬっ!

 フィーさん、それ人語? 呟いてるのはわかるけど聞き取れないよ。

 けど邪魔はしちゃいけないので、変わらずじっとしておりまする。

 ただ、1分くらい過ぎると身体がぐきって動き出した。なんだなんだ?


「おっ、成功かな?」


 成功ですか。僕大きくなるの?と思ってしばらくじっとはしてみたけど、思ったより大きくはならなかったよ。

 だってさぁ。


「ちみちゃいのに変わりがない……」


 さっきよりは大きいけど、やっぱりちみちゃいよ。

 小学校低学年くらい? あんまり変わらないじゃあないか。

 服も物質変換とやらをしたせいか、そのまま大きくはなっていたよ。


「それはあれだね。君の名前がわかってないからだよ」

「ほへ?」


 なんですと?

 そう言えば、自分が居た世界は教えてもらえたけど名前は不明なままだったね。なんでだろ?

 手から視線を外して彼を見ると、フィーさんはうーんと首を捻っていた。


「調べてはみたけど、全然出て来なかったんだ。なんか封じてあるみたいな感じだよ」

「ってことは……?」

「物質変換は順調に終わったけど、こればっかりは蒼の兄様に伺った方がいいのかな? けど、この間長めに話したばかりだから、しばらく応答しないかも」

「なんと……」


 まったく手立てが無いではないですかっ!

 僕どーやって生活してけばいいのですか?

 フィーさんのとこにご厄介になるわけにもいかないし。

 って、そうだ。たしかお客様が来るって言ってたよね? 僕どーしてればいいんだろ?


「フィーさん」

「んー?」

「僕……このままここに居てもいいんですか?」


 出来るのは調理くらいだけども。

 って言っても、ここの調理器具扱えなきゃ意味ないけどさ。

 すると、


「いいよ」

「ほぇ?」

「いいって。僕が許すよ」

「フィーさん……」


 良い人です!

 さっきは怖がってすみませんでした!

 あ、神様だから畏怖しちゃうのは当然かもね。畏怖とも違うのは忘れとこう、自分のために。


「たーだし」

「え」


 なんか条件出されるよ。

 って、そうだよね。

 ただ働きはいただけないもの。

 どんとこいですよ。


「君の記憶の中に面白いものがあったね。君、料理出来るみたいだけど。なんか丸くて美味しそうなのが」

「あ……」


 ピッツァのことかな。

 え、それって作らせてもらえるってこと?

 わくわくと思いつつ黙っていると、フィーさんはにこっと頬を緩めた。


「来客もあるし、作ってもらえる? 体の補助はなんとかしてあげるから」

「お願いしますっ」


 ピッツァ作りだよっ!

 やったやったーっ‼︎





 ♦︎






 場所は変わりまして、厨房です。

 やっぱり元居た世界とは全然違います。

 だって、(かまど)だよ竃っ!


「こう言う竃って初めて見ましたよ……」

「こっちじゃ一般的な調理器具だけどね。君の記憶見た限り、なんか全然違うの使ってたけど」


 ガスコンロや家電のことですね。

 そんなけ色々見れたのに名前が封じられていたのは謎だよ。まあ、今は置いとこうか。


「科学技術が発達していますからね。いっぱい道具が出来てるんですよ」

「かがく……? ああ、蒼の兄様も前になんか話してたね。戦争に色々便利な物作り過ぎるから、どう諌めようか困ってたようだけど」

「あ、それは」


 いがみ合いは世界じゃあまだ所々いっぱいあるものです。宗教や文化の違いがあったりするのもあるけど。


「まあ、それは今は関係ないからね。ってことはこう言うのじゃ使いにくいってことかな?」

「大丈夫ですよ?」


 ピッツァ作るのに毎日石窯使っているので、だいたいはわかりそうなものだったからです。

 とここで、問題が一つあるのを思い出した。


「あの、フィーさん」

「ん?」

「お客様って、いつ頃来られます?」

「そうだね。今が昼前だから、あと少し……君風に言うなら、2時間後には来るんじゃないかな?」

「時計って、この世界にはないんですか?」

「日時計や砂時計くらいかなぁ?」

「おお……」


 どうやら文明はヨーロッパ中期くらいで緩やかに止まっている模様。

 魔法みたいなのは、フィーさんが使う感じ結構発達しているようだけど。

 そうでなく、問題はピッツァ生地の仕込み。

 これ時間がかかるのはしょうがないけど、ちゃんと話しておこう。


「あの、さっき記憶で見てもらったのは『ピッツァ』って言うんですが、一つ問題が」

「なんだい?」

「生地の仕込みに『発酵』って工程があるんですが……これが少し時間いるんですよ」

「ほう。どれくらい?」

「フィーさんのお客様が来るってお時間くらい……」

「結構かかるんだねぇ」


 しょうがないのですよ。

 中の酵母菌が活発化するのにどーしても時間がかかるものなんで。

 って、待ってよ?

 天然酵母使ったことはなくもないけど、ここ生イーストってあるのじゃろか?


「フィーさん。ここってイースト菌ありますか?」

「……どんなの?」


 やっぱりないっぽい。

 まいったな……今から天然酵母仕込んだら三日以上かかるよ。

 なくても作れなくないけど、あった方がふっくらカリカリ美味しいからねぇ。

 うーん。ここは妥協しますか?


「あった方が美味しいの?」


 およ、フィーさんが興味津々なご様子。

 目がキラキラ輝いてるよ。

 美少年のご尊顔眼福です。


「そうですね。なくても出来なくはないですけど、生地の食感とかが」

「今回は僕がなんとかしてあげるから作って」


 畳掛けに口挟んできましたよ。

 そんなにお腹空いてるのかなぁ?

 まあ、ピッツァ作りに妥協したくないから良かったけどさ?

 でも、ないものをどーするんだろうか?

 フィーさんはむふふって口緩めてるよ。

 なんか自信あるっぽい。


「兄様の世界じゃあ、美味しいのがたくさんあるって聞いてたからねぇ。どう言う経緯で君が来たかはまだわからないけど、ここに来て物質変換したからもう僕の手中さ。エディが来る前に色々やってみようじゃないか?」


 欲望に忠実ですね。

 わかります。美味しいものは皆好きだもの。

 お客様はエディさんって言うのか。女の人かなぁ? でも、フィーさんの様子からじゃ違う気がするよ。男の人かもね。

 とは言え。


「ひとまず手を洗いたいんで、お借りしていいですか?」


 服はこのままでいいだろう。なんか汚れにくいやつだし。

 フィーさんもそれはそうだと水汲み場に案内してもらった。ポンプは田舎のばあちゃん家で見たような緑色のでした。

 冷たくてさっぱりしましたよ。


「とりあえず、君の記憶もう一度見させてもらうね。さっきのイーストって言うの考えてみて?」

「はい」


 イメージ転写と言うものでしょうか?

 魔法とやらは便利です。

 なんで科学発展してないんだろう。まあ、いっか?

 とにかくイメージしておきます。

 フィーさんは今度は僕に触れずに、頭の辺りに手をかざしてきた。やり方が違うのかも。


「うーん……なるほど、茶色っぽいけどこう言うのが必要なんだ」

「あれ、呪文は?」


 さっきまではちょいちょい使ってたけど。

 魔法ってよくわかんないよ。


「ああ。適材適所、必要な時には使うよ。これくらいの記憶の引き出しには大して必要じゃあないしね」

「ほう……」


 よくわかんないけど、大丈夫そうだね。

 とりあえず、イースト菌はわかってもらえたみたい。


「とは言え、こっちじゃなさそうな物質だねぇ。なんか代わりの物でもあればいいけど」

「あ、じゃあフィーさん酵母ってありますか?」

「こうぼ?」


 おおうふ。こっちもなさそうです。

 でも、パンは卓にもあったからあるはずなんだけど、呼び方が違うのかもしれないね。

 もう一度調べてもらうと、彼はピンと指を立てた。


「ああ、あれか? そっちじゃ酵母って言うんだね。あるよー、この小屋の氷室の奥に置いてあったねぇ」

「ナイスですっ!」


 パンには多いけど、ピッツァもパンの一種だもの。イースト菌も酵母だからねぇ。ちゃんと使えます。

 とりあえず、一緒に居ても時間を食うということで、僕は厨房で材料の探索。フィーさんが酵母探しと。


「チーズをお願いします」

「チーズ?」

「えっと……牛の乳の加工品なんですけど、熱を加えると溶けて伸びる性質のある食べ物です」

「んー? カッツかな?」

「多分、それです」

「いいよー、探してくるね」


 という訳で、分担です。


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