いざ実食‼︎-②
長らくお待たせしました。
実食……すいませんが短いです。
「ねぇ、カティア。デザートピッツァもう1枚くらい別の用意してみない?」
「と言いますと?」
フィーさんが楽しげにふふっと笑われて僕は首を傾げる。それから彼に誘われて厨房に向かい、果物達の前に2人で立つ。
「ココルルは使わないでいいから、メロモとリルシェをスライスして乗せたのとかどぉお?」
「これとこれですか?……たしかに、いいですね‼︎」
桃とリンゴを組み合わせるのは悪くない。
柔らかいのとしゃくしゃくの食感、きっと病みつきになるだろう。僕でも考えたことなかったよ。
しかも、生地も残り3つ。これなら厨房に2枚出せるし、僕らなら1枚で十分だ。フィーさんもそこは了承してくれた。
と言うことで、僕は生地を伸ばして焼きに入れ、フィーさんがリルシェ(桃)のスライスを担当することに。僕も準備が出来たらリンゴ(メロモ)のスライスに入ります。先に塩水でよーく洗って乾いた手拭いで余分な水っ気を拭う。皮ごと食べて大丈夫か聞いたら、こっちじゃ普通に食べれるんだって。無農薬の果物最高です!
多めでリルシェ5個分とメロモ2つ分スライスし、生地には生クリームを薄ーく塗りつける。そしてその上にリルシェとメロモを交互に並べてからカット。うん、1ピースの上に果物が1枚ずつ乗ったね。
マリウスさんに2枚預けて僕らはVIPルームに戻り、いざ実食です!
「まあ、こちらも美し過ぎますわ!」
「これは……メロモか?」
「もう一個はなんだ?」
「んふふー、リルシェだよー」
「フィーさんが提案してくれたんです」
ああ、早く食べたい!
けど、ここはまずエディオスさんとフィーさんだ。2人がそれぞれ取ったのを確認すると僕らも1ピースずつ手に取る。
んでもって、エディオスさん達がまずがぶりと、
「ん、面白ぇ食感だなぁ?」
「予想通りだけど、これも美味しいねぇー」
「本当ですわ!」
「……なるほど」
「おいしーです!」
しゃくしゃくしたリンゴの後に柔らか甘ーい桃ちゃんが顔を覗かせる。このハーモニーが堪らんです!けど、フィーさんよく考えついたなぁ。
「チェイルは乗せるのに不向きだと思ってねぇ。それなら、メロモとリルシェかなって」
なるほど、直感ですか。
最後の3枚は僕とアナさん、それとフィーさんで食べることになった。セヴィルさんはもう結構と言われ、エディオスさんはフィーさんとじゃんけんで負けたから。
「けれど、驚きましたわ。カティアさんは宮廷料理人にも負けない腕前をお持ちだなんて」
「お、大袈裟過ぎますよ……」
食後の珈琲っぽいのを飲んでいると、アナさんが感心したかのようにほうっと言葉を漏らすのに僕はぶんぶん首を振った。
これはあくまで民衆向きのグルメだもの。本来ならこう言う場には出し難い料理だから珍しいくらいで。
「けど、カティア。お前他にも色々作れるんだろ?」
「え、えぇまあ。一応職業柄は……」
それでもまだピッツァ以外はパスタとかだけどね。あとは日本の家庭料理くらいかなぁ。コース料理とかはまだ修行中で仕込みも任されていなかったしね。
「んー……よし、近々ヴァスシードからあいつらも来るし、ピッツァ振るってくれよ」
「え?」
「まあ、王妃様達にですの?」
「ああ、あいつらもきっと好きそうだしな。特にテリヤキっつーのはファルミアが気になるだろ?」
えぇ⁉︎ お隣の国の王妃様達に振る舞うの決定‼︎
い、いいのかなぁ……。
「あいつらにか……たしかに、王妃の方は気になるだろうな?」
セヴィルさんはやけに王妃様を強調しておられた。何かあるのかな?
「それが決まりでしたら、よろしくて?」
するとアナさんが立ち上がり、ふふっと笑い出した。ん? なんかやーな予感が過る。
これはもしやと逃げる体勢を取ろうに僕座ったままだ。後、アナさんの逃がすまじ!な視線にも囚われたと言うか。
「この後カティアさんにはわたくしとお召し物の調達に参りませんか? 時間もお有りでしょう?」
やっぱりそれですか⁉︎
「アナ、お前仕事は?」
「急ぎのものは特にありませんし、細かいのは既に割り振っておりますわ」
「……ならいい」
おうふ、これは逃亡フラグへし折られましたね。エディオスさんの許可が取れたら、動いてよしってことだし。
「カティア、諦めろ」
「セヴィルさん……」
ああ、貴方にもこうなった従兄妹さんは止められませんのね。フィーさんはと言うと、面白そうな目で僕達を見てました。まる。
ひとまず、僕は厨房に使わせていただいたお礼を言いに行きました。残ったソースとかは厨房でまかないとして使わせてくれないかと申し出があったのでオーケー出しましたとも。使ってくださると有り難いからね。次いつピッツァ焼けるかわかんないし。
特にジェノベーゼの使い途をどうやろうかマリウスさんは意気込んでるみたいです。ライガーさんがパスタのこと話してくれてたらいいけど、自然に辿り着くことを願う。
さて、この後はと言うと。
「さあ、行きましてよカティアさん!」
「はぁ……」
この物凄い張り切ってるお姉さんどーにかなりませんかね。
エディオスさんとセヴィルさんは午後も当然執務があるので戻っていき、フィーさんはちょっと用事があるからとどこかに行かれました。
残された僕はアナさんにがっちり肩を掴まれながら引きずられていきましたとも。
♦︎
「お待ちしておりました、アナリュシア様」
アナさんのお部屋に連れて行かれると、初老のおば様と若いお姉さんが2人待っていた。
ただ僕の目線はお2人よりもその横にある布の山や衣類ラックに釘つけ。何ですかあの量、もしやあれ全部僕に合わせるんですか?
勘弁してください!
「あら、準備は整ってるようね。2人共、この方がカティアさんよ?」
「まあ!」
「アナ様が仰られた通り、大変愛らしいお方ですね。これは是非とも色々お仕立てせねばなりませんと!」
え……っと、この方々もアナさんと同類?
1人だけでも困ったのに、ぷらす2人もなんてもっと大変じゃないか!
ともあれ、逃げ道はほとんどなきに等しいので僕はまたアナさんに引きずられて2人の方へ向かわされた。
「カティアさん、こちらがサシャでわたくしの乳母。隣にいるのはその娘でわたくしとは乳姉妹のコロネですの」
「か、カティアです。よろしくお願いします」
「「はい。よろしくお願い致します。カティア様」」
「様付けはよしてください!」
僕はただの一般ピーポーなのに!
その後なんとか説得して、せめてと言うことでさん付けに収まってくれました。
それとここだけの話。紹介してくださったお姉さんの名前が某菓子パンをすぐに連想しちゃうものに驚いた。あれ大好きだけど、こっちでいつか作ってみて教えてあげようかな? いや、それは失礼かもしれないので作るだけにしておこう。
「まずは採寸致しましょう」
どこから取り出したのか、サシャさんが手にしてたのは巻尺。紐状のだけのだよ? あのしゅるって収納できるタイプのものじゃなかった。
それでテキパキ僕を採寸していき、コロネさんは横でこれまたいつの間にか手にしてた羽根ペンとバインダーのようなものに僕のスリーサイズなんかを書き込んでいく。同性だから気恥ずかしさはないよ? ただ、この小学生サイズのが再びわかるとなると一種の残念感が……わかる人にしかわからないよね。さくさくと採寸され数字が読み上げられていく、ああ……やっぱり恥ずかしい‼︎
特にウェストや胸部が地味に来たよ。子供体型だからやっぱりそのままだったね。つまりは寸胴です。
「終わりましたわ。さ、次はこの中から好きな服をお選びくださいまし」
とサシャさんが指したのは衣類ラックにかかってるドレスや動きやすそうな服の数々。
キラキラしたものから大人しめな色合いまでこれまたたくさんあったけど、この元の持ち主ってもしや。
「……これってもしかしてアナさんの昔の服とかですか?」
「あら、よくわかりましたわね。お姉様のお古は嫁ぎ先にお持ちになられましたから、今はこれだけしかありませんが」
「充分過ぎます‼︎」
これ以上準備しなくて結構です。
けど、お姉さんいたんだ? って、たしか第2王女って言ってたの忘れてたよ。お嫁に行かれたから今はお城にいないんだね。
しかし、どれ選んでいいと言われても躊躇うのが普通だ。だって、どれも王女様のお古とは言え超高級品。着るのもだけど、汚すか破れるのを心配しちゃうよ。
とは言え、これは僕の服選びなのだから選ぶしかない。とりあえず、ドレスは選ばずに乗馬服っぽいのとかズボンとセットになっているのを物色してみる。ドレスだけじゃないのが意外だなぁと思ったけど、僕的にスカートは敬遠しがちだから有り難かったよ。
「じゃあ、とりあえずこれを……」
手に取ったのは紺色のベストがついている乗馬服っぽい上下セット。普段着には無難かなぁと思いましたので。
ただ、サイズがどうしても余るとこが多いので、そこはコロネさんが図ったサイズを合わせながら魔法で調節してくださった。
それを布の山の向こう側で試着して戻ると、何故か皆さんほうっと顔を綻ばせてしまった。
「まあ! 愛らしいお顔に凛々しさが垣間見えますわ‼︎」
「アナリュシア様のお小さい頃を思い出しますね」
よくはわからないけど、似合ってはいるようだ。
サイズとしても問題がないのでこれは決定だね。それからしばらく着替えをしたり、布をあててあれこれ作ろうとサシャさんとコロネさんが張り切っちゃってかなりのオーダーメイドが決まることになった。その間に僕のHPはめためたに下がってしまった。
だって、嫌だって言ったのに似合うからって途中から無理矢理ドレスの試着させられたんだよ?
あれは昨日も思ったけど着るのが無茶んこ大変だった。しかも、着せられた理由にも無茶んこ驚いた。
「セヴィル様の御婚約者となられたからには、ズボンだけではなりませんわ‼︎」
なんでその話知ってるんですかサシャさん⁉︎
話したとなるとアナさんだろうけど、彼女はと言うと何故かくすくす笑っていた。
「この2人は信用のおける者達ですわ。お兄様達だけではお話しにくい事もあるでしょうし、女側の味方は必要になりますもの。さすがにわたくし1人だけでは心許ないですわ」
「はぁ……」
言われれば納得出来なくもない。
なんだかんだ皆さんとは良好な関係でいても、役職があるからいつも頼るわけにはいかない。突然とは言えセヴィルさんの婚約者になった僕には他に頼る存在がいなかったのだ。少ないけど、味方がいた方がいいのは確かだ。それに、このお2人僕がこの見た目でも反対意識ないようだし、信頼はしていいかも。
「訳あってお姿がそのようになられていることは伺っておりますわ。けれど、ご心配なさらずに。御名手は何が何でも切れぬ絶対の絆。何者であろうともお2人を引き離すことは出来ません」
「サシャさん……」
言葉の1つ1つから、僕とセヴィルさんの『御名手』の関係を否定してない気配が窺える。
僕とさっき出会ったばかりだけど、本当にこのお城の人達は気さくで優し過ぎるよ。甘え下手な僕が甘えてしまっていいのか、少しだけ罪悪感っぽいのが浮かんでくる。
いきなり押しかけてきて、何の疑いもなく僕に衣食住を提供してくれる。連れてきたのはエディオスさんとフィーさんだけど、彼らも昨日出会ったばかりの人達だ。異世界トリップをして身体が退化してしまった僕に、価値なんて料理の腕前以外ほとんどないのに、皆さんが僕を受け入れてくれていた。
いいんだろうかと思うけども、アナさんやサシャさん達は僕に優しく微笑みを向けてくれた。
「ご心配することはありませんわ。エディお兄様がお2人のことを認めておりますもの。それに貴女はこの城への客人ですわ。誰も追い出したりするなど絶対致しません」
「……あ、ありがとうございますっ」
アナさんの強い言葉に、僕は少し噛みながらもお礼を言った。
僕、ここに居ていいんだ。
勤め先しか居場所がないと勘違いしてた僕に、新しい居場所が出来た瞬間だった。
後半ほとんど試着コーナー。
次回ももうちょっと空きますのでご了承ください。( ̄◇ ̄;)




