ピッツァへLETS'GO-⑤
ん? なんか忘れて……って、あぁ‼︎ ベーコンとソーセージのピッツァ忘れてたよ! 照り焼きチキンに肉系偏りかけてた。
「すみません、燻製肉のピッツァ先に焼きます‼︎」
「え、えぇ」
デザートピッツァのデコレーションはひとまず置いといて、生地を2枚伸ばしてマトゥラーソースを塗る。湯がいたマロ芋のスライスを数枚敷き、片方はベーコン片方はルーストのスライスを綺麗に並べ、アリミンのスライスも散らす。その上にカッツを乗せて少量のジェノベーゼをぐるっとかける。これを2枚とも石窯に投入。
あー、焦った。マリウスさん秘蔵のベーコンを本人に出さないでどーすんのよ?
「ふふ。ざーんねん、僕達だけで食べれるかと思ったのにさ?」
「そんなことする訳ないじゃないですか」
フィーさんやエディオスさん達の胃袋に納めるだけになんかしませんとも。
焼けたらこちらは片方を銀皿の上に置いてその上でカットして、もう片方はピールの上でカットしてから皿に乗せる。
ああ、やっぱりチーズの香ばしさだけでも良いけど、お肉のジューシーな匂いもたまらんです。
料理人のお2人は最早慣れた手つきで持ち上げてパクリと頬張る。
「……ヘルネや野菜だけでも素晴らしいと思ったが、これはよく合う!」
「僕としてはこっちのが好きですね」
ちなみにマリウスさんがベーコンでライガーさんはルースト。僕も食べてみたいけど、もう少ししたら食べれるから我慢だ。フィーさんにはダメだときつーく睨むものの、大して効いてないのか肩を軽く落とすだけだった。
「おい。皆適度に仕込みが済んだらとりあえず1人2枚は食べていいぞ?」
「「「え」」」
「「やった!」」
マリウスさんの指示に厨房に歓声が湧く。
そ、そんなに食べたがってくださるとこっちも嬉しいけどむず痒いよ。
ライガーさんがいっぺんに4枚も持っていくと、あらかた終わったらしいコックのお兄さんがどれにしようか悩んでいた。
「え……これってなんですか副料理長?」
「ヘルネを使ったソースなんだってさ。見た目はこうだけど、結構美味しかったよ?」
「副料理長がそう仰るなら……これ食べてみます」
「俺はこっちのルースト使ったの!」
「僕はバラ肉のにしようかな?」
「ヘルネとカッツ……って、無茶苦茶うまっ!」
段々集まってきて皆思い思いにぱくついていかれます。良かったぁ、喜んでもらえて。ジェノベーゼのピッツァは最初1人だったけど、その人がマリウスさん達みたく歓声を上げられて2枚目に突入しかけてた人が慌てて食べてみたいとかであっという間になくなっちゃった。
「なんスカこのソース! しょっぱいけどコクがあるなんて⁉︎」
「あーあ、俺食い損ねた」
「あのお嬢ちゃん何者? こんなソースお目にかかったことないのに」
「こっちのルーストやバラ肉にもちょびっとかかってるのもそれか? 風味付けにいいよなぁ」
むふふ。皆様ジェノベーゼの虜になられましたな。
材料はマリウスさん達も見てたから吟味してみてください。ただ、口臭が気になっちゃうのがネックだから歯磨きはしてくださいね?
それはマリウスさんも気になってたようで、説明すると首を捻っていた。
「たしかに、女性にはたくさんはお薦め出来ませんね。とは言え、オラドネは欠かせないようですし」
「そうですね」
あの香りはどうしようもないけど、ないと僕的には旨味が半減すると思うの。一回無しで試したことはあるけど、あんまり美味しくなかった。
さて、こっちもデザートピッツァに取り掛かりましょう。
蜂蜜も持ってきてもらって、もう1枚伸ばしてカッツを気持ち多めに乗せて焼きに入れる。個人的にはゴルゴンゾーラなんかのブルーチーズとやモッツァレラなども入れた贅沢チーズピッツァが良かったけど、カッツに種類がなさそうだったので断念。
焼けたらカットしてお皿に移し、ここでポットに入れた蜂蜜がご登場。
「ねぇ、カティア。本当にかけるの?」
「僕を信じてくださいよ」
不安気なフィーさんの言葉に、僕は力強く否定して蜂蜜をとろとろと網目状にかけていく。
全体に行き渡るのを確認出来たら、皆さんの前に出した。
「甘じょっぱい蜂蜜とカッツのピッツァです!」
「こ、こんなにも蜂蜜を……?」
「カティアちゃんは本当にどこの出身なんだい?」
皆様、ジェノベーゼの時より引いてますね。
ならば、この中で一番説得力がありそうな方に食べてもらいましょう。
「フィーさん、どうぞー?」
「え、僕ぅ?」
「場合によってはバラ肉にかけたりも出来るんですよ?」
「このままのがいいよ!」
僕の誘導にうまく引っかかってもらえ、フィーさんはピッツァを手に取る。
ごくりとつばを飲み込む傍ら、僕はによによ笑っている。だって、初めてフィーさんに意趣返しが出来そうだもの。楽しくないわけがない。ああ、こう言うところがフィーさんやエディオスさんに似そうだなぁ。気持ちがわからんこともない。
おそるおそるフィーさんは口元に持っていき、少し齧りつく。もぐっと噛みしめると、突然パァっと顔が輝きだした。おおう、これは眩しいじぇ……。
「なにこれ、すっごくクセになりそう⁉︎」
パクリと二口三口目も食べていき、端まで口に放り込んだフィーさんは幸せそうに咀嚼する。
「……フィー様があんなにも?」
「これは僕らも食べてみましょう」
と言って蜂蜜ピッツァをそれぞれ手に取られ口に運ぶ。先端から5センチくらいにかぶりつくと、お2人とも一時停止。どうやらジェノベーゼの時よりもインパクトあったっぽいね。
「蜂蜜がくどくない⁉︎」
「むしろカッツの塩っ気をまろやかにしてますよ!」
わーい。デザートピッツァ大成功。実はこれイタリアでもオーソドックスなデザートピッツァなんだよね。よくお店で出すのはゴルゴンゾーラやチェダーチーズにパルメザンも加えた『クアトロ・フォルマッジ』ってピッツァが多いけど、市販品のゴルゴンゾーラとかは高いからゴーダチーズだけでも充分美味しいのだ。
ちなみにベーコンも乗せたりするのはサイトで見つけて実践済みではある。悪くはないお味だったよ? でも、今日出す気は毛頭ない。
さて、次はお待ちかねの生クリームと果物をふんだんに使ったピッツァだ。
とは言え、
「フィーさん、見た目はほとんど一緒なんですけど名前が……」
「はいはーい。えっとねぇ……ブルーベリーがフェイ、苺はプチカで桃はリルシェ、リンゴはメロモだよ。ラズベリーはダイラでチェリーはチェイルだね」
「すみませんです……」
マリウスさん達が蜂蜜ピッツァ持ってコックさん達の元へ行ってる隙を見て果物達の名前を確認。
いやあ、わかって良かったぁ。蜂蜜とかは運良かったけど他はてんでわかんなかったもの。そしてフィーさんありがたや。
しかし、さくらんぼ(チェリー)以外は見事に縁もかすりもしない名前ばっかりだなぁ。調理師の仕事してたからなんとか食材の名前は覚えられるけども。
「でも、そっちのが呼びやすそうだねぇ。蒼の兄様センスあるなぁ」
「え。てことは食材の名前ってフィーさんが……?」
「ううん。僕の名前崩して入れたりはしてるらしいけど、基本はエディの先祖達がつけたらしいよ?」
「はぁ……」
じゃあ、『ル』が多いのはフィーさんのフィルザスからか? フィは使いにくいからって……単純だなぁ、おい。
まあ、それは置いといて。
「生クリームを塗ってっと」
ケーキで使うようなスパチュラがすぐ見当たらなかったので、スプーンですくっては塗るを繰り返す。ここで、濡れ布巾を用意してからピッツァをカット。べとべとになっちゃった包丁を布巾で拭い、それからフェイ(ブルーベリー)とダイラ(ラズベリー)を散らして、スライスしたプチカ(苺)も満遍なく並べる。これだけでも充分美味しいけど、今日はチョコソースもあるんだ。クレープっぽいデザートピッツァを作りましょう!
小さいボウルに入ってるチョコソースを小さめのスプーンで軽くすくい、網の目になるようにかけていく。仕上げに粉砂糖があれば良かったけど、見当たらないから見送り。
とりあえず、これで完成です!
「マリウスさーん、最後のデザートピッツァ出来ましたよ!」
「っと、おお。これはまた美しいですね」
なんか熱心に語り合っていたようだけど、僕が呼ぶとこちらにやってきて最後のベリーミックスピッツァを褒めてくれた。
「へぇ……これはもう大体味の予想がつくね?」
「とは言え、また驚かされるかもしれないぞ」
ええ、驚いてくださいな!
クレープじゃあないけど軽くしょっぱい生地がどうマッチするか確かめてください‼︎ その間、僕はフィーさんが手を伸ばすのを身体を張って押さえ込んでいますから‼︎
♦︎
「くぁ……終わった」
「昨日済ませば、もう少し楽に終わったが?」
「もう終わったからいいだろ?」
「まったく……」
朝からの執務を終え、エディオスと共に上層部の食堂へ向かう。
結局謁見は本当に報告を聞くだけの簡素なもので終わり、たしかにそれだけならばエディオスを出す理由にもならない。だが、あそこはこれから先絶対にエディオスが必要になると俺は踏んでいる。だからこそ、定期的な報告にも奴を出さねばと思っているのだが本人は無視したがる傾向がある。どうしてそうするのか俺は未だに読めないでいるが、いずれ聞き出してやるつもりだ。
アナの方は知らないようでいるし。
「あら、お兄様方。謁見は終わりまして?」
と思っていたら、件のアナ本人が扉前で合流してきた。
「まぁ、なんとかな」
「昨日終わらせればよろしかったのに」
「かったるいんだよ。ああ言うのは」
本当に辟易しているようだ。初見ではそこまでではなかったはずだが。
「それよりも、カティアの飯だぜ? ここでも政務の話続けたら不味くなっちまう」
「……それもそうですわね」
上手い具合に話を逸らしたな。
まあいい。たしかに今の俺達の目的はそれだ。
エディオスがノブに手をかけようとした時だった。
キィ。
ドガッ!
「って⁉︎」
「ん?」
「え?」
先に扉が開いてしまい、エディオスの顔面に角が直撃した。しかも眉間に当たってしまったのか、痛そうに奴は手で押さえていた。
「やほー、皆揃ってたね?」
向こうから顔を出してきたのはフィルザス神だった。あの様子からして、扉向こうから気配と透視でエディオスを狙ったのだろう。相変わらずのことだ。
「……エディオス、切れてはないか?」
「多分……血は出てねぇよ」
「昨日もぶつけられましたわよねお兄様」
昨日も?
と言うとその時はアナにか。彼女の場合は本当に具合良く惨事を起こすのだから始末に負えない。天然故と言うべきか。
とりあえず、エディオスの眉間を確認すると赤くはなっているが傷にはなっていなかった。この様子ならしばらくすれば赤味が引くだろう。
「はーやく入っておいでよ。君らが来ないと生地伸ばせないからさぁ」
「テメェ、フィー。後で覚えてろよ」
「なーんのことー?」
「生地?」
「伸ばすとはなんのことでしょう?」
いまいち掴みにくい説明を耳にしてから、俺達は部屋の中に入った。
「あ、皆さんお疲れ様です!」
中に入るとカティアが昨日も着ていた青い服のまま出迎えてくれた。調理をするから今朝着てた服を汚さないがためだろう。それも大変高価な物に見えるが。
「じゃあ今から焼いてきますねー」
「カティア、昨日一番最初に食ったのにしてくれよ」
「はーい。とりあえず他の合わせて3枚は持ってきますから」
「僕も行くよー」
フィルザス神を伴い、カティアは厨房へ行ってしまった。
今からと言うことは、すぐ出来るものなのか?
以前食べたのも下ごしらえさえすればすぐ出来るものだったから、ますます期待度が上がってしまう。
だが、気になったことが一つ。
「手拭いが何故こんなにもあるのだ?」
食器は普通にあるが、その横に濡れた手拭いが3本も置いてある。すぐに見てその意味がわからなかった。
「あ、言ってなかったよな? 今から出てくんの基本は素手で食べるもんなんだと」
「えぇっ⁉︎」
「素手で……か」
だとしたら、あれではない。
幾分か落胆はしたが、すぐに頭を切り替える。
カティアの手料理を久々に味わえれるだけで良しとせなば。朝二の前もそう自分を奮い立たせたではないか。
とにかく、俺達はそれぞれの席について彼女らが来るのを待った。
クアトロ・フォルマッジ食いたくなるなぁ。
個人的には蜂蜜無しのが好きですけど、有りのもまあまあいけますよー(=゜ω゜)ノ
作中では意外性を突いて誇張してるだけです(笑)




