ピッツァへLETS'GO-③
具材作りで少し長めです(=゜ω゜)ノ
早速マリウスさんに打診してみると、目を丸くされちゃいました。
「……ほう。デザート感覚のもあるんですか?」
「果物や甘いソースをかけて食べたりも出来るんですよ」
「今までにないパンの食べ方ですね」
ライガーさんもびっくりされていた。
お惣菜パンはあるからてっきりデニッシュパンがあると思ったけど違うのかな? カスタードとか生クリーム使ってフルーツ乗っけたりとか……おおう、思い出したら涎出そうになるよ。いけないいけない。
であるならば、こちらも説明した方がいいのかな。
「生地だけを先に焼いて、後で飾り付けするんです。果物は甘酸っぱいのがよく使われますね」
向こうの言葉をなるべく使わないようにするのは難しいなぁ。どうしようもないけどさ。
「と言いますと、フェイとかでしょうかね。それに合わせるとなるとココルルのソースもいいですな」
なんとなくだけど、ベリー系の果物にチョコソースを合わせるくらいしかわかんない。
いや、それもいい!
クレープ素材だけど、僕ちょうどそう言うのを予定してました。
「でしたら、下に生クリームのホイップは欠かせませんね。料理長」
「そうだな」
クリームはそのままクリームだったよ。自分で言う前に言ってくれて良かったぁ。
「ねぇねぇ、カティア。ヘルネのソースは作らないの?」
「え、あれですか?」
癖あるし、今日はアナさんがいるから女性にはやめておいた方がいいと思ったので用意はするつもりなかったけども。
その旨を伝えれば、フィーさんはふふっと笑い出した。
「匂いがキツイなら、後で洗浄魔術使えば大丈夫だよ。見た目はすごいけど、あれも美味しかったからさ」
要は食べたいんですね。わかりましたよ。
「それと、ここで少し魔術教えてあげるよ。昨日みたいにすりこぎで作業すると大変だからね」
「え」
魔法が使えるんですか⁉︎
そ、それはすごいよ!
でもすぐには教えてもらえず、材料を取り揃えてアーモンドもといナルツをローストして、他の材料とフレッシュヘルネ(バジルリーフ)をボウルに入れる作業までお預けをくらいました。
気づいたけど、ここまで知ったほとんどの食材の間に『ル』が入るよね。なんか意味があるのかな?
「全部揃ったね。じゃあ、教えてあげるよ。マリウス達はちょっと黙っててね?」
「「わかりました」」
「ん。じゃ、カティア。魔術を使うには何よりも『創造力』が必要になるんだ。あ、考える方じゃないよ」
「はい」
一瞬頭を過ぎったけど、どうやら『創る』側の方でした。
僕が頷くとフィーさんはにまっと笑みを浮かべた。
「じゃあ、これを粉々にするには、カティアならどうする……?」
「え、えーっと……切れる風を起こす?とか」
「せいかーい。よく出来ました」
あてずっぽうに言ったけど、正解だったようで頭を撫でてもらえた。単純にミキサーとかのフードプロセッサーをイメージしてみただけなんだけどね。この状態で刃を出すのはないと思ったから『風』って言ったのです。
「で、それを起こすには身体に内包された魔力と空気を混ぜ込んでみるんだ。僕が少しやってみるね」
「え」
それだけ? 説明それだけですか⁉︎ もっと細かいのお願いしますよ⁉︎
けど、そうこうしている間にフィーさんは手をボウルにかざした。
「何と何を組み合わせるのが決まったら、手の中に風を思い浮かべて球状に集めてみる」
良かった。説明書はまだ続いたよ。
フィーさんの説明を聞きながら彼の手を見てみると、段々と手の中にソフトボールくらいの白い風の球が出来上がっていく。
「これに『切れ』って命令を書き込むんだ。僕は普通無詠唱だけど、今回はちょっと言うね」
「はい」
だよね。いきなり無詠唱は無茶あります。
「斬切」
って技名だけやんか⁉︎
それだけで僕も出来るようになるの?
とにかくその言葉を告げた途端、風の球に細かい突起みたいなものが現れた。フィーさんがそれをボウルに落とすと細かい風が渦巻いてヘルネの葉を砕いていきます。
おおう、こういう感じになるんだ。
ただ今回のは見本なので、フィーさんは数秒切れるのを確認すると指パッチンで球を消した。
「じゃあ、やってみようか?」
「……僕の魔力量で大丈夫なんですか?」
「これくらいは問題ないよ。半分以上は空気を混ぜ込んであるからね」
いや、問題そこじゃないんだけど。
まあともかく、イメトレも大事なのはわかったので、フィーさんが実践したように僕もやってみる。
魔力と空気をどうやって混ぜ込むかはわかんないけども、とにかく手の中に風を集めるようイメージ。
すると、ものの数秒で風が集まり出した。わぉ。
「いいね。ある程度集まったら、さっき僕が言ったように詠唱してごらん?」
「はい。えと……斬切」
言われた通りある程度集まったのを確認してから、人生初の魔法詠唱を試みます!
日本とかじゃぜーったい出来ないから、こう言う世界だけの特権だと思っておこう。詠唱すると、手の中の風にぐんと何か負荷がかかるのが感じ取れ、なんだと疑問に思ってる間に鋸歯が出現。
で、出来たぞ!
「うん。それから手を離せば下に落ちるから」
「はい」
だ、大丈夫かなぁと思いつつもそぉっと風の球から手を離してみる。すると、自然に下に降りていきヘルネ達とぶつかると『ザ・フードプロセッサー』よろしくミキシングされていきます。
おお、成功だぁ!
「出来ました!」
「はい、おめでとー。このままじゃ一定にしか回らないし応用編は今度教えてあげるから、今回は僕が付与術かけてあげるね」
「ふよじゅつ?」
「補助的な魔術だよ。まあ、時間なくなるから説明まただね」
と言ってまた指パッチンされました。
そうしたら風の球が横だけしか回ってなかったのが縦横左右不規則に回りだし、それに合わせて食材達が満遍なく混ざり合い、攪拌していく。こ、これはフードプロセッサーよりも凄いぞ。上下にも動くからミキサーみたいに細くなっていくじぇ……。
「これは細くなったら自然に消すようにもしておいたから、今の内にオイルと瓶だね?」
「はい」
すぐ使い切るなら瓶に入れなくてもいいけど、今日は種類が多いからどれだけ食べるかわかんないしね。
「…………ヘルネにあんな使い方が」
「み、見た目凄いですね」
ぼそりとマリウスさん達の声が聞こえたけど流しておきましょう。ジェノベーゼは最初引くもんね。
♦︎
ジェノベーゼにマトゥラー(トマト)ソースにオーラル(マヨネーズ)ソースが完成しても生地の発酵にはまだ余裕があるので、具材の下ごしらえにいきます。
あ、デザート用の生クリームとかはその間にマリウスさんが用意してくれることになりました。
マルゲリータはもう材料あるから大丈夫なので、昨日のようなジェノベーゼやベーコンピッツァとかの準備です。
「……実はね、カティアちゃん」
紫のトウチリン(パプリカ)をスライスしている最中に、ライガーさんがこそっと話しかけてきた。
「はい?」
「あのバラ肉、実は料理長秘蔵のものだったんだよ」
「え」
つまり、マリウスさんが仕込んだ燻製肉だったの⁉︎
だからなんか間が空いてたんだ。
無意識とは言え選んじゃったけど、い、いいのかなぁ?
「まあ、料理長がいいって言ってたから大丈夫だけどね」
「お、驚かせないでくださいよ」
「ごめんごめん。一応はそれだけ凄い肉だってこと知ってもらいたかったからさ」
ううむ。ならば、腕によりをかけてベーコンピッツァを作らないと。
ああ言う組み合わせは、実を言うと宅配ピザの方が種類豊富で僕も休みの日にMサイズでほぼ必ず一枚は注文する。ほとんどお昼にだけど、たまには夕飯代わりに食べてはメモして別の休日には再現してみるのだ。なもんで、僕のレパートリーはそこそこあるのですよ。
「だとしたら、マトゥラーソースの方にちょびっとジェノベーゼもかけて風味付けもいいなぁ」
パスタやピッツァ以外は、ほとんど飾り付けくらいにしか目立たないジェノベーゼでもそう言う使い方があるんですよ。ベーコンピッツァの一つはそれにしてみよう!
「……あの緑のソースは、焼いて食べるものだよね?」
「あとは麺料理にも使えますよ?」
「えぇっ⁉︎」
ライガーさんはまだジェノベーゼの魅力がわからず未知のソースと思っているようだ。
まあ、生のままじゃえぐいしオイルまみれだから味見しづらいしね。
「……ごめん。想像つかないや」
「機会あれば作りますよ?」
「……検討しとく」
美味しいのに……特に魚介パスタとか。生クリーム入れるとまろやかになるんだよね。
さてさて、時間も迫ってきてるから野菜などを次々にスライスしていき、ソーセージも包丁を洗ってまな板を変えてから斜めにスライス。それから、いよいよ問題のベーコンの塊。
全部はもちろん使わないけど、どれだけ用意しとくのも悩みどころだ。なにせ大食漢が2人もいるからね。それは言わずもがなエディオスさんとフィーさんですぜ。
「…………とりあえず、4分の1で」
「えぇっ、もっと切ろうよ」
「種類あるんですから我慢してください!」
駄々こねてもダメですよフィーさん。
「それより、お芋は湯立ちました?」
「うん。終わったよ」
親指を指した先には、ザルに上げてあるマロ芋のスライス達。
むむ。その下にボウルで受けているのはさすが野菜料理がお得意なだけありますな。
「僕が切ろうか?」
「そう言って半分以上切りそうでしょう⁉︎ 僕がやります!」
あらかじめ用意しておいた肉用の牛刀を手に、ザクッと切ります。スライスは、さっきまで使ってた包丁でいいしね。
「ライガーさん。このお肉、残りはどうやって保存するんです?」
「ああ、保存の魔術だね。僕がやってしまっておくから切り分けてていいよ」
「お願いします」
とは言え、普通に長方形にスライスするか短冊切りにするか悩むなぁ。でも、食べ易さ優先して長方形にします。手早くスライスして、乗せる大きさにカットしていく。
「野菜にお肉はこれで……あ、テリチキどうしよう」
「テリチキ?」
「オーラルソースに合う鶏肉の料理なんですよ。僕のいたとこじゃ照り焼きチキンって言うんですけど」
「焼くはわかるけど、てり……?」
「うーん……醤油って調味料とみりんで味付けして焼くんですが」
「ごめん、わかんない」
「ですよね……」
今回は断念した方がいいかなぁ。
首を捻っていると頭にふわっと何かが置かれる感覚が。あ、これはもしかして。
「ふぅん。ここにあるかなぁ? あれ一応隣の国の調味料だし」
「え」
調べてくださったのはわかったけど、思い当たる調味料があるのですか⁉︎
えぇっ、無いものだと諦めかけてたのに。
「マリウスー、ミナスとサイソースってここある?」
「え、あれですか?」
パードゥン?
どっちがみりんで醤油?
たしか英語で醤油がソイソースだから、後のが醤油かなぁ?
フィーさんがマリウスさんに訊くと、少し考え込んでから厨房を去った。
「多分あるみたいだね」
「この世界にもあの調味料があるんですか?」
「同じかはわかんないけど、そのテリヤキチキンって料理みたいなのは僕も何度か食べたことがあってさ。隣の国の王妃の得意料理なんだ。作ってるとこも見せてもらえてね」
「え?」
王妃様が料理を作るの?
いや、別に不思議じゃないんだけど……似た料理があるんだ。だとすると、隣の国はアジアン風な土地なのかな? ああ言う調味料って魚醤も含めてシンガポールみたいな東南アジアで盛んに作られてるらしいんだよね。今じゃ日本以外でも醤油は海外で輸出されてフランス料理にまで使われる万能調味料になっているのだ。凄いよね。
「ありましたよ」
戻ってきたマリウスさんも手にはワインボトルのような黒い瓶と白い瓶。多分、黒いのが醤油かなぁ?
「あまりたくさん使わないので氷室の奥に入れておきましたが、これで一体何を?」
「鶏肉を味付けるのに使うんです。オーラルソースのピッツァの具材になるんですよ」
「……また斬新なものが」
「ヴァスシードだと似た料理があるんだよ」
「カティアさんはヴァスシードの方なんですか?」
「ううん。僕の知り合いー」
「そうですか」
あ、危なかったじぇ……出生がどこかも決めてなかったから、フィーさんが誤魔化してくれてよかったー。言い出したのはそのフィーさんだけども。
ともあれ、照り焼きチキン作らないと!
鶏肉は氷室にあるのでモモ肉で貯蔵してあるのを一枚失敬。
まずはフォークでめった打に刺しまくり、片栗粉擬きも見つかったのでそれに軽くまぶして余分な粉は払い落とす。
フライパン(あるのに驚いたけど、出なきゃステーキとか焼けない)にオイル(菜種油っぽいのはライドオイルだって)を少量入れてを温め、いい温度になってから鶏肉を皮面から焼く。
焼いている間にタレ作り。醤油、砂糖、みりんに酒を混ぜ合わせておくだけ。お酒は白ワインっぽいのだったけど、多分大丈夫だ。そのお酒を鶏肉の方にも入れ、蓋をして蒸し焼きにする。とここでだ。
「フィーさん、弱火にするにはどうすれば?」
「あー、それね。慣れれば手をかざさなくても出来るようになるんだけど、今回はそれでやるか? フライパンに手をかざしてみて」
「はい」
「で、念じるように思い浮かべて行けば魔力が届くから。やってごらん?」
「呪文とか言わなくても?」
「こう言うのには慣れだよ」
習うより慣れよですね。了解しました。
なので、ガスコンロでつまみを緩めるようにイメージしてみる。
「……ん。弱まってるよ」
「創る創造力って言ってましたけど、やっぱり考える方も必要ですよね?」
「慣れれば、組み合わせを創り出す方に重きを置いちゃうからさ。それで、創造力って言ったの」
「なるほど……」
じゃあ、セヴィルさんが紙やペンを出すあれも組み合わせなのかな?
っと、余所見してちゃいけないね。蒸し焼きしている間に生地の膨らみ具合確かめようっと。
次回も仕込みが続きますよ〜




