幕間ーーそれぞれの思惑?
タイトル通り、それぞれの視点です(=゜ω゜)ノ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ (エディオス視点)
(まーだ信じられねぇよなぁ?)
執務をしつつ、ちらりと別の机で書簡整理をしているゼルを見る。
その姿は、1ミリも装甲(相好じゃあない)を崩さない冷徹宰相と名高い鉄壁の無表情。昨日と今朝に少しだけ垣間見せた微笑みなど欠片もない。
ありゃ、カティア限定だな多分。
(女子供が苦手な奴に、先に『御名手』を越されるとは思ってもなかったぜ)
ゼルに気付かれぬよう声を噛み殺して小さく笑う。
思わぬ収穫が出来たと思った。
最初は異彩の物珍しさとその小さな身体からは想像も出来ない調理の腕前に興味を持っただけだったが、帰城して直後にわかった事実に俺は久々に『驚愕』を覚えたのだ。
あの異邦人のちみっこが、従兄弟のゼルと魂の相性が非常に良いとされる御名手になるとは露ほども思っちゃあいなかった。
フィーがディシャスで移動中の際にゼルの協力が必要だと溢した時はうまく飲み込めていなかったが、まさかそんな隠し玉を用意されてるとは。
王に即位してまだ50年足らずの俺でも見つかってないのに、先を越されたのは正直言うと少し悔しかったが同時に安心もした。
身内以外、ごくわずかしか心を開きにくいゼルに一握の光が灯り出したからだ。見た目だけは俺なんかより遙かに極上もんなのに、女達の熱烈なアピールには一切靡かないあいつは、実母の伯母にもだが周囲から大変心配されていた。
仕事はそつなくこなすものの、それ以外に関心を持たない冷めた性格が歳を経る毎に酷くなっていく傾向がみられたからだ。それで無理矢理隣国の王を紹介させたのもあったが、あれはあれで友好的な関係を築く事が出来た。間に入った王妃のお陰もあったがな。
しかし、それ以外で依然として変化がなかったのは残念だった。
だが、だ。そのゼルに『御名手』となる者が現れたのだ。しかも、ゼルがほとんどと言っていいほど嫌がる素振りを見せないでいるし、ましてや相手に少しだけとは言え笑みを見せてやった。
俺とか隣国の王との会話ですらほとんど平素変わらずな無表情でいるのに、異邦人を除けば色彩が珍しいだけのちみっこにはやけに心を砕いているときてる。
(ほんと、あいつといつ出会ったんだよ?)
昨日のフィーが言ったことから、カティアとゼルは初対面ではないことは判明している。カティアの方は思い当たらないようだったが、ゼルはばっちり覚えているのはあの慌てようで確信を持ってはいた。
今日聞き出そうにも、昨日奴と約束させられた謁見が後半刻も経たない内にあるし、それまでに適度に書簡整理しねぇと雷撃を叩きつけられそうだから無理だ。
あれは抑えていても地味に効く。ついでに腰を強打させられる恐れもあるからダメだ。謁見の間の椅子は堅いしクッションあっても無効化されるのは既に経験済み。
(まあ、気になるっちゃ気になるが今日は昼が『あれ』だもんなぁ)
昨日口にした美味を思い出し、堪らず涎が出そうになる。
フィーに呼び出されて小屋に行くと、いい匂いがしたので辿ると厨房でカティアとフィーが何かを食べようとしたのを見て、思わず手を伸ばしていた。
薄くて軽いパンみてぇなものだったが、味は濃厚で焼いたカッツがソースと良くあっていた。
カッツにあんな食べ方があるとは思いもよらなかったが、王の身分を隠して時たま城下町の料理屋や酒場に行く俺でも食べたことのない珍味にはぶったまげたぜ。後に出てきたヘルネのソースにもたまげたが、あれはあれで美味かった。
今日は何を用意してくれるのか楽しみで仕方ない。
(そこだけは、先に俺が知れたもんな?)
成り立てとは言え婚約者よりも先に手料理をふるってもらったことだけは、ゼルに勝てた。
それくらいの優越感を得てもいいだろう。
(……よし。昼以降のもそこそこやれば食いまくれるな)
久々に気合いを入れて執務に取り掛かることにした。途中ゼルに怪訝そうに視線を送られたが、気にせずに俺はペンを走らせていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆(アナリュシア視点)
「統括補佐、今日はやけにご機嫌がよろしいですね?」
気心の知れた小姓が紅茶のセットを持ってくるなり、そう声をかけてくれた。
あらいやだわ。そんなに顔に出てたのかしら?
「わかりやすいかしら?」
「お気付きでないご様子ですね? 珍しく鼻歌も歌ってらっしゃいましたよ」
「あら……」
それは少し恥ずかしいわ。誤魔化すために持ってきてくれた紅茶を一口飲んで小さく息を吐いた。
「何か楽しいことでもお有りなんですか?」
さて、どう言おうか?
気心知れてるとは言え、彼はまだ200年未満の子供だ。宮仕えの為にこうして近習の役割を担うだけの子。話していいものか躊躇われる。
何せ、カティアさんは昨夜来たばかりのお客様だからだ。
「……そうね。今日のお昼にとっても特別なものが出されるのよ」
「お昼が、ですか?」
まあ、これくらいはいいだろう。
お兄様がカティアさんに対しての正式な客人としての接待を任せられることになれば、彼のような役割の子達にもいずれ伝わるだろうし。
「えぇ。わたくしも詳しくは知らないのだけども、昨夜フィルザス様がいらしてね。新しいお料理をお伝えに来てくれたのよ」
「創生神様がですか……? それは、とても楽しみになりますね」
「貴方達には伝えられなくてごめんなさいね」
「とんでもございません。私達のような下々の者にまで、お心配り感謝致します」
よし、この子は口は基本的に堅いしこれで噂が広がることはまずない。
作り手がこの小姓よりも幼い少女だと知れば、中層もだが下層食堂が大混乱となる。あのような齢80年にも満たなそうな幼子が調理を可能にするのは城下の子供らでも手伝うらしいのは聞いたことがあるから、そこまでおかしくないけども。
あの食通で名高いエディお兄様の舌を唸らせたのだ。昨夜の話し方から、相当なものが出されたのだと推察出来る。
時折、王と言う身分を隠して城下町に繰り出すお兄様は宮廷料理から下々の者らが食す珍味まで知り尽くしている。そのお兄様があれだけ期待しているのだ。きっと、物凄く美味しいものに違いないわ。
今朝カティアさんに言った通り、本当に気になって眠れなかったもの。わたくしだって、美味しいものには目がないわよ。
(それにしても、ゼルお兄様が御名手になられたなんて、この子達にもだけど女中達になんか絶対言えないわ)
あの冷徹宰相に婚約者が出来た。
そんな事実が発覚してみなさい。城もだけど、城下町に広がって果てには隣国にまでその吉報が届いてしまうわ。あの王様や王妃様が黙っていませんもの。何せ、親友のことだから。
紅茶を飲みつつ考えていると、昨日も指摘されたある疑問が浮上してくる。
(本当に、あのお姿で成人なのかしら?)
フィルザス様やエディお兄様は違うように仰っていたから、おそらく封印が影響されてるだろうけども。
カティアさんはあれでも大変愛らしいですが、340以上も歳を重ねているゼルお兄様とはいくらなんでも周囲が黙ってはいないはずだ。まだわたくし達しか知りえない事実、異邦人と言う事も勿論しばらくは秘匿せねばならないけど、これは極秘事項にしなくてはならないわ。
(ゼルお兄様の笑顔を引き出せれる人材なんて早々いないもの!)
わずかとは言え冷徹の仮面を剥がしかけたのだ。
ゼルお兄様やカティアさんに嫌がる素振りは見られないし、これはもう確実と言っていい。
あの2人は、絶対上手くいくと思うわ。
女側としては今はわたくししか味方がいないし、これからどうお過ごしになられるかまだわからないけど、影ながらお手伝いすることをわたくしは心に留めた。
(それに、今日こそはお着替えをたくさんしていただかなければ)
着せ替えが趣味なのは自他共に認めてはいるが、彼女はあの素晴らしく手触りの良い蒼い服以外何も持ってなさそうでいた。
一応は王妃様が置いたままにされている服のサイズを変えたものでなんとかはしたが、あれだけの逸材をわたくしが逃すはずもありません。
今日の昼以降、わたくしには急ぎの執務は特にない。ならば、信頼の置ける乳母と乳母子に連絡して生地をいくつか用意してもらおうかしら?
あの2人にならば、ゼルお兄様の婚約者と言う事もまだ話せる。味方が多いことに越したことがないわ。流石に、わたくし1人だけでは心許ないもの。お姉様には、まだお伝えするのは難しいし。
そうと決まればと思い立ち、わたくしは小姓に封をつけた伝言用の書付を持たせて乳母達の元へ届けさせた。
(ゼルお兄様、お覚悟されましてよ?)
昨日のあの反応は上々だった。
まさか、言葉も出ずと言うようになるとは思わなかったけども。カティアさんのご心配は杞憂でしてよ。あの方、無自覚ですが愛らしいあのお姿に釘付けでしたもの。
今日は宝石や加工した洸石も使えばいいし、あとは軽く化粧もしましょうか?
ああ、お昼もですがその後もすっごく楽しみだわ‼︎
わたくしは小姓が戻ってくるまで、カティアさんのお姿を思い浮かべながら書簡にサインを書き込んでいった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セヴィル視点)
(……? 何か寒気が?)
気のせいかと思ったが、腕をさするとシャツ越しに鳥肌が立っているのが確認出来たから思い過ごしではなかった。
誰かが噂を立ててるのかと思いエディオスを見るが、特に変化はない。だとしたら、アナの方か?
あり得る。昨夜の着せ替えを止めたのだから昼以降に決行しかねない。
とは言え、カティアは特に荷を持ってないでいたらしいから着るものは必要となってくる。アナの仕事に関しては、やるならすべてこなしてからやる傾向が強い。それには口出ししにくいから目をつむるしかなかろう。
カティアには申し訳ないと思うが。
(……カティアの料理、か)
思い出して、口元が緩むのをなんとか堪える。
エディオスに見られたらたまったものではないからだ。この後、昨日出来ずでいた謁見があるのだ。補佐たる俺も出席するのだから、気を緩めてはいけない。
(…………あの時以来か)
何を食べたかは覚えてはいるが、肝心の名前を聞き損ねていた。腹が減っていたので、空腹を優先してしまっていたからだ。
エディオスはおそらく勘違いしているだろう。俺が奴よりも先に彼女の手料理を食べていないだろうと。自分が悦に入るのは一向に構わないが、こればかりは事実だ。進んで自慢するわけでもないが。
(もしや、あの時と同じか……?)
得意料理とは言ってたし、エディオスがあれだけ期待しているのだ。ただの憶測だが、自分も朝言ったように楽しみにしてはいたのだから。
(……だとしたら、すごく楽しみにしておかないとな)
もちろん、他の料理だとしても久方ぶりの彼女の味だ。まさか、二度と無理だと思ってたことが実現するとは思わないでもいたし。
「おい、ゼル。茶でも飲もうぜ?」
「……そうだな」
エディオスのいささか疲れた声を聞いて、俺は机脇に置いてあるベルを取って鳴らす。少ししたら、近習が来るだろう。
今の内に何か喉を潤さねば謁見中はずっと何も口には出来ない。エディオスにしては嫌々とは言えやる気がまったくないわけでもなさそうだ。いつもそうあって欲しいのだが。
セヴィル短くてすみませぬ。だって、書くことがそこまでなかったもので( ̄◇ ̄;)




