夜半の迷い事-②
意外にも、着せ替えごっこはあっさり終わります。
一度アナさんに御断りをいただいてからさくっと脱衣所に突入。
脱ぐのは大変だったけども、なんとかばっさり脱いで寝間着に着替えます。
コルセットとかなくて良かったぁ。と言うか、この幼児体型にそんな頑丈な下着はいらないでせう。あったとしても、苦しすぎておうふになるよ。
着替え終わったら、ドレスを持って部屋に戻ります。
が、なんかあれぇ?な光景が目の前に。
「これとこれも良くありませんかお兄様?」
「紅と白金かぁ。そのサイズ変えたら似合いそうだな?」
「こっちの緑のもいいんじゃない?」
「あら、忘れていましたわね。是非とも着ていただかなくては」
あのー、着せ替えごっこは終わりじゃなかったんですか?
何まだ選んでるんですか⁉︎ セヴィルさんは参加していないけども。
「ゼルお兄様、これなんかいかがです?」
「……は?」
とか思ってたら、アナさんがセヴィルさんに聞きに行ってるし。僕の着替えを待ってたのか、セヴィルさんはぼーっとしてたみたい。少しだけ反応が遅れてたもの。
「ですから、この紅はカティアさんに似合いません?」
「……これをか?」
あんまり賛成ではないご様子。
たしかに、僕もあんまり紅は好きくない。
濃い目ではないけども、ちょびっとくどそうなお色だ。どちらかと言えば、元からの持主のアナさんの方が断然似合うと思うよ。
すると、セヴィルさんは少し考え込んでからフィーさんの方に向かった。
「……俺としては、この若草だと思う」
えっと……セヴィルさん僕を救出してくださるんじゃなかったんですか?
「まあ、でしたら是非ともお着替えを」
「だから、それはもう終いだとエディオスも言っただろう。カティアにも大分遅い時間だ」
良かった。本来の目的は忘れていませんでしたね。
ほっとすると、隣で笑い声が聞こえた。
あれって思ってそちらに振り返ったら、セヴィルさんの目の前に居たはずのフィーさんがくすくす笑っていた。いつの間に瞬間移動して来たんだこの神様は。
「セヴィルもまんざらではないみたいだねぇ」
「え?」
「まあ、今晩は遅いしもう寝よっか? 明日も君には頑張ってもらわないとね」
「あ、はい」
そうですね。ピッツァ作りが明日も出来るもの。気合いを入れて作らねば。ただし、場所が気兼ねなく出来る場所じゃないから緊張は高まりますけども。
「それと、先程のピッツァとはなんだ? 執務室でも聞いた気がするが?」
アナさんに片付けを先導させたセヴィルさんがこっちの輪にやってこられた。
「んふふー。とっても美味しいものだけとは言えるけど後はなーいしょ。今教えたらつまんないじゃない」
「そ、そうか……」
有無を言わせずな感じでフィーさんが質問を止めさせた。これには、セヴィルさんも口を挟めないでいた。
とりあえず、今日はそれでお開きとなり、僕はゲストルームに皆さんで送ってもらいました。
アナさんはまだ着せ替えごっこをやり足りない感じでいたけども、エディオスさんとセヴィルさんに釘を刺されてしまったので泣く泣く断念された。
まあ、昼間ならいいですよ。まだね?
とは言え、もう眠くなりましたよ。おやすみなさーい。
♦︎
翌日です。おはようございます。
ここで疑問が。
「大きくなってないよ……」
昨日はフィーさんがああ言ってくれてたから期待したのに、目覚ましい変化は特になくちみっちゃいまんま。ちゃんと洗面所の鏡で確かめてるけども、昨日とほぼ同じです。
ゆっくりとは言ってたけど、どんなけなんだ?
「……とりあえず、歯磨こうっと」
昨夜も寝る前に一度磨いてはいるけど、手持ち無沙汰だしね。
しゃこしゃこと磨きながら、今日作る予定のピッツァの構想を練っていく。
また一からだけど、トマトソースは外せないな。
ジェノベーゼは見た目もだけど、ニンニクとバジルのクセもあるから先にアナさんとセヴィルさんに好き嫌い聞いてから確認しないと。ダメだったら、トマトソースベースでいくつか具材変えればいいしね。
そこで僕は、昨日フィーさんの小屋で彼に聞いた食材を思い出した。
卵……どうせならマヨネーズソースもやってみるか?
昨日聞いた時は別の事考えてたけど、そっちもいいかもしれない。お昼ご飯にだけど、ジェノベーゼよりは簡単だし早く作れる方がいいよね?
具材も見せてもらってからだけど、大まかに考えとかないとなぁ。
ひとまず、歯磨きが終わったので着替えに行きましょうぞ。あらかじめ、動きやすいズボンと上着は確保済み。
着替え終わると同時に、コンコンとノックが聞こえてきた。
「はーい?」
「カティアさん起きてられまして?」
アナさんだ。
急いで扉を開けに行くと、もう昨日の法衣を着込まれたアナさんが立っておりました。
「まあ、もうご準備が整いまして?」
「今終わったばっかりですけど」
髪とかは適当に櫛で梳いただけだしね。
「お早いですのね。それでしたら、朝食に向かいましょうか」
「はい」
朝食かぁ。
朝だからいきなりコースとかはないだろうけど、どんなんだろう。あの絶品パンを今日は完食したい!
基本お残しはしない僕なので、昨日は悔しかったのです。
僕とアナさんは廊下を歩きながら、たわいもないことを話していた。
「カティアさんはお料理が出来るのですね?」
「はい。向こうでは仕事だったので」
「まあ、そうですの。宮廷にお勤めでして?」
「い、いえ。ごく普通の料理屋です……」
宮廷って、日本で言えば天皇の料理番だよね?
とてもじゃないけど、あんな神クラスの腕前なんてありませんよ! まだまだひよっこの調理人でしかありませんぜ。
「あら、エディお兄様とフィルザス様があれだけ楽しみにされてましたもの。わたくし、楽しみにし過ぎて昨夜はあまり寝れませんでしたわ」
「そ、そこまで期待しないでください」
ごく普通に美味しいだけですよ。
過小評価も過大評価もしませんよ。小さい頃から作って食べてを繰り返してきたもの。自分の力量は十分に分かっております。
「よう」
VIPルーム前でエディオスさんと合流です。フィーさんとセヴィルさんはいませんでした。
お寝坊さんかしらん?
「あいつらなら、低血圧だから起きんの遅せぇぞ」
「あらら……」
セヴィルさんは聞いたら納得出来たけど、フィーさんは意外だ。てっきり、しゃっきり起きる人かなぁって思ったけども。
「おはようー……」
と思ってたら、のろのろとした足取りで件の神様がやってこられたよ。
眠そうに目をゴシゴシこすっていた。ぴよんと後毛があったりするけども、神々しさが抜けて可愛らしい印象を受ける。……何されても美少年は絵になりますな。
「フィー、珍しいな? いつもならもう半刻くれぇ寝てるだろ?」
「しょうがないでしょ? カティアが料理するのはいいんだけど、蒼とこっちじゃ器具が違いすぎるらしいからね。僕がフォローに入らないとさ」
「へぇ……そうなのか?」
「あ、ありがとうございますっ」
それは物凄くありがたいです。
昨日みたいな竃だと、まだ魔法の素質もわかってない僕じゃ火とか点火出来ないもの。
「っつーと、加えられそうなのは料理長と副料理長か? あとの奴らはフィーとはあんま話すの難しいしな」
「そだねぇ」
部屋に入ると、人数分の朝食セットが既にありましたよ。パンはいつ用意したかわかんないのにほんわか湯気が出ていた。た、食べたいじぇ……!
「カティアさんお腹が空かれまして?」
「うっ……」
どうやら顔に出てたみたいだ。
小さく頷くと、フィーさんとエディオスさんに笑われたよ。ちっくしょぉ……。
席順は昨日と同じになりました。
と言うのも、物に宿る魔力のパターンが登録されてるから、セヴィルさんが来てないので書き換えが出来ないからだってさ。なかなか面倒ですね。
朝食セットはメインのお皿はなく、敷き皿があるのみ。スープもないから、あったかいのは席に着いてから出す仕組みみたい。
冷たいものはもう出てたよ。オレンジジュースみたいな飲み物とグリーンサラダとかは。
「んじゃ、食おうぜ」
エディオスさんの合図で食事が始まる。
セヴィルさんはまだ来ないみたいだけど、いいのかなぁ?
「カティアさん。ゼルお兄様でしたら時期に参られますわ。召し上がってくださいな」
「え、あ、う」
正面だから、ばっちり見られていましたぜ。
ああ、顔に出やすいって恥ずかしいよぉ……フィーさんとエディオスさんは声押し殺して笑ってるし!
「まあ、アナの言う通り時期に来るぜ? それよか、お前腹減ってんだろ?」
「うぅ……」
エディオスさんにも畳掛けに言われてしまう。
たしかに、お腹はひじょーに空いております。小さくだけども、ぐぎゅぐぎゅって腹の虫も活発に動いていらっしゃる。これはもう、我慢出来ない証拠だ。
「…………いただきます」
欲望に抗うことは出来ません。
セヴィルさんすみませんが先にいただいております。
他の皆さんもいただきますをしてから、パンなりジュースなりに手を伸ばす。
僕は、愛しのパンちゃんにですとも。
こんがり焼けたフランスパン風な丸パンちゃん。ちぎって口に入れるとなんとも言えない芳ばしさが口いっぱい広がっていく。今日も良い仕事されてますねと内心この後に会うであろう料理人の皆様方に賛辞を贈る。
セヴィルさんが来たのは、メインのチーズオムレツもといカッツオムレツが来る辺りでしたよ。
目の下隈にはなってなかったけど、頭押さえられてたよ。偏頭痛じゃないかとちょぴっと心配になった。
よーやく次回はピッツァ制作!(◎_◎;)……かなぁ?←と言うのも、地文長い櫛田なのですんなりとはいかないと思ふ( ̄◇ ̄;)




