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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第一章 名解き
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解けてたり解けてなかったり-①

 「まあ、お兄様方。わたくしに隠れてこそこそと何をしてらしたのです?」


 いや、お姉さん違うんです。

 僕のこともだけど、セヴィルさんと婚約しちゃったのをどう説明するのかが難しくて……言ったところで信じてくれるかなぁ?

 ちろっとセヴィルさんを横目で見ると、従兄妹と言えども気軽に説明出来ないなって雰囲気だった。それはお兄さんのエディオスさんも同じ。

 かく言うフィーさんはグラスを手の中で遊ばせていた。ほんっとーに自由人だなこの神様は。


「……まあ、まずはあれだ。アナ、お前こいつに名乗ってねぇだろ?」

「あら、そうでしたわね」


 たしかに、お互い名乗らずでいた。

 ここは僕からかなと思ったけども、先にお姉さんが軽く会釈してくれました。


「アナリュシア=ミラルド=セイグラムです。先王の第2王女になりますが、今は統括補佐をさせていただいておりますわ」

「えと……カティア=クロノ=ゼヴィアークです」


 やっぱり高位のお人のようです。

 てか、忘れてたけどエディオスさんの妹さんだから王族の人だったよね!

 なんか高確率で凄い人達に出会い過ぎやしないか?


「まあ、カティアさんと仰るのですか。可愛らしいお名前ですわ」

「あ、あの……敬語じゃなくていいですよ?」


 王女様に使われるとこしょばゆいです。


「まあ、よろしくて? フィルザス様とご一緒でしたから、神霊(オルファ)の方だと思いましたので」

「……おるふぁ?」


 なんですかそれは?

 すると、ここでフィーさんがくすくす笑い出した。


「違うよ、アナ。この子は他所の世界から来た子だよ」

「え……と言うことは、い、異邦人⁉︎」

「あ、はい。……そうです」


 そこも重要だったね。

 もうすっかり遠いことに思えてきちゃってたから抜けてたよ。

 アナリゅ……アナさんって僕も呼ぼう。

 アナさんは藤色の目をぱちくりと見開くと、僕をじーっと見つめてきた。

 おおう。美男にもだけど、美女に見つめられるのもドキドキしまふ。


「でしたら、尚の事敬語を外すことなど出来ませんわ!」

「えーっと……やっぱり、凄いことですか?」

「それはそうですわ! 異界渡りなど、夢のまた夢。神であらせられるフィルザス様でさえ、ご自身のお身内の方々とも直接的にお会い出来ないと伺っておりましたのに……一体何故こちらへ?」

「そこはまだ色々未明のまーんま」

「まあ……」


 やっぱり凄いことみたい。

 って、異世界トリップする事自体あり得ない現象なんだからそれはそうだろう。


「んでもって、アナにもう1つ朗報があるよ?」

「まあ、なんでしょうか?」

「んふふー、セヴィルについてだけど先にご飯食べてからにしようか?」

「お待たせいたしました」


 タイミングを見計らったかのように、フィーさんのあやふやな発言と同時に給仕さん達が料理を持ってきていた。

 さっきのアナさんのどつきと言い、フィーさんは予知能力でもあるのだろうか?

 いや、神様だし持ってておかしくない。

 んでもって、適当にコントロールしているのやも。

 とか考えてるうちに、僕のところにも料理の皿がやってきていた。

 まずは前菜とサラダです。


(おお、綺麗だなぁ)


 声には出しませんよ。お行儀悪いもの。

 1番粗雑そうに見えるエディオスさんも黙ったままだし。ピッツアの時は気軽な食事会だったから、気を抜いてたのだと思う。


(ここでは城の主だしね……)


 それからスープにパンも出て来て、ある程度食べ終えてからメインのご登場だった。

 見た目ヒラメのムニエルっぽいです。

 添え物の隣には、タルタルソース的なのが半月型に盛られていた。

 あ、食器は普通にフォークとナイフですよ。

 箸があるか気にはなったけど、こう言う洋食には見栄え良くないからきっとないかもね。

 しかしすべてが絶品でしたが、いかんせん小学低学年サイズの胃袋。パンを泣く泣く1個だけにしてなんとか平らげたよ。

 ちなみにお肉の方は、なんのお肉かわかんないけどフィレステーキ的なのが出て来ました。

 ぱっと見120gくらいの肉の塊……僕どちらかと言えば魚派だからステーキは苦手です。

 食べられないんじゃなくて、多くて残しそうだから。焼肉は薄いからいいんだけども。


「……さて、ご説明願えませんか?」


 デザートも食べ終え、食後の珈琲らしい飲み物が出て来てからアナさんが切り出してきた。

 ああ、美味しい食事の余韻に浸りたかったけども、やっぱりそうはいかないみたい。

 さっきのアップルパイみたいなスウィーツの甘味が、舌の上で苦く感じるよ。


「うーん。 でもその前にっと」


 ぱちんとフィーさんは指を鳴らした。

 その音と同時に、奥の方から騒ぎ声とあちこちにどしーんと何かが落ちた音が聞こえてきた。

 なんだと思って見てみると、バックヤード的な出入り口辺りが黒い壁で見えなくなっていた。

 なにあれ?


「まあ、封鎖するほどのことですの?」


 アナさんをはじめ、皆さん至って落ち着いています。

 奥の喧騒も壁の所為でちっとも聞こえないけども、いいのかな?

 まあ、それが目的らしいよね。


「君が下手したら卒倒しかねないからね。給仕とは言え、下の子達にそんな姿がもしあったら見せたくないでしょ?」

「あら、わたくしを驚かせてくださいますの?」

「先に言ったじゃない。セヴィルのことだって」

「ゼルお兄様の?」


 え、婚約したってもう言うんですか!

 僕やセヴィルさんを他所に、フィーさんは言う気満々だった。


「なんとなーんと、セヴィルがカティアの御名手だってことがわかったんだよ」

「御名手……って、えぇっ⁉︎」


 ガタンとアナさんの椅子が倒れる。

 僕は目を逸らさず、固唾を飲んで彼女の反応を待つ。

 アナさんは驚いた拍子に立ち上がり、両手を机について向かいにいる僕とセヴィルさんを交互に見てきた。

 その目線にも『驚愕』は見て取れたけど、怒ったりとかはしていない。

 と言うより、なんか段々楽しげになって……あれ、なんかデジャビュ?


「…………まあ、まあ⁉︎ わたくしを差し置いてそんな楽しい儀式を執り行いましたの! 何故呼んでくださらなかったのですか、エディお兄様‼︎」


 いきなりアナさんが声を上げてエディオスさんに詰め寄っていく。

 え、楽しい?


「え、はぁ? んなもん無理あるだろ。急だったし」

「御名手の儀式など、わたくし達王族でも滅多にお目にかかれませんのに薄情ですわ‼︎」

「そりゃそーだが、知るかっての!」

「えーっと……?」


 この場合どう反応すればいいの?

 とりあえず、ほっとは出来たけどさ。


「アナ、ひとまず落ち着け。カティアが事情を飲み込めないでいるぞ」

「あら、すみません」


 ナイスですセヴィルさん。

 アナさんはこほんと軽く咳をすると、倒れてた椅子を戻して座り直した。


「……たしかに、一瞬卒倒しかけましたわ。ですが、ゼルお兄様。誠にカティアさんと……?」

「ああ……フィルザス神に伝えられてな」

「まあ⁉︎」


 その相づちの仕方、アナさん違和感ないですね。僕がやったらただの大根役者だ。


「なんてことでしょう! 女性を苦手としていたゼルお兄様に先に順番が回ってくるなんて‼︎ っと、失礼致しましたわ」


 アナさん心の声ダダ漏れですね。

 訂正する辺りなんだか可愛らしいと思ったけども、

 こっちの世界の成人年齢が200年なのを思い出したよ。

 なので、必然的にアナさんもそれ以上の年齢じゃないかと内心おっかなびっくりする。どう見ても、20代前半にしか見えないじぇ……。

 背も高くていらっしゃるから、元の僕の年齢よりも少し上くらいに見えるなぁ。


「けれど、御名手の儀式がと言うことは……真名が必要になりましたの?」

「それもだけど、訳ありで実名すら封印されててさ。最も、カティアって名前も、あちらとこちらの世界に通じる意味に変えられたんだろうけど」

「え、そうなんですか?」


 じゃあ、元の名前も似た感じなんだ?

 でも、日本名にしたらどーなるんだろう?

 考えてみても、ちっとも思い浮かびませぬ。


「封印とは、穏やかではありませんわね……」


 少し低い声が耳に届いてきた。

 アナさんを見るとエディオスさんの時と同じく目を細めていて、髪が若干逆立っていた。

 じょ、女性でもビビるよ!

 思わず腰が引けそうです。


「異界渡りもですが、フィルザス様でも解けなかった封印の為に御名手ですか……運が良かったとは言え早く解決出来て良かったですわ」

「アナ、ちょっと違うよ。御名手は元々決まってて、封印は正確にはまだ解けてないよ?」

「え?」

「はぁ?」

「何?」


 えぇっ、封印がまだ解けてないってどうして⁉︎

 一斉にフィーさんに注目が集まるけど、本人は珈琲もどきで一服してる最中だった。

 ほんとーにマイペースだなぁこの人は。


「どう言う事だフィルザス神。俺が御名手だからこそ、名を封じてたものが解除出来たからでは?」

「そう言う訳でもなかったんだよねぇ」


 カップの中身を全部飲み干してから、フィーさんは僕を見てくる。


「まだ一部だけとは言え、魔力の解放がほとんど出来てないみたいなんだよ」

「はぁ?」

「まあ⁉︎」

「えーっと……?」


 大事(おおごと)のようだけども、僕としてはいまいち実感が湧かない。

 わからないので首を傾げていると、頭に温かいものが触れてきた。

 この至近距離でそれが出来るのはセヴィルさんだけ。

 見上げると、少しだけ不安げな瑠璃の瞳が僕を見下ろしていた。


「……たしかに、魔力量が少ない」


 ああ、安心させるだけじゃなくて調べてくれてたんだ?


「だから椅子が引けなかったってのもあんのか……?」

「それもあるね。あれ特注品ではあったけど、普通に魔力量あればそこまで難しくないのにさ」

「椅子と言うと、ここではなく執務室のですの?」

「ああ、むっちゃ重たそうにして全然動かせなかったぜ」

「まあ……」


 なんだか大変なことになりそう。

 でも、元々魔法とかに全く縁もかけらもない僕にはてーんでわからないのでありまする。

 セヴィルさんはと言うと、僕の頭を撫で続けてくれてる。なんだか胸がほっこりするよ。


「っつーと、フィー。封鎖したのはそれをあいつらに聞かせねぇためか?」

「噂は波のごとく広がるからねぇ。まあ、王の君がいるから箝口令が自然に出来るだろうけど」

「口のかてぇ奴しか置いてねぇよ。それとあれか? カティアの髪色が珍しいのもあんだろ?」

「うん。それも正解」

「ほえ?」


 僕の変わってしまった髪色が?

 金髪って、カラーリング以外でも外国人じゃざらにいたのになぁ?


「カティアさん、おそらく少し勘違いされてるとお思いですが」


 自分の髪を弄っていると、アナさんがふふっと笑った。


「そのように純金のごとく輝かしい髪色は、こちらの世界では大変稀有ですのよ? そちらの世界では普通でしたの?」

「えーっと……ここまでのは、僕も初めてですけど」


 キラキラしてるなぁとは思ったけども、アナさんやエディオスさん達みたいな無茶苦茶配色のほうが断然珍しいです。って言うか、自然カラーじゃあ絶対ないよ。

 僕の今の方が珍しいのがちょっぴしわからないや。

御名手(みなて)のこれまでのまとめ


・魂の相性が最高の者同士が婚約する習わし。

・真名を引き出せる儀式を主に男性側が担う。


とりあえず、ここは前提でお願いいたします〜(=゜ω゜)ノ

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