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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第一章 名解き
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名前が解った-②

 ただ、ここでおかしいことに気がついた。

 せっかく名前が解ったのに、僕の身体にてんで変化がないのでございます!


「えっ……と、あれぇ?」


 ペタペタ身体を触っても何も変化ナッシング。

 ホワイ? 僕の名前が解ったのになーんで?


「ん? どーした?」


 首を捻り出した僕に、エディオスさんが屈んで視線を合わせてきた。

 うぬぬ。やはり成長せずに8歳児くらいの背丈のままだ。しかも、エディオスさんがそうまでせんと目線が合わないなんて、どんだけガタイすごいんだこの王様は。


「……身体が大きくならないんです」

「あ?……って、そーいや全然変化ねぇなぁ?」


 じーっと見つめられても変化はありません。

 うう、どーして?

 名前が解ったら何かしらあるんじゃないんですか?

 堪らずフィーさんを見ると、彼は首を捻っていた。


「おっかしいな? 真名は開示して一度お互いに留めておいてるから問題ないはずだし、実名として今の名前もあるのに……って、あ」

「え?」


 何々? 何かわかりましたか!


「多分、だけど……泉の水のせいかもしれないね。物質変換しておいたから問題ないとは思ってたけど……それが却って融合しちゃって、君の成長もここ程度で留めたのかも」

「はい?」


 難しいことはよーわからんです。


「一応調べさせて?」


 と言って、僕の額に手を当てた。

 不思議呪文を唱えることはなかったけど、真剣に眉間にシワを寄せられた。ドキドキしまふ。


「…………うーん。時間が経っちゃってるから細かいのは難しかったけど、見事に融合しちゃってる。でも、君の身体に負荷がかかり過ぎないように緩やかな成長はするようにはなってるよ。一瞬じゃあ変化ないように見えるけど、明日にはもうちょっと大きくなってるかな?」

「はぁ……」


 変化があるのならいいけれども。

 両手を眺めてみても、ぱっと見なんの変化もなし。本当に微々たる成長をしているかわかりませぬ。


「カティア」


 低い美声に呼ばれて顔を上げると、お兄さんの顔があった。


「フィルザス神がこう言ってるのだ。焦らなくていい」

「えっ……と、はい」


 美形に見つめられると、ほんとに心臓に悪いね。でも、その通りなので僕も頷く。

 焦りは禁物と言うもの、それになるようになれとも言うしね。


「そーいや、名前はわかったのはいいが。家名とかはわかんなかったのか?」

「エディ、この子はもともと他所の世界の子なんだからこの世界に通じるものは『ない』んだよ。まあ、似た名前は出てきてるはずだろーけど?」

「あ、あぁ……」


 フィーさんの問いかけに、お兄さんは小さく頷く。

 すると、無言で両手を軽く広げられた。それからあっという間に紙と羽根ペンらしいものがご登場。

 わぁぉ、魔法だ魔法!

 僕も使えないかなぁ?

 そー言えば、適性があるとかないとかフィーさん言ってたねぇ。

 お兄さんはしっかり紙を持って、ペンでサラサラ書き出していった。


「……カティアから聞き出せたのは、これらだったが」

「どれどれー?」

「俺にも見せろって」


 2人が覗き込むから僕は見えませぬ。

 元より、タッパがあるお兄さんの手元すら僕の頭上よりも少し上……おうふ。


「ふーん……なるほどねぇ。封印されてたのはそのせいか?」

「何?」

「ああ、蒼の兄様じゃあないよ? ちょっと別口……こりゃあちらの出方も見たいけど、わっかんないしなぁ」

「フィー、説明しろって」

「ダメ。まだ憶測の域だからうまく言えないよ」

「お、おう」


 ビシッと指を立てられたフィーさんに、エディオスさんは口を(つぐ)んだ。

 僕も気になったけど、フィーさんの言い方からしてまだ懸念材料が多過ぎるからと伺えたから黙っておく。


「でも、これとこれ合わせたら家名にはいいんじゃない? それと、こっちのが守護名にはちょうどいいし」

「……なるほど」


 おお? 僕の名字らしきものが決まりそうかな?

 なんだかわくわくしてきたよ。

 お兄さんが紙にまた何かを書き込むと、僕の方に屈んできた。


「……読めるか?」


 僕の目の前くらいに、その紙を差し出してくれた。

 一応見てはみるけど……達筆過ぎてかえって読めねぇです!

 ローマ字っぽいけど、英語とも言えない言語が書き込まれていた。


「……読めないです」

「……そうか」

「セヴィルの字が綺麗すぎなのもあるんじゃない? もう少し崩してあげたら?」

「……わかった」


 そう言って書き直してくれたのをまた見せられるが……やっぱり読めねぇです!

 話すには問題なくても、翻訳は無理なのね。おうふ。


「字は読めねぇのな?」

「しゃべるのは問題なし、か。ひょっとしたら、そこは泉の力かもね」

「え?」


 あの泉の力って、なんで?


「何かしら影響があるって言ったでしょ? 多分、今回は一部の足りないものを補填(ほてん)……穴埋めしてくれたんだよ。主に身体的要素だね。料理してた時、思ったように動けたでしょ? おそらく、物質変換の影響も併せ持ってそこに働いたんだろうね」


 なるほど、スムーズに動けたのはそう言うことだったんだ。

 納得納得。

 でも、文字読めないのは困ったなぁ。

 こっちの世界の料理本とか読んでみたいのに。


「まあ、これからはこの世界で過ごすんだし焦らない方がいいよ?」


 と言ってフィーさんが頭を撫でてくれた。

 さっき焦っちゃだめだって決めたのにいけないねぇ、僕は。


「ゼル、お前が読んでやれよ?」

「ああ、そうだな」


 お兄さんが僕の前で屈んでくれて、指で文字をなぞり出した。


「ここが家名で『ゼヴィアーク』と読む。その下が守護名と言って護り名に使うのだが、こちらは『クロノ』だ」

「へぇ……」


 関心するように言ってみてますが、実際はちっとも読めませぬ!

 だって、崩してもらっててもアルファベットかなんかの羅列でぜーんぜんわからんのでさ。


「つーと、カティア=クロノ=ゼヴィアークってんのか? 珍しい家名だなぁ?」


 エディオスさんが組み合わせてくれて読み上げる。

 ほむほむ。守護名って言うのが、外国人のミドルネームみたいなものかな?

 僕日本人だけど、こっちの世界の住人になったから多分そう言う風になったかも?

 なんだか少しだけ嬉しくなってきた。

 って、そう言えば。


「今日はどうするんですか?」


 窓から見える景色はもう真っ暗だ。

 今からフィーさんの小屋に戻るなんて、ディシャスで飛んでも無理だと思うのだけれども。


「あ、そうだね? ってことでエディ、泊めてよ」

「別にいいぜ?」


 あっさり決まっちゃったよ。

 それでいいの?


「あ、エディが君のピッツァ食べたし、それで等価交換ってことになるから心配しないで?」

「えーっと?」

「持ちつ持たれつ。僕は神だからともかく、君は一個人だからね? 宿主のエディに十分な宿賃は払っているようなものだし、それでいいんだよ」

「別にそう言う意味はねぇけどよ」

「まあ、そう言うことにしないとねぇ。いきなりセヴィルの許嫁が来たってことになっても信じてもらえないでしょ?」

「「あ」」


 ちらっとお兄さんを見ると、目元を赤くしながら口を手で覆っていた。

 名前が解ったからすっ飛んでたけど、そーだよ……僕、この超絶美形なお兄さんとここここ、婚約しちゃったんだよね!

 だ、ダメだ! 直視など出来ない‼︎


「まあ、それもそーだな? とりあえずは、俺の客人としてでいいよな?」

「よ、よろしくお願いします……」


 ひとまずはそうしてもらおう。

 て言うか、タッパがかなりあるお兄さんの婚約者だって絶対見えないね。くどいようだけど、僕見た目8歳児……無理があり過ぎるじぇ。


「けど良かったな? ちみっこのままじゃなくてよ? 改めて、よろしくなカティア」

「あ、はい」


 何はともあれ、ちみっこ呼びは卒業だ。見た目はちみっこのまんまだけどもね。


「そう言えば、俺はきちんと名乗ってなかったな」


 すると、お兄さんが僕の前で跪いてきた。


「俺は、セヴィル=ディアス=クレスタイトだ。エディオスはゼルと呼ぶが、言いにくかったらお前もそう呼んでくれていい」

「え……っと、よろしくお願いします。セヴィルさん」


 ご好意に甘えたかったけど、僕はちゃんと名前を口にした。

 だって、愛称もいいかもしれないけど、こ、婚約者だもの!

 正式名称ならちゃんと呼んであげなきゃって思うので。

 お兄さんことセヴィルさんに顔を向けると、彼は軽く目を開いていたが、


「…………ああ、よろしくなカティア」


 ふっと、瑠璃の瞳を細めて口元を緩めてくれた。

 だ、ダメです!

 破壊力ありまくりで、顔面超真っ赤になったのが自分でわかる。

 いけないと思いつつも、堪らず僕は俯いた。


「ゼ、ゼルが……っ」

「ちょっととは言え笑うなんて珍しいねぇ。こりゃお似合いの2人だね?」

「見た目はでけぇ野郎と妹か姪にしか見えねぇけどよ」

「……おい。俺はともかくカティアに失礼ではないか?」


 俯いてる間にそんなやり取りが繰り広げられていたが、僕はセヴィルさんの微笑みが頭の中でリフレインしていたからそれどころではなかったのだった。

 だって、美形男子の微笑なんて刺激強過ぎる!








 ♦︎








 あれから数分で喧騒?は終わったけど、ひとまず夕食をとろうと場所を変えることになったが。


「俺はエディオスの部屋に少し行ってくる」


 と、セヴィルさんとは一旦お別れ。

 と言うのも、エディオスさんの私室に大量に仕掛けた罠の解除をするためだとか。

 聞いた時、エディオスさんを見ると少し青ざめていた。

 セヴィルさんの罠は、どうも凄いようです。

 そんなエディオスさんはほっとかれ、セヴィルさんはスタスタと廊下を歩いて行った。


「じゃあ僕らは食堂に行こうか?」

「え?」


 フィーさんもエディオスさんをほっといてウキウキしていた。

 けど、食堂ってあの食堂?

 エディオスさんは王様だから別の場所じゃないの?


「ああ、フィーが言ってるのは俺とかゼルくらいが使う方の部屋のことだ」

「へぇ……」


 つまりはVIPルームってことかな?

 とにかく、廊下で立ってても仕方ないと言うことで歩き始めた。


「っかし、まさかゼルにいきなり婚約者が出来ると思わなかったなぁ……?」


 それは僕もかーなり驚きましたよ。

 あんな神々しい美形のお兄さんと僕が婚約って、聞いても誰も信じてくれないと思ふ。


「ふふ。記憶見た時は僕も驚いたけど、まさか本当にやってくれるとはね?」

「それさっきも言ってたが、あいつ何したんだよ?」

「それはだーめ。本人いなくして語ったら面白くないじゃない?」


 あの、失礼じゃなくて『面白い』が優先ですか。


「ま、それもそーだな?」


 エディオスさんも同類ですか。

 前に居るので顔は見えないけど、セヴィルさんの弱味を握れたとか考えてニヤけてそうだね。

 あ、そーだ。


「ところで、エディオスさん」

「あ?」

「えと、セヴィルさんが『さいしょうさん』であってます?」


 高位の人だとはわかってたけど、念の為確認したかったのだ。


「ああ、アルシャイードが騒いでたから覚えてたんだな? そうだ。俺の補佐をしているが、会議とかで全体を取りまとめんのはほとんどあいつだ」


 グレーの服の人はそう言う名前なんだ?

 んでもって、セヴィルさんは立派な役職に就かれてるようだった。

 政治とかはテレビとかで見てても全然わかんなかったけど、王様の仕事を助けるって相当な役職ですよね?


「他にも、外交関係に携わってるぜ。ってかあれか? やっぱ許嫁になった相手のこと知りてぇってか?」

「そ、それは……」


 しまった。なんか揚げ足取られた感じ。

 いや、婚約者だからってわけじゃあないけど、気になることは聞きたかっただけだし。


「まあ、いいじゃない? 気になるのは気になっちゃうだろうし。何より、あの子はエディの従兄弟だし色々教えてあげたら?」

「え?」


 いとこ?

 って、エディオスさんのお身内さん⁉︎

 びっくりし過ぎてその場に直立不動してしまった。


はいはーい(=゜ω゜)ノ


主人公の名前が正式に発表されました。


ゼルもちゃんと名乗れて良かった良かった。

いや、前回ちゃんと名前出たけど、名乗ってはいなかったもので(笑)

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