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ピッツァに嘘はない!  作者: 櫛田こころ
第一章 名解き
13/103

名前が解った-①

「ん?……って、やべ。ちみっこにはまだ言ってなかったな」


 遅いですよエディオスさん。

 未だあんぐり開けている僕は戻せないままでいたら、お兄さんがそっと顎に手を添えて戻してくださいました。


「……まだ知らせていなかったのか?」

「戻ってくる時にあいつら大声で呼ぼうとしたからな。めんどーだから潰してきたが、それで言うの忘れてたぜ」


 ああ、別に言いたくなかった訳ではないのね。

 つまり、いきなり帰ってきたのに騒がしくしてほしくなかったと?って感じかな。

 しかし、エディオスさんが王様……言われるまで全然わかんなかったけど、所々思い当たる節がある。

 エディオスさんがいなくなるまで兵士さんが跪くとか、グレーの服着たお兄さんのあの態度……将軍様じゃまずないね。おうふ。


「だがよ、ちみっこ」

「はい?」

「俺が王だって知っても態度変えねぇでくれよ?」

「……変えませんよ?」


 エディオスさんはエディオスさんだもの。

 そう付け加えると、エディオスさんは急に破顔して僕の頭を撫でてきた。

 嬉しかったのかな?


「っし。んじゃ、御名手の儀式については俺が説明してやるよ」

「うっ」


 忘れかけてたよ、こっちがメインでしたね。


「まず、概念がてんで互いに違げぇからな。ちみっこ、真名ってのは言っとくがかーなり重要なもんだぞ?」

「ほえ?」


 フィーさんも言ってらしてたけど、そんなに大変なものですか?

 首を傾げていると、フィーさんがふふっと笑った。


「ただの名前じゃないからねぇ。自分の真実の名前、魂に刻まれた特別な名前のことなんだよ?」

「……全然知りませんでした」

「落ち込む必要ないよ。兄様の世界じゃ、あえて秘匿にしてたかもしれないしね?」

「ひとく?」

「秘密にしてたってこと。まあ、今からわかるんだし気にしなくていいよ」

「はぁ……」

「で、儀式だが……」


 とエディオスさんが言葉を切ると、お兄さんの方に向かってにぃっと口端を上げた。


「御名手となる奴が、相手に特殊な呪文をかけて導き出す。が、この方法ちぃっとばっか羞恥を伴うもんでよ……」

「しゅうち?」


 あの恥ずかしい気持ちになるあれ(・・)ですか?

 えっ、これ以上にない恥ずかしいことがあるのでありますか⁉︎


「まあ、ぶっちゃけて言うが……呪文の前に互いの薬指に口付けすんだよ」

「えぇっ⁉︎」


 なにその結婚式みたいな儀式はぁ⁉︎

 お、お兄さんに、ゆ、指にとは言えチッスを……ダメだ、ちょこっとの羞恥どころじゃない!

 恥ずかし過ぎて僕は顔を両手で覆う。


「あーあ、やっぱりこうなったね」

「そもそも、御名手の儀式ってのは2人でやるもんだかんな?」

「…………だから、何故ここでやらねばならない雰囲気になるのだ」

「僕は保護者ーっ!」

「異邦人同士のだかんな? 俺は王として仲立ちにいた方がいいだろ? ってことで、ゼル。しっかりちみっこの真名引き出してやれよ?」

「そこは言われずともわかっている……」

「えっ、もう決定事項⁉︎」


 淡々と進んで行きそうだったので、僕は割り込んだ。

 視線が一斉に僕に向くが、そんなの大したことじゃあない。


「……何が心配なのだ?」

「えっ、えーっと、だだだって……」


 お兄さん、見た目小学生サイズの僕と婚約なんですよ⁉︎ そこいいんですか!

 けど、言おうにも羞恥が勝ってうまく言葉に出来ない。

 あわあわしていると、お兄さんがぽんぽんと僕の頭を撫でてくれた。


「案ずることはない。俺の……責任もあるからな」

「えっ?」


 そー言えば、フィーさんも言ってらしてたけども、お兄さんに何の責任が?

 聞いていいのかなとも思ったけれど、なんだか今は聞いちゃダメだなって本能的に思い直して止めにしておく。

 なんでかはわかんないけども。


「はーい、じゃあ君はこっちに立とうか?」

「ぴっ?」


 いきなり背後にフィーさんの声が聞こえてきてちょっぴりびっくりした。けど、声の後に身体を持ち上げられてしまい、テーブルから少し離れたとこで降ろされた。


「ほら、セヴィルもおいでよ」

「絶対に楽しんでいるだろう……」


 と言いつつも、お兄さんもこっちにやって来た。

 エディオスさんはテーブルの方に残ったまま。

 で、お兄さんは僕のとこまでくるといきなり跪いた。

 えっ、なんでって……あぁ⁉︎ くくくく、口付けの為‼︎

 ぼんって音が鳴るかもしれない位顔面に血が集まってきたけど、お兄さんもちょっとばっかし目元が赤くなってたので安心した。


「手を出せ」

「えっ、はい!」


 有無を言わせない言葉に反射で答えてしまい、手も出してしまった。お馬鹿さんかもしれないが、両手出しちゃったよ。

 でも、お兄さんは笑うこともなく僕の左手を掴んだ。

 えっ、そっちの手にですか⁉︎


「じっとしていろ」

「は、はい……」


 もうこうなったら流れに任せますよ。

 お兄さんが何より嫌がってないもの。かく言う僕も、まったくじゃあないけどそこまで嫌悪感ないし?

 んで、お兄さんは僕の手を唇に近づけ……チッスされちゃいましたよ、薬指の付け根に!

 ぶ、不躾ながらも経験皆無な僕には口以外のキスも初めてでした。


「次はお前だ」

「は⁉︎」


 あ、そーでしたよ。

 これってお互いにするんでしたね……おおう、今更ながら緊張がぁ!

 横でフィーさんはくすくす笑っておりますが、ここは気にしない方にもっていかなくては。エディオスさんはお兄さんで見えないけども、多分フィーさん同様に笑ってるだろうな。ちっくしょぉ……。

 仕方なく僕はお兄さんと同様に左手を掴む。先に差しのべられたのもあったからだけどもね。

 そいでもって、いざ!とぎりぎりのトコで唇に近づけてから目を瞑ってしまう。

 これは直視出来んでしょーが!

 けど、なんとかスムーズにキスは完了。

 ゴツい手でしたが、皮膚は柔らかかったです。まる。


「えっ……と、これでいいんですか?」

「いいねー。つーぎは、先導する者が真名を引き出す……この場合はセヴィルだね?」

「ああ……」


 おお、呪文でって言ってましたね。

 今度のは聞き取れるものかなぁ?

 あ、でも特殊な呪文ってエディオスさんが言ってたから、また無理なものかも。

 と、なんやかんや首を捻ってたらガシッと僕のほっぺが両手で包まれた。

 えっ、なに?


「俺の目を見ろ」

「ぴっ⁉︎」


 美形男子のご尊顔がドアップ‼︎

 鼓動と血流がドクンドクン言うくらいに身体中が音を出す感覚に襲われる。

 な、なんですかこのフラグ‼︎

 し、死亡じゃないけど軽く窒息しそうなくらい息絶え絶えになりそう……。


「おーい。セヴィルの言う通りに目を離しちゃダメだよー?」


 この羞恥プレイの中で、少年神様は大したことのないように注意を促すのみ。

 ちょっと、これは大分恥ずかしいのですが!

 でも、自分の為でもあるので仕方なく反射で瞑ってた目を開く。直ぐ前に瑠璃色の綺麗な瞳が……おおう、僕の世界じゃ絶対にお目にかかれない色合いだね。エディオスさんの緑の髪もだけど。

 恥ずかしいけど、じーっとお互い見つめ合うようになり、少ししてお兄さんが口を開いた。


「……我は導く者」


 あれ、意外にも聞き取れる出だしだったよ。


()きつ、(わか)()永遠(とわ)の果て()。導き求む、()が者の御名字(みなじ)。我が名はセヴィル=ディアス=クレスタイト。この者の対になる者なり」


 低音美声で次々と紡がれる言葉の数々。

 意味はわかんないけども、お兄さんのフルネームくらいしか意味がわからなかった。

 だって、聞いててなんか古文か?って思ったもの。成績は悪くなかったけど、意味わからん!


「開け、(つがい)真古戸(まこど)。この者の真名を我に伝えよ」


 すると、お兄さんの手のひらが急に暖かくなってきた。

 むむ、いかんですこれは。

 なんか眠くなりそう……って、いかんいかん!僕の名前の為だよ、起きなくては。

 その熱はすぅっと僕の頰から顔全体、首元に移っていき、やがて胸元に降りてくる。

 なんだかほんわかあったかいです。

 だが、心臓辺りにくると、ドクンと鼓動が跳ね上がった。


「…………真名を問う」


 お兄さんに聞かれると、僕は何故か自然と口が開いた。


「……ゼヴィアーク……クロノ」

「御名字は?」

「…………アンジェ……ティア」

「……中に閉じよ」


 って、お兄さんが言うと今言った名前らしき単語のほとんどが忘れてしまった。

 あれ、なんで?

 だけど、次の言葉でどうでもよくなった。


「お前は、『カティア』だ」


 力強い言葉に、胸の中がじんわり熱くなる。

 それと、僕の名前がついに判明したと嬉しくなり、目に涙が溜まるのがわかった。


「で、真名わかったの?」


 って、フィーさんがいきなり聞いてきたよ。

 あれ? 今のやり取り見てたのに聞こえなかったのですか?


「ああ、疑問に思うよね? あのね、御名手の儀式には、例え神でも他者が一切聴き取れない結界内で執り行われるんだ。だーから、君達のやり取りは僕でさえ聴こえてないってわけ」


 ほむほむ。じゃあ、聴き取れたのは僕とお兄さんだけなんだね?

 でも、ちと不自然な疑問が浮かび上がった。


(なんで日本語名じゃないんだろう?)


 カティアって、思いっきりカタカナですよね?

 けど、元の名前もてんで思い出せないし、お兄さんに言われるとそれがやけにしっくりきたので、自然と納得してしまう。

 ホワイ?


「んで、ちみっこの名前はなんだったんだ?」


 痺れを切らしたエディオスさんがこちらにやってきた。そんなに距離離れてないんだけど、エディオスさんにも聴こえてないようだ。


「あと、お(めぇ)らいつまで近づいたまんまだ?」

「ぴっ⁉︎」

「あ……」


 忘れてましたよ!

 未だ僕ら至近距離のまんまでした‼︎

 気付いたお兄さんがぱっと手を離してくれたので、少しだけ後ろに下がった。美形のドアップは心臓に悪うございますよ、はい。


「んで、ゼル。ちみっこの名前は?」

「あ、ああ……カティアだ」

「へぇ? 『ティア』が入るたぁ、よっぽどのもんだな?」


 ん? なんか意味があるのでしょうか?

 顔を上げると、エディオスさんがお兄さんの横でニヤニヤしていた。

 なーんか、フィーさんの時みたくいやーな予感が。


「お(めぇ)、すげぇ神の愛を受けてんのな?」

「はい?」

「うんうん。どの世界でも共通する意味になるね? 『愛しの涙』って意味になるんだよ、『ティア』って名前は」

「ほへぇ……」


 なんかけったいな意味の名前なんですね。

 しかし、こそばゆい!

 どこのお伽話なんだよ、その意味!


「おまけに『カ』だと太陽の光を指すから、月の意味を持つセヴィルの対にぴったりだね?」


 尚こそばゆいわい!

 僕は目元を袖でゴシゴシしてから、ぷくっと頬を膨らませた。

 だって、恥ずかしいものは恥ずかしいのですよ!

こちらもよーやく主人公の名前がわかりましたよ〜( ̄◇ ̄;)


名字とかは次話で煮詰めていきます‼︎(=゜ω゜)ノ

しかし、考えてみたが、なんやかんやこそばゆいことばかり考えてる作者でした‼︎

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