早朝のキッチン
自宅に着いた頃には、もう深夜を通り越して早朝だった。
フライパンをキッチンの棚から引っ張り出し、火にかける。その間に卵を4つ程ボウルに割り入れ手早く溶き、生クリームを少々に塩、コショウで下味をつけていく。
「タマゴも外が真っ白なのに、中身は黄色なんだね」
料理を作っている最中にのぞき込んでくるミラは、スーパーでリンゴを見た時と同じリアクションでじっと見つめてくる。一頻り観察が済むと、髪の毛を上下にふわふわと揺らしながら手伝いたそうな雰囲気を出してこちらを見てくる。
「やってみるか?」
ミラは満面な笑みを浮かべて全力で首を縦に振る。たどたどしい手つきでボウルに入った卵をかき混ぜ始めると余程楽しかったのか、鼻歌を浮かべながら箸を早く回転させる。
「あ、その歌知ってるぞ」
「私たちの子守歌みたいなものなんですよ」
鼻歌を聴かれてしまったミラは気恥ずかしそうな顔をしていて、なんだか微笑ましくなった。
「よし、そのくらいでいいだろう。それは置いといて、チキンライスを作るか」
熱したフライパンも頃合いになってきた。細かく切っておいたパプリカとタマネギ、鶏肉をサラダ油を薄くしいて炒める。全体的に火が通ったらいったん取り出して透明なボウルに移した後、フライパンにバターを少量足して出かける前に炊いておいた白米を入れてざっと炒める。
「これがおむらいす?」
「いや、これは過程だよ。これから素敵になってくから」
料理なんて久々だったから、できるかどうか不安だったけどなんだかんだ楽しく出来てしまった。
「なに笑ってんの?」
「いや、なんでもないよ」
にやけながらトマトケチャップを入れると、白米は艶のある赤色にコーティングされていき、甘酸っぱい香りがキッチンを覆っていく。隣を見ると、空腹でエネルギー切れになったミラが、寄りかかってきた。
炒めておいた具材をさっと混ぜ合わせ、これまたキッチンの棚から久しぶりに取り出した花柄の皿に楕円形に盛り付ける。
別のフライパンを火にかけ、バターを1片を入れるとまた違った香りが漂う。溶け切ったバターの香りに懐かしさを感じながら溶いておいた卵を半分そそぎ入れる。
(未来も、オムライス好きだったんだよな)
3年も経つのに、キッチンの物は何1つ変わらない。未来と過ごした時間を、物を、変えてしまう事がたまらなく嫌だったからなんて女々しいかな。