真っ赤な果物
しばらく歩くと、24時間営業のスーパーが暗がりの中煌々と光っていた。時間が時間なのか、スーパーの中は閑散としていた。
それもそうだ、フルオートメイション調理が一般化したこの日本にはそもそもスーパーの必要性がほぼ皆無で、スーパーを利用する人たちのほとんどが飲食関係の店員か、一部の料理好きだけだった。
そんな閑散な店内に入ると、真っ先に色とりどりな青果コーナーが目に入る。小さい店舗もあってか棚が低く、俺は辺りを見回せるのだが、彼女はそういかないようだ。背伸びをしても、棚の天辺と頭の天辺が重なる位だ。
「うわー、すごい・・・。ねぇ、あの赤いの何?」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、常温で陳列されている真っ赤な果実を指さす彼女。俺は、その果実を1つ手にとりかごに放り込む。
「こいつは見た目が真っ赤だが、中は真っ白なんだぞ。リンゴって言うんだ」
「へー、こんなに赤いのに」
同じようにリンゴを手にとる彼女は、まじまじと不思議そうに見ている。宇宙には確かに無い代物だよな、リンゴなんて。
暫く唸っていた彼女だったが、興味が別の物に向いたらしく両手に収めたリンゴを戻し、向かいにある鮮魚コーナーに歩き出す。はたから見てると、歳相応に見えない不思議な感覚に陥っていく。見た目は20歳程度なのに、なんだか物心が付いた子供のようなはしゃぎっぷりが、その感覚をより大きくさせるのかもしれない。
「ねー、パパ! すごいよ、これ生きてる」
鮮魚コーナーではしゃいでいる彼女の不意な「パパ」という言葉に思わず反応してしまう。発言した本人も、自分の言い間違いに気付いて恥ずかしそうにしている。
「パパになったつもりは無いんだが」
「ご、ごめんなさい!」
湯気でも出そうなくらい真っ赤に染まった頬は、かごに収まっているリンゴのようで何だか面白く、笑いを堪える。そんな彼女が指を指していた先に有ったのは、3Dモニターに映されている魚だった。それが余計に笑えてきてしまう。
「そんなに笑うこと無いでしょ」
「あ、ああ、すまない」
「もー・・・」
真っ赤な頬のまま口を膨らませている彼女はやっぱり子供だ。見た目に似合わない位純粋で、好奇心旺盛な姿を見ていると子供が居たらこんな感じなんだろうな・・・と思い何だか少し寂しくなる。
(パパか・・・)
一生出来ない子供の影を彼女に重ねるのは憚られたが、悪い気はしない。
「そうだな、ミラが良ければ、パパって呼んでくれて構わない」
「もう笑わない?」
「ああ、約束するよ」
煌々と照らす光源に負けない位笑顔の彼女は、小さく小さく「パパ」と言った。